2話 ふえぇ><ロリババア怖いよぅ><
「これより、入学前説明会を始めます」
舞台の上に立った男は若かった。
年齢はおそらく30にも満たないだろう。
が、妙な威圧感を感じる声だ。
なんだなんだ。若いにーちゃんのくせして、えらくドスの効いた声じゃねえか。
何人か殺してんじゃないの?
あ、やばいなーすでに眠いや。
「まず初めに、校長先生によるご挨拶です。校長先生、よろしくお願いします」
「うむ!」
校長と言うにはあまりに間の抜けた、それも少女のような声がホールに反響する。
舞台に現れた人物は、まさに少女だった。……白髪の。
ん?校長…なのかあれは。どうみてもガキじゃん。
あれ。どっかで見たような気が……
「やあやあ皆の衆、どうもこんにちは。わしが校長の神楽坂じゃ」
「ああああ!?!?」
「きゃっ!?」
天野は思わず声をあげていた。
突然の叫び声に、隣に座っていた雨宮もつられるようにして悲鳴をあげてしまう。
そう。校長として現れた人物は、あの不思議な空間で出会った「神」と呼ばれる少女と同じ顔をしていた。と、いうより同一人物にしか見えなかった。
ど、どういうことだ?あのロリババアがどうしてここに…やばい、頭がこんがらがってきた。動悸が…だめだ、意識を持っていかれる。
落ち着け、おちつ…け………
「な、なんじゃあ?騒がしいのう。これっ、静かにせんかい!……おっ、おっ??」
どさっ。
校長の怒声と共に、天野は意識を失った。
ーー雨宮視点ーー
不安だ。本当に不安だ。
新しい環境になり、友達はできるのだろうかか。
授業についていけるのかも怪しい。
凛華寧鐘学園は国内一の名門校である。
きっと天才と呼ばれる人だらけなんだろうな。
自分なんかが上手くやっていけるのか。
はぁ、とため息をつきながら最前列の席につく。
それにしても、このホールはただただ広い。この学校の環境には驚くばかりだ。
きっとこの環境に見合うだけの生徒が集まるのだろう。
はぁ、不安だーーーー
「ども、こんにちは〜。」
急に話しかけられ、思考が停止する。
横を向くと、いかにも天才肌といわんばかりの顔立ちをした少年が座っていた。
けだるそうな目をしているが、瞳の奥には底知れない自信が見え隠れしている。
天野と名乗った少年は、どうやら同じクラスのようだ。
緊張しつつもなんとか自分も名乗る。
「説明会って、なにするんだろね?」
「わからない…けど、たぶん担任紹介とかだと…思います…」
「確かにね。お、始まるみたいだよ」
いつのまにか舞台の上に若い男が立っている。
男の声を聞いたとき、背筋が凍った。
なんとも言えぬ威圧感。
嫌だ、怖い。
ぎゅっと手を握りしめる。うっすらと汗をかいていた。
横をチラリと見る。天野はあくびをして、ただ眠そうにしているだけだ。
この声を聞いてもなんとも思わないのだろうか。
雨宮にとっては信じられなかった。
「校長先生、よろしくお願いします」
今の男ですらこれだ。
校長はもっと怖い人に決まってる。
もう嫌だ。帰りたい。
かと思えば、今度は可愛らしい白髪の少女が現れた。ただの幼い女の子にしか見えない。校長というと違和感を感じるが、先程のような威圧感はない。
ほっ、よかったーーー
「ああああ!?!?」
「きゃっ!?」
突然、隣に座る天野が驚きの声をあげた。
わけがわからなかった。
さっきの男には全く動じなかった天野が、校長と呼ばれる少女を見た途端に叫び声をあげるほど動揺していたのだ。
確かに校長にしてはあまりに幼いが、それほど驚くようなことだろうか。
次の瞬間。
どさっ。
ーーーえ?
天野が倒れた。
途端にざわつく生徒たち。
「あっ…あまの、くん…?」
あまりに急な出来事で、思考が追いつかない。
「あ、あの…大丈夫ですか…?」
返事がない。
意識を失っていた。
そうだ。まずは保健室に。
「い、意識がありません!誰か保健室に!」
「分かりました。私が運びましょう」
振り向くと、先ほど舞台の上に立っていた男がいた。
だが、雰囲気や声色が別人のように柔らかくなっている。
「お願いします…」
天野は男に背負われ、ホールから姿を消した。
私はそれをただ呆然と見送ることしかできなかった。
その後、配布されていた端末で確認した事項とほとんど同じ説明がなされた。
「それでは、ホームルームにてレクリエーションを行います。入学する皆さんは所定の教室まで移動してください」
レクリエーション。
自己紹介などを済ませておこうということだろうか。
考えてみれば、既に同じ寮で生活しているのだ。
お互いを知っておくのは早いに越したことはない。
ーーー
教室に入ると、既にいくつかのグループができていた。
いつのまに…
私、この時間どうやって過ごしたらいいんだろう。
唯一会話したことのある天野の姿は見えない。
やはりまだ保健室にいるのだろうか。
うう、おなかが痛くなってきた。
「ねえ!あなた、なんていうの?」
ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべた少女が立っている。
金髪でポニーテール。
非常に快活そうな印象を受けた。
ああ、こういう子がクラスの中心になっていくんだろうなあ。
「あ…えっと、雨宮千尋っていいます…よろしくお願いします」
「千尋ちゃんか。うち、千尋ちゃんと仲良くなりたいな!すごいかわいいよね!」
かわいい、か。
私は自分の容姿について、特に優れていると思ったことはない。
それでも褒められると嬉しいものだ。
「あ、ありがとうございます…あの、あなたは?」
「そうだ、まだ名前言ってなかったね。うちは川崎 沙耶香です!さやかって呼んでね!」
そう名乗ると、また人懐っこい笑顔で笑った。
よかった。仲良くしてくれる人がいるだけで救われたような気がする。
と、その時だ。
教室のドアがガラガラと、少々乱暴な音を立てて開いた。
全員がハッとドアに注目する。
そこには少し不機嫌そうな顔をした天野が立っていた。
読んでいただいてありがとうございます。
クラスの名簿的なやつは後で作ろうと思ってます。