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美酒は暗躍の後で

作者: 印税生活

北に5000を率いて籠城する謀叛軍がいた。九戸政実率いる九戸衆だ。

それに対する中央から派遣された奥州仕置軍は豊臣秀次を総大将と置いた総勢6万もの軍。蒲生氏と浅野氏が中心となり、戦線を開いていた。


9月の始め、未だ暑さが残っているものの九戸衆には活気があった。僅かな兵でその何倍もの敵兵を討つ誉れに恵まれ、北の鬼の下、勝利を信じ続けていた。

敵は連合軍。足並みが揃うことはなく、いかに味方を出し抜くかを考える。そんな者たちが相手なため、何日でも耐えられると思われた。


それを証明するかのように、奥州の国人衆が手柄を焦って勝手に攻めて幾度となく討たれた。


しかし、天は九戸を見放した。



※※※※※



「報告します。どうやら、豊臣はその重い腰を起こし、軍をまとめたようです。」


「遂に、動いたか・・・」


大将が飾りならば、足並み揃わない近隣の兵ではいとも簡単に相手できた。しかし、これらの軍が組織的に動いたならば、いくら堅牢な九戸城とてただではおけない。しかも、周囲に援軍の手立てはない。



※※※※※


「兵を集めよ!」


今、この城に残っているものは決死の覚悟で政実に従ってきた武士と兵、その家族だ。皆がここで果てる覚悟を持ってこの決戦にのぞんでいる。


「皆のもの、我々は今、窮地に立たされている。敵兵はこの城を包囲しているものだけで6万を越え、我々には援軍の目処が立ってはおらぬ。しかし、我々は立ち上がった。たかが、相手が多いから、援軍がいないから。そんな理由で我々はまた中央に膝を折るのか?否だ。断じて否だ!!我々九戸がこの地に土着して疾400年。既に我々は奥州の者。奥州で生まれ奥州で生きた。我々もまた、奥州人だ!長い間、中央の侵略にさらされてきたのだ、奥州は。阿倍比羅夫、坂上田村麻呂、前九年の役、後三年の役、源頼朝。そのたびに我らの先祖と奥州の大地は、屈服を強いられ屈辱に泣いてきたのだ。今立たねば、いつ立つのだと言う。奥州に誇りあり。我らの誇りを踏みにじる中央に、今こそ我々奥州の底力を見せるとき。皆のもの、剣を持て!突撃!!!」


正門が開き、気が緩んでいた中央軍とぶつかる。

これが、その日の激戦のはじまりだった。


※※※※※



その日の合戦は苛烈だった。

攻城戦は敵兵の約3倍の兵数が必要になる。有名なことだ。兵法の基本であり、内通や奇襲がない限りこれは基本である。

今回の兵力差は城を囲んでいる兵数だけで既に12倍差。直ぐに援護に来れる数を居れればさらに多い。

これだけで絶望的だと分からされる。


しかし、九戸はしばしばの間堪え忍んだ。

12倍以上の差がありながらも堪え忍べたのは一重に防衛だけでなく攻勢にも出ていたからだ。


地方民の協力の下、遊女などから情報を集め、陣の位置を知り、密かに奇襲する。近隣の土地を知り尽くしているからこそのことだ。


さらに、葛西や和賀、稗貫などの残党兵に文を送り、時期とともに挙兵するように促した。


九戸と二戸に3000もの首が転がるようになった頃、九戸城の城内は半分程度に減っていた。



※※※※※



既に10月も半ば、木枯らしが吹き荒れる。

そんな城内におよそ2000丁もの銃が積まれていた。


「ああ。やっと、やっと・・・・・・」


何人もの重臣が側近が討ち死にしていった。

それも、全ては時を稼ぐため。こちらが強気であり続けなければ侮られて一気に攻められて終わりだった。

常に相手に何かあると思わせなければならなかった。ときには部下に死兵になるように命じた。

さまざまなことをして、遂に実ったのだ。


「これで、勝てる・・・・・・」




※※※※※



朝日が昇るとともに奥州仕置軍が動いた。完全な奇襲になるはずだった。それまでは、数の猶予を活用した安全な包囲網だった。しかし、ここに来て急に戦法が変わった。新しい誰かの入り知恵か・・・・・・


しかし、九戸衆は待ち構えていた。


九戸城は、西側を馬淵川、北側を白鳥川、東側を猫渕川により、3方を河川に囲まれた天然の要害であった。城の正面にあたり、正門のある南側には蒲生氏郷と堀尾吉晴が、猫淵川を挟んだ東側には浅野長政と井伊直政が、白鳥川を挟んだ北側には南部信直と松前慶広が、馬淵川を挟んだ西側には津軽為信、秋田実季、小野寺義道、由利十二頭らが布陣していた。開戦当時から配置位置に変化はなかった。

