0-04 商業科のリィンベルと二組の指輪 3/3(挿絵付き
職人街から大通りに移動しました。
そうして見るとあらためて気づきます。
やはりあの店、大通りへのアクセスも早く良い立地にあります。
それだけあって何度考えてももったいない。
そんな印象で頭がいっぱいになりました。
ま、そのせいもあるんでしょうか。
手を結ぶだけじゃ慣れてしまったのもあるんでしょう。
赤い光が弱くなってしまい、俺たちはテコ入れを余儀なくされていたのでした。
「どうしよう……」
「それは簡単だ、俺と手を組んでくれ」
「はぁっ?! こ、これ以上アタシに恥をさらせとっ?! マジで死んじゃうからもうっ、心臓止まるよぉっ!」
そんなことはない。
光が弱くなってきたということは、それつまりお嬢も俺も慣れて来ているということだ。
いける、今ならいける、恥の一つで金と成績が手に入るなら安いものだ。
……あ、金がからむとつい素が出て口調が乱れてしまいます。
「リィンベル嬢、俺と手を組んでくれ。俺はお前と手を組みたい、全身全霊をもって親密風に手を組みたい、だから頼む!」
全ては金と成績のために。
「ぁ……アレク……っっ。わ……わかった……っ」
さあ合体です。
シャキーンッ! おずおずと金髪ロリエルフが少年の細い二の腕に抱きつきました。
ピカーンッ! たちまち指輪と指輪の間を赤く強烈な光が結びます。
ザワザワ……ザワザワ……。
なんだあれ……なにあれ……すごい……なんてバカップル……。
ザワザワ……ザワザワザワ……。
それはもう、全裸で街を闊歩するより酷い悪目立ちとなりました。
いける、いけるいける、これなら売れる!
のぼせ切ってフラフラしてるお嬢を引っ張って、俺たちはちょうどアーチ状の橋上までやって来ました。
「ねえねえそこのお二人さんっ、その指輪ってどこで買ったのー?! あたしらも欲しいっ、教えてよーっ!」
そこで立ち止まり川を二人で眺めているふりをすると、早速カップルの女性の方が声をかけて来ました。
うわ、出会っちゃいけない取り合わせが出会っちゃった。
その男女はいい歳した20過ぎの方々だったんですが、ペアルックにペアズボン、ペア靴、ペアネックレス、ペアリングを身につけていました。
もういっそ邪教の館で二身合体してもらったらどうでしょう、とか言いたくなったけど我慢です。
「これですか。これは……」
今しかない。今この瞬間、大通りの注目を俺たちが独占した!
ならやるなら今だと覚悟を決める! さあやるんだ俺!
「この指輪は赤い糸の指輪! 赤い糸の指輪といいます! 雑貨屋キルトで買ったんですよーっっ!! いやぁぁ、熱々の僕らだったら買わないわけにはいかないなと!! 雑貨屋キルトの赤い糸の指輪! これはもうお互いの愛を試す意味でも男女の必須アイテムですね!! この、雑貨屋キルトの赤い糸の指輪わッッ!!!」
「ッッ……ッッッ……ッ、ッッ~……~~ッッッ!」
お金稼ぐのって……つらい……。
あれ、変な涙が……あれ……。
リィンベル嬢、何もそんな頭の血管切れそうなほど赤くならなくても……あ、頭抱えちゃった。
うん……。
帰ろう……あの雑貨屋に……。
何かもう疲れたよ俺も……。
・
その後……。
店に戻ると指輪はバカ売れ。
俺たちの成績と報酬も二重丸の大戦果だった。
いやでも……。
「あ、その指輪はあげるわ♪ 貴方たちの青春の思い出にどうぞ、きっとかけがえのない思い出になったはずね、ウフフフフ……いいコトしちゃったーっ♪」
いやマダム・フランソワ……。
この指輪を直視するとさすがに俺もつらい……。
そうか、これが恥じらいの感情か……っ!
「覚えてなさいよ……ッ、アレクッ、あ、アタシにあんな、あんな……っっ、絶対に覚えてなさいよ……ッッ!!」
はい。それ以降、リィンベル嬢の態度がなおさらスパイクでバーニングなものに変わりました。
今回僕らは一つ大切なことを学んだ。
どんなにお金や単位が欲しくても、越えちゃいけない一線があるってことを。
それは時として平然と飛び越えてしまえるけど、後からジワジワと記憶がフラッシュバックして継続ダメージを受けるものなんだ。〆
・
ところでこれで半年。
だからそんな気はしていた。
あのバカでまぶしい教頭も、期末試験の結果に己のアホとしか言いようのない失態に気づいたころだろうと。
「卑怯であるぞアレクサント貴様ッ! 元から商業科志望ならなぜ最初から言わないっ、これでは私が貴様に便宜をはかってやってみたいではないッくぁぁぁぁーっ!!」
「いやぁ……ピカール教頭、貴方という方は本当にやさしい人だ。口では邪険にしながらも何て情け深いご処遇を下さったんだっ、感動です……ううっ、まさに教師の鑑……っ!」
よしおだてよう。
持ち上げよう。
泣いて感謝してるふりをしよう。
「ウルスァァァーィィッッ!! こんな時ばかり媚びへつらいおって性悪腹黒のクズめぇぇーっっ!! 貴様のような流民に権利などぬぁーぃ! 転科だ転科、貴様には来期から冒険科に行ってもらうっ、バーカバーカッ!!」
……ですって。
てなわけでさらば商業科、さらばリィンベル嬢。
俺はキミを見ているとドキドキとこの胸がときめくっっ、ああその素晴らしきそのエルフ耳部分を忘れやしないっ!!
あとあれです。
頼もしくも職人科のダリルが俺のために金属両手杖を作ってくれました。
でもごめんダリル、俺魔法とか使えないんだわ。
「これから覚えればいいじゃん! 応援してるよっアレックスっ!」
「ありがとうごもっとも!」