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0-04 商業科のリィンベルと二組の指輪 2/3

 追加の課外授業。

 それはとある売れ残りのペアリングを宣伝せよ。

 その二人の身体を張ってっ♪


 とかいうもう続きすら聞きたくないミッションでした……。


 赤い糸の指輪。

 それは着用者の心拍やときめきに合わせて、対となる指輪との間に赤い光の糸を結ぶという……。


「うふふふ、さあこれを着けて街を歩いてらっしゃい♪ あ、ただし出来るだけ親密そうに……そうね、リィンベルちゃんは彼と腕を組むのよっ。きっとそれだけで宣伝抜群だから♪」


 ……アホですか。

 なんスかそれ。

 作った人アホっすか?

 何でその魔法的な技術力、こんなしょーもないことに使うんでしょう。


 だってわかるじゃないですかそれくらい。

 どうやってこれを売り込むかとか、そもそもこんなこっ恥ずかしいものが売れるのかとか、つか仕入れたフランソワ婦人もたいがいだよね?!


「ぅぅぅぅ……ぅぅぅぅぅぅーー……っっ」

「いやリィンベル嬢、うなられても困るし落ち着けだし」

「わっ、わかってるわよぉっっ」


 でまあ俺もお金欲しかったし。

 お嬢もよくわかんないけどこれで堅物だし、追加の仕事とあっちゃ断る発想もなかったんでしょう。


 赤い糸の指輪をそれぞれ装着して雑貨屋を出て、とぼとぼとしばらく途方にくれつつ歩いてました。

 指輪はうんともすんともいいません。


「お嬢、これじゃ宣伝にならない。ひとまずマダムの言った通りにしてみよう」

「…………」


 お嬢もしばらくうんともすんとも言いませんでした。

 なんか知らんけどガチガチに緊張してるらしく、よくみたらまばたきすらしてません。


「おーい、んじゃ俺の方から組むか?」

「……バ……ッ、バカじゃないのアンタッッ!!? 男が女の腕に抱きつくとかっっ、ああもうっ、プライドくらい持ちなさいよっ!!」

「ああそっか、それじゃ変か。じゃあリィンベル嬢が抱きついてくれ」


 うん、客観的に見てそれなら悪くない。

 お嬢はかわいいし小柄だし俺も14歳の少年です。


 きっと年上の方々からすれば微笑ましい光景となるでしょう。


「む、無理……」

「なんで?」

「恥ずかしいよ……ひ、人前で腕を組むだなんて……無理、絶対無理……ッ」

「いやこれはただの宣伝で、ごっこ遊びみたいなものだから気にしてもしょうがないよ。ほらほら早く早くっ、zが逃げてくよお嬢っ」


 エルフ少女リィンベルの前に少年が二の腕を差し出した。

 さあ組めと強引に押し付けると、さすがの彼女もおずおずと手を伸ばしかける。


「む、無理……あ……」

「おお、マジで光が出るしコレっ」


 ハードル下げてお嬢と手を繋いだ。

 それだけで指輪と指輪が赤い光で結ばれていた。

 想像通り大変にみっともないが綺麗な光だ。


「う、うぁぁ~~っっ!!」

「あーお察し。ペアルックの300倍くらい痛いなこれ。まあお嬢、がんばろう」


 ゆでだこみたいになったエルフ娘を引っ張って、せっかくだし職人街を経由して大通りに出ることにした。



 ・



 裏通りから職人街に入った。

 この辺りが研修先になることなんてほぼない。

 職人街と呼ばれているがどこも店舗併設型だ。


 それだけあって装備や薬を求める冒険者や、仕入れ商人、小物や宝飾、インテリアを求めての女性客も多かった。


「アレク……み、みんな見てるよぉ……」

「そりゃぁ見るだろうね。宣伝としては上々だ、喜ぼう」

「ッ……し、死ね……バカ……ッ」

「何でだよ……」


 この微笑ましいものに想定通りの視線が集まった。

 なんつか生温かい。

 体温管理がおかしくなるような、妙としか言いようのない感覚だ。


「もしかしてお二人さん。アカシャの家の学生さんかい?」

「ええ、そうです」


 すると老人に声をかけられた。

 人の良さそうな温かい微笑みを浮かべて、俺たちを青春する若者だと勘違いしていた。


「そうかいそうかい、実はワシもあそこの卒業生なんだよ。昔は婆さんとそうやってよく歩いたものだ。ほれそこがうちの店だよ」


 爺さんが通りの角地にあるレンガ造りの建物を指さす。


「うちはしがない薬屋をしているんだが……しかしさすがにワシももう歳でな、もう何年かで廃業にするんだよ」


 見れば良い店だ。

 ちょうど新しい客がその店内に消えていった。

 主な層は冒険者、それと交易商あたりだろうか。


「繁盛してるんですね。それに良い立地です。辞めるにしてもあそこなら納得出来るだけの値段で売れるでしょう。建物も少し古いがしっかりしているし、なかなか風情もある」

「……うん、アタシもそう思うよ。古めかしいけどそこも素敵、ちょっと憧れます」


 ……ほら、お嬢って人当たり良いんだよね。

 それにホント商売が好きで好きで、店とか建築とかにもかなりのこだわりがあるっぽい。


「ありがとよ。そう言ってくれるのは嬉しいんだが、しかしなぁ……。うちの店は出るんだよ」

「出るって……何がです?」

「そりゃ幽霊だよ」

「う、嘘……っ」


 もしかしてお化け苦手?

 リィンベル嬢の手がギュッと男を握り締める。


「まさかそんな非科学的な」


 あ、一度このセリフ言ってみたかったんだよね。


「そんな迷信のために、正当な価格が支払われないなんて……バカげてるにもほどがある」

「ひょっひょっひょっ、若いのは頼もしいなぁ……あの店も喜んでいるだろうて」


 爺さんは顔をクシャクシャにして喜んでくれた。

 そもそもそんな幽霊付きの建物で商売続けてるんだから、この爺さんたちも爺さんたちだと思う。


「怖くないの……?」

「なんで?」

「……し、知らないわよっ」


 真顔でつい問い返したら、お嬢も返答に困って目をそらした。


「お爺さん、売値や交渉に困ったら相談して下さい。俺はアカシャの家のアレクサント、まだ若輩者ですが……正当な価格で物が売れないのは気分が悪いです。一応職人科にもいましたし、お爺さんの後輩みたいなものですから」


 嬉しそうに薬屋のお爺さんは笑ってくれて、店の方が賑わい出したので仕事に戻って行った。


 さ、俺たちは俺たちで仕事を再開しよう。


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