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双國軍記  作者: リサ
第一部 皇帝の章 はじまりの時
11/13

天啓

中々、投稿できず申し訳ございませんでした。

 ルーデリアが、<始まりの屍龍>と遊んでいる(実験している)中、一人の女性が執務室へと歩いていた。美しい銀色の髪をたなびかせ、体には美しい趣向が凝らされた軍服を身にまとう。その軍服は、この国であれば誰でも知る。「軍団長」のものである。


 彼女の名はカミエラ


 カミエラは、昼のあたたかな光が差し込む道を少し小走りで歩きながら執務室に向かっていた。そして、ほどなくして執務室の前にいるメイドが見えてきた。


 彼女たちは、「王立メイド隊(ロイヤル・サーバント)」と呼ばれる人々であった。

 この国では7歳になると全国にある初等教育学校へ入学することになっていた。そして、そこで、5年間、基礎学力や基礎的な軍事訓練を学び、中等教育へと進む、そこで、自身の進路を考え、それぞれの専門的な高等教育を学ぶ教育機関へと入っていくのである。

 その中にはメイドとなる道も当然ある。しかし、すべてが「王立メイド隊(ロイヤル・サーバント)」になるわけではない。その中でも、彼女たちは中等教育の段階でメイドとして必要な「礼儀・教養・志」を持つ優秀な学生のみが選抜され、更に厳しい「王宮職員実科学校」へと進学するのである。そこで、更に厳しいふるいにかけられ、多くの脱落者を生みながら、全国から集められた優秀なメイド300人の中から10人程度が毎年、新人として宮殿に入殿するのだ。

 ここまで、聞くととんでもない倍率で、入学者も減りそうだと感じるが、そうはならない。なぜなら、この国では、神であり、王である「ルーデリア様」の為に滅私できる事は何よりも尊いこととされている。そして、最も神の近くで働けるのがこの王宮(しんでん)である。ここで働くけることは、この国ではどんな職よりも尊敬を集めるのだ。その為、毎年多くの志願者が全国から集まるのだ。


(まぁ、国の為に働くことができるのだから、どの職も尊敬されてしかるべきはずだと思うけどね)


 私が考えるに国とは、知的生命体が作り出したモノの中でも最も尊い集団である。基本的に利害関係で動くのが知的生命体の性である。しかし、国とはそんな中でも己の所属する集団としての誇りを持ちやすく、利害を超えたつながりがあると私は考えていた。そして、そんなつながりがあるのだからこそ、国は多くの文化を生み出す礎となるのである。

 それなのだから、国の為に行う仕事はどんな仕事であれ、利害を超えた偉大な仕事であり、そこに貴賤はないとはずである。

 例え、私の「軍団長」であっても、それは例外ではないと思う。国に仕え、国の為に「滅私」するからこそ、その構成者たる人々から尊敬を受けるのであって、(かみ)の近くに使えられるのだから尊敬されるのではない。

 そう、私は思っていた。


(まぁ、そんなこと、外では言えないけどね)


 それもそのはずだろう。この国を治める「ルーデリア陛下()」は1000年間の間、君臨し、この国に発展と繁栄をもたらしてきた。文字通り、神によって統治される「神の王国」である。この国では、幼い頃から、神への尊敬と信仰を様々な機会で教わることとなる。

 母が子供に語る寝物語は、この国の「ルーデリア陛下()」の英雄譚であり、毎週の日曜の早朝には家族で教会へ行き、(ルーデリア陛下)への信仰をささげる。青年になったとしても、教育機関で教わるのは多くの歴史的事実から裏付けされた神の偉大さである。こんな中で、神への信仰が芽生えないわけがない。

 しかし、私としては、それでもいいと思っていた。神がこの国を発展させてきたのは事実である。そして、国家には、その集団を維持する為にシンボル(権威)が必要である。それがなくては、国家として纏まることは難しいだろう。この国の永遠の発展を約束してくれるなら、私は陛下の剣にも、盾にもなることだってやぶさかではない。

 私だって、別に(陛下)を信仰していないわけではない。何なら昔は一途に神への信仰を持っていた。特に、私の家系は1000年前から続くものであり、始まりは〈始まりの4人〉の一人である。「忠誠」の異名を持つほど神を信仰する人物であった。なので、神への信仰は我が一族にとっては、欠かせないものである。しかし、()()()()が切っ掛けで、その考えが少し変わっただけ、権威を感じる対象が(ルーデリア陛下)から国家という集団に変わっただけである。それだけだ。


