始まりの終わり
長編物語、初投稿です。
本日、一回目の投稿となります。
「正義も悪も根本のところは同じである。それは負の感情を生み出す。正義は差別を生み、悪は理不尽を生む。それらは対極の位置にいながら、とても近い性質を有している。故にそれらは惹かれあい、反発し合うのだ」――――ヘルザス・ロバート
もし、この世界に神が存在するならば、そいつはあまりにも残酷な存在なのだろうと思っていた。
現実では決して叶わない大望を俺に見せた事、そんな大望を望めぬような生まれながらの環境にした事、俺に才能、努力、執念を与えてしまった事、俺に一片の希望を作ってしまった事。
もし、この世に神がいて、こんな愚かな俺を嘲笑っているのならそいつはあまりにも非情で残酷なやつなのだろう。だから、俺は神という不出来な存在を認めてはいなかった。だが、神は俺をどこまでも惑わし続ける。
こんな惨めな俺に大きな希望を与えたのだから
もちろん、その為に様々なものを投げ捨てさせた。
金も地位も人としての幸せも。でも、そんな物を支払ってもその選択肢は素晴らしい魅力を放っていた。例え、それが泡沫の夢であっても。
俺はその夢を全力で楽しんだ。いや、夢だからこそ全てを忘れて楽しめたんだ。
そして、俺は・・・素晴らしい女に出会えた。
その女は俺の様な愚者で有りながらそれでも、俺と同じように叶わない夢を追い続けている。
現実にはありもしない夢なのに必死で、全てを犠牲にして。
誰にも理解されなかった俺だからこそ、あいつを俺は必要としたんだ。でも、神はやっぱり残酷なやつだ。楽しい夢の終わりを愚者に見せるのだから。
・・・・だから、頼むよ。
この夢だけは俺から奪わないでくれ
俺の持つ全てを捧げるからこの夢の続きを見せてくれ。
必要なら神が楽しめるように踊ってやる。
だから
この夢の続きを・・・見せてくれ。
ああ・・・神はやっぱり残酷だ。
男が「その感情」を抱いたのは少年と呼ばれる始める頃であろう、まだ6歳の頃だった。
少年は世界を股にかける大企業の社長の長子として誕生した。そんな生まれながらにして高貴な生まれの彼は同年の子どもたちよりも早熟であった。生後六ヶ月でつかまり立ちを覚え、七ヶ月に自らの足で立つようになっていた。さらには生後1年で単語ではあるものの簡単な言葉を話す様になっていた。
当然、両親は彼の早すぎる成長を喜び、この先の企業の安泰を悟った。それ故にそんな期待はまだ幼い少年に注がれた。両親は少年に対して教育として厳しく当たる事になっていた。しかし、それ愛はがない故ではなく、定められたもの宿命としてであり、その少年を思うゆえの愛ある行為であった。そして、月日は流れたある日、「それ」は起こった。
草木も眠る丑三つの刻、月明かりの漏れる暗い廊下を歩くのは今年で6歳になった少年だった。普段であればこんな夜遅くには寝ているはずの少年であったが今日ばかりは何処か寝つきが悪く、さらには尿意も重なり、暗い廊下を一人歩く事になったのであった。
少年は月明かりの光が照らす廊下に気味の悪さを覚え、少し早足でトイレのある部屋へと向かっていた。そんな中、少年も耳にはふと何か音が聞こえた様に感じた。本来であれば尿意もあった事から気にせずトイレのある部屋へと向かっていたが何故かその音が非常に気になった少年は音の響く方へと引き寄せられていた。
音は近くに連れ、だんだんとはっきりと聞こえるようになっていた。
そうなると遠くで聞こえていた声の印象がだいぶ変わってきた。最初は何かの動物や風の音に聞こえていたが近く中でそれが人の声であるとわかった。少年は恐怖を押し殺し、声のなる方へと歩みを進めた。それに比例するかの様に声はさらに大きく聞こえ、何が打つ音まで聞こえてきた。そして、少年はある扉の前へとたどり着いた。
そこはまさに少年の両親の寝室であった。
少年は急な寒気を感じた。理性が少年に部屋に帰れと叫んでいる。しかし、少年はまるで神に導かれるまま扉を少し開け部屋を覗くのだった。
この時、中を見た事を少年は感謝した。
自分の本来を見つける事が出来たと。
ーーアレがなければ俺は普通に親の後を継いで一定の幸せを味わえたんだろうな
しかし、運命は残酷だった。
少年はコレが自身の本性に気づき、叶わぬ『夢』を願う様になった。
―――――――――――
