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0-04 商業科のリィンベルと二組の指輪 1/3

 教頭はしたり顔で俺を商業科に飛ばしましたけど、正直あの時ツッコミ入れたくてたまりませんでした。


 当初の志望学科が商業科だった俺を、職人科からここに飛ばして彼は一体何がしたかったんでしょう。

 詰めが甘いというかなんというか、ありがとうございますとでも言い放ってやりたいけれど、そんなの絶対やぶ蛇パターンなので我慢しておくことにします。


 で、まあ、商業科での生活もまた穏やかに過ぎていきました。

 ずっと父の手伝いをしていましたし、その後は農園で闇会計士の五年を過ごしたのです。

 だからたかが半年分の学習遅れもさほど挽回出来ないものでもありませんでした。


 というかぶっちゃけ楽です。


 校外店舗での実習もありますが普段は座学が中心です。

 商売のコツやセオリーを暗記して論文提出したり。

 各地の特産品や有名販路、街道を覚えさせられたり。

 あとは各種書類作りや、免許試験を目標にしたテスト対策が主でした。


 イヤになる人はイヤになるかもしれないですけど、度胸試しみたいな実習をのぞけばホント気楽で平和です。

 職人科で鉄叩いたり薬草すりつぶしたり豆粒みたいに小さい宝石を研磨してた頃が、遠い夢のように感じてきます。あそこでは成果が全てでした。


 ……あ、そうそうあれですよ。

 職人科からここに移った俺に、先生の一人が言ってくれたんです。

 職人の役割は加工生産。なら商人はそれを買い取り流通させるのが仕事なのだと。


 仮にその地域に優秀な商人がいなければ、流通は不安定となって相場も乱高下することになります。

 手に入る物も手には入らなくなり、それを得るためにわざわざ村や町から旅しなければならなくなるわけです。

 そうしてせっかく買い付けに来たのに、相場が高止まりでもしていたら目も当てられないくらい悲惨です。


 だから必要な物が必要な場所に流れて無駄なく売れる。

 それがとてもとても大切で難しいことなんだそうです。


 ネット通販もトラックも電子化した流通管理システムも無いこの世界では、商人というのは個人は小さくとも大切な役割を担っているようなのです。



 ・



 で、腐っても商業科です。

 週1くらいで現地実習が行われます。


 ま、平たく言えば公都中心街での職場体験とも言えちゃいます。

 実習先は卒業生の店が主で、けど体験なので賃金はあまり貰えません。


 いやぁ嫌らしいですね。

 でもこの嫌らしい利害関係が実に商業科らしいなと思ってます。


 まあそれで。

 今週の派遣先はオシャレな雑貨屋・キルトでした。

 場所は職人街よりの裏通り、ほどほどながらわりと活気のあるエリアです。


「ふぅ……疲れた疲れた」


 派遣先で仕事を始めて三時間ちょいが経っていました。

 予定より早く課題の特売品を売りきって、俺たちはようやく一息つきながら成果にほくそ笑みます。


 ええまあ、俺たち(・・)なんです。


「リィンベル嬢もお疲れさま」

「……ふんっ」


 困った子とペアにされてしまいました。

 いえ訂正します。毎度毎度このリィンベル嬢とペアを組まされています。


「……なによ、何か文句でもあるのっっ?! お疲れ様っ、これでいいでしょっ、ふんっ!」

「……うん、お疲れさま」


 あの、悪い子じゃないんです。

 確かに俺に対しては何かこう、親に八つ当たりする反抗期の娘さんって感じですけど……。

 他のクラスメイトとは明るくお喋りするし、これで他人想いの人なんです。たぶん。


「……なによ?」

「何でもないですリィンベル嬢」


 かわいい子です。まあ見た目は。

 エルフさんなんです。

 だから現代人憧れのそのエルフ様に嫌われると、ちょっと……超悲しいです。


「なら何でアタシの顔見てんのよっ、キモいっ!」

「や、キモいは勘弁して下さいよ……」


 ただまあ……エルフとしてはかなり若いらしいです。

 年齢は教えてくれないんですけど、外見が完全にロリエルフカテゴリーの中にありまして……。


 その色の薄いブロンドからエルフ耳がひょっこり伸びて、髪も腰くらいまであります。

 良いところのロリお嬢様って感じです。


「ま、いいわ。言っとくけどアタシとペアを組めたんだから光栄に思いなさいよ」

「うん、光栄光栄。お嬢と一緒だと仕事が速くて良いよ」


 それで彼女を何でリィンベル嬢と呼ぶかというと、カーネリアン商会っていう有力商人の姪っ子さんなんですよ。