 そんなことを考えながら、執務室の前で待機していたメイドのへと、カミエラは声をかける。


「ご苦労様。陛下は中に?」

「これは、カミエラ様。申し訳ございません。陛下は執務室にはいらっしゃいません」

「そう。どちらへ行かれたの?」

「練習場の方へ、向かわれました」


 メイドの女性は淡々と己の職務をこなしている。まるで、機械の様だと感じるが、それも仕方ない。メイドたちの中では、職務中に「()」を出すことは恥ずべき事とされている。神への奉仕をすることに全力を出すためだと友人のメイド長が言っていたことを思い出した。本当だったら、世間話の一つでもしたいところだが、それは彼女たちに迷惑が掛かってしまう。ここは急いで立ち去るべきだろう。


「そう、わかったわ。ありがとう」


 私は、感謝の言葉を口にし、彼女から離れた。彼女はこちらにペコリと礼をした後、また、直立不動で執務室の前で立ち続ける。多分、交代が数時間後に来るだろうからそれまでああしているのだろう。

 表情をピクリとも動かさずにいるのは本当にすごいと素直に称賛できる。


 そんなことを考えながらカミエラは練習場へと向かった。


 ―――――


 少しして、地下へのエレベーターの前に到着した。ただ、このエレベーターは陛下用であるので、使用はできない。なので、私は近くにある小さな個人用エレベータに乗り込み、地下へと向かう。

 待つこといく分か、ピンポンという音とともにエレベーターが扉を開けた。

 その時、私は信じられない光景を目にした。


 なんと、陛下が真のお姿になられていたのだ。

 私は急いで、片膝をつき、利き手を後ろに下げ、もう片方の手を膝に置き、頭を下げて最敬礼の姿勢をとる。

 陛下が真のお姿をお見せになられたのだ。この国では、神の真のお姿は最も尊いものである。戦場以外で見た時は最敬礼で顔を下げなければならない。いくら、「十神兵」であろうとそれは同じである。

 陛下はどうやら、何かをされていたのだろう。ここからではあまり見えないが何かの生物が、巨大な暗い穴へと飲み込まれている。多分、陛下の魔法であろう。もしかしたら私たちでは使えない次元級(ディメンション)の魔法かもしれない。


 そうして、何かが飲み込まれていく音が消えた。そして少ししてから何かが溶けだす音が聞こえてくる。多分、陛下が真のお姿から仮の姿へと変化しているのだろう。なので、音が消えるまで私は最敬礼の姿勢で待機する事にした。


(そろそろかしらね)


 私は顔を上げ、陛下がいらっしゃるところを見る。そのお姿はいつも見る人間種のお姿であった。それを確認して、私は立ち上がり、陛下の下へと歩き出していった。

 陛下の近くへとつくと、陛下は何かを考え事をされているようであった。少し声をかけるのに躊躇したが、大切な要件なので声をかける事にした。


「陛下。お考え事中にもうし訳ございません」


 そいうと、陛下はこちらへ振り返る。そのお顔はどこか特徴の平凡な顔である。多分、集団に紛れればすぐにわからなくなるだろう。しかし、その瞳にはどこ傅きたくなる力あった。


「カミエラか。どうしたこんなところまで」


 陛下はこちらを見ながら、顔色の変わらない顔でこちらに質問をする。そのお顔から陛下のお気持ちを類推できないのは非常に恐ろしいが、仕事はこなさなければならない。

 私は、勇気をもって陛下に申し上げた。


「先ほど、第3軍団からの緊急のご報告と情報省から緊急の追加報告の2つをお持ちいたしました。どちらからご報告いたしましょうか」

「・・・情報省の追加報告を」


 そのお言葉を聞き、私は、手に持っていた書類の一部をお渡しする。陛下はそちらをご覧になられながら、私は陛下へ詳しい説明をした


「情報省からの報告です。先ほど、陛下へのご報告の中であった「帝国」の近くにある人間種の小国への追加調査だそうです。中身としましては、その国の政治的な腐敗についてだそうです。2ぺージをご覧ください」


 私がそういうと陛下はペラっと紙をめくり、報告省を読んでいる。そして、数分経って、ぽつりとお言葉を漏らした。


「・・・国の市場があまり活気がない・・・と記載されているな」

「どうやら、国内の中の税金が多いそうです」

「その様だな。その国の商人との会話内容でも、書かれているな。・・・商店ギルドへ払う出店税、物品の売り上げがあった際にかかる売り上げ税、教会からの10分の1税とこれ以外にも、他5つの税金が一つの店にかかるのか、ふん。これに憲兵からの賄賂等がかかるだろうからな、金が掛ってしょうがないだろうな」


 そう、陛下がおっしゃられる。確かに、その報告書に書かれている事は本当にひどい。まず、国内の政治を宰相が独占し、王権は機能していない。また、国内では賄賂が蔓延しており、民草には多くの税が課され、消費は停滞している。市場はほとんど機能していないのがその証拠である。。

