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53-4 空気読まずなぜか存在する夏島迷宮を攻略しよう - いいですとも! -

「ところでオーナー、この島にはどんな設備を置くおつもりで?」

「ふむ、そっちならば俺も興味があるな」


 そこでヘキサーさんが助け船、ではなく観光業に携わる者として、ただ聞きたくてたまらなかったんだろうな。

 意図はどうあれ話を変えてくれました。


「そりゃ俺たちがめいっぱい楽しめるやつ一通り。その後は将来を想定して、灯台と船着き場だな。まずは補給港としての知名度を上げよう」

「ならば外の珊瑚礁をどうにかせんとならんな。桟橋を作るのも悪くないが……」


 補給港として見れば珊瑚礁は邪魔だけど、優秀な天然の魚礁にもなります。

 まあでも南国の魚って、あんまり脂乗ってなく美味しくないって聞いたけど。


「あと大公様たちをここに招待するのもいいな。マハくんも大公様も忙しい立場だし、日帰りで夏島行けるとか軽く夢が叶うんじゃね?」

「素晴らしい! オーナー、そのときはぜひ私にお任せを! 温泉街はあのクズに任せて、できる限りの協力をしたい!」


「うふふっマハきゅんの水着ってことね……♪」

「そのブレない色ボケっぷりがさすがっス」


 生きろ、マハくん。俺の代わりにマナ先生を頼む。



 ・



 さらにもう少し打ち合わせを進めると、はやる気持ちを追い風にして俺たちはボス部屋の前に立つことになりました。


「開くぞ。念のため言うが、ここから油断するなよアレクサント」

「わかってるわかってる」


 アルフレッドが扉を押し開くと、そこにはでっけぇイカ。

 クラーケンと呼ばれる海の怪物が、デーンッと部屋いっぱいにうねってました。


 感想? とにかくでかい、ドラゴン並みにでかい。

 ぬるぬるがとぐろ巻いて、粘液が糸引いて、なんかちょっと気持ち悪いしイカ臭いわコレ。


「来るぞッッ!」

「先輩ッ鼻つまんでる場合じゃないっス!」


 さすがにどうしたもんかなって迷ってたら、無数の触手が飛んできました。

 それをアルフレッドとアシュリーが切り落とす。


 さらにはヘキサーさんが大部屋の中に飛び込んで、体術だけでクラーケンの足を両断しました。

 何ソレ、体術なのに切断属性とか、ヘキサーさんってジ○ンプコミックの世界とかに転生した方が遥かに輝くんじゃね……?


「さあアレッきゅんっ、合体魔法よ!」

「いやいやいやいやっ、リハーサルも無しにいきなり、んなこと言われても困るしっ!」


 ヘキサーさんが囮となったことで、俺たちも続いて大部屋になだれ込みます。

 マナ先生と俺は入り口の扉付近で、魔力の増幅を始めました。


 いつもの一発撃破スタイルに落とし込みたいけど、魔力の衰えが気になるな……。

 まさか深き者共的な連中が現れるとか想定しとらんかったし。


「さあアレッきゅんっ、禁断の子弟愛! 略して(ダブル)ホーリーよ!」

「いや待ったおかしいでしょっ、俺が先生に合わせるのかよッッ?!」


 ただでさえこっちは弱体化してるのになにそれおかしいよ。


「アレッきゅんならできるわ! だって先生知ってるもの、信仰心無しで神聖魔法使っちゃうアレッきゅんのズルするところが見たいのぉぉぉっっ! 女神様もそう言ってるわ!」

「密告済みかよっ!」


 でも使えるから問題なし? 俺とマナ先生は同時にホーリーを増幅しました。

 明らかに俺の方がパワー負けしてたけど。


「行くわよアレッきゅん!」

「もうどうにでもしてよっ!」


「本当っ!?」

「えっ、いやっ、やっぱ無しで……!」


 グダグダってるけど同時発動にも成功しました。

 ああ、ちなみに壁の方々は必死に詠唱中の俺たちを守ってくれています。


 ネバネバの触手がビッタンッバッタンッ大運動会。足下まで粘液まみれで滑りかけたり滑ったり、なんか超大変そう。

 それはともかく、俺たちの頭上にある2つの白い光の球体が、でっけぇイカ様に向かって降り注ぐ。


 一軒家よりでかい方がマナ先生、掘っ建て小屋サイズが俺のやつ。

 そいつがクラーケンに激突すると、光の奔流がわき起こり、収まった頃には灰の砂丘ができあがっていましたとさ。


「ひぃひぃ……二度と相手したくないやつだったっス……」

「同感だ……クソ、全身生臭いぞ……」

「もう終わりか。フッ、オーナーとマナ殿が共闘すればこんなものか」


 前衛? うん、ちょっとさっきの訂正する。ドキッ! ヌルヌルローション大会! 的な惨劇になってたよ。

 イカだからそりゃそーだけど、全身イカ臭スメルでいっぱいです。可能な限り近づきたくない感じ?


