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53-3 夏島征服への第一歩 錬金術師は仲間を呼んだ! - 夕日の孤島 -

 そろそろ夕方らしい。

 白から金色に変わりつつある夕日が、西から島と海を照らしている。


 なんかコテコテですけど、昭和期のドラマみたいに波の押し寄せる浅瀬をかけると、アトゥが嬉しそうにはしゃいでくれました。

 レウラ2匹が彼女の周りにまとわりついて、地をかけたり飛んだりと、まるで空飛ぶ犬っころみたいでした。


 いつの日からか、俺は子供みたいに笑えなくなっていました。

 しかし今だけは童心を取り戻して、昔に戻ったアトゥさんと笑顔を向け合っていたらしい。


「兄様、迷宮を落としたらあそこに家を立てましょう!」

「あそこか、なかなか良いかもね」


「それから森を切り開いて、兄様の錬金術で島の自然を飲み込んでしまいましょう」

「……え?」


「辺り一面グミの木だらけの島……はぁぁっ、想像しただけで素敵ですね兄様!」


 さらっと罪深げなオーダーきたわー。

 普通の木は全部材木にして、島中征服しましょうってことでしょ。うん、やり過ぎだけどそこが面白そう。


「おわっ、ちょっ、いきなり引っぱるなよなアトゥ!?」

「兄様っ、次はこっちっこっち行きましょう! ベッドから立ち上がることもできなかったあのアトゥが、兄様と名も無き無人島を走ってるんですよっ、もっと感動するべきですっ!」


 その後も俺はアトゥに引っぱり回されて、全身潮風と汗まみれのベッタベタ、今どき洋ドラですらやらないリア充カップルのエンジョイタイムを満喫させられました。


 そりゃあの全てを諦めていた子がこんなに明るくなって、外の世界を駆け回ってるんだから感動しないわけないよ。

 ヤツを裏切って正解だった。釜に身を投げるのがやっぱベストアンサーだった。そう信じられます。


「兄様、恋愛小説などではこの後……」

「この後?」


「は、はいっ……。2人は浜辺の木陰で……その、ぽっ……。兄様、今こそ甲斐性を見せるときですよっ!」

「ごめんそれ売り切れ。そこさ、やっぱ人型ホムンクルス製造で済ませない? だって子供の成長なんて待ってらんないでしょ……」


 とりま、浜辺の木陰がお望みらしいんで俺は陸地側に歩き出してみせました。

 ところがです。何か人影が見えるような……いや、あれはまさか……。


「うっわああああーっっ、なにここヤバっ超綺麗!! あっ、アトゥちゃんにアレックスーッ、おーーいっ!!」

「ダリルです兄様」

「いや、何でいるし……」


 せっかく安全を期して手紙とカニちゃん実験だったのに、それを台無しにしてダリルがこっちに転移してきてしまいました。

 下手したらおかしなところに転送されて、壁の中にいる……とかなりかねねーのに。


「いいとこ見つけたねっ、うはぁーっ最高じゃんここーっ!」

「ダリル、手紙は届きましたか?」

「あとカニな」


 ダリルがすぐに俺たち前に飛んできます。

 砂浜なんて物ともしない元気な脚力で、けどその途中で靴に砂が入ったのか裸足になっていました。


「カニ? あ、青レウラがなんか食べてたかも。アトゥちゃんの手紙は見たよっ、本当に綺麗!」

「あの野郎……」


 実験になるたびにサンプル食うの止めろよないい加減……。

 ちなみにダリルは俺たちにもう目もくれず、夕刻の海辺を眺めていました。さらに日が傾いて琥珀色に輝いています。


「やっばっ、水着持ってくんの忘れたぁーっ! あっそうだアレックスっ、ダリルちゃんたちこれから泳ぐから先に帰ってていいよっ!」

「人の苦労をなんだと思ってんだよお前……」


 とはいえそろそろ飽きてきました。

 肌も髪もベタベタで、海よりも温泉に浸かりたいです。


「ふふ、ダリルらしいです……少し、惹かれる提案かもしれません」

「でしょーっ、アレックスさえいなければ裸でも全然いいよね!」


「はい、胸以外は。兄様……」

「ダメダメ、豊胸剤はもう作らないよ。ろくなことになんないもん……」


 しかしアクアトゥスさんが俺以外の人間と仲良くできるようになったのも、ダリルの影響が大きい気がします。

 人見知りしないダリルの生き様は刺激になっただろうな。


「はぁーーっ、それにしても超綺麗だよねっ!」

「いやそれさっきも言っただろ……」

「すごくわかります……」


 ダリルは恐らくアルブネア領から飛んできたんでしょう。

 実はアトリエと領館の石段に、追加パーツを加えたのです。それは転送先を指定するための小さな切り替え装置で、持参したソイツを夏島の石段に固定しました。


「早くみんなに教えてあげたいね! これ見たらみんなテンション上がるよ! 水着着てさ、バーベキューしようよバーベキュー!」

「キェッ?!」

「キュルルルゥーッ♪」


 バーベキューって言葉わかるんだなこいつ……。

 二匹のレウラは興奮した様子で羽ばたき、ダリルにまとわりついて大賛成していました。


「ねぇねぇここってどのへん?」

「あー……そうだな、どっちかという西の大陸寄り。レウラに乗るとあっちの大陸が見えるくらい」

「これからは世界が狭くなりますね……兄様とアトゥの努力の成果で……♪」


 あまり西の大陸に良い思い出とかありません。

 俺が最後の最後の1体を破壊したことで、今頃はアルハザード王国周辺の緊張が解かれた頃かな。


「あ、じゃあお姫様も誘おうよ! いっそあっちにもこの石段作っちゃう!?」

「リシェラ姫ですか。一国の姫君です、さすがに少し難しいのでは……」

「つーか材料ないし、俺たちが管理できない場所に装置置くのは悪用が怖いよ。勝手にアトリエとか領館うろつかれて、背中から襲われたらたまらんしょ」


 便利だからこそ管理が必要になります。

 これだけの物ですから今後徹底しないと、どこからか漏れて事件を引き起こすかも。


「それもそっかー。残念っ、あのお姫様嫌いじゃないんだけどな~」

「わかります……。それでは兄様……」


「うんっ、じゃあアレックス、悪いけどあっちの女の子たちみ~んな呼んできてっ! あ、男とアレックスは戻ってこなくていいからね」

「ちょっと待て、お前ら本気で裸で泳ぐ気だったのかよっ!!」


 その後、俺の知らんところで女の子限定裸海開きが開かれたそうでした。

 かの催しは女性陣の心を団結させて、新たにこの夏島を開拓していこうと決意を生み出しました。


 しかしそれは、ダリルというヒエラルキー絶対上位の存在により、アレクサントくんに豊胸剤を作らせよう運動をさらに加熱させたそうな……。

 いいやお断りだね。みんなおっぱいでっかいプライベートビーチとか、それスケベオヤジの妄想ん中と同義じゃん。


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