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双國軍記  作者: リサ
第一部 皇帝の章 はじまりの時
6/13

国家の現状

本日の投稿はこれで終了となります。

「・・・それでは、陛下、各部署から上がって来た事項を報告させていただきます。優先は外務省と情報省の件でよろしいですか?」

「構わん」


アーク木材で出来た執務机に向かいながらルーデリアはカミエラからの報告を受けていた。

現在は各部署に命令を出したあの日から体感で3日が経過していた。あの日以来、各省庁からの情報はカミエラに報告が行っている。その為、自分自身が現状の整理等が行えるようになったのは幸運だった。


「それでは、こちらの資料をご覧ください」


そう言うとカミエラはやや嵩のある紙に手書きで書かれた報告書を机の上に置いた。


「では…結論から言いますとここは我らの国のあるアダミリアでも、光の陣営の国が多くあるアルティミナでもない事が判明しました」

「そうか」


予想が当たったが嬉しい気持ちは湧いてこなかった。それよりも、心を占めたのは疑問と好奇心だった。とは言ってもこの世界に来た時から疑問と好奇の感情しか沸いた事が無い。

この異常な身体状況は先ほどの話と合わせて考えれば、一つだけ予想が思いつく、たぶん、この体が人間から変質しているのだろう。


現実の京介は人間だが、ゲーム内のルーデリアは、古き始まりの粘性体(ショゴス・ロード)である。

昔みたwikiに古き始まりの粘性体(ショゴス・ロード)の種族特性が書いてあった記憶がある。

そこには『自我を得たもの感情の取得をうまく出来ず、自分という不完全な存在を生み出した世界への果てしなき疑問と好奇心が感情として残った』と記載があった。

その説明がまさに今の感情とぴたりと一致しているし、そう考えるのが自然だろう。

まさか、スライム種になっているとは考えられなかったが、今考えればルーデリアは、あの日から一度たりとも食事をとったり、睡眠もしたりしていない。しかし、特に飢餓感や睡眠不足、疲労感などには襲われてはいなかった。そして、それに対してルーデリアは、一切の違和感を感じてはいない。


これに関しても同じ理由だと考えられる。スライム種の種族スキルに《飲食物不要》及び《睡眠不要》《疲労無効》があるからだ。

スライム種はアンデット種と同様に餓死や睡眠不足の概念が無い事は、城の者たちの共通で認識しているのだろう。食事をしたいとメイドに伝えた時など大変驚かれたことからもそれがうかがえる。

また、食事をしようと思い、料理などを口に運んだが、味や食感といったものは感じず、口の中に入れた瞬間溶けるように消えていった。また、睡眠をとろうとしても眠ることはできなかった。

それに対して、ショックか何かを受けるかと思ったが、特に何も思わなかった。多分それも古き始まりの粘性体(ショゴス・ロード)の特性なのだろう。

もし我々が何らかの理由でゲームの世界から移動して来たとなると都合よく人間に戻っているなどということはないと思われる。

人間に見えるこの体も実際は、古き始まりの粘性体(ショゴス・ロード)の持つ《人化》と言うスキルでガワだけ人間になっているに過ぎないのだ。


「陛下?…続けてもよろしいでしょうか?」


カミエラの声によって現実に引き戻されたルーデリアはカミエラを眺めながら疑問を口にした。


「最悪な形で考えが当たったな…それで、ここは何処かわかるか?」

「詳しくはわかりませんが情報省が調べた所だと大きな森林地帯の中央部に位置しているそうです」

「森林地帯…周辺に国などは?」


森林地帯ならばそこから入る木材目当てに近くに国ができていてもおかしくない。

国があるならそこからの情報を取得することができる。


「近く…ではありませんが、帝国が有る森林地帯の西方に国を発見致しました。」

「うむ。どんな国だ?」

「はい。人間族のみが住む小国で御座います。大きな都市が一つといくつかの小村に分かれているようですね」

「ふむ…人間族か」


(まぁ、定番だな)