4方からの同時攻め、しかし、銃と矢が数多飛んできて、前線指揮官はことごとく討たれた。

川を通って攻めた3方では川に足を取られている合間に討たれるものがほとんどで、城壁まで届いたものは僅かだった。

討伐した正式な数は分からないものの、城内にいる数と討伐した数が合わない。

これは奥州仕置軍に大きな衝撃を与えた。さらに、ここに来ての銃の大量投入。それまでは少ししか使われてなかったのにだ。

明らかな裏切り者がいる。

奥州仕置軍は身内の裏切り者の炙り出しに躍起になった。城を攻めてるときに背後を突かれる訳にはいかないのだ。



※※※※※



「仕置軍は混乱しているようだな」


「はっ。さすがにここで銃が投入されるとは思わすまい。仕置軍はいもしない裏切り者の影に怯え必ず攻撃に揺らぎができるでしょう。もう少しで冬です。我々の勝利は直ぐそこかと」


「ああ。あと少しだ・・・・・・」


政実は遠く奥州に思いを馳せる。



※※※※※



奥州仕置軍は遂に裏切り者を見つけることは出来なかった。そのため、今は従っている陸奥の国人衆を納得させるため九戸の元主家の南部を裏切り者に仕立て上げた。


これによって最初に掲げた大義名分は失われた。



※※※※※



まばらに雪が降り始めたころ、戦況は膠着していた。

謎に増えた九戸衆相手に、しびれを切らした中央から派遣された軍が正門から力業で開城させようとするが、急に陣の背後を突かれ、戻らざる終えず攻めきれなかった。

そんな中、一通の知らせが奥州仕置軍に届いた。


元戦線をともにしていた伊達軍が挙兵し、九戸へと向かっていると

その知らせで活気付いた仕置軍は、それまで続けていた攻城戦を1度止め、伊達を待った。



※※※※※



時同じくして、津軽氏、秋田氏、最上氏も兵を集めて陣に集った。

最後に到着した伊達軍。仕置軍は伊達軍を迎え入れた。


「伊達政宗。ただいま見参いたしました」


豊臣秀次の前に立つ巨漢。それが伊達政宗だった。


「ああ、よく来てくれた。他の者も兵を集めてくれたし、これで我が軍は計10万以上。死者も多く出ているとは言え、これだけいれば北の鬼とて勝てぬ」


僅か5000に10万もの兵を集めなければ勝てない。

既に豊臣の天下は怪しばまれていた。



※※※※※



雪が積もった。

暖かい中央から来た兵は寒さで使い物にならなくなった。それと同時に奥州は中央に牙を剥く。



※※※※※



僅か3日。

たったそれだけの日で、奥州仕置軍の重役は全て捉えられ、敗戦の知らせが中央の都、豊臣秀吉まで届いた。


当時の秀吉は気が動転していたのだろう。明らかに不可解なことを見落としていた。

都に敗戦の噂が広まった。僅か5000相手に10万の敗北。ただそれだけが伝わっていた。



※※※※※



細川氏を中心とする元幕府陣が隠居させられていた元将軍を引っ張り出してきて、幕府再建を宣言した。

都は再び、幕府陣と反幕府に割れる。


豊臣恐るるに足らず。織田の腰巾着。そう仇されるようになった。


天下人の足下は容易く崩れ去った。


日ノ本は再び戦乱の世へと巻き戻る。

幾多の将がしのぎを削る。そんな世へ



※※※※※



「ふはははは」


とある城の茶の間、蝋燭の火が揺らぎ、2人の影を映す。


「上手く、いきましたね」


こぽっ。


酒が注がれる。


「ああ、今宵は実によい月だ。戦乱が再び訪れる。血が疼く」


「伊達、上杉、細川、毛利、長宗我部、島津。どこもかしこも面白いように手中で踊るものですね」


口に薄らと笑みを浮かばせながら杯を口元に運ぶ。


「まさか実に九戸の田舎侍が勝つとはな。お主のことなれど、やはり信じられぬ」


「ふふふ。しかし、勝ったでしょう。これであなたの望む世が戻ってくる。次はあなた様の番ですよ」


「くっくっく。儂に天下を取れと、そう言うか。主君の天下をあと一歩のところで止めたお主が・・・」


こぽっ。


再び空になった杯に酒を注ぐ。


「私を、本当の絶望から救ってくれたのはあなた様でしたから。私の主君はあなただけでしたよ。私は、少しでも早くあなたに天下を取っていただきたかった」


「そうだな。次の天下は儂のものだ。既に日ノ本の東は全て取ったも同然。毛利も儂に従おう。力の差が分からぬ阿呆ではない。ああ、日ノ本は既に儂の手中・・・・・・」



※※※※※

感想を戴けると幸いです。

短編として書くことは初めてで、兎に角勢いで書きました。

伊達が九戸を物質支援していたこともあったようです。(諸説あり)

伊達が動き、冬が来れば奥州仕置軍は孤立します。仕置軍の総大将は後の関白の豊臣秀次。彼が負ければ豊臣政権も揺らぎ、毛利を始めとした地方領主が反乱を起こし、戦乱に逆戻り。5000に対して6万も送っておきながら(後に兵をさらに集めて15万になる)負けては政権が揺らぐのも当然ですね。

最後に出てきて暗躍していたのは誰なんだ!?

死者が使者として暗躍してました(ただ言いたかっただけ)。

これを読んで政実ファンが増えることを期待します。

お読みいただき、ありがとうございました。

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