奇妙な違和感
書き溜めが尽きたので、1話投稿になります。
また、評価・ブクマしていただいた方々、大変ありがとうございます。
それと、投稿のペースですが、仕事の関係で2日に1度という形となります。
それと、前話の話で、一部訂正があります。
主人公が情報省に命令を出したシーンで、情報省の長官が返事をしましたが正しくは以下の通りになります。
誤 正
「かしこまりましたわ」→「・・・(こくこく)」
―――sideカミエラ
「では、私は部屋へ戻る。」
そう、陛下がおっしゃられると私は立ち上がり、ドアの方へと移動をする。陛下がドアに到着する前に、ドアを開き、陛下が退出されるのを待つ。私は、陛下が退出されのを確認し、ドアを閉めた。
すると、部屋の中に漂っていた緊張の念が解けるのを感じる。こんな緊急事態であるのだ致し方ないだろう。
「陛下が退出されました。各自、己の職務を全うしなさい。それと、「十神兵」は玉座の付近に集まるように。それでは解散」
私が、そう号令をかけると臣下の礼をとっていた上級職員・軍人たちが一斉に立ち上がり、互いに話をしながら出口の方へと歩き出した。それを見送りながら私は自分で言ったように前方の玉座の方へと向かって行った。
少しして、玉座の近くににつくとそこには、見慣れた者たちが集まっていた。
「お待たせしました」
「大変な事になりましたなぁ」
私が、待たせてしまったことについて、謝罪の言葉を伝えると、魔導の死者のデルア様が初めに口火を切られた。
「そうですわね。デルア。まさか、《属》区分と連絡が取れなくなるとは思いもしませんでしたわ。」
「そうですなぁ、戦争中ならいざ知らず。平時でこんなことがあるとは思いませんでした」
デルア様の発言に対してキーラ様が同意される。彼女たちは「始まりの4人」であらせられる。千年前からこの国を守られてきている大長老の方でも、このような事態は珍しいのだろう。
「しかし・・・どういうことなのじゃ?どこかの国から妨害工作でもされとるのかの?」
デルア様達の話を聞いて、モーリアが話に入ってきた。どうやら彼女はこの事態を他国からの攻撃と考えているようだ。
「うーん。どうなんだろうね?でも、こんなことをしてくる国なんて、僕は考えつかないよ」
「ミドリアはどうっすか?あそこならあり得るのじゃないっすかね?」
エリエラ様やリデルも話に入ってくる。エリエラ様はモーリアの話に懐疑的の様だ。だが、リデルに関しては、モーリアの話に賛成の様で、より具体的な国名が出てきた。
「あの国はありえないのではないですか?」
「どうしてそう思うっすか。ゼリア先輩」
エリエラ様の話をゼリア様は否定する。ゼリア様は別のお考えをお持ちの様だ。
「あの国は10年前の福音戦争で大きく国力を落としました。女帝アカノツキが盟主の連合国もあの戦争以降、衰退していると聞きます。我が国へのこんな大規模な攻撃は難しいでしょう」
「確かに、そうですわね。国内の《属》区分と一斉に連絡がつかないだなんて、攻撃にしては中々難しいでしょう。500年前のかの国ならいざ知らず、最近ではとても厳しいと思いますわ。」
「ああ、確かにそうっすね」
ゼリア様の話をキーラ様も補強する。キーラ様がおっしゃられるように確かにかの国がこんなことをするとは思えなかった。話を振ったリデルも納得がいったようだ。
それを聞いていたモーリアは二ヤリといやらしい笑みを浮かべていた。
「さすが、物知りなキーラ大先輩じゃの。妾達とは比べ物にならん見識じゃ。年の功とはまさにこのことじゃな」
「あら、モーリアはお勉強が苦手でしたものね。ごめんなさいね、難しい話をしてしまって」
「なんじゃと!」
