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53-2 キャッキャウフフな夏島を求めて旅立ちます - 絶好地を探せ -

 休憩と補給を終えると、俺たちはレウラの翼を再び借りて西の大海に旅立ちました。

 紺碧の海と遮るもののない陽射しが海原に降り注ぎ、それを避けるために薄手のフードローブをまとって海を駆け抜けます。


 当然ですがレウラの速度は飛竜艇を引いて飛んだときより遙かに速く、流れるように美しいが代わり映えのしない外洋のまぶしい空を進んでゆく。


 白いレウラの前にはアトゥ、後ろには彼女の希望通り俺が乗って、赤いレウラにに荷物を持ってもらいました。

 島を見つけた後にどうしてもそれが必要立ったのです。


「兄様、これから全てを捨てて、アトゥと2人だけで誰もいない無人島で暮らしませんか……? アトゥはそれでもかまいません、今はそういう気分です……」

「レウラもいるんだけど」

「キュルルッ!」


「野に返しましょう」

「キュ、キュゥゥ……」


「レウラ、冗談ですよ。後でおわびします」

「プキュッ、キェーッキェーッ♪」


 餌付けします。って置き換えても不都合ないやつだよねそれ。レウラの反応だけでわかるもん。

 ま、んなことはさておき目指すは常夏の島です。欲を言えば東と西の大陸の中継地点になれるような絶好地がいいな。


 補給港になれば物資が勝手に集まってくるわけだし、そうなれば夢もそれだけ広がります。

 せっかく全てが終わったんですから、何か新しいことを始めるのも悪くない。俺はそう思います。


「あ、そうでした。でしたらせっかくですから、失敗した方のアニサマ・スケベニナールを食べて下さいませんかレウラ?」

「キューッッ♪」

「アトゥッ、それシャレになんねーっての!!」


「うふふ……冗談ですよ兄様♪」

「キュゥーン……」

「いやさ、冗談に聞こえないやつは、冗談って言わないと思うんだ俺……」


 アトゥとレウラと賑やかに語り合いながら空を駆ける。

 どこか穴場になるような未発見の大きいな島はないかなと、俺たちは海原と互いの顔を何度も眺めては子供みたいな微笑みを浮かべていました。



 ・


「あっ、兄様! あそこをご覧になって下さい!」

「キュルルッ!!」


 後ろを振り返れば元いた大陸の姿は既に無く、正面を見れば西の大陸が遠くかすかに浮かびだした頃、俺たちは面白い島を見つけることになりました。


 それは珊瑚礁に囲まれた緑豊かな島でした。

 豊かな海岸と白い砂浜が島をぐるりと取り囲み、さらにその外周を珊瑚礁が何重にも隆起して海路からの進入を拒んでいました。


 現状では船底を傷めてまで停泊したい島ではありません。

 ですからそれゆえにこちらには都合が良いのです。


「兄様っ何かおっしゃって下さい! 無反応はイヤです!」

「ああごめん。だけど凄いなこれ……」


 これまでの道のりで飽きるくらい孤島を見つけてきましたが、その中でも一番魅力的なやつです。


 砂浜から内側は台地になっていて、密林がギッシリジャングルパラダイス。

 レウラがその島上空に到着すると、その場でしばらく滞空してくれました。賢いのですよレウラは。


「あの珊瑚礁からしてまず手付かずだろうね。まあ謎の人喰い民族が暮らしてる可能性も、なきにしもあらずだけど?」

「そんな兄様、アトゥは恐ろしいです……。ぴた……♪」


「アトゥはブレないな……」

「はい、兄様に命を救われたあの日から、ずっとずっと、一途に兄様をお慕いしております……」


「わーい、愛が重いや……」


 話をごまかすのもかねて、俺は小箱からスペクタクルスを取り出し顔に装着しました。

 本当に便利です。貴重なマナポーションこそ消費しますが、当たりとハズレがこれでわかってしまうのですから。


「兄様」

「言わなくて良い、それ何度も言わなくてもいいから」


「はい、やはり何度見ても小悪党っぽい。そう言うのは止めにします」

「言ってるじゃん!!」


 何だかこのやり取りからもどこか懐かしさを覚えます。

 ま、情に流されるのは止めて、やるべきことを優先しましょう。


「スペクタクルスよ、久々の命令だ。眼下にそびえる、この珊瑚礁の島を鑑定しろ!」


 いったいこいつがどこから来たのか、どの文明が生み出したのか、そこんところはよくわかりません。

 あの迷宮というものは、異なる世界から漂着する様々なモノが集まる場所です。特定しようがありませんでした。


――――――――――――――――――――

【水資源】やや豊富(島中央に淡水湖と水脈あり)

【土壌】極めて肥沃

【鉱物資源】豊富(銅、銀、マンガンなど)

【気温】平均気温25 最高気温36,最低気温14

【迷宮数】1(地表部に大型モンスターが多数漏出)

――――――――――――――――――――


「あら、どうなされましたか兄様?」

「うん? うーん……ちょっとね」


 つい結果に首を傾げてしまっていました。

 特に迷宮、これは大陸中央高地以外に存在しないものです。


 なのになんでこんな西の果てに、ポツンと存在しちゃってるんでしょう……?

 わからん、飛び火みたいなものなんです?


