51-3 眠れる姫君と白馬の王子
【新作宣伝】
読者の皆様、いつも本作を読みに来て下さりありがとうございます、別作品の宣伝です。
先週からこんな新作の連載を始めました。
https://ncode.syosetu.com/n9230fc/
【魔界を追放された猫ですが、人類最強の娘拾っちゃいました】
魔界辺境でネコ魔族が女の子を育てるやさしくて微笑みを誘うお話です。胸を張ってオススメ出来る仕上がりですので、よろしければこちらもご愛顧下さいませ。ちなみにこの宣伝スパムはしばらく続ける予定です。なにとぞご容赦下さい。
軽くうたたねしてから身を起こすと、賢いドロポンが俺の足下にはい寄り、ローブに飛び移って杖のてっぺんまで登ってゆく。
それが済むとその杖先で、眠るレウラの腹を小突いて起こしました。
「じゃいくぞー、管理者ちゃんが現れたってことは、目的地はすぐそこってことだ。覚悟しとけよー」
「プユー……ハグハグ……」
「あっこらっ、この杖だけは食うなバカっ! あああああ、歯形が……」
大事なスタッフオブドロポンにレウラの歯形が付きました……。
これ、ふすまを破く猫の方がまだかわいいわ……。
さすがのクリスタルドロポンもぽよんぽよんと、俺の寝床を壊すなと怒っていたかもしれない。
「プキュゥー♪」
「ぷきゅーじゃねーよ……ああもう、いくぞー」
さて俺たちは階段を下り、次のフロアに向かいました。
で、下りてきましたらそこがいきなりボス部屋です。こんなことなら寝るんじゃなかった、ウォーミングアップ無しで決戦コース確定です。
「なんかさ、でかいな?」
そこにいかにもな門がありました。
それはもう、俺が今日まで見てきた中でも1,2を争う巨大な門です。
そういえばだいぶ昔、巨人の血を求めて迷宮を下ったあのとき、火竜と対峙することになりました。
あのときの門もこんな、非常識にでかい門でしたっけ……。
「レウラ」
「ハグッ!」
不意打ちでポーションドロップをレウラの頭の上に飛ばすと、食欲の権化は恐るべき反射神経で食らいつき、ガリガリと飴を噛み砕く。
自分も一つかじりつつ、ドロポンのティーカップにいれると、まるで水に溶ける氷のようにクリスタルドロポンの中でゆっくりと溶けてゆく。
「ほらこれも食え」
「キュルゥゥッッ♪」
それから辛うじて残っていた干し肉を全てレウラに与えました。
最悪の想定より浅かったことですし、ちょっとした景気付けです。
それが済むと必要のない荷物を扉の影に下ろす。
それからいつものように扉に手を置くと、さもそこが重要な場所だと言わんばかりに扉が独りでに動き出す。
扉の向こう側は薄暗く、最初それとはわからなかった。けれど確かにいた、目標の竜、グランエイヴィスがそこに。
「コイツもか」
中に入るとレウラが静かにうなりました。
薄暗い世界で竜と対峙するなり、すぐにわかった、レウラの元となった黒竜もそうだったのだ。
その竜、グランエイヴィスと呼ばれる種類の地竜は、知能や理性を失い、既に狂っていました。
「お前もあの巨人と同じく、ここに門番として閉じ込められたくちか? なら俺たちが解放してやろう、俺たちの力として生まれ変わらせてやるよ」
あまりに巨大な竜眼と目が合いました。そんでその地竜、いいえ怪獣とでも呼んだ方が似つかわしい存在は、アーススパイクの嵐を放ってきたのです。
隆起する大地の槍が、津波のように地面を暴れ回らせ、侵入者を串刺しにすべく押し寄せる。
そこでレウラは大型化を選んだようです。肉体を解放すると同時に、飛び移った主人を安全な空中に運んでくれました。
「ひぇぇぇ……何だありゃ、あんなのありかよ……っ」
「クルルッ」
冒険者が逃げ戻ってくるわけです。
大地全てを対象とした全体範囲攻撃を仕掛けてくるだなんて、ゲームでいえばクレームもののクソバランス、最低のボスでした。
「おー、地竜だけあってこいつ、空中は苦手なんじゃない?」
レウラもでかいけど、地竜グランエイヴィスもバカでかい。
怪獣VS杖持った俺、レウラを連れて来いと迷宮が指名してくれたのは、まさかの親切心ではないかと疑うくらいの好相性です。
レウラの翼は遠距離タイプの俺に安全をくれました。
「汝、力が欲し――ギェッ?!」
「いらんし」
スタッフオブドロポンが教頭の暗黒面に飲み込まれそうになったので、封印の布を縛り直す。
もう油断も隙もあったもんじゃない。
「えーっと、じゃあ仕切り直しのー、マジックアローパーティだー」
レウラの背の上で立ち上がり、俺は下級魔法マジックアローを連発させる。
そいつをスタッフオブドロポンの超魔力が重機関銃に変えました。
属性の相克など完全無視した物理破壊魔法で、土属性ドラゴンの岩の肉体を粉砕してゆく。
「この杖手に入れてからというものの、全部がヌルゲーだなー。とか言うと足下すくわれるんだよな」
それに向こうもイラッ、ときたんでしょうかね。
悪あがきか、隙をうかがっていたのか、地竜の顎は咆哮と共に衝撃波を放ってきたらしい。
「へ……ちょ、ちょっ、おわぁぁぁっ?!」
さすがにそんなの目視できないし、想定も無理です、まさに怪獣でした。