 実家仕込みの手腕がまたちょっとしたもので、だから性格含めて彼女には頭が上がらないんですよね。


「ふん……っ。アンタみたいな出どころ不明の流民なんて普通なら……って!」

「ん、どうましたお嬢?」


 ま、頭が上がらなきゃ手を伸ばせば良いみたいな。


「な、ななっ、なんで人の頭撫でてるのよっっ?!!」

「何でだろう……撫でなきゃいけない気がしたのかもしれない、このチンチクリンを」

「誰がチンチクリンよっっ!!」


 痛い。お嬢に手を振り払われてしまった。

 サラサラでとても気持ち良かったのにケチなやつだ。

 客もいないしやることもないし、だから暇で撫でただけなのに。


「……ねぇ」

「なにリィンベル嬢」

「……。卒業したら……アンタをうちの商会で下働きさせてあげてもいいけど……」


 さすがリィンベル嬢、下働き前提なところがまた痺れる。

 これで説得されたらドMじゃんこれ。


 そりゃカーネリアン商会に就職出来るのは大きいけど。


「それでいつか独立して……アンタも一緒に店を作らせてあげよっか……? ど、奴隷としてだけど……っっ」

「……それも悪くないね、昔は父の手伝いで交易商してたし。あ、奴隷はイヤだけど」


 でもそれはそれでつまらない気もする。

 きっとありがたい誘いなんだろうけど、ダリルに夢が無いって言われてさすがに最近考えるようになった。


「は? アンタなんて奴隷で十分だから、アタシのために働けるんだから光栄でしょ。もう契約書作っておいたからはい、さっさと書いて」

「リィンベル嬢……さすがにそれはイヤだよ。奴隷待遇にはもう戻りたくない」

「っっ……! せっかくアタシが契約書まで作ってあげたのにっ、断るとかありえないっありえないっありえないっ! バカバカバーカッ、バカアレクッ!!」


 もうどうしろとコレ。

 彼女は見た目がロリエルフだもんで、どうにも怒る気にもなれない。

 きっと俺が彼女とペアを組まされるのは、子供っぽいこの外見と一面が原因だろう……。


 彼女と一緒なら効率良く稼げるので、それぞれの利害は綺麗に一致しているんだけど……。

 あれ、でもお嬢って周囲のウケ良いし商売上手いし、じゃあなんでよりにもよって俺とお嬢なんだろう?


「あらあらあらあらー♪ もう売り切っちゃったのお二人さんっ、さすが商業科のエースなのねぇ~、すっごぉ~ぃ♪」


 助け船……かどうかはわからないが雑貨屋の女主人が戻って来た。

 主人っていうかマダムっていうか、すげー美人なんだけど口調がオバちゃんなの。名はフランソワ婦人。


「……んぬぁっ?!」


 そのマダム・フランソワに現在14歳の少年は手を握り包まれた。

 すると隣のエルフちゃんからな~んかつぶれたみたいな声が上がる。


「おやマダム、そんな積極的なスキンシップは困りますよ。俺もこれで思春期ですから女性に対する免疫というものがですね……」

「ウフフフ……がんばってくれたお礼よ。リィンベルちゃんもありがとう、オバさん助かっちゃったわぁ~♪」


 なんか知らんけどお嬢の目が怖い。

 でもさすがはマダムだ。


「ふぎゃっ、なっちょっ、フランソワさんいきなり抱きつかなっ、ぶぎゃぁぁっっ?!!」


 分け隔て無く……てかそれ羨ましいな……。

 フランソワ婦人のやわらかい包容がちっちゃいリィンベルちゃんを抱き寄せた。


 ……放漫で豊満なおっぱいにエルフ顔が埋まる。

 ああくそ、羨ましいな……。


「あらでも奴隷とか下働きはあんまりだわぁ~、ねぇアレクサントくん、ならオバちゃんの店で働かな~ぃ?」

「ダメッ! コイツはアタシの奴隷になるのッ! 一生アタシがこき使ってるやるんだからっ!」

「やだよお嬢……」


 こんくらい綺麗なロリエルフに言われると、何かアブノーマルな世界とか妄想しちゃうし……。

 ……いかん、止めよう、何か真剣に踏み外しそうだ。


「あらあら若いのねぇ、もぅ妬けるわぁ~……オバちゃん羨ましぃ~」

「マダム……勘弁して下さいよ……」


 マダムがよこしてくれたのは助け船どころか泥船だった。

 どうすんだよこれ……と、俺はご婦人に向けてまゆをしかめる。


「うふふふふ……じゃあこうしましょう、追加の課外授業を二人に与えちゃう♪ オバちゃんね、今ちょうど二人にしか出来ないお仕事が浮かんだのっ♪」


 ……マダム、それイヤな予感しかしません。

 絶対ろくでもない流れですよねこれ?


 けど……追加報酬が貰えるなら全力でがんばります!


 さあ何なりと!

 

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