52-2 神童アレクサント少年のからくり
「ぬ、抜けただと……?!」
若いのに一番お堅いメンタルしているアルフレッドが驚き声を上げる。
それもただ単に抜けたんじゃありません。
潜伏してやり過ごそうとしてきた一派の情報を、盛大に今バラしています。
「こっちに来るとき抜けてきた。せんせーなら全部終わりに出来る。そう上に伝えたんだけどさ、これが聞き分けなくってさ~、もー、ムカついたし、こっちがぶっ殺す前に抜けてきちゃった」
それからウルカはアトゥに遠慮がちに目を向けました。
利用するために近付いた事実はウルカの中では消えていない。といったところかな、ま、俺は関係ないし。
「ってことでさ、情けないけどボクの仲間は援軍には加わらない。最後の一体を破壊するチャンスだけど、それに失敗したら滅びが待っている。せんせーのことも、まだどこか疑ってるかな……」
「仕方ありません。兄様ははたから見た限り、擁護し切れないほど行動がうさんくさいですから……」
言葉ではそう言いながらもアトゥが笑う。
どうもこれ、褒め言葉っぽい。
「本当は最初から、意思統合システムに考えの自由を奪われているんじゃないか、って意見もあったよ。だからせんせーの、絶対にありえない傍若無人っぷりを伝えといた」
「いや余計なことすんなよなっ?!」
「同感だ。かえって信頼を損ねただろうな。コイツのやってきたことは、どれも人間性を疑せるに十分だ」
じゃあ何か?
俺が品行方正な正義の勇者様ごっこをしてたら、ウルカの仲間が俺の味方になっていたかもしれない、ってことか?
はい却下、そういう味方はいらないや、維持めんどくさい。
「じゃ、ここまで話したんだから先生の秘密も教えて、みんなの前で」
「秘密? あーはい、多すぎてどれのことかわかんないな。それに秘密は秘密だから秘密になるんだし」
「えー、せんせーさっき言ってたよね、地球人類って言葉。あれってどういうこと? それに戦車とも言ってた。いやに詳しくない、あっち地球についてさ?」
気づいたら俺の裁判になっていました。
自分がカミングアウトしたからって、そういうのはないでしょウルカ。みんなが知る必要なんてないことだし……。
プライバシーの侵害を主張したいね。
検察ウルカに、それは地球の慣用句かとつっこまれるのがオチだから言わないけど。
「ヒヒヒ、その疑いからたどり着く結論は1つだぇ……そちは、地球から来たんだぇ……」
「それはない。なぜならアレクサントは我が生み出したからだ。オールオールムのスペアとして、己の腹を痛めて、我が産んだ」
あっ、あっ、やだ、知られたくない真実の中でも5本の指に入るキツゥゥ~いヤツきたぁ……。
「ま、マジでっっ?!!」
「そうは、見えません。ご主人様、こんな小さい方の、そんな、いやらしい……」
「ちょっとアインスさんっ、今どんな特殊な想像してんのっ?!」
ダリルの眠気も吹っ飛ぶ超破壊力です。
ああ、知られとぅなかった……他にも秘密はあるけど、これだけは知られとぅなかった……。
「うちもそなたを産んでみたいぇ……♪」
「お婆様ッッ、そういうの止めてっていつも言ってるじゃない!!」
それに俺について説明しようにも、説明が難しいので困ります。
コールドスリープより目覚めた自称・山田カイン(俺)さんが、こちら側にキルケゴール・アダムと共に転移してきて、その死んだ肉体を元に、哀れなアレクサンドロス坊やが作られた。
本当の転生者オールオールムの手によって、古い俺と、新しい俺が結果的に混ぜ合わされたってことなんですねー。
それを説明しようにも無理、絶対通じない、何言ってんのお前? って言われるのがオチ。よって話すなんて選択肢は無し無し無し無し!
