13-05 アダルブレヒト家の容疑者達
執事ゼフ老の協力で、彼を含む容疑者への個別尋問の準備が整いました。
容疑者候補は、長男デルムッド、次男ヴェラール、長女アルデレーテ、婿のデルマリウス。
それからメイドのジルバ、軍大佐のガーロゥ、執事長のゼフ老のそれぞれをこの部屋に呼び付け事情を問いただします。
あー、長男は今も軟禁中で断固としてご紹介願えないんでしたっけ。
ともあれ最初の容疑者が部屋にやって来たようです。
「どうぞお入り下さい……。お手数ですが……そちらのイスにかけて……少しばかし兄様の話にお付き合い下さいませ……」
先ほどの次男ヴェラールが案内通り俺の正面に座ってくれました。
……悪いですがすぐ尋問といきましょう。
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「率直にいきましょう。ヴェラールさん、犯人は誰だと思いますか」
「……。今でも信じられないとは言ったが、状況を客観的に見れば長男のデルムッドが犯人だと思う。でなければ軟禁などしていないよ」
面倒なので前置きはしません。
ストレートな質問を投げかけると、彼は兄を名指ししました。
妙な間を作った後に堅苦しく言うものですから、うん、何か隠してる感じがします。
「では質問を少し変えます。長男以外だとしたら誰が容疑者だと思いますか」
「……そう来たか。そうだな、それは姉婿のデルマリウスかもしれない。あまり人を悪く言いたくはないが……彼は普通ではない、狂気を覚えるよ。理由は聞くな」
デルマリウス氏に一票入りました。
まだ会ってませんけど、これは注目の容疑者ですねー。
「とにかく私は犯人じゃない。考えてもみてくれ、第二継承権があるからこそ、こんな怪しまれるようなことをしても意味がないではないか」
……それが彼の弁解でした。
反論として見れば落第点です。
現にこうやって兄を断罪することで上手くやってるんですから。
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「ようこそおいで下さいました……アルデレーテ様……。こちらのイスにどうぞ……」
はい次、長女アルデレーテさん。
30代ちょっとという話でしたので、まだ若いですがそこそこ老けかけていました。
褐色の髪をしていますし、本当にヴェラ―ルさんの姉なのかと疑うほどでした。
「ようこそ当家へ、新任の調査官様。わたくしは長女のアルデレーテでございます」
「アレクサントです。さて本題から入ります、アルデレーテさんは、犯人は誰だと思いますか」
いかにも良いところのご婦人でした。
確か報告書に信心深いと書いてありましたし、結構お堅いんでしょうか。
いえそうは見えません、書面の印象とはどうも違います。
「あら、長男のデルムッドに決まってるわ」
一瞬、その口元が嘲笑に変わりました。
でもすぐに消えたので笑い方を間違えたのだと、通常の感性なら判断するでしょう。
「では質問を変えます。長男が仮に潔白だった場合、次の容疑者は誰でしょうか」
「次男のヴェラールね。この状況で得をするのはあの子だけだもの。どちらにしろ迷惑な話ね。そうね、怪しむなら彼を中心に探っていくのも良いかも知れないわ、助力はいくらでもしてあげましょう」
次男一票、婿さん一票。
公国は彼女が決起する形での、次男ヴェラールとの内戦を危惧しています。
はぁなるほど、これはずいぶん敵視してるみたいですね。
「ありがとうございます、とても参考になりました」
先ほどの表情といい彼女も怪しいです。
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「デルマリウスさん、犯人は誰だと思いますか」
アルデレーテさんが部屋を去り、入れ替わりですぐにその婿デルマリウスさんが現れました。
濁った色の赤毛をした、なんだかちょっと神経質そうな男でした。
「長男だろう。あるいは次男ヴェラールの画策とも取れるがね、まあどちらかだろう」
「なら長男と次男以外だとしたら誰ですか」
なるほど、なら次男に二票目が入ったということで。
でも揺さぶって人柄把握するのも目的なので、ちょっと強引な質問をしました。
「……次男だよ。彼は野心家だ、それにお兄さんと仲違いして将来を不安がっていたよ」
「貴方では無いと」
次男に疑惑が向かうような都合の良いことを言い出します。
だからこうやって強い口調で責め立ててみました。
ギョッとその神経質な痩顔が歪みます。誰だって言われればそうなるかもしれませんがね。
ただ、侮辱だと怒る素振りはどこにもありませんでした。
「私は外様だ。大公家の人間が子爵家を乗っ取ったとあれば世間向きも悪いとは思わんかね。その程度のことなどわかりそうなものだが」
「これは失礼ごもっとも。質問は以上です、ありがとうございました」
この人も何か引っかかります。
もう少しくらい身内同士で庇い合ってくれても良いと思うんですけど……。
これじゃみんな怪しいじゃないですか。
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「兄様……ここは私にお任せ下さい……」
次はメイドのジルバさん、第一発見者です。
それが入室するなり硬く緊張しているもので、アクアトゥスさんの配慮で交代することになりました。
「犯人は……誰だと思いますか……?」
相変わらずキャラの変え方が極端です。
いや主役はこのジルバさんですしどうでもいいですか。
「長男の、デルムッド様、です……っ」
「ならば……デルムッド氏以外に……容疑者をあげて下さい……」