キーラ様の発言に対して、モーリアが茶々を入れ、やり返されていた。彼女はキーラ様に何かと食って掛かることが多いので、こういったことは日常茶飯事である。この後の流れは、いつもむきになったモーリアがさらに食ってかかる展開になる。
しかし、そうなる前に、私の後ろの方から大きな声が聞こえてくる。
「モーリア。うるさいぞ。いちいち噛みつくな。時間がもったいない」
「うるさいわ。オルガン。おぬしは黙っとれ」
「黙れ。・・・それよりもカミエラ、何故、俺らを残した。俺は急ぎ、陛下から任された仕事に戻りたいのだが?なぁ、ワイト。あんたもそうだろ?」」
「・・・(こくこく)」
どうやら、せっかちなオルガン様とワイト様は、早く本題に入ってほしいようだ。特に、オルガン様は久しぶりの陛下からの直接のご命令であるからうれしいのかもしれない。彼のしっぽが微かに揺れている事からそう感じた。
「・・・お話を始めるのが遅くなり申し訳ありません。今回、集まっていただいたのは皆さまが今回の件をどのように捉えていらっしゃるのかを確認したくお呼び止め致しました。」
「考え、ですかな?」
私が切り出した本題にデルア様が疑問を浮かべられている。少々話を端折りすぎてしまったようだ。
「この度の異変、皆様はどのような原因だとお考えですか?仕事に入る前にある程度、考えの共有をして置きたいのです。皆様の意見をお聞きしても?」
私の話に皆さん考えている。少ししてリデルが話始めた
「やっぱり、モーリア先輩がいったように他国からの攻撃じゃないっすか?こんなことなかなかないみたいですし」
「妾もそうじゃな。まぁどこがといわれると難しいが、もしかしたら新手の国かもしれん」
「ですです」
リデル・モーリアはどうやら他国からの攻撃と考えているようだ。それに対して、今度は、彼女たちと反対方向にいるキーラ様が話始めた。
「わたくしは、反乱者の妨害ではないかと考えますわ。10年前の福音戦争で大きく領土を手に入れましたし、最近、残党による反乱も頻発していたそうではありませんの。ねぇゼリア」
「そうですね。愚か者たちの反乱は大変残念ながら増えていますね。私たち第2軍でもある程度の粛清はしましたが、まだまだ追い付いていないのが現状です」
「だそうですわ。でしたら、十分考えられるのではなくて?」
「僕も同じ意見だ」
「俺もだ」
キーラ様やゼリア様、オルガン様にエリエラ様は、反乱者説を考えているようだ。確かに、10年前の戦争で領土を大きく手に入れた。その反乱者が妨害しているのは考えられる。
「デルア様はいかがでしょうか?」
「そうですなぁカミエラ君、確かにキーラの言う反乱はありそうですな。ただ、エリエラ様君が言っていた景色が変わったという報告が気になりますな。陛下のご神命でも、場所を特定するようにおっしゃられていましたし。もし、それが本当ならまた別の可能性もありますな。反乱者の妨害なら景色が変わるなどありえませんし」
「・・・(こくこく)」
どうやらデリア様とワイト様は景色が変わったという報告が気になられているようだ。
「エリエラ様。景色が変わったというのは具体的にどういうことだ?詳しく言え」
「そうですわね。オルガンの言う通り、詳しく教えてくださらない?」
「・・・そうは言っても、僕もよくわからないんだ。詳しく聞いている余裕もなかったしね。ただ、毒沼や砂漠から森林が多い場所になったっていう報告があったんだ」
「ふむ・・・それはどの辺ですかな?」
毒沼や砂漠から森林というところに興味がわいたのか、デルア様が聞き返す。
「ここ、帝都から見て、西方の方の地区だね。確か、エルムント地区やセイルド地区の方だよ」
「ああ?あそこは土地自体が不毛地帯だろ」
「確かに、それはおかしな話ですね。あそこは陛下の偉大なお力により浄化された場所です」