レウラの背より吹き飛ばされた空も飛べぬ人間様は、そのまま壁まで一直線、壁をずり滑りながら地に転落することになりました。
ヤバいです、今の俺は川に落ちたイナゴちゃん。地竜という大魚に食われる窮地に追い込まれていた。
敵に迷いはない、再びアーススパイクの嵐が津波となって押し寄せる。
「マジックアローッマジックアローッマジックアローッッ、ひぇぇぇっ?!」
濁流に向かってバズーカをぶっ放すようなもんです。
一時的に押し込めることはできましたが根本的な解決にはなりません。
ああこうなったらやるしかない、方針を変えて、クイックとマイトマジックで己の筋力と敏捷性を強化する。
さらにアシュリーからパクッた自己強化魔法も重ねがけして、そして、俺は一目散に逃げました。
「転ばぬ先の杖よ、今こそその真価を! 発揮してくれないと死ぬぅぅぅー!!」
絶対に転ばない杖の力を用いて、クイックの加速力を加えて、俺は壁を走る。
地面に安全地帯がないなら、壁を伝ってレウラの背に戻るしかない。
「行くぞレウラッ、俺を乗せろーっ!! じゃないとマジ死ぬからお願い!!」
「キェーッ!」
ハリウッド映画もビックリの空中の演技で、俺はレウラの背に、レウラは俺を背に戻しました。
ああもうやだ、早く終わらせたい。こんなときは火力だ、一撃必殺だ。
レウラの回避能力を頼ってソニックブームをやり過ごし、魔力の増幅を完了させました。
「いくぞレウラ、ドロポン、ついでに教頭? 食らえグランなんとかっ、超ド級マジックブラスト!!」
岩の肉体を持つ竜に純粋エネルギーの塊がぶち当たりました。
それは巨体を浮かせ、木っ端みじんに吹き飛ばす。
そこで思い出しました、欲しいのはコイツのドロップではなく肉体であると。
すぐに術を発動させ、やつの肉体が死と共に灰となる作用を妨害しました。
さて、勝つことは勝てました。ですが問題はここからです。
バカでかい竜を倒したはいいですけど……どうやってこれを持ち帰ったもんでしょうか……。
・
いやちゃんと方法は考えてきたけど、いくらなんでもこれ、デカスギル!
そこで杖の機能の1つを使い、錬金釜を召還しました。
中和剤と水を入れ、魔力をかけて、釜へと竜の残骸、岩の塊を投入して溶かしていく作戦です。実行してみました。
「ピー……ピー……」
レウラがのんきに鼻息立てて熟睡を始めます。
ええまあ、竜の肉体というこの探索の目的を、食おうとしなかった時点でそこは偉いんですけど、手伝ってくれてもいいんじゃない?
「うわ、いつ終わるんだこれ……」
たとえるならそれは、巨大怪獣をちっぽけなポータブル錬金釜で溶かしてゆく作業です。
竜の形をした岩の残骸を、砕いては釜に投入するというどえらい重労働でした。
「おいレウラ、手伝えって!」
「キュゥゥ……」
「あくびしてんじゃねぇよ?! お前のその力、今使わなくていつ使うんだよっ! いいから起きろ!」
「キュ、キュゥゥン……」
やる気のないレウラの力を頼っても、その作業はこの迷宮の滞在制限時間ギリギリ、約6時間にも及んだという……。
・
さて、どうにかこうにかがんばって巨大竜グランエイヴィスを溶かしきると、少しばかし時間が余ることになりました。
この手の制限時間付きタイプの迷宮だと、ただ待っていれば荷物と一緒に追い出してくれます。
そうなると暇です。暇でたまらなくなってしまいました。
「んー、そういや……何か言ってたな、管理者ちゃん。この先に行ってはならない、だっけ?」
せっかくここまで来たんです。ドロップも全部レウラに食われました。手ぶらで帰るのもなんだかなと思い出す。
「まあ別に用件はないけど、眠れる者の寝顔とやらを確認して、みやげ話にするのもいいかもなー」
大部屋の奥に扉がある。それを押し開いて、その先の階段を下ることにしました。
「キッキェッキェェーッ?!」
「お、どうしたお前ら?」
そしたらレウラが俺の道を阻む。
ドロポンも杖の上で暴れて飛び跳ねて、なんか自己主張しています。
ちなみにアースドラゴンの肉体は、宝石の形になるまで密度を上げて結晶に変えました。
それでもでかい、直径20cmはあろうトパーズ色の宝石はちょっとした大荷物でした。
「大丈夫大丈夫、ちょっと見るだけ。眠れる者の顔をちょっと見たら帰るし」
「キェーキェーッギュェェーッッ!!」
「まさか乙女の寝床に忍び入るのは良くない、とでも言ってたり? でもさ、こういうヤバい遊びってちょっと面白くない? 来るなと言われると行きたくなるっていうか」
レウラをひょいとかわして道を進む。
今までと違って階段が深い。まるで奈落の世界に繋がっているかのように暗く、深く、果てがない。
それでも振り返らずに暇つぶしを求めて進んでゆくと、管理者ちゃんが下り坂の奥に立っていました。
その姿といったら、黄泉津平坂に現れた番人であるかのよう。黄泉津醜女と呼ぶにはかわい過ぎるけどね。
「えーっと……気まずいな。ちょっとその、散歩してただけだよー?」
「止めてよ、僕は死にたくないんだ。彼女を起こす理由がないなら、この先に触れないでよ……」
「物見遊山で寝顔を見てみようかと思ったんだけど、やっぱダメか」
「ダメだよ……。君は、この世界が滅びてもいいの……?」
大