8.少年・彼は走る
ヴォーンババババババ、キュルキュルブゥォーン。
サーキットを2台の車が走っている。
1台は諸星の日産チェリークーペX-1Rだ。
そして、もう一台はスバル360ヤングSSだ。
二台は競うわけでは無いがアウトインアウトを意識し、コーナーに入っても曲がりきれる限界速度まで引っ張って走っている。
2.5キロのコースを数周走るとピットに入った。
ブワン、パンパンパンパン。
エンジンを切り諸星がチェリークーペを降りてスバル360ヤングSSに近づくと、前開きドアを開けて菊池鎌が降りてきた。
「やー、久々にサーキット走ったけど、36馬力だとお前のチェリークーペには負けるよなー。」
頭をかきながら鎌が言う。
「前よりかは、食いついてきてると思うんだけどな。」
差は縮んだと思うよ。と言うように流星は答える。
なぜ鎌が車を運転できるかというと、サーキットは私有地だからだ。
そしてなんと言ってもこの「ブルー・リーブス・リンク」は菊池の祖父が建設・経営しているからだ。
しかも、スバル360ヤングSS・コンバーチブル(後期型)が一台ずつ、鎌に与えられているのだ。
と言うことで鎌は馬力の高いヤングSSに乗っている。
二人はスバル360をピットの端のガレージに戻すと、チェリーに乗って家へ戻った。
鎌が流星をぶん殴ってから許可をもらって一緒に生活しているのだ。
流星に負担のかからないように食事などは、鎌が作っている。
昼食を食い終わった後鎌が、
「ちょっと家まで送ってくれるか?」
と聞いてきたので気安くOKした。
部屋の鍵を閉めさっさと駐車場に向かうと、チェリーに乗り込み鎌の家へと出発した。
すると、
ピピピピピ、ピピピピピと、無線機がなる。
「はい、鎌です。」
鎌が答えると、
[南蒼葉通りの宝石店の強盗が入った。前回と同じく水色のサニートラックで逃走した。至急急行してくれ。]
「了解。」
そう答えると、鎌は赤色灯を手に取った。すると流星が、
「いいのか、一緒に行っても。」
と、心配そうに聞いてくる。
「特に大事な用事じゃないし、いいぞ。」
とすぐに鎌が答える。
そして窓を開け天井に赤色灯載せる。それとともに流星はスピンターンさせて、方向転換しアクセルを踏み込んだ。前回と同じようにパトカーを巻くのではと思い、宝石店へは行かないで青羽根谷の方へ向かった。
青羽根谷へ向かう谷川線に出ると、丁度前にはあおば45 と32-10のサニートラックが居た。
「どんぴしゃっ!」
またしても流星が叫ぶ。
すると鎌がマイクを取り
「鎌です。犯人谷川線に入りました。」
そう言うと、
「了解、俺も行く。やられないように気をつけろ。」
珍しく無線から課長の声が聞こえた。
「課長の出陣なんて珍しいや。」
流星がおどろきながら言う。すると、
「課長あの人、カタナとブルとどっちで来るんだろ。」
と鎌が言った。それを聞いて流星はえっと言う顔をした。
なんせ510ブルーバード2ドアクーペしか乗っているの見たことが無いからだ。
そんな会話をしていると、前回マシンガンでやられたところに来た。
またしても荷台が開きババババババとマシンガンが発射された。
軽くパニックになりハンドルから手を離すと、鎌がハンドルを握り
「頑張れ、奴に打ち勝つんだ。」
励まされハンドルを握るが、パンッ
破裂音が響きチェリークーペはバランスを崩し道を飛び出し、またしても砂山に突っ込んだ。
「いってー。」
鼻血を出しながら流星が叫ぶと、
「クッソヤロー。」
鎌も額から血を軽く流しながら叫んだ。
車から降りてタイヤのパンクを確認した二人はそろってホイールを蹴飛ばした。
「「痛ってー」」