54-3 渇きの水筒を作ろう!(ネタバレ)
「はぁぃっ、いらっしゃいませご主人様~♪ あらっ、お帰りなさい店長♪」
汗でべたべたの右手を拭わずに、アトリエの入り口をくぐると、そこにカマがいました……。
「ぇ……俺の店で何やってんの……カマが」
「あのねぇ、リィンベルちゃんが言ってくれたのよぉっ! 感謝の気持ちがあるなら、働いて返せばいいじゃないっ! んもうっ、アタシ感動しちゃったわ……」
ああそう、手伝ってくれるのはいいんだけど……。
このオカマ、うちの客に伏せ字必須の下ネタとか吐いてないよな……?
「お帰り。二人とも目当ての素材は見つかった?」
「どうにかね。配達に数時間ってところかな」
約4万zって言ったら、このオカマどんな顔をするかな。
けどカマの驚愕の顔も、感謝の言葉も別にこれっぽっちも欲しくなかったので、そこは後回しにしようと思いました。
「あとは、ご主人様、次第です」
「あらぁ、二人とも何かあったのかしら……? なんだか、通じ合ってるような感じみ見えるわぁ?」
「はい。少しだけ……いいことが、ありました……」
「あら、あたしにも後で詳しく教えて」
「アタシも聞きたいぃー♪」
カマうざっ……。と口にしたい気持ちを抑えて、俺は竜の水袋が届くまで自室に逃げて、店舗がカマに浸食されているような気がする白昼の悪夢から、現実逃避をすることに決めました……。
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「うわぁぁぁっっ!?」
「あらっ……怖い夢でも見ていたのかしら。おはよう、旦那様♪」
目を覚ますとそこにカマがいて、うっかり魔法で射殺しかけたところで、どうにか踏みとどまりました。
そういやこんなのいたわ。えーと名前は、うーん……カーマス? いや全然違うな……。
「素材が届いたわ。でもまさか、4万zも……。こんなのあなたたちからしたら、もう大赤字じゃない……」
「いいんだカーマス」
「トレンデちゃんって呼んで♪」
「断る」
カマを無視して一階に降りると、そこにお嬢とリィンベルが待っていました。
ちなみにグリムニールさんもまだ夏島にはまっていて、この前見たときは、大公様と浜辺で砂の巨城を造っていました。
「らしくないことするじゃない」
「いいや、ボランティア精神なんて最初から売り切れだよ。ただ面白そうだから、自腹切ってみようって気になっただけかな」
アインスさんは気にする人なので、俺の自己満足ということにしておきました。
調合用のテーブルに基礎素材の準備が整っており、俺は買っておいたもう一つの素材をそこに置きます。
「これって水筒……?」
「帰りに、買っていました。かわいい、です」
それはかわいいピンクの水筒です。二つ買いました。
「あらっ、若い頃を思い出すわ……。故郷にはAくんって子いてね、あたしその子と二人っきりでピクニックに行ったの。そしたらAくんったらね――」
「まずはポーションを大量に作るよ。はい、素材入れて入れて」
なぜかカーマスの恋バナ?を聞かされながら、俺たちはポーションをまず大量生産してゆく。
井戸水、薬草、中和剤が組み合わされ、蒸気と破裂音と共に、釜の中に多量のポーションが完成しました。
「そのときAくんは、水筒のアタシが口を付けた部分に、唇を寄せてね、フフフ……それから、アタシを見て彼は笑ったのよ」
「なんだか素敵ね……」
「気が散るからその話止めてくんない、カーマス……?」
「トレンデよ♪ もう、アタシたちの旦那様は恥ずかしがり屋さんね」
あー気が散る……。ツッコミどころが多すぎて気が散るわー……。
次に俺は、ポーションのたまった釜に中和剤を加えて、二人が手配してくれた竜の水袋を入れました。
「ところでアレク、何を作るの?」
「はい。結局、秘密にされた、ままでした……」
「うん、アクアトゥスさんの持ってた本に、渇きの水瓶ってやつがあったんだ。それを作ろうと思って」
「水瓶……ですか? だけど、水筒、買いました」
「そりゃ水筒の方が持ち歩きが楽だし、水瓶より便利じゃん」
これは強化合成の術です。
このなんの変哲もないただの水筒に、竜の水袋の力を付与して、最高級の水筒に仕上げます。
「何を言っているのかわからないけど、アインス、がんばって!」
「はい……!」
さらに生命の秘薬を加えて、成分を超強化すると、釜の中はひとりでに渦を巻き始めます。
そこへと立て続けに、俺はピンク色の水筒を二つ投入しました。
後はアインスさんと一緒に釜をかき回して、約4万zがかかった調合を完成させるだけです。
「今思うとあのとき、彼を誘っておけばよかったわ……」
「カーマス、ストップ。うちのアトリエで、そういう下ネタはダメって言っただろ……」
「むっふっ、トレンデよ♪」
「なんでカーマスなのよ……」
名前を覚えたくないんです。
この人を、新キャラとして認識したくない。わかってよっ!