人間族のみの小国というが、亜人種はこの世界にいないのだろうかと疑問を持つ。もしいないなら、この国は異端な国となってしまう。


「その国についての詳細な情報はあるか?」

「申し訳ありません。現在の諜報網で調べられることは資料に纏めてある事が全てでございます」

「そうか」


そう言うとルーデリアは資料に目を落とした。

そこには国の大きさや首都の状況などの事は書いてあったが特にこれといった重要情報はなかった。カミエラも見えるようにと報告書を机に置いた。


「…たしかに国の機密などはないか」

「申し訳ありません」

「いや、まだ。調査をはじめて4日だ。そう考えるとよく調べてくれた。それに、この報告書を読んで驚いた事もあるからな」

「こちらの未知の魔法技術でございますか?」


カミエラは机に置かれた報告書を手に取り、該当箇所を開き、こちらに見えるように置いた。

そこには、近くの小国の首都に潜入した潜入員の見た事が書かれていた。しかし、そこに書かれている技術に関してはあまり発展しているとは言えなかった。

もちろん、小国で見られる技術力だ。もっと大きな国に行けばもう少しは高い技術力が見られるだろう。しかし、そうはいっても技術を門外不出にするなどは難しく、もし、高い技術力を持つ国が近くにあるのなら、一部でも近隣国にその恩恵が見られるはずだし、ある程度の生活からそれを察することだってできるはずだ。しかし、報告書には、歩いている市民の服装など白柄の遊びのないの機能性重視に服装が主流であるそうだし、街中には至るところで腐敗臭のような饐えたにおいが漂ってくる等、物語に出てくる中世ヨーロッパのような生活風景が見られるそうだ。これでは、科学技術の発展などは期待できずないだろう。また、魔法に関しても、魔術師の姿は一般市民には見当たらず、魔法ギルドのようなものはあったそうだが、そこで販売されている簡易魔術書(スクロール)などは、値段の高い攻撃魔法の物でも書かれている名前には中位(ミディアム)クラスの魔法がせいぜいであった。もちろん名前だけ同じで中身は我々の世界とは違う可能性もあるだろう。だが、少なくとも見える範囲では、「エデン」の魔法国家と比べると非常に低いと感じざる得ない。


(ただ、同じ魔法が使われている可能性があるということが分かったのは大きいな。それに驚いたこともある)


それはそんな低位の魔法技術の中で異彩を放つ魔法――付与魔法と呼ばれる未知の魔法技術についてである。


「この国の文化や科学技術レベルはお粗末だと言わざる得ない。私自身の見積もりだが我が国から100年以上は離れているだろう。魔法技術に関しも「エデン」の魔法国家と比べると大きく劣る。しかし、こんな魔法技術・・・それも付与に特化した魔法技術などは我が国には・・・いや、我々がいた世界には存在していなかった」

「はい。まさか外部からの魔法付与が可能になる技術がありますとは」


付与技術とは、ゲーム内の魔法技術の一種である。魔力のこもった特殊な鉱石である魔力鉱に特殊な文字を刻むことによって様々な魔法効果を付与する技術である。この技術により、ただの剣が毒の剣、炎を纏う剣等に変わったり、果ては様々な種族に対しての特攻効果を得たりするものであった。その為、非常に軍事的な有用性の高い技術であり、エデン内では魔法・科学国の垣根なく研究されている技術でもあった。しかし、この技術は魔力が最初から篭っている魔力鉱と呼ばれる特殊鉱石にしか付与する事ができず、外部から魔法を付与し効果を乗せることなどは論外であった。

しかも、この魔力鉱も産出量は多くなく、奪いあいになるのが常だった。しかし、この世界の技術はそういった制限なく、ただの鉄などの鉱石に外部から魔力を纏わせ、魔法を付与できるのだ。そうなれば、軍事的な有用性は凄まじいものにある。それこそ、我々の使う弾丸などに破壊系統の魔法を付与すればそれだけで多くの装甲を貫けるし、高いダメージを叩き出せることも想像がつく。


(逆に、こういった便利な技術があったからこそ、もしかしたらあまり魔法技術が発展しなかったのかもな)


付与があれば、ただの鉄の剣でも高い攻撃力を得ることができる。例え、全兵隊が使えなかったとしても騎兵や弓兵などに使わせればその軍事的価値やコストパフォーマンスは高く、魔術師を育成するよりはコストもかからない。それでは、魔法の必要性も偏りが見られるはずである。


「以上が帝国の周辺の国についてです。この件に関してほかに何か気になる事などはありますか?」


何かと言われても、調査の進行が芳しくない中、これ以上のことはわからないだろう。追加調査をするかどうかもこれから検討すればよいか・・・そんなことをルーデリアは考えていた。


「・・・特にはない」

「承知致しました。それでは、次の件に移りたいと思います。内務省より国内の現状についての報告が上がってきました。・・・はっきり言いましょう。最悪一歩手前の状況です」

「資源がか?」

「いえ、全てがです。こちらをご覧ください」


そう言うとカミエラは机に置かれていた資料を手に取り、該当ページを開き見せた。


「これは」

「まず、転移した国土ですが、前にもお話しましたように公爵家が治める4府と12地になります」


そう言うとカミエラは一枚の大きな地図を広げた。そこには帝国内で使われている国土図であった。


「我々が拡張政策に入る前の領土か…」

「はい。そのようです。実際に我が国は、転移前に4府12地63属の行政区分がございました。ですが《属》区分の領土が失われました。ただ、幸いな事に4府12地の各都市間に引いた鉄道や道路などのインフラ設備は無事のようで、それらは特に問題なく使うことが出来ます」

