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53-10 夏島開拓するよ その1

「ということでさ、労働者とヘキサーさんを貸して欲しい。あと久しぶりだね、まだいたんだねエミリャ・ロマーニュ」

「あらお久しぶりです、アレクさん。来てくれて私嬉しいです」


 翌日の昼前、アルブネア領に飛びました。

 なんで日付をまたいでるんだって聞かれても、俺は黙秘を貫くよ。何もなかった、公城で俺とマハくんは何もなかった。


 そういうことでよろしくお願いします……。

 朝目覚めたら、胸の谷間で……ううん、なんでもない。なんでもないです……。


「その態度、いい加減なんとかならんのか……」

「ならないね」


 アルフレッドに言い寄る女狐エミリャ・ロマーニュは、着実に目的を完遂しているようです。

 しばらく接点が減っていた間に、アルフレッドとさらに親密になっていました。


 何せ俺が領館の書斎に入室すると、アルフ様とやらの肩を揉んでいたのです。

 堅物のアルフレッドに、そこまでのお触りを許されている時点で、関係がかなり深いところまで進展していることになるでしょう。


「彼女はずっとここで俺を補佐してくれているのだ。お前が俺に押し付けた領主の仕事をな。それはそうと、もちろん反対する理由はない、人員を貸そう。だが正直意外だ。思いの外、お前がやる気のようでな」

「相手はこの国の最大権力者。夏島を自慢するゲストを探したら、これ以上の存在なんて見つからないよ」


 だから急がないとならない。作業日は実質あと7日間しか残っていないのです。

「だがどうするつもりだ?」

「小屋を建てて周辺を整備する」


「当たり前だ。他にはどうする?」

「島中央の湖を浄化して、水道を作る」


 飲料水は大事です。庭の井戸からくんで行くって手もありますけど、それはスレイプニル石段の魔力の無駄使いです。


「賛成だ。この前エミリャさんとあの夏島に行ったが、海遊びの後に困った。真水を引いた方がいい」

「へー……」


 俺が苦労して見つけ出した島を、勝手にデートに使ったわけか。

 よりにもよってエミリャ・ロマーニュと、お前はよろしくやったわけかアルフレッド。へー……。


「もう最高でした~♪ あそこはー、すばらしい島ですよっ、アレクさん♪」

「そりゃ良かったね」

「はぁ……っ。いい加減その大人げない態度を改めろ……この期に及んでエミリャさんの何が気に入らん……」


 なんとなく気に入らないだけだよ。

 エミリャ・ロマーニュが善人なのは認めるけど、なんとなくまだ気に入らないだけ。それだけ。


「とにかく人を貸してくれ、後はもう用はない」

「まだこっちの話は終わっていない。他に計画はあるのか? お前の思い付きに任せるのは不安だ」


「珊瑚礁の向こうまで繋がる桟橋を造る」

「おお、それはなかなか悪くないな。そこで親子水入らずで、釣りをしていただくか……」


 するとエミリャ・ロマーニュが挙手をしました。よし、無視しよう。


「どうした、エミリャさん?」

「あの~、私もー、手伝っていいでしょうかー?」


「それは助かる。悪いがヤツを見張ってくれ、何をしでかすか、わからんやつだからな……」

「ちょっと待て、勝手にOK出すなよ」


 期限は限られている。おかしなことする時間すらないよ。

 なのにエミリャ・ロマーニュを差し向けて、俺の楽しい開拓タイムを邪魔してやるとアルフレッドが言うのですよ。


「お手伝いしたいんですお願いします! だって、たまにしか親子で過ごせないなんて、そんなかわいそうです……。どうにか、してあげたいじゃないですかー!」

「ぇぇ、何その生ぬるい動機……」


 マジでお人好しだなこの人。じゃくてこの女狐め、大公家に取り入るつもりだな……!