 しかしこれにて迷宮攻略達成。晴れてこの土地は俺たちの物です。

 地上でも、エンジョイする上で邪魔なことこの上ねーモンスターちゃんたちが、今頃消滅していることでしょう。


「ん、んん……?」

「どうしたっスか先輩……もう自分帰りたいっス」

「くっ、酷い目に遭ったな……」


 俺も漁る物を漁ったらそのつもりでした。

 ところがおかしいです。クラーケンの死体が生み出した灰の海、そこに上って手探りで掘り返したんですけど……。


「あれ、ないな、灰に埋もれてるのか……?」


 いくら探しても砂丘がでかすぎてドロップが見つからない。

 まさかスカ? このクラスを倒したのにドロップ無し? そんなの酷い……。


「先輩、もう諦めたらどうっスか?」

「ここは大陸中央高地ではないからな……。もしかしたらその影響なのではないか?」


 そんな理屈で納得できるほど俺は大人じゃないよ!

 お……! しかしついに発見しました。


 なんとそれは段ボール包装。しかも驚き、あのアメゾンの段ボールです!

 おまけに超でかいとくる! うわ懐かしいなぁ! 中はなんだろーとワクワクで開封しました。


 まさか当時の便利アイテムが手に入ったりするんでしょうか。

 電化製品とかは使いようがなくて困るけど、例えば雑誌とか書籍とかだったら、版画師集めてコピーさせて大もうけできるかもしれない。


「よーしっ何でもこい、現代の思い出の品! 開ッ封ッ!」

「あら~?」


 じゃーんっ、『酢蛸さん次郎』10個入りx48箱!

 誰だよこんなの注文したやつ……。つーかクラーケンってタコじゃなくイカだろッ!


「何だソレは?」

「なんスかこれ?」

「うん、駄菓子……」


「これ凄いレアアイテムなんすか? テカテカした不思議な素材っスね……。あ、中の見えてるやつがお菓子なんスか?」


 迷宮っていったい……これ超絶レアなのか?

 あのくっそっ強いクラーケンからドロップするに相応しいアイテムなの?


 いや確かにこっちの世界からすれば何だってレアだろうけど……。


「イカからタコか、妙な話だ。ところでオーナー、なぜそんなに落ち込まれているか?」

「だって……期待してたやつじゃない……。アシュリー、これはお前に全部やる」

「貰っても困るっスよこんなのっ!?」


 酢蛸さん次郎をアシュリーに預けて、俺は報酬部屋に駆けました。

 ドロップが48000円相当でも、まだ報酬というボーナスがあったのを思い出しました。


 我先に俺は宝箱を勝手に開封! さあ今度こそこーいっ!!

 

「お。うーん……でもなんか思ったより地味っていうか、しょっぱいな……」


 なんとそこには、転送装置のキーアイテムであるクロノストーンでした。

 他の材料を確保すれば石段をもう1つ作れそうです。


 でも苦労に見合う報酬かと言えばこれってそんなでもないな……。


「すっ、酸っぱっ?! な、なんっスかこれっ、だけど酸っぱ美味いっスよこれ!」


 クロノストーンを回収すると、向こうの部屋からアシュリーの叫び声が上がりました。

 ああ、酢だこさん次郎を食べたんだな。


「アシュリー、そんな怪しい物を食べるな。なっ、ヘキサーさん貴方まで……」

「ふむ……これは練り物か……。だが甘酸っぱく、なかなか癖になる味わいだな」

「あらほんと~♪」


 戻ってみたらアルフレッドをのぞく他のみんなが賞味期限のわからん駄菓子をパクついてました。

 大丈夫かこいつら……?


「もう1つだけ食べてみるっス」

「あっそうだわ~、温泉の名物にしたらどうかしら~?」

「マナ殿、私もちょうど同じことを考えていたところだ」


 これじゃ物足りないと、3人は2つ目の酢だこさん次郎を口に押し込みます。


「おいアレクサント、止めろ……」

「うん、言って止まるたまなら今日まで苦労してないよ」


 そこでパッケージを見ると、賞味期限.2018.06.30で記されてます。


「ダメだこりゃ……」


 こんな頼りがいのない賞味期限とか初めて見ました。

 味がおかしくなってことは腐ってないってことなのか……?


「それじゃ先輩、これお願いっス」

「持って帰るのかよ! 一枚10円だぞこれ!?」


 こうして俺たちは帰還の翼を発動させて地上に戻りました。

 両手いっぱいの酢だこさん次郎と共に……。


 いやだからさ、何度も突っ込むけど、何でイカからタコの駄菓子が出てくるんだよ!!

 そう思って俺はパッケージを見直しました。


 原材料【魚すり身、イカ粉末】


 あ、イカでした……。


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