そのジルバさん、言葉を詰まらせながら長男の名を呼び、アクアトゥスさんの言葉に戦慄するのでした。
どう見ても不自然です、明らかに発言を恐れています。
「デルムッド様ですッ! お許し下さい……恐ろしいことです……私には答えられません!」
誰かにそう言えと命令されてるんでしょうか。
これは思わぬ収穫です。
というより調査官たちはこの様子に気づかなかったんでしょうか。
……これは買収されてる可能性が多々あります。
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「どうぞこちらへおかけ下さい、ガーロゥ大佐」
口封じされてる人に聞いても答えるわけないです。
メイドさんはキャッチ&リリースしてやって、今度は宮仕えの軍人さんを呼びました。
この人さえしっかりしてればこんな事件起きなかったんです。その時点で超怪しいです。
「大佐、犯人は誰だと思いますか」
「デルムッド様だと聞いている。俺も間違いないと思う」
「ならもう一人容疑者をあげて下さい。犯人は誰ですか」
あまり頭が良くないのか、それとも俺の質問がややっこしかったのか。
彼が言葉を理解しかねて考え込みました。
「デルムッドが犯人でなかった場合、誰が当主フォン氏を殺したのだと思いますか」
「デルムッド様だ。だって彼以外にないでしょう」
微妙に会話が成り立ちません。
迷った後にガーロゥ大佐は愚直な回答をしてくれたのでした。
やっぱ臭いですねこの人。なら揺さぶってみましょうか。
「貴方は近いうちに降格させられることになっていましたね?」
「……それはただの噂だ。自分はこの先もずっと当家の軍門を統率する、そう決まっている」
そりゃチミを疎んだ当主が死んだんだから、しばらくはそうなるでしょうけど……普通そこまで断言出来ますかね。
そっとアクアトゥスさんに目を向ければ、静かに目を閉じ小さくうなづきます。
あやしいです兄様、と。
「んーー……でもガーロゥさんのミスでフォン子爵が殺害されてしまったんですよね? そのおとがめが無いわけがないじゃないですか、失脚は確実に見えますが……」
「――ッッ! 黙れ小僧ッ、貴様歳はいくつだッ!!」
ドンと彼はテーブルを叩き、ガン付け的な睨みを飛ばしてきました。
粗暴極まりない態度でまったくおっかないです。
でも残念、こんな田舎の大佐様なんかより俺の方が断然強いです。
余裕でそう断言出来ますけど口には出しません。
「もうじき18ですね。そんなことよりガーロゥさん、当主フォン氏が貴方のせいで殺害され――」
「俺のせいではない!! 自分は子爵閣下の命で任務に出ていたのだ!!」
ええまあそれは報告書にありましたけど。
詳しい裏付けはしなかったんでしょうかね、あの先任者たちは。
「その任務とはどのようなものですか」
「憲兵隊との打ち合わせだ!! 部下に聞けば事実と答えるぞ、生意気な小僧めあいにくだなっ!!」
なんか挙動不審だなぁこの人……。
そこまで言うからには、仮に関与してたところで口裏合わせやらが済んでるんでしょうけど。
さっきの可哀想なメイドさんみたいに。
「そうですか、失礼しました大佐。もう結構ですのでお戻り下さい。それと……どうでもいいですけど俺、大公閣下の代理ですからうかつな発言は避けた方が良いかもしれませんよ」
「ヌッ、ヌグッ……! くぅぅぅ……失礼、しましたッ、調査官殿……ッ!」
あ~、権力気持ちぃぃ~~。
大公様連れて水戸黄門したくなってくるねコレ。
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「お疲れさまでしたゼフさん。悪いんですけど一応あなたも容疑者ですので質問させて下さい。犯人は誰だと思いますか」
最後は執事の彼でした。
こちらの質問に気むずかしい顔しちゃいます。
年寄りいじめてるみたいで印象悪いですけど、これが尋問ってやつの宿命でしょう。
「デルムッド様らしい」
「はい、では長男の彼以外だとしたら誰が犯人でしょう」
「……答えたくない」
不機嫌に視線を外してご老人はイスを立ち上ってしまいます。
あ、こりゃダメです。
爺様とか存在が頑固な生物ですし、それがすねるとどうにもなりません。
「失礼しました。もう十分です、これだけ力を貸していただけただけでも、ええ十分ですとも。ありがとうございますゼフさん」
「はい、私からも……兄の非礼をおわびします……。全ては真実へと至るため……悪気はないのです……」
でもそろって謝罪すると気が変わったみたいです。
扉にかけた手を戻して、でも振り返らずにゼフ老がこう言うのでした。
「……相続権を持つものは喜んでいるだろう。デルムッド様が失脚した今、当家は次男ヴェラールあるい長女アルデレーテが実権を握ることになる」
「ええそうですね。両者は互いに罪をなすり付けようとしていました」
彼の言葉は吐き捨てるにも等しいと言えましょう。
慎重な観察眼を介せば、かすかな憎悪すら感じ取れるほどのものです。錯覚とも言い切れません。
「……貴方も早くこの領から手を引くべきです。どうか、大事な妹君を連れて平和で華やかな公都にお帰り下さい。巻き込まれて取り返しがつかなくなる前に……」
それはまるで、自分はもう後戻り出来ないと告げるも同然の言葉でした。
ゼフ老が立ち去り、俺とアクアトゥスさんは思わず顔を合わせます。
「兄様……これは……」
「うん、ちょ~ヤバヤバ?」
さすがに大公の代理人を始末しようとは考えないはず。
……と思いたいです。
ともあれ聞き込みと揺さぶりが終わりました。
平たい言葉で申し訳ありませんけど、もう一度状況を整理してみましょう。