 うーん、わからん……ま、いっか。手順が簡単になったと思うことにしましょう。


「アトゥ、スペクタクルスはこう言ってる。この島メッチャ大当たり!」

「ふふ……やっぱりですか、アトゥは見ただけでわかりましたよ」


「だけどね、こうも言ってる。この島に、迷宮が1つあるってさ」

「迷宮……それはおかしいです兄様。公国にいると感覚が麻痺してしまいますが、こんな場所に迷宮があるわけありません」


「そうだけど、あるってこの片眼鏡ちゃんが言ってるんだからしょうがないでしょ」


 いま俺絶賛パワーダウン中なんだけどな……。

 おいおいどうにかイカサマしてでも取り戻ししてやる、って決めてるけど、現状だとコレどうしたもんかです。


「ではこれからその迷宮に入るのですか兄様?」

「いや、仲間を呼ぶ方が先かな」


「あの兄様が仲間を頼るのですかっ!?」

「え、なに、なんでそんなに驚くのアトゥ……」


「だって、驚きです……。兄様、兄様も成長されましたね……」

「違う違うそうじゃない。俺さ、俺……なんかすげー弱くなったっぽい」


 例えるなら単1電池式の懐中電灯を、単3電池で動かそうとするようなものです。

 体が高魔力に慣れてしまっていて、今の出力ではどうにも上手く動かないようでした。


「そうでしたか」

「そうなんですよ、大変なんですよ。どうにか上手いこと裏技使って再パワーアップしたいよ」


 ところがアクアトゥスさんはやさしく微笑む。

 もう長い付き合いですからわかります、これは俺のダメなところを慈しんでるやつ。


「そうでしょうか。兄様にはウルカやアシュリー、アルフレッドがいます。昔のようにもっと仲間を頼るべきです」

「そうかな」


「そうですよ兄様、兄様はもう強くならなくても良いのです。私たちは錬金術師なのですから」

「いやそこは男の子的な誇りがあるし、やっぱり譲れないな」


 それに今日まで俺のやらかしてきたことを思えば、せめて正規軍1000人くらいは吹っ飛ばせるくらいの火力が欲しいです。抑止力、抑止力ってやつです。


「そんな、兄様……ッ、兄様たらアトゥの耳元でそんな、いやらしい……」

「変な意味じゃないっての! 何でも都合良く脳内変換するのどうかと思うよ俺!」


 そしたらアレです、レウラがじれました。

 鳴き声を上げて何かこう、イチャイチャしてねーで早くしろご主人! って言ってるような感じ。


「キェッキェーッ!」

「わかったわかった、じゃあレウラ、あのへんの拓けた砂丘にお願い」

「ありがとうございますレウラ、おかげで兄様との濃厚な時間が過ごせました」


「クルル~♪」


 まあそういったわけで着陸しました。



 ・



 まず赤くてカッコイイレウラから荷物を下ろして、ひもを解きます。

 中はたぶんご存じの通り、錬金術で使う素材の数々です。


 夏島に行こうとグリムニールさんも誘ったら、何とレア素材を貰えたのがきっかけでした。


「これはクロノストーン、時空を歪ませる取り扱い注意な一品であると同時に、あのバカ者が作り出した遺産の材料でもある。持ってゆけ、そして我に輝かしい夏島を見せてみよ、フフ……海じゃ、海じゃ……っ」