「アレクサント、いい加減にしろ……」

「わかったよ、エミリャ・ロマーニュとなれ合うよ、それでいいんだろ。なら決まりだ、人を集めに行こう。ほらお前は書類を書け、労働者はどのへんの領民がおすすめなんだ?」


 そう催促すると、ヤツは有言実行ってやつを選びました。

 簡単な手紙を書いて、それからアルブネア領主の印を手紙に押して俺に落ち着けます。


「ヘキサーさんには俺たちから伝えておく。労働者はコイツに頼め」

「コイツって誰さ」


「読めばわかる」

「はいはい、ならその口は何のために――って、おい、これってアイツじゃねーかよ!」


 手紙を突き返すことがわかっていたのか、アルフレッドはそれを受け取って、ヘキサーさん宛の手紙と別々の便せんに入れる。

 それから蜜蝋で封を閉じたようです。それがもう一度俺に突き返されていました。


「ああ。うちの労働者は恩赦を受けた元犯罪者に、流れの移民者だ。とても大公様がいらっしゃる島の仕事は任せられん」

「いや、だからって、なんでアイツなんだし……」


 手紙の宛先にはこうあったのです。

 ヴァルド街のシウム。つまりはあの調子のいいヤクザ野郎を頼れと、よりにもよって領主様が言うのですよ。


「残念だがな、こういった仕事は、仁義にうるさいヤクザの方が向いている。それに歓楽街サウザント・ソーサーのビジネスが好調らしくてな、今ではヤクザの方が副業のようだな」

「廃業しちまえよそんなもん……」


「本人にそう言え。俺はもう言った」

「うふふー、シウム様は、兄たちとも仲良しなんですよ~?」


 しかしヤクザに任せると、ケバケバしいヤクザ色に染まりそうで心配になってくる。

 ああそうです、ならばこうしましょう。


「そんじゃ、もう一筆頼む。宛先は――」

「フッ……あの連中か、悪くない。わかった、きっと本人たちも喜ぶだろう」


 こうして領主様の命令という形で、人員を強制的に確保しました。

 あのヤクザとまた会うとか気が重いけど、しょうがないしヤツに協力させてやりましょう。


 夏島にまでキャバクラとカジノ置こうとか言い出しそうで、本当はヤダけどな……。



 ・



 エミリャ・ロマーニュにはヘキサーさんのいる温泉街方面を任せて、俺は絢爛豪華な街、サウザント・ソーサーに向かいました。

 いちいち陸路を使うのも時間がかかるので、レウラの背を借りて。


「おおーっ、コイツは魔侯様じゃねーか! ってなんだぁ、この手紙?」

「ありがたい領主様から命令だよ。断ったら死刑な」


 まだ太陽が高いのもあって、街の賑わいはほどほどで、街をゆくねーちゃんたちの服装もまだ慎ましい。


 しばらく見ないうちに、この前の倍以上も賑やかになっていました。

 ヤクザが副業になっているというのも、あながち冗談ではないようです。


「そりゃ暴君もいたもんだな」

「いいから読めよ、ヤクザ」


「シウムだって言ってんだろ、俺たちもうダチだろ?」

「だから、なんでそんなに慣れ慣れしいんだよ……」


 とにかく読めと手紙を指さすと、ヤツもおとなしく目を通しました。

 内容が気に入ったのか、ヤツはニッ笑って俺の肩に強引に抱いてきやがります。馴れ馴れしい……。


「おいおい、こんなのやるに決まってんだろ! 任せろ、明日までにうちの連中をかき集めておく」

「やんのかよ。断っても良かったのに」


「バカ言えよ、大公様には俺たちも感謝してんだ。喜んでやるに決まってんだろっ」

「そうかよ……。てかいつまでくっついてんだよっ」


 ここは高級クラブの軒先です。

 ここ一帯を支配しているシウムが馴れ馴れしく俺と接するんだから、コイツはどんな大物ヤクザなんだろうと、注目を浴びてしまいました。


「いつまでもー、一緒だぜぇ魔侯様よぉ~!」

「俺はお前の同類じゃねーっての! 俺は錬金術師、お前はヤクザ! 嫌なら廃業しろよっ!」


「おっ? つまりよ、ヤクザ止めたらお友達になってくれるってことか?」

「本当に止められたらな。とにかく労働者の確保を頼んだ、じゃあ俺は行くからな」


 コイツが仮に足を洗っても、ウザさと酒と香水臭さは変わらないだろうな……。

 ともかく俺はもう一つの目的地に向かうために、彼に背を向けました。


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