男は子どもの頃から「王」になりたいという『夢』を持っていた。それは比喩や言葉の綾などでは無く、正真正銘の「王」になりたかったのだ。
そのことを初めはて意識した切っ掛けは些細なことだった。幼いながら父と母の異常な行為を目撃し、他人を支配する父にあこがれを抱いた。その意識は年が上がるにつれ、他者へ勝つことへの喜びへと変わり、それに満足できなくなると多くの人々の人生を支配するようになりたいと思うようになっていった。
万人を束ね。自らの手によって臣民達の命や尊厳を奪う事が出来き、臣民達に無類の快楽と幸福を与える事ができる存在。
男はまさにそんな「王」になりたかったのだ。しかし、現実は非情で残酷だった。なぜなら、そういった前近代的な王がいたのは中世や現代の一部の話しであり、民主主義が席巻している日本の様な国では不可能であると言う現実があったからだ。
当然、王には血筋が必要である。いくら願っても王の血筋などない男にとっては到底無理な話だった。
しかし、神は残酷だ。
その『夢』を妄念と呼べる程にしてしまう環境と才能を彼に与えたのだから。
生まれは世界を股にかける大企業の息子であり、容姿に優れ、苦難に対して誰よりも努力する気概を持っており、人々の心を動かすカリスマ性を持っていた。
男は生まれながら傅かれる環境で育った。そして、その環境は少年と呼べる年だった男に自信を与えてしまったのだ。
ゆえに、その高すぎる自信を喪失しないように男は誰よりも努力をした。
勉強では新しい事を予習として学び、新たな事を学べば遅くまで復習をし、朝早くから走り込みや筋トレを行い基礎体力をつけ、話題に置いていかれない様に話題収集を必死にした。
そのおかげで男は少・中・高と様々な所で一番になり、誰からも注目される存在になっていった。
当然、そんな男を人々は慕い、尊敬した。
男も始めの頃はそれで満足だった。しかし、ある時、気づいてしまったのだ。
それは所詮まやかしであると。
男のためにと言って誰もが男に良い顔をする。しかし、それでも限度がある。男の為に命を捧げてくれるわけではない。人を殺してくれるわけではない。大切なものを捧げてくれるわけではない。あくまで自分に害が少なく、それでいて旨味があるからだ。
だが、男が求めてるのはそんなやわな関係ではない。もっと強力で、一方的な服従である。だからこそ、その尊敬が、その愛が、その恋慕が、その憧れが「王」を目指す男にとっては苦痛でしかなかった。
尊敬されれば、愛されれば、恋慕されれば、憧れられば、自分の夢である「王」になれない現実が男には突き刺さっていた。
ーー生まれる世界を間違えた。それに尽きるなーー
どんなに努力しても自身の夢をかなえられない男にとって、現実は絶望でしかなかった。
男の願いはどんなに願っても、どんなに努力しても叶う事のない願いである。
このまま、男は夢を諦めるしかなかった。だが、そんな時に神が嘲笑うかのように素晴らしい奇跡を起こしたのだ。
それはニューロリンクデバイスの開発である。
ニューロリンクデバイスは生体機器と呼ばれる画期的な機械であり、首の後ろ、脊髄の真上辺りの部分に外科手術で装着する。そして、装着されたニューロリンクデバイスは接続された脊髄の神経を通って脳や神経系と言った意識や感覚を司る器官をインターネットと繋げ、意識をリアリティ度の高い仮想現実に繋げる機器として開発されたのだった
元々は医療用や軍事用にと限定的な形で開発されていたニューロリンクデバイスの前身があったが世界的な第8次産業革命の結果や第7世代移動通信システムの構築など様々な要因が重なったことで国の莫大な援助のもと改良され、国民用として開発された。
この発明は社会生活に大きな改革をもたらした。
ニューロリンクデバイスから登録した銀行からの引き落としができるのでキャッシュレス化が進み、買い物などで財布を持ち歩かなくなった。さらにはニューロリンクデバイスの開発に伴い、全国的に高度なセキュリティーに守られたWiFi整備が進み、日常生活の様々な場面で活用される様になった。
そして、そんな社会変化をもたらしたニョーロリンクデバイスはゲーム業界にも革命を起こした。