「俺もグリムニールさんの水着楽しみだよ。黒く日焼けしたエルフ耳とかテンション上がるよ!」


 はい回想終わり。この後軽く怒られて、必ず耳にも日焼け止めを宣言されました……はぁ……。


「兄様、どうされましたか?」

「何でもない……。それよりレウラ、俺たちは調合に集中するからしばらく護衛は任せたぞ」

「クルル……♪」


 イエスかノーかよくわかんねーけど、たぶんイエス。

 ってことで俺はスタッフ・オブ・ドロポンを立てて、布袋の中で気持ちよくおやすみしていたクリスタル・ドロポンを先端に乗せました。


 やっと出番か、任せてー、って感じでプルプル揺れてます。

 早速召喚しました。ポータブル錬金釜をです。


「やはり凶器ですね……」

「だな」


 宙より現れた重い錬金釜が、砂丘にドカンと落下して軽く大地を揺らしました。

 その中に持ってきた中和剤と、宝石となる密度まで圧縮しておいた水を投入して、それからもう事前に決めておいた材料をぽいぽいと投げ込みます。


「兄様はやはり天才ですね……兄たちが血を欲しがる気持ちがアトゥにはわかります」

「アーキコエナイ、キコエナイ。その話は、キコエナイ」


 それから貴重なやつを入れます。

 まずはエーテルの大瓶丸ごと1本。強度を高めるためにダリルの工房からいただいてきたアダマンタイト、この2つも必須素材でした。


「兄様、それは……なんですか?」

「ああこれ? ん……なんだっけ、ぽいっと」


「兄様、よくわからないものを感覚で入れないで下さい!」


 それはあの大団円、眠れる者を守るモンスターたちがドロップした黒い塊、魔力を放つよくわからないものでした。


 説明するともっと小言が飛び出してきそうなんて秘密にしましょう。

 ていうか、実はあの時の記憶があいまいなんだよね……。


 リィンベル母に乗り移った奴との約束は覚えてるんだけど……何で俺、納得したんだっけ……。

 交換条件を持ちかけたはずなのに、何を代わりに貰ったのか覚えていない……。


「さあこれで締めだよ。鍋で言うところの締めのパスタ的な」

「兄様、奇妙な文化をいきなり語られてもアトゥは困ります」


 で、最後はグリムニールさんからいただいたお宝、クロノストーンです。

 そいつをドカンとぶち込むと、何か錬金釜が高熱を放ち出すからちょっとヤバい。


「くそ、やっぱこっちの魔力も衰えてるな……」

「そうですか? アトゥは幸せですよ。こうして兄様のお力になれるんですから……熱いですけど」


 これじゃあの約束を果たせるのはいつのことになるやら……。

 こうして俺たち兄妹は錬金釜をかき回して、臨界ギリギリの危険域から、どうにか困難な調合を成功させたのでした。


 完成です。遠回りこそありましたが、俺は晴れてあの男を超えました。

 最悪の錬金術師オールオールム、バカな俺のオリジナル。


 見ろ、俺はお前を越えた。そしてこれで――夏島の夢が叶ったぞ。

 グリムニールさんが水着で笑う姿を、俺の中に眠るお前に見せてやる! 必ずだ!


水着回あるよー!

書籍版の改稿がんばっています。かなり整え直したものになりますので、お楽しみに!

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