11話
バタバタバタ「二人とも、ついてこれてる⁉」
慌てた様子で前を走っているアオイが後ろを振り向きながら私とスズがちゃんとついてきているかを確認している。いや流石に1時間30分の遅刻はやばいって…
「はっはっはっはっ…なんとか…なんとかついていけてますよー…あとど…どれくらいですか~!」
後ろからスズの悲鳴交じりの吐息が聞こえてきた。スズは勉強については天下一品なんだけど運動に関しては全くできない。逆に私は勉強はできないけど運動はそこそこできる。
アオイはチートだよチート!勉強もできるし、運動もできる!チート断固反対!
「スズ頑張ってーあとちょっとだから、ね?ほらほら入り口見えてきたよー」
「も…もう無理ですー…休憩を…休憩をさせてください」パタン
「ってスズ…スズー!あわあわ、どうしよう…アオイ、私はスズをおぶっていくから先に行って。先に行ってさくらえびさんと合流して!」
「だ…大丈夫なのー?一人でスズおぶれる?」
「大丈夫だからー!きっとさくらえびさん待ってるだろうから一刻も早く行って全力で土下座しといてー」
「な…なんか損な役回りな気が…わ…分かったーじゃあ先行っとくよー!あんたも気を付けなさいよー」
「分かってるってーさぁさぁ早く行った行った」
バタバタバタ…アオイの足音がだんだん遠くなっていく。ごめん、アオイ!アオイの言った通り怒られたり、謝ったりするのが嫌だったから…とっ、とにかく頼んだわー!
と心の中で一応アオイに謝りつつ、顔を真っ赤にして肩で息をしているスズのところに駆け寄った。
「スズ、顔真っ赤だけど大丈夫?」
「ホ…ホノカちゃん…ごめんなさい迷惑かけちゃって。私は大丈夫ですよ」
「もう意地張っちゃって…ほら背中に乗って、一緒にアオイのところに行こう、ね?」
「あ…ありがとうございます…じゃあお言葉に甘えて…」
スズはそう言うと私の背中に体を預けた。私は少し身構えたけどスズが乗ってきてもあまり重くなかったから少し身構え損だった。やっぱりスズは見た目通り小さくて軽い。でもそれが可愛いんだけどね。
「お…重くないですか?私最近太ってしまって…」
「えへへへ、スズ太ったの?でもぜんぜん軽いよーもっと食べてもっと体重増やさないとね」
「でもなかなか食べないので…」
「そうだね、昔からスズはホームの周りも施設が少なくてきれいにまとまってるし、ご飯も少ないし、なんだか少ない事ばっかりだね」
「ふふふ…そうですね…なんだかこの感じ久しぶりです」
「えっ?前もあったっけこんなこと」
「覚えてませんか?まだ私たちが知り合って間もない頃私が今回みたいに倒れてしまった時の事」
「あったかなそんな事…」
「ありましたよ。私は絶対に忘れられませんから…あの日も3人で遊んでたんです」
スズはそう言うと私たちがまだ親友になる前の話をし始めた。
「ま…待ってくださいホノカさんー!アオイさん!」
「ほらスズ遅い遅い!もっと速く走らないと」
「わ…私限界ですー」
あの日は3人でクリエイティブ施設で可愛い家を作ろうって事になって遊びに行ったんです。でもクリエイティブ施設ってホノカちゃんも知っているようにすっごく広いんですよね。アオイちゃんやホノカちゃんは運動できるから広いフィールドを縦横無尽に駆け回るんですけど、私は運動できないからついていくので精いっぱいだったんです
「ホノカあんた遅くなったんじゃないの。ほらほら追いついてみなさいよー」
「な…何を…まだアオイに負けるつもりはないわよー!」
「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃー」
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃー」
ドタドタドタドタ…
「い…行ってしまいました…」
二人ともあっという間に走り去ってしまうんです!もうひどいですよ…。私は二人を必死に追いかけましたが体力のない私が到底追いつけるはずもなく、途中で力尽きて倒れてしまったんです。施設内の時間が夜になると魔物が湧いてきますよね?私が力尽きてしまっている間にあたりは夜になってしまって、魔物が湧いてきてしまったんです。