「電信施設もか?」

「はい。有線施設の破損もなく、問題ないとの事です」

「そうか」


インフラが無事という言葉を聞いてルーデリアは一息ついた。インフラの整備には時間がどうしてかかってしまう上に軍や物資、果ては人的資源の運搬に時間がかかってしまう。さらには電信施設などが生きていると言うことは、新鮮な情報が素早く入ってくるわけだ。今回のような緊急事態において新鮮な情報を素早く入手できるというのは非常にプラスに働くであろう。ただ、今後、こういったことがまた起こらないとは限らないので、大規模な無線施設の早期開発が必要であろう。


(ただ、そうは言っても変わらず不可思議な状態だがな。場所が移動したはずなのに道路や鉄道網、電信線がなくなってないなんてな)


「国土の件については理解した。電信施設や鉄道網などのインフラ設備が残っていたのは僥倖であった。ただ、国土の大部分がなくなったのは痛いな」

「はい。その通りでございます。特に顕著なのが資源関係でごさいます」

「どのくらい残ってる?」

「鉱石資源ですが《属》区分にございました採掘場が転移の影響で無くなりました。ただ、こちらは我が国固有の採掘場が問題なく稼働していますので資源のやりくりをしていけば問題はないと考えます。ただ、燃料資源の方が現在採取不可能となっています」


―――――燃料資源


それは国を動かす上で必要になってくる重要な資源である。そしてそれは、「エデン」でもリアルでも戦争の引き金にになりうるモノである。主に石油や石炭といったリアルでも重要視されるモノに加えて科学国家ならウラニウムやハイドロリウム、魔法国家なら属性結晶、魔化高油(マジックオイル)といったモノが主に挙げられる。


「《属》がなくなったからか」

「はい。ご存知のように我々の国は、元々鉱石資源なら豊富にありましたが燃料資源は微々たる量しかなく、他国との戦争の中で多くの土地を獲得し、我が国は発展してまいりました」

「そうだな」


エデンは何処かのタイミングで必ず他国と戦争するように仕向けられる。

その代表な理由が資源獲得である。

エデンでは、最初に国を作る位置は完全ランダムと謳っているも、実際は運営が調整していて鉱石資源か燃料資源のどちらかあるいは両方が足りなくなるように調整されている。

実際、ミドリア帝国も鉱石資源は豊富にあるモノの燃料資源は微々たる量しかなかった。


「現在は非常事態宣言が発令したことにより戦時体制に移行しております。なので元々我が領土にあったものや戦時用に備蓄された燃料資源の消費も押さえられています。ただ…」

「国家の発展が遅れるか」

「はい」


非常事態宣言の発令は戦時体制に移行し、物資や人的資源を戦争の為に使うことができるようになる各国家が必ず持つ法律である。

これにより、より戦争がしやすくなったりするがその分、国内の生産活動が膠着したり、研究も遅れたりすることになる。また、長くなればなるほど、国内の治安も荒れる事も考えられる。


「なるほど。大方は把握した」

「…それでは我が軍の状況に移らせて頂きます。現在、我が軍の状況としましては陸軍及び空軍の全体数の確認を行いました。その結果、空軍は帝都での全体演習があった為、被害は特にありませんでした。ただ、陸軍の一部が《属》区分での僻地演習中でした為か行方が分からなくなっております」

「ああ、例の5師団か」

「はい。一応、付近への捜索隊の派遣は行ってはいますがめぼしい成果はありません」

「なるほど」


(5師団…痛いは痛いがそれで収まってよかったと見るべきか)


帝国は45師団からなる大量の常備軍を有しており、総人口も相まって戦時での5師団消失は痛くはなかった。ただ、現在は戦時ではなく平時であり、さらには原因不明の転移により人口が大幅に減っている。それらを勘案すると5師団というの現在の状況において、非常にでかい数字になってしまう。


「…わかった。その師団は継続的に捜索せよ。もしかしたら、こちらに来ている可能性もある」

「承知致しました。空いた師団の補充は如何致しますか?」

「募集枠を多少増やして対応しろ。我が国は募集数は困っていないからな」


アダミリア帝国では基本的に兵の募集は志願兵制を取っていた。これは、神である皇帝への直接的な奉仕ができるのが軍人になる事か官僚になる事であり、宗教国家であるこの国では大変名誉な職として認知されているからである。なので毎年の応募数は非常に高い。多少増やすのは苦ではない。


「かしこまりました。では、そのようにするよう内務省に伝えさせて頂きます」

「以上か?」

「はい。今のところ報告が上がっているのは異常となります」

「そうか」


そういうとルーデリアは椅子へと背中を預け、目を閉じて考え込む。それをカミエラは眺めながら、指示を待つ。

ルーデリアが長考に入ってから数分の時が流れた。


「わかった。これからのことはこちらで考えて置く。他の部署にはこれまでどうりに仕事を完遂するように指示をせよ」



ルーデルは目を開け、カミエラへと指示を出す。カミエラはそれを受け、感情の読めない顔でうなずき「はい」と了解の意を表した。

カミエラは、一礼し、執務室を出ていくのだった。

ルーデルはカミエラを見送り、手元の書類を見るのだった。

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