「ほら答えなよ、今夜はみんな1つずつ秘密をバラすことにしようよ?」
「仲良しサークルじゃねーんだから、何で自発的にそんな罰ゲームしなきゃいけないんだよ……っ」
「とーちゃんの秘密から言うか? 実はなこの前な、カーチャンとの間に、実の子がやっと生まれたんだよ……」
「とーちゃん、それはただの自慢話だって……」
「な……ッ、なんだと!? 今お前、今ッ、俺のことを、と、とーちゃんって……ぅっ、ぅぅっ、ぅぉぁぁ……。な、なんだこりゃぁぁ……涙、涙か?! 涙が、急に涙があふれて、ウォォォンッッ、息子よぉぉっ、やっと俺のことを、とーちゃんて読んで、ゥアァァァァッ……ッッ!」
やっちまった……。
ダンプ先生の号泣が海上の飛竜艇より辺りに野太く響き渡りました。
・
もう終わりにしたいんで妥協します……。
確かにこの最後の決戦で全部終わるんです。
これまでの秘密の要点だけ伝えて逃げることにしました。
「わかった、言う。言うから寝かせて」
「嘘はダメだからね、せんせーとは長い付き合いだし、そういうのはアトゥがすぐ気づくからねー」
「はい、兄様は平気で嘘を吐く方ですが、実妹というイニシアチブを使えば簡単に見破れます。それをあえて口にせず、黙っているのが妹の特権ですよ兄様」
そういうカミングアウトも知りとぅなかったです。
とにかくここから退散するために、要約した事実だけ伝えましょう。
「俺は地球人の肉体を材料に作られた。そいつはやつらの眷属化を受けない、詐欺師みたいな珍しい個体だったらしい。だからそれを材料に作られた俺は、やつらの支配を受けない」
「やっぱり……。なら生まれた時代がこっちで良かったね、あっち側だったら、100%ぶっ殺されてたでしょ」
山田の方は最初から死亡フラグ立ってたけどな。
今思い返すと、餅食ってからの記憶がねぇ。たぶんあれで呼吸困難になって、それから芯まで冷たい棺桶行きになったわけか。
「あとさ、発展していたあちら側の記憶もある程度引き出せたから、幼少期はずいぶん有利だった」
俺に近しい者、特にアカシャの家の同世代からすれば、そっちの方が驚きだったようです。
それと同時に納得していました。
「先輩のあの薄気味悪いくらいにこなれた感じは、そういうからくりだったっんスか……」
「今思い返すと、結構クソ生意気なお子様だったよね。ハゲ、じゃなくて教頭が目の敵にするのも、ダリルちゃんもちょっと納得?」
「お前……最初から発展した世界の知識を持っていたのか……。納得だな、もはやイカサマのようなものだ……。俺は、お前に入試試験で負けた時のことを、いまだに夢に見る……。卑怯だぞアレクサント!」
まだ根に持ってたのかよお前、そのことにこっちは驚きだよ。
けどなんだかスッキリしました。ずっと今日まで隠してきたことを明かしてみたら、文句は言われましたけど悪くありません。
卑怯で結構。俺は俺の有利を俺のために使っただけだし。
「でも兄様は兄様です!……兄様ですが、ですが、兄様が別人のように変わられた理由が、ようやくアトゥはふに落ちました。幼きアトゥと共に過ごした兄様は、まだあの時は、混ざっていなかったんですね」
「え、何でそこまでわかるの……?」
「はいっ、アトゥの兄様への偏狭的な愛のたまものです!」
「偏狭的って……自覚あったんだ……。うんまあ、そうだよ、あっち側の記憶があるって気づいたのは、だいぶ育ってからだった。というかもういいでしょ、この先は俺たちの公都をどう助けるかを考えようよ」
これでウルカに注目を戻せます。
なにせ情報を持ってきたのはウルカですから。
「いいよ、でも後でもっと詳しく教えてもらうからね」
「ごめん、それはもう今夜で売り切れだ」
古なる者最後の個体が公国を強襲した。
もちろんそこはみんなに伝えてあります。
ウルカの無線からの情報であることを、説明する段取りがこれでつきました。
「じゃあ、そういうことにしておいてあげる。……それでえっとさ、そういうことでボクはあっちの世界の技術を持ってる。その中に無線って物があってさ、それを使うと海の向こう側とでも、話ができちゃうんだなー」
「そうそう、それで向こうのお仲間と話したんだろ? 新しい情報は?」
「敵の名前はロゴス、せんせーがこの前ぶっ壊したのがたぶん、ソドヴェ」
「名前なんてどうでもいいわよ!」
「僕もそろそろ質問していいかい? そもそも公都がそんなあっさり陥落するとは、とても思えない」
ロドニーさんは軍属、その辺りは気になってたまらないでしょう。
同じく責任ある立場のマハくんも、ロドニーさんと共に前に出ました。
「公国の主力を何人も連れて来てしまいましたけど、それでもちょっとやそっとで落とせるような守りでは、ないと思います……」
殿下は大公様たちが心配なんでしょう。
言葉の最後に近づくにつれ、弱々しく不安に隠しきれなくなってしまっていました。
「ぶっちゃけ迷宮で無限レベルアップしてるような、修羅の国みたいなもんだしな、あそこ」
すると知ってるくせにと、ウルカが俺を暗い瞳で見る。
説明役はお前です、俺は一足先にお前から少し聞いただけ。
「うん、そこはまだ全部よくわかってないんだけど……なんか空飛ぶ城が現れたんだって。何もない場所からいきなり現れて、真上から公城に攻め込まれたみたい」