 そんな、末期感の漂う国が何故存続しているのか疑問で仕方がない。多分、何か仕組みがあるのだろう。

 陛下は次のページをめくり、ある部分に注視された。


「これは、我が国としては看過できないものだな」

「・・・奴隷制度ですね」


 奴隷制度、機械などの安価な大量生産手段がない場合に農業等でもっとも重宝されるものだ。実際、我が国にも、古代に実際、存在した。

 しかし、この国の奴隷制度はそんな、必要悪の様な代物ではない。この小国の奴隷制度は高価な愛玩奴隷の販売が主であるのだ。しかも、犬人種や兎人種等の亜人系他種族がその対象となっている。


「・・・近くに亜人系他種族の国ないしは村があるのでしょう。・・・種族協和の我が国とは天と地の差があります」

「そうだな」


 我が国は、様々な種族が暮らす国である。知性があることと(陛下)を信仰することの二つさえ、あればこの国はドラゴンだろうが、アンデットだろうが、天使だろうが受け入れる。そんな国の近くに人間族以外を奴隷とする国があるなど多くの臣民は不快な気持ちになるだろう。


「で、情報省からの報告は以上か」

「は、次に第3軍団からの報告です」


 そういうと、私は陛下に一枚の紙を提出した。それはは若い女の顔写真が記載された紙であった。


「なんだ、こいつは」


 陛下は、表情の変わらない声、変わらない声で私に尋ねる。


「この団員は、エルサ・スーザーヌ、兎人種であり、階級は曹長です」

「そんなことは聞いていない。何をしたんだ?」

「・・・申し訳ございません。この団員は隊律違反を犯した者だそうで、不名誉除隊の処分は決まっているのですが、最後に陛下の御採決を頂きたく」

「・・・そんなこと、お前で処理すればよいだろう」


 陛下のお言葉の言い方には棘を感じる。陛下のおっしゃるように私が処理することももちろん考えた。この国では、基本法律を陛下が公布される。そしてそれをもとに、2審の裁判所や1回の軍事法廷を通して判決が決められる。しかし、判決を受けたものの中でも、陛下への御採決の必要な案件もある。その場合のみ、陛下に裁いてもらうのだ。

 しかし、それは、既存法律に矛盾が出た際だけであり、あまりそういった事態になったことは少ない。だが、今回ばかりはそうもいかないと思ったので私が陛下への俎上に載せたのだ。


「申し訳ありません。しかし、隊律違反を犯した理由が理由でしたので」


 私がそういうと陛下は書類へと目を落とす。少しして、陛下は私に質問をされた。


「・・・この女は反乱罪での起訴と書いているが、その割に罰が軽くないか?何をした」

「・・・命令違反です。反乱者への幇助を行った人物の家族を「処分」することへ反発した為に、反乱罪で起訴されました。」


 この国の軍はどこでもそうだが、上意下達が絶対である。なぜなら上からの命令はすなわち陛下()からの命令である。それを己の意思で断るなど不敬に値する。反乱罪が適用されて一族郎党皆殺しでも飽き足らないだろう。それほどの重罪であるのだ。しかし、今回の一件では、それが適用されず、不名誉除隊となった。

 確かに軽いと感じられる処分だった。


「・・・家族とは言うが、反乱者を幇助した本人を逃したのか?」

「いえ、本人とその妻は彼女の指揮する部隊が「処分」したそうです。ただ、その両親の子どもの「処分」に抵抗をしたそうです」

「・・・そうか」


 陛下は腕を組まれ、何かを考えるられるお姿を見せられる。その人物の処分について考えられているのだろう。そして、考えられて数分後、陛下は驚きの言葉を口にされた。


「そのものを連れてこい」

「・・・陛下の御前にということでしょうか」


 私が少し驚いた口調で尋ねると陛下はなんという風もなく「そうだ」とお答えになられた。・・・正直に、理解ができなかった。自分で俎上に載せて置いてなんだが、今回の一件、陛下はあまり興味を示されないと思っていた。軽いとはいえ、彼女へ下った罰である不名誉除隊とは、陛下への信仰を是とするこの国では社会的な死を意味するものであり、陛下もこの判決を支持なされると思っていた。だからこそ直接会いたいなどとご命令された事にとても驚いたのだ。


「拝命いたしました。すぐ連行いたしましょうか?」

「この判決は今日出たのだろう?」


 そういうと陛下はご自身が持たれている紙をぴらぴらと振られた。


「は、先ほど、私が今朝、陛下にご報告をしているタイミングで判決が出たと伺っております」

「では、今はどこにいるかわかっているのか?」

「本人は自宅に蟄居しております」

「なら、すぐに連れてこい。私は先に執務室で待っている」


 そうおっしゃられると陛下は練習場は入口の方へと向かわれた。私はすぐに立ち上がり、陛下のあとを追いかけていった。

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