エリエラ様の話にオルガン様やゼリア様が驚きの声をあげる。確かにオルガン様がおっしゃられるようにあの辺は元々、我が国有数の未開地であり、強力な毒沼や広大な砂漠地帯を切り開いて、発展した場所である。少ない居住地帯以外は草木が生える事すら厳しいだろう。そんな場所が森林に変わっているというのは大変おかしな話である。
「・・・その辺を念入りに調査すべきかもしれませんね」
「(こくこく)」
私の独り言にワイト様が大きくうなずいている。彼女も同じ考えなのだろう。そんな中、モーリアはぽつりと独り言を漏らした。
「もしかしたらじゃが、国の場所が転移したのかの?」
「どういう意味ですか?」
「い、いや。この状況を考えておるとねな。そんな気がしたのじゃ」
モーリアの独り言にゼリア様が反応される。モーリアも聞き返されるとは思ってみなかったのか慌てて説明をする。確かに、今までの話をまとめてみるとその可能性が出てくる。しかし・・・
「転移だぁ?土地ごとかよ。あり得るのか?」
「わからんわ。ただ、そんな可能性が考えられるというだけのことじゃ。わしだって本当にそんなことだとは思っとらんわ・・・忘れてくれなのじゃ」
「・・・あながちありえない話じゃないのでは」
モーリアの妄想の話に、デルア様が待ったをかけた。どうやらデルア様には何か考えがあるようだ。皆がデルア様を見る。
「いえね。この不可思議な状況。そのぐらいのことじゃないと説明がつかないと思ったのですよ」
「確かにそうですわね。それならあり得るかもしれませんが・・・可能ですの?」
デルア様の話にキーラ様も同意する。しかし、同意はしたが、とても訝しんでいる様子である。
「科学的には不可能ですな。国の一部ごと転移なんて。・・・魔術的にはどうですかな?リデル君」
「あ、はいっす。・・・難しいんじゃないっすか?転移自体がなかなかの高難度の魔術っす、それを国の一部ごとっていうのは・・・それこそ神業っすよ」
「なるほど・・・」
リデルの答えにデルア様が考えを巡らせていらっしゃる。デルア様も確たる証拠がないので何とも言えないのだろう。誰も、明確な答えが出ず、場に沈黙が訪れる。
(これ以上考えても何も思いつかなそうね)
私はそう考えるとパンと手をたたいた。
「いろいろな意見が出た事で私の中でもある程度考えが深まりました。ただ、転移の可能性というのは強くありますね。とりあえず情報省はそちらを念頭に置き調査をお願い致します。よろしくお願いします。ワイト様」
「(こくこく)
私の言葉にワイト様も強くうなずいておられた。
「陛下のご神命もありますしね。外務省としても協力は惜しみませんわ」
キーラ様もワイト様への協力を申し出ておられる。彼女もこの事態を早く解決されたいのだろう。
「ますます、なぞは深まりますなぁ・・・ところで、陛下はどこまで気づいておられたのでしょうな?」
「どういうことですの?」
少し驚いた風にデリア様が陛下についておしゃられた。キーラ様は意味が分からなかったのか聞き返していた。
「いや、情報省へのご神命でもありましたが、調査の件で、陛下は「場所を特定せよ」という言葉を使われておられましたな。陛下は転移が起こったとあたりをつけておられたのでは?」
デリア様は、驚きのお話をされていた。・・・まさかとは思ったがそう考えると納得のいく、陛下がされた奇妙な行動を思いだした。
「・・・ミドリア天空王国の女帝アカノツキとお話をされていた時、急に陛下が固まられていましたね」
「ああ、主が陛下に歩み寄っていたときか。確かにあの時の陛下は不思議じゃったの」
そう、あの時の陛下はとても不思議だった。話していたと思うと急に、固まってしまわれたのだ。違和感を感じて話しかけたが、あの時の陛下は様子はまるで―――
「少し、焦っているいうに感じました」