ウーウーウー。ガルル、ガルルルル…。私は草の心地よい感触で目を覚ました。
「く…くすぐったいです…こ…ここはどこでしょうか」
あたりはもう真っ暗で何も見えない。聞こえるのは魔物の鳴き声だけ…
「ホ…ホノカさーん!ア…アオイさーん、ど…どこにいますかー!」
いくら叫んでも返事はありませんでした。
ウーウーウー。ガルル、ガルルルル…。
「へっ?ま…魔物の鳴き声…こ…怖いですよー…ウェーン」
怖くなった私はお恥ずかしい話ですが泣き出してしまったんです。考えれば大きな音を出せば魔物に自分の居場所を教えているようなものです。でもあの時の私はただ怖くて何も考えることができなくてただただ泣いたんです。
「ウェーン!ウェーン!ホノカさん…アオイさん…どこに行ってしまったんでしょうか…。ヒック、わ…私の事なんかきっと忘れてしまっているでしょうね…」
あの時私はホノカちゃんやアオイちゃんの事を疑ってしまったんです。まだ付き合いも浅い、もしかすると二人は私を友達として見てくれていないのではないか、助けに来てくれないのではないか。あの時の私がそこにいれば今すぐ殴ってやりたいです。だって…二人は…
ただひたすら泣いていた。どのくらい時間が経っただろうか。お月様はもうすぐで私の真上に来ようとしている。その時だった…
ガルル…ガルルルル…。明らかに魔物の声が近かづいてきていた。
「はっ…ま…魔物が…わ…私もう…もう…」
暗闇から魔物の赤い目が薄っすらと見えてきました。私は覚悟を決めて目をぎゅっとつむりました。覚悟を決めたと言ったらかっこいいですけど結局は怖かったんですよね。自分の最後を見ることが。
ガルルルル…。ガォーオー!
「き…きゃーあ!」
私は体いっぱい力を込めました。イタイいたい…あれ?どうして痛みが来ないんだろう?そういうアシスト機能か何かが働いているのですかね…
恐る恐る目を開けるとそこには…
そこには二人が…ホノカちゃんとアオイちゃんが立っていたんです。必死に私を守ろうと魔物と戦ってくれていました。
キーンキーン「くっ、ホノカ、数が多すぎる。私が援護するからあんたはスズを抱えて走りなさい」
「わ…分かったわ」トットットッ「はいスズ、私の背中に乗って」
「へっ?」
「どうしたの?私の背中貸すからのってよね。おんぶしてあげるから」
「で…でも…」
「何してるのスズ!早くホノカの背中に乗りな!」
「えっ…えっ?ど…どうしてふたきゃぁーあ!」
「ちょ…ちょっとスズ!急に大きな声出さないでよ、もう…。スズが乗らないからだよ?」
「ホノカ準備はいいわね?」
「いいわよ、3・2・1…走れ!」
ホノカちゃんちょっと強引でしたけど私をおんぶしてくれて真っ暗闇を走ったんです。アオイちゃんは私やホノカちゃんが安全に暗闇を走り抜けられるように前に出て魔物を倒してくれました。
タッタッタッ…「あ…あのー」
「ど…どうしたのスズ?」
「どうして…どうして私を助けてくれたんですか?」
「はぁー?スズ何言ってるの?」
「どうしたもこうしたもないよ。だってスズは私とアオイの大切な友達でしょ?友達が目の前で襲われているのをただみてるだけって…そんなことできる訳ないじゃん?」
「まぁホノカの言うとおりね」
「と…友達…ですか…」
「まさか私とホノカが友達じゃないなんて言わないでよね」
「いえいえ!そんなこと言うわけないじゃないですか!ただ…ありがとうございました!ホノカちゃん!アオイちゃん!」
「えっ?今ホノカちゃんって呼んでくれた…?」
「ふふふ、内緒です!」
「私とっても嬉しかったんですよ。二人が私を友達だって言ってくれて」
「スズ…」
「ご…ごめんなさい!しんみりさせるつもりじゃ…」
「えへへ…しんみりしてないよ。ただスズがそんな事考えて、あの出来事を覚えててくれてうれしかっただけだよ」
「ふふふ、そうですね!」
「さぁ、出口が見えてきたよ。私たちを守ってくれるアオイ様のところに行っか!」
「はい!」