10-08 2/2 豊胸剤を作ろう!(挿絵あり
「では兄様……こんなこともあろうかとこちらに……はい……残念な効果しかない豊胸剤を持参いたしました……」
「ほほーぅそれは奇遇だ、俺の方も……ゴソゴソっと……あったあった。残念な効力しかなくてもー飽きちゃって、結果教頭に督促されることになった日の目を見ぬ育毛剤が、ここに」
ありがとうアクアトゥスさん、その準備の良さにお兄さんは頼もしさと愛しさと切なさとかを覚えます。
持ち歩くほど気にかけていたんですね、乳を。
「これが近所の爺様に騙し飲ませても、頭頂部に毛が3本生えるだけでその後成長もなくお蔵入り。こんなものを教頭に見せたら、1000回は作らされてそれでもなお足りないってもんです」
何人かで試したんですけど、どの爺様で試してもてっぺんに三本生えるだけでした。
おかげで職人街に毛が三本だけ生えたお爺ちゃんがいっぱい生まれることになりましたとさ。
「二人ともよくもそんなのポンポン出してくるものね……。錬金術の世界ではこれが普通なの……?」
俺はともかくアクアトゥスさんのは持ち芸の一つだと思います。
この前も睡眠薬持ち歩いてましたし……。
「はい、ですが残念ながら失敗作ですので……。この薬も悲しさとやるせなさに……悔し涙が浮かぶほどでした……。それはさながら……不毛の砂漠に……水滴を一滴一滴たらしてゆくようなものでした……」
「アクアトゥスさん……その気持ちわかるわっ!」
なんか不毛な傷の舐め合いが始まりつつあるようです。
こうして材料も都合良く現れたことですし、話と調合を進めましょう。
「現物の豊胸剤があるなら渡りに船だね。その薬と、このスーパー増強剤……いやこのままだとカッコ悪いか、生命の秘薬……! を混ぜて錬金しなおそう」
「そうねっ! これは何だか期待できそうっ!」
「はい兄様、作業そのものはシンプルです。さっとやってしまいましょう」
その二つを中和剤と水で満たしなおした釜に投入、再び錬金作業に入りました。
これもシンプルで安定した調合です、難しいものではありません。
二本の杖でかき混ぜ始めて一分と経たず反応が起きました。
ぽんっ! 完成です!
ピンク色の煙に神秘的な燐光が幻想的なイルミネーションを彩って演出してくれます。
「完成……っ、しました兄様……っっ!」
「つ、ついにできたのね!! ついに……ついにっ!!」
なんかしょーもないもの作っちゃった感あるなぁ……。
「はーい、実験台になりたい人いる~? 俺はやだよー」
問題はこれがまともな効果を発揮するかどうかだよね。
アクアトゥスさんが作った薬がベースだから問題はないと思うんだけど、生命の秘薬の方がどれだけでしゃばるかがわからない。
「はいっっ!!」
「はいっっ!!」
そんで二人とも元気良く挙手して興奮に裏ずった声をハモらせました。
かと思えば顔を向け合い、そうはさせねぇとにらみ合うのでした。
「いや効果どれだけあるのかわからんし、二人で半分ずつ飲んでみたら……? アルファベット順で言えば、その前半くらいまでの効果じゃないと困るでしょ。中盤後半までいくともうおっぱいお化けだし」
「それもそうね!」
「仲良く二人で……飲みましょう……これは勝利の美酒なのです……」
あっさり二人は和解しました。
がっちり手のひらと手のひらを結び合い、確かめるようにその瞳と瞳を暑苦しく重ね合います。
なんですかねこのノリ……。
「じゃあ実験よろしく」
見てらんないので早くしろと催促しときましょう。
「いいえ、そういうわけには、いきません」
「うぉっビックリっ!? ……いたんだね、アインスさん」
アインスさんはあまり気配がありません。
抑揚のない声が俺の背中すぐ後ろから突然響いて、俺は情けなくも慌てて振り返ることになりました。
「はい、急いで、来ました」
