おとぎ話の姫の城
何となくでかいてみました
小さな体にはおおよそ似合わない、けれど頼もしい勇気を持った彼は、白馬の王子様だった。
自分の2倍はあると思われる馬を乗りこなし、私に手を伸ばしてこういうのだ。
「お前はそれでいいのか」と。
大きく見開かれた榛色の目は真正面から私を射抜く。
どこからか誰かの怒号が響く。先程まではぽつぽつと降っていた雨が、今はバケツをひっくり返したようにザーザーと降っている。迷っている私に、彼は言った。
「お前は今のままでいいのか」
いいわけじゃない。でも、人を簡単に信用できるほど私はいい人じゃない。人間は醜い生き物だ。私利私欲にまみれ、自分のためだけに行動する。そうして邪魔な人は始末する。王宮ではそういう人ばっかりだった。だからきっと彼もそういう人なのだ。
見てくれは良くても中身が真っ黒な人なんて五万といる。
なおも手を取らない私に、彼は私を諭すように言った。
「僕は、君だけのために生きよう!」
例えばこれがおとぎ話なら、いきなりの提案にさぞ混乱することだろう。それもそうだ、私もそう思う。なぜなら彼と私は初対面だからだ。
だから私はこう問うた。「なぜ」と。なぜそこまで言うのかと。
一瞬考えた後、彼は言った。
「君が好きだから」
今まで言われてこなかったこの言葉は、私の心奪うのにそう時間を必要としなかった。
そうして私は彼の手を取った。大雨の中、2つと1匹は夜闇を駆ける。追っ手から逃げてる最中だと言うのに、笑顔が絶えなかった。
おとぎ話はこうやってできる。喜劇というカテゴリー入れられ、最後はハッピーエンドで締めくくられる。そうしてできたお話は多くの人を魅了する。
けれど私は知っている。喜劇は一部分を切り取って物語にしたものだと。書かれていないところでは色んなことが起きている。そのほとんどはきっと喜劇ではなくて。ご都合主義のようなお話は誤解を招くこともある。
それでも私は文字を綴る。だって、思い出はキラキラしているものだから。