「ご主人様……!」
「うん、完成だ。二人とも下がってて」
と言ったんだけど少し遅かったようです。
釜から妙に磯とカルキくさい蒸気が上がると、そこに強化された二つの水筒が生まれていました。
「これが、うちの村を救う秘密兵器なのね……?」
「でも二つってどういうこと? 何か意味とかあるの?」
「一つはうちで使おうと思って」
「あらぁ、ちゃっかりしてるわね、旦那様」
「黙れカーマス」
「うふっ、トレンデちゃんよ♪ カーマスというのも、下ネタっぽくて嫌いじゃないかしら、うふふ♪」
なんで俺、こんなオカマの故郷を救わなきゃいけないんだっけ……。
アインスさんの前で、下ネタは止めろ……。
「よく、わかりません……」
「わかっちゃダメだからいいの」
「それよりこれ、どう使うの?」
どうもこうもありません。これは水筒です。スーパーな水筒です。
「うん、この水筒一本に、超いっぱい水が入る」
「あらっ、だけどそれがどうかしたのかしら……?」
「だから、超いっぱい水が入るんだってば。この水筒に、超いっぱい水をためて、カマの村に運べばいい」
「トレンデちゃん、よくわかんないわ……」
「オカマのくせに頭の固いやつだなー」
「ふふふっ、硬いのは――」
「黙れっ、そこから先は言わせねぇ! とにかく見てろ!」
みんなを裏庭に誘導して、バケツに井戸水をくみました。
そこへと水筒――渇きの水筒を沈めると、あら不思議。ポンプみたいな吸引力で、全てが水筒の中に消えましたとさ。
「す、凄い……究極の、水筒です……」
「それ、どれくらい入るのかしらん……?」
「どうかな。水源に落としたら、枯れるまで吸い尽くしたりしてね」
「それって、とんでもない危険物じゃないのっ!?」
「確かに。うっかり川の上流に落としたら、そこ一帯滅ぼせるね。水筒が容量オーバーで破裂したら、インスタント水攻めみたいな?」
ともかく実験は成功です。いくら水を吸わせても、水筒は重くなりません。
いくらでも井戸水を吸い込んで、傾けると容積を超える水を吐き続ける。
ちょっと地味だけど、とんでもない水筒が生まれました。
「後は水がくっそ余ってるところからコイツで拝借して、カマカマ村に運べば解決かな」
「カマカマって、アタシの故郷をなんだと思ってるのよ……。でも、これっ、凄いわ! これがあれば、故郷が救われるじゃない!」
だけどお嬢が言うとおり、使い方を間違えると偉いことになるな。
場合によっちゃ、水戦争の引き金にだってなる。
「んじゃ、ちゃっちゃと救いに行く?」
「アレクはいちいち軽いわね……」
「はい、ですが、それが、ご主人さ――わ……」
その刹那!! カーマスが距離を詰めた!!
その痩身がもたらすたくましい抱擁が俺を包み込み――って、離せ、カマ臭いっ、男から甘ったるい女物の香水の匂いがして、なんか超嫌だっっ!!
「アレクサント様、素敵ッ、抱いて!」
「ぎひぃっ!?」
カーマスは恩を仇で返すつもりなのか、離れろこのオカマ野郎と、俺が気持ち口汚めの言葉を使っても、たくましい抱擁を解こうとはしませんでした……。
というわけで、やむなく魔法で制圧して、カマカマビレッジへの旅の準備を、進めることになったのでした。
アインスさんと。
ごめんなさい。また別のお話を誤投稿していたので差し替えました。
お騒がせしてすみません……。