「あの……ちなみにお店の方は大丈夫です?」
そういえば彼女もこの豊胸剤研究に並々ならぬ期待をかけていた方の一人です。
「お客様が、来ています。ですが、それどころではない、です」
「その気持ちわかるっ、わかるわアインスっ!」
ロリータ服着込んだお店のアイドルは、仲の良いお嬢の隣に駆け込み静かなる自己主張の姿勢を見せました。
おまけにその手には、しっかりばっちり3人分のスプーンを持参されていたのでした。
「ああそう……」
普段主体性のない彼女からすれば、これも成長と思って暖かい気持ちで見送りましょう。
好きにされて下さいアインスさん。
「わかりました……ならこれはこの三名で分け合い……そうして秘密を……闇に葬るということで……」
「乗ったわ! 足りなかったらまたアレクに作らせればいいのよっ!」
豊胸剤……恐ろしい薬です。
あのアインスさんですらここまで狂わせるとは、なにがそんな乳なんかに我を失う必要があるんでしょうか。
「あーそう……じゃあ俺、代わりに店番してくるから。アインスさんの代わりに出ると舌打ちするお客もいるんだけど……まあうん、ごゆっくり……?」
・
レジに入りお客さんをさばきました。
幸い舌打ちはされませんでした。
ただちょっと列がたまっていたので黙々と精算を進め、それを終わらせると商品の説明をして、よくわからない女性物の石鹸をオススメしてみたりとお仕事にせいを出しました。
アインスさんは毎日、こうやってお仕事を代わってくれています。
全く感謝ありがとうございます。
そうとしか言いようがありません。
これはなかなかやりがいある楽しさだけど、接客の適性とか気配りってヤツが求められます。
「おっおぉぉぉぉぉぉーーっっ!! きたっきたっきたっ、きたわぁぁぁーっっ!!」
「す、すごいっ、すごいです兄様っ!! 聞いておいでですかっ、ああっなんてことっ、起伏がっ、起伏という名の摩天楼が私の眼下にっっ!! ああご覧になって下さいこの摩天楼をっっ、これが今っ、ついに私たちのものになったのですよっっ!!」
「素晴らしい、です。感動、です。これが幸福、いえ、至福……素晴らしい……」
向こうでなにが起きてるんでしょう……。
裸とか乳とか巨乳キャラにクラスチェンジとか、そういうけしからん光景が広がっちゃったりしてるんでしょうか。
反応を聞く限り、間違いなく豊胸剤は絶大な効力を発揮し、彼女らの理想がその乳に光臨されたようでした。
でもアレですよね。
こういうのって決まってオチがあるものですよ。
ものすごい太っちゃうとか、メッチャ夢だったとか、数分数時間で元に戻っちゃうパターンとか。
だから様子を見ました。
それから一時間が経過しましたが、巨乳化効果はまだ切れていないようです。
え、まさかの副作用無しの永続効果……?
「ふふ……お上手です……巨乳の、リィンベルさん……」
「いえいえ。でも巨乳の、アクアトゥスさんほどじゃないわ。そうでしょ巨乳の、アインス」
「はい、私たちは、素晴らしき巨乳です。もう、ダリル様に劣等感、を、覚える必要、ありません」
……どんな会話だこれ。
向こうでは優雅なお茶会が開かれて、キャッキャウフフと我が世の春が来たと盛り上がっておりました。
「……うーん」
ところで……。
俺、いつまで店番続けなきゃいけませんかね……?
そろそろこの蚊帳の外が悔しくなってきちゃったっていうか、ああ……ドロポンってば大食いなのに全然成長しないなぁ~……ツンツン……。
ま……メチャクチャ幸せそうだしそっとしておくことにしましょう。
きっといつか、その効果がガクンと半減する時が来るはずです。
いつになるかは神のみぞ知るというものですが。
おめでとうお嬢、アクアトゥスさんアインスさん。
はいはい巨乳巨乳。
あっちが落ち着いたら教頭の薬も作ってやらないと……。




