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7-04 アトリエ脅威の技術力、ドロポン

「むぅ……なんと珍妙な……うぅむ、こんなものは初めて見た、凄まじい珍品だ……。こんなものが動くとは、俺は夢でも見ているのであろうか……」


 すぐにアストラコンさんを呼びました。

 大商会の代表ともなればその目利きの方もちょっとしたものでしょう。


 その彼がしげしげとバケツ中のドロポンを観察していました。ずいぶんな興味の惹かれようです。


「どうですか、少し小さいですけど実力の証明にはなりますよね」

「ふふふっ、これでわかったでしょ叔父さま、アレクはすごいんだから! あ……べ、別にアレクを褒めたわけじゃないんだからねっ!」


 いやぁ支離滅裂ですお嬢。

 しかしその言葉にダークエルフのアストラコンさんはやっとゴーレムから目を離し立ち上がって、今度は作成者である俺の方を見つめてくるじゃないですか。


「驚くべき技術だ。ところでアレクサントよ、お前について調べさせてもらった、流民の出身らしいな」


 うわ、なにそれ興信所ってやつ?

 お嬢がかわいいのはわかるけど、そこまでしますかアストラコンさん……。


「だが父親を失い奴隷待遇同然まで落ちぶれた。そこからはい上がりアカシャの家に主席入学、そこで全学科を制覇か」

「ちょっと叔父さまっ! 調べさせたって……なにしてるのよっ、そのくらいならあたしが全部説明したのにっ!」


 イケメンダークエルフ様がキリリとこちらを値踏みしてきます。

 商売人だけあって腹の底は見えないですが、少なくとも初対面の頃よりは好意的だと言えるでしょう。


「二学年目で中級修練迷宮を踏破、平民ながら貴族生徒らとの社交関係を結び、また公国軍に好待遇で勧誘されながらもそれを断り、この不可思議な店を始めた。店の経営は上々、鑑定士に依存し過ぎぬその経営思想は……賛否両論あろうが面白い」

「えーと……ありがとうございます……?」


 メチャメチャ厳しい人にそう言われると、意図も見えないですしむずかゆいです。

 まさか上げて上げて下げるつもりではないだろうかと、どうしても身構えてしまいます。


「そこの従業員は奴隷だそうだな。ずいぶん面白い条件で手に入れたものだ。アレクサント、お前は変わり者だ」

「いえアインスさんの件はこう、場の勢いというか、なんかそういうことになっちゃっただけですよ」


 完全にこれ筒抜けじゃないですか。

 どこからこんな情報集めたんでしょう、メチャメチャ厳しい人に根ほり葉ほり調べられるのはさすがにきっついよ。


「しかし……女性の交友関係がはなはだしく豊富なようだ」

「いやそれは誤解……」


「うん事実よ叔父さまっ! アレクってばホントに、ホントにホントに……っっ、どうっしょもないのっ!!」

「ちょっとお嬢、それ説得になってないなってない」


 大人しく黙っていたんですけど、お嬢が余計な部分に食いつきました。

 でもそこはアストラコンさんも器量が大きくて、かわいい姪の方にポンと細い手を置いてなだめちゃいましたとさ。


「これらの情報とクレイゴーレムのドロポン。フ……アレクサントよ、結論を告げよう」


 それからずいっとこっちに踏み込んで来ます。

 長身からこっちを見下ろして、それからお嬢にしたのと同じように俺の肩に両手を置くではあーりませんか。


「あの、なんスか……?」

「わかった、リィンベルをお前にやろう」

「ぁ……叔父さま……!」

「いえあの……」


 欲しいとは言ってないですよ……?

 ただお嬢に自由を与えてやってほしかっただけで、てかなんでこんな結論になるんでしょう。


 この人、メチャメチャ顔怖くてシリアスですけど……間違いなくお嬢の叔父です、どっか飛んでます!


「ただしもう少し結果を示してからだ。それが済んだら子をたくさん作れ」

「こ、子供……子供って……な、なに言ってるのよ叔父さま!!」


 子作り推奨宣言にお嬢も顔真っ赤にして抗議しました。

 それが彼らの日常なのか、叔父様の胸を姪はガシガシ叩いて地団太みたいなの踏み鳴らすんだからかわいいものです。


「エルフの母から生まれる子は、エルフだ。その子らの中から、将来商会を継ぐだけの器が売まれるやもしれぬ。あるいはその子らの子にも可能性があるだろう」

「いやそんなあっさり差し出されても困るんですが……。むしろ徹底的にゴネてくれる展開も期待したり、しなかったり……それにほら、お嬢もこの通りゆで上がりそうなくらい困ってますよ」


 肯定の代わりにお嬢の抗議運動が高速化しました。

 うん、なかなか痛そうだけどアストラコンさんってば涼しい顔……もとい仏頂づらで姪っ子さんを見下ろしてます。


「フ……若いな、こんなにリィンベルが暴れるのは久しぶりだ、さぞかしお前のことが……ゲフッ、ガフゥッ?! や、止めなさいリィンベルっ、グッ、俺は見た目ほど若くはないのだっ、こらっ、ヌァァァッッ?!」

「ッッ~~! ッッ、ッッッ~~~!!」


 うわ痛そう……やっぱやせ我慢だったんだあれ。


「と、とにかくリィンベルの住み込みを許そう……あたたた、さらばだアレクサント、姪を任せたぞ!」

「早く帰れバカーッ、叔父さまのバカバカーッ!!」


 なんだこれ。

 アストラコンさんも怒りのお嬢にはかなわないらしく、慌てて逃げるように去って行くのでした。


「お嬢? なんでそんな遠くに隠れますか」

「別に……」

「いや、別に変なことしないよ俺?」

「…………」


「しないってばっ、あれアストラコンさんが勝手に言っただけだし?!」

「あ、あたし……あの……だって……え、営業行ってくるからっ!!」


 まるでケダモノを見るような目です。

 ついに手に入れた安住の地なのに、当のお嬢までもが自意識過剰にアトリエから逃げ去って行くのでした。


 乱雑に鈴が鳴り響いた後はうってかわって静かなものです。

 本当に騒がしい一家もあったものでした。


 ところで……。

 落ち着いたところ困った事実に気づきました。


 ……思った以上にお金がないです。

 素材もほとんどないです。

 主力商品のポーションも、この合成とか杖作りで大量消費していました。


 つまり……ちょっと……経営ヤバかったり。

 でも悔いはありません。

 クレイゴーレムの完成は、それすなわち人型ホムンクルス作りへの架け橋となりました。


 変な生物ドロポンも喜んでます。

 お、こいつ迷宮の土のが好みなようです。

 他にも土っぽい何か拾ってきたら食べたり育ったりするんでしょうか。


 や、現実逃避してる場合じゃなかった……。

 ドロポンいじってないでどうにかこれ立て直さないと……。


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