ニューロリンクデバイスは五感によって再現されたリアリティ度の高い仮想現実であるNR(Neurolink Reality)と呼ばれる全く新たな可能性を示したのだ。それは新たなゲームハードとして可能性だけでなく、今まで出ていたVR技術とは一線を課すレベルの先進性や性能、それらが相まって爆発的な人気を誇る事になった。
NRによってもたらされた可能性は、今まであったRPGから恋愛シュミレーション、FPSまで様々な種別のソフトに変化をもたらした。そんな中で最大の人気を誇ったのがMMORST(大規模多人数型オンラインリアルタイムステラテジー)と呼ばれる新しいジャンルの確立であった。
大人数の人と仮想現実の中で繋がり、普通の人生であったら体験する事のできない新たな人生を追体験できる。そんな「新たな現実」は人々に感動と希望を与えることになった。
そんな数あるMMORSTの中で一番の人気を誇ったのが国家運営戦略ステラテジー「エデンー失われた楽園ー」である。
このゲームは魔法と科学の二つの技術が存在するエデン大陸でプレイヤーは女神イブを主体とする光の陣営アルティミナと邪神アダムを主体とする闇の陣営アダミリアに分かれ、国家を作り、運営していく事が目的のゲームである。そして、このゲームが他のゲームよりも優れていた点は、他のゲームにはないほど「圧倒的な自由度」と「現実のような過酷な難易度設定」であった。
一つ目の「圧倒的な自由度」はキャラメイクの豊富さはもちろん。最初のプレイヤーが選べる初期種族も豊富で、他のゲームでは選べないアンデット系やスライムなどの異業種やオークやライカンなどの亜人種も選ぶ事ができた。さらに、マップ面では非常に広大であり、ゲームシステム面では現実の国家運営さながらの様に内政、外政、研究共にプレイヤーの手に一任されていた。さらには国造りの初期段階でいくつかある国家方針から1つ選ぶ事によって自分の作りたい国がより詳しく作れる様に様々な恩恵が貰えたり、研究によっては魔法国家や科学国家など、プレイヤーの独自の個性豊かな国家が作れることも売りでもあった。
そして、二つ目の「現実のような過酷な難易度設定」はその言葉の通り、このゲームのプレイヤーは基本的に一つの命しかももっていない。もちろん課金アイテム等である程度の復活もできるがそれらがない場合は死んだら終わりである。
そして、それに追い打ちをかけるように自然災害イベントや疫病イベントはもちろん。国民の不満が一定値に達すると反乱イベント、AI国家による容赦のない侵略イベント、突破的におこる敵対陣営の国への強制侵略イベントなど様々なマイナスイベントが起こる。さらには定期的に互いの陣営に相手陣営の主神である女神、邪神の降臨イベントが起こり、中小国や弱いプレイヤーを容赦なく叩き潰していくのだ。これは他のNRのゲームと比べても非常に高い難易度であり、多くの廃人プレイヤーを生み出す要因になっていった。
こういった現実さながらながらな高難易度と自由度の高い国家運営など様々な側面が重なりプレイヤーは自分の理想のキャラが現実の様な厳しいゲームの中で「王」になれるそんなゲームとして認識され、人気に火がついたのだった。
当然、そんなゲームを男は見逃さなかった。
男は発売当初からゲームを始め、そして、のめり込んでいった。
通っていた大学はやめ、家の中に引きこもり、時には食事を忘れるほど熱中した。
幸い、金持ちの生まれである男は金には困ってなかった。その為、自分の時間のリソースの全てを「エデンー失われた楽園ー」に当てられた。
男は充実していた。現実の世界でなる事が出来ない「王」になれるのだから。
男は自らの持てる全てを費やしてゲームを楽しんだ。例え、それが仮初めの夢であろうと男にとってはかけがいの無い「現実」だった。
男はこれが出来れば永遠である事を望んだ。
そして、それに答えるかのように6年という短くも長い年月の間、ゲームは続いていた。
しかし、現実はゲームよりも非情であった。
ついに男にとって望んでいなかったが予期していた事態が起こったのだった。
ーー皆様に愛されてまいりました「エデンー失われた楽園―」は諸般の事情により一ヶ月後の6月13日をもちましてサービスを終了させて頂きますーー
どんな世界にもいつかは終わりがくる。
そんな当たり前の事が来たのだった。
物語が面白いと感じていただけましたら、ブクマ・評価・感想を頂けると作者は大変うれしいです。