あの時の陛下から感じた違和感を口にした。実際に、あの後に陛下が事態の確認をご命令されたのだから。あの時に何かしらの違和感を陛下は感じられたのかもしれない。
「・・・確かにそうですね。あの陛下が焦っておられるように感じられたのは珍しいですね」
陛下の珍しい行動にゼリア様が少し、驚きの言葉を口にする。
「確かにのぅ・・・実際に、あの後、陛下はそれぞれの省庁・軍団を確認するよう、ご神命を下しておったな」
「では、あの時には、何かしらの異変を感じ、陛下も事態の動向を考えておられたのかもしれませんな。そして、エリエラ様殿の話で、もしかしたら転移の考えにたどり着いたのやもしれませぬ。特に陛下は資源量の確認を命じられておりましたし、緊急事態宣言をレベル5で発令されたわけですしな。レベル5といえば発動されたのは700年前のミドリアとの全面戦争に入っていらいですぞ」
確かに、そう考えると陛下の行動とご神命の内容に、説明がつく。もっというとあの緊急事態宣言のレベルの高さにも納得がいく。
「なるほどなぁ・・・しかし、俺たちがこんだけ考えて出てきた話を、まさか、陛下は一人でおもいつくとはなぁ」
オルガン様は感心した様子でうなずいておられる。よほど、うれしいのかしっぽも動きが随分と早くなっていた。
「その通りですね。オルガン。ああ、偉大なる神に仕えることができて大変うれしく思います!」
オルガン様の言葉に共感したのか陛下に対して、ゼリア様が祈り出した。元々、第2軍団は仕事の関係もあり、代々団長は陛下への忠誠心が非常に高い。その為、陛下への祈りを祈りの時間以外ですることが多いのだ。
周りを見ると、みな、陛下の行動に感激したのかうなずいている。そんな中、私は別のことを考えていた。
(陛下は・・・本当に気付いたのかしら?)
陛下の行動は確かに気付いておられるように感じる。実際にご神命の内容も転移していることが前提になっておられる。しかし、本当にそうなのだろうか?・・・いや、そうなのかもしれない。
(まさか・・・?)
私の中である考えが浮かんだ・・・陛下の奇妙な行動、ありえない現状、転移という神しか使えないと思わる力、そして。陛下がいち早く気付いた転移の可能性。これらをまとめると一つの考えが思いつく。
―――――陛下、ないしは陛下と女帝アカノツキが転移をさせたのでは?
(いや、ありえませんね。大体メリットがありません)
確かに、そんなメリットはないでしょう。わざわざ、陛下が国を弱くする可能性を選ぶわけがありません。・・・しかし
(陛下が女帝アカノツキと話す前、どこか寂しそうな感じがありましたね)
他の者たちには見えなかったようだが、陛下の近くにいた私としては、陛下の姿がどこか寂しげな風な感じがした。そこが少し引っかかるのだ。そんなことを考えていると大きな声が私の耳に入った。
「すみません!・・・そろそろお話もまとまったみたいですし、私はネームレス様の元へ戻ってもよろしいでしょうか!。十神兵の皆様」
見ると、人間種のような見た目の人物が声の主の様だ。よく見れば、今まで、会話に参加していなかった。ハーベスト殿であった。
「なんじゃ、ハーベストいたなら話に入ればよかろう。主はワイトの様にしゃべれないわけではあるまい?」
「いえ・・・私は副団長でございますから…皆様のお話に入るなぞ・・・畏れ多いことです」
「そうかのう・・・まぁ、何にせよハーベストの言う通りじゃ、話も落ち着いたし解散かの?」
そういうとモーリアは私を見て聞いてきた。・・・確かにそろそろ、職務に戻るべきだろう
「そうですね。ありがとうございますハーベスト殿。それでは各自、職務に努めましょう」
そういうと私は、今までの考えをやめ、玉座の間から出る事にした―――。
物語が面白いと感じていただけましたら、ブクマ・評価・感想を頂けると作者は大変うれしいです。