14話
時刻は午前1時。
皆、海で遊び疲れたのであろう、仲良く寝息を立てて寝ていた。
ふわり
何者かが空たちの眠る部屋にやってきた。
コトコト・・・・・
その何かは空のベッドの隣に来ると、空の寝顔を見ている。
「・・・・・・すまない」
その何か、おそらく人。それも男性だ。
彼は悲しげに呟き、空の方へ向けて、手を突き出した。
突如、手のひらから光が発生し、部屋を明るく照らした。
何分か経ち、部屋には元通りの静寂があった。
しかし、そこに男と空の姿はなかった。
太陽が昇り、辺りが明るくなってきた。
「うう・・・・んあ?なっ!?」
空は目覚めた。
突然寝ていた場所とは別の場所で起きて、混乱しているようだ。
「なんで?俺はホテルで寝てたはずなのに・・・・」
混乱する頭で記憶を探ってみるが、当然わけがわからない。
空が寝ていたベッド。それはホテルのものとは違い少し貧乏くさい。
ここはおそらく、どこかの民家だろう。少し古ぼけた木の小屋のような家。
「とりあえず、外に出てみよう」
昨日遊んだことで、少し筋肉痛になった体を起こしてドアへ向かう。
ドアノブに手を掛けて、出ようとしたら勝手に開いた。
「へ?自動ドア?」
空がまぬけな発言をすると、ドアの向こうからおじいさんが現われた。
「うお!」
びっくりして少し引き腰になる。
「そんなに驚かんでもええよ。少しは元気になったみたいだの」
「あ、はい。あの、ありがとうございます」
自分がこのご老人に助けられた?と思った空は、先程の反応が少し恥ずかしく、おどおどとお礼を述べた。
「ええんじゃよ。しかし、何故森の中にいたのじゃ?」
「それが、俺にもさっぱりわからないんです。ここは何処ですか?」
「うむ、ここはタジの村じゃよ。さて、君はどこから来たのじゃ?」
タジの村?俺の知らない土地なのかな?だとしたらなんで、俺はこんなところにいるんだ?
次から次に湧いてくる疑問だが、ひとまずご老人との会話を成立させる。
「俺はY県のA町からきました」
「お主、ここには県などないぞ?ここはブーリック大陸じゃからな」
「え?だったら、日本という国は知りませんか?」
「ニホン?はて、聞いたことがないぞ」
「ええ!?・・・・・」
聞きなれない単語が頭に入ってきて、益々混乱は酷くなる。
だが、一つの考えが脳裏をよぎった。
『ここはもしかして、異世界なのか?』と・・・・。
もしそうならば、この先どうすればいいのか?
考えれば考えるほど暗くなっていきそうだった。
「まぁ、わしらの知らぬ土地なのかもしれん。ゆっくりしていきなされ」
「すいません、ありがとうございます」
ご老人の気遣いに感謝し、少し外に出てみることにした。
家の外には村人と思われる人々が多数いた。
八百屋のような店がある以外は何もない。本当に村、という感じだ。
家の後ろには生い茂る森。恐らくこの森に空はいたのだろうと、わかった。
村を見て回りたい気もするが、格好がだいぶ違う為か注目を浴びているので、やめにして家の中へと戻ることにした。
中に入ると、ご老人がかまどに向かって手のひらを向けている。
何をしているのかと思い、近くへ行くことにした。
「ファイア」
短くそう呟くと、ご老人の手のひらから炎が出て、かまどに火が点った。
「な、な、なんじゃそりゃ!!」
いきなり炎が出てきたぞ?なんのマジックだ?
などと、空は動揺しまくりだ。
「お主、魔法は始めてか?」
「は、はい・・・・・それってだれにでも出来るんですか?」
「ほっほっほ、お主くらいの年齢になればこのくらいのことなぞ、朝飯前じゃよ」
「そうなんですか・・・・」
非現実的な光景を目の当たりにして、空は軽く落ち込んだ。
誰にでもできんのかよ。俺も・・・・・もしかしたら出来たりして!?
しかし、その後に好奇心が湧いてきたことによって気分は少し回復した。
「そうじゃった、まだわしの名を言うとらんかったの。わしはダールスじゃ」
「ダールスさんですね。俺は天海空です」
「よろしゅうのう空」
「はい」
この後、空はダールスに魔法を教えてもらおうと躍起になって、家事を手伝うと申し出た。