始まった現実
本日1回目の投稿となります。
次回は9時に投稿予定です。
カウントダウンは終わり、0時になったことでゲームから強制排出されることになる。それ故に楽しかった思い出と共に終わりゆく世界から、見なれたつまらない世界へと移るのだ。だが、その時間はいつまでたっても起こる事は無い。強制終了特有の目の前が真っ暗になり、宙に浮く感覚も無ければ、問題があった際に出てくるエラーの警告も出ない。
ただ、目の前には先ほどと変わらない美しい月が自分に対してその顔をのぞかせていた。
「あれ?・・・もしもし?」
変わらない景色に驚いているとVCからは先ほどまで通話をしていたアカノツキから不安そうな声が聞こえてくる。多分彼女も同じ状況に陥っているのだろう。
「・・・ログアウトされてない?」
目の前の変わらんない光景に訝しむルーデリアに対してアカノツキからも同意の声が聞こえる。
「そう・・・みたいだね。どうしたのかな?」
「分から無い。通信障害?それとも何か別の問題か?」
窓から見える景色を眺めながら上空に存在する月から他への視点を移す。窓からは自らの作り出した人工的な灯の星達が見える。月のような自然の美しさとは別の美しさがその景色からは見えてくるだろう。驚きはしたが心配は残念ながらない。実際―――
「まぁ、少しでも長く遊べる時間が貰えたっていいんじゃないかな」
アカノツキから聞こえてくる声からも不安はあれど心配とまではいかない声音に感じる。
実際、こういった不具合は残念ながらこのゲームではよくあることであり、何度か同じ目にあっている事があるのだ。なのでこういった事では心配することもない。数十分もすれば強制排出されるだろう。
「それもそうだな。はぁ・・・最後まで不具合とはなんだかな」
「あはは…そうだ――――えええ!?」
自らの状況に対して楽観的な態度をとっていたアカノツキから急に驚愕の声が漏れ聞こえる。
「おい!?どうした?・・・おい!」
「え・・・ちょっと・・・どういう・・・ああ――――」
アカノツキから来ていたVCが唐突に切れる。声から察するに向こうで予想だにしない事が起こったのだろう。光陣営のトッププレイヤーであるアカノツキがゲーム内であそこまで焦る事態など中々ない。今の声だけで異常事態である事は明確だ。
――考えれるのはプレイヤーの襲撃か?・・・ふん、最期になって襲撃とは風情が無い――
だが心配はしていない。アカノツキはトップレイヤーである。プレイヤースキルは非常に高い。さらには「神化の指輪」を持っているのだ他プレイヤーからの奇襲であろうと25レベルの差を埋める奇襲など不可能に近い。いずれVC申請来るだろうと思っていた。
しかし、思いもよらない事態がこちらでも起こった。
「―――ぁ・・・いましたか?」
「っっっっっ!!!」
突如、自らの真後ろから声がきこえてきたのだ。ここのゲーム内で人の声が聞こえる事などプレイヤーからしかありえない。であるならば間違いなくプレイヤーである。ルーデリアは反射的に自らの対奇襲用に持つスキルセットを行使した。
――《スライムボディ》《逆徒への報復》《酸化付与》――
《スライムボディ》は物理攻撃の際に使われた武器を破壊する高位スライム種、固有のスキルである。
《逆徒への報復》は攻撃判定が生じた際に一定値のダメージを与えるスキル
《酸化付与》は反撃が成功した際に相手に一定の継続ダメージを与える状態異常「強酸」を付与する
さらにはスライム種特有のパッシブスキルである《物理攻撃ダメージ完全無効》、古き始まりの粘性体の固有パッシブスキルである《魔法攻撃ダメージ半減》が発動しているし、25レベルのステータス差もある。これだけの差があればカンストプレイヤーであってもただじゃすまないだろう。
――間に合ったか?――
いつもの戦闘の中で感じていた攻撃される感覚は中々襲ってこない。もし、次の攻撃のタメによって攻撃が飛んでこないにしても長すぎる
――今のスキルでHPが0になったか?だとしたら弱すぎるが?――
ただ、奇妙なのは反撃スキルが発動した感じがしないという事だ。それすなわち攻撃をされていないと言う事になる。
――まぁ、ありえんがな――
プレイヤーであるルーデルの本拠地、それも玉座の間である。そんな所にわざわざ気配を消して来るやつなどいない。
いるとしたらそれこそ、そんなことをしてくるやつなど奇襲してくるプレイヤーぐらいなものだ。
――しかし、本当におかしい。・・・こちらも打って出るか――
そう思い、寄り掛かっていた玉座の後ろをみて相手の顔を確認する。しかし、相手を確認した京介は目の前に広がるありえない事態に余り、声を失っていた。
真珠の様にキラキラと輝くショートカットの銀髪、少し吊り上がったアイスブルーの瞳、手足は陶磁器を思わせるほど白く、体には合金鋼で作られた鎧がつけられている。
そして、もっとも驚かせたのが目の前にいる人物をルーデリアは知っているという事だ。
それは第1軍団、団長カミエラである。
「陛下?如何なさいましたか?」
カミエラは眉を少しひそめ、心配そうな声色で声を掛けてくる。よく見ると後ろに侍っている部下達も心配そうな眼差しでこちらを見つめているのに気付いた。
「どういうことだ?」
ルーデリアはあまりのあり得ない出来事に奇妙な感覚に襲われていた。しかし、カミエラはそんな混乱を他所に怪訝な顔し、こちらへと歩み寄ってくる。
「陛下?…どうなさったのですか?」
カミエラの美しい顔がこちらをのぞき込む。その顔には、こちらから、その意図は読み取れないほど表情に揺らぎを感じない。ルーデリアは、今のありえない環境に違和感を感じてしまう。
こんな理解できない事態に陥っているのだ。本来であったらもっとわかりやすい感情が出てきたはずだ。それこそ、派手に取り乱したり。しかし、今自分が感じているのは疑念と好奇しかわいてこない。
――取り合えずこの場は切り抜けるか――
「ああ。すまない。少し違和感を感じて取り乱した様だ」
「違和感ですか?申し訳ありせん。私は感じませんでした」
「いや、構わない。それよりも他の者達は何か感じたか?」
ルーデリアは跪く団長や長官に声をかける。しかし、声を掛けられた者達は一様に困惑した表情で互いを見合うばかりだった。
「あー・・・陛下・・・妾からもよいか?」
誰もが言葉を発せない中で声を上げたのは第三軍団、団長であるオーガ女王のモーリアであった。モーリアは跪いた姿勢からスッと立ち上がる。
「なんだ?モーリア」
「う、うむ。申し訳ないが妾達は何も感じなかった」
「私たちも同じですわ」
と、横から外務省、長官キーネも賛同の意思表示をする。見ると長官達も首を縦に振って賛同しているようだ。彼ら達からしたら、急に自身の上司が意味の分からないこと言っていることになるのだろう。それはルーデリアへの疑念に代わりかねない。
――今、彼らに聞いても意味はないか・・・それよりも自身の異常を確認させるほうが時間も稼げるし、何かわかるかもしれない。俺も自身の状態を確認したいしな――
「そうか、では、命令を下す。自らの持ち場で変わった事はないか確認をせよ。時間は・・・そうだな、2時間後にこの玉座の間へと集合せよ。私は部屋に戻る。」
「「「はっ」」」
跪いた「十神兵」達は自らの主人である皇帝ルーデリアの威厳に感化され了承の意を表した。
それに満足したのかルーデリアは自らの足で玉座の間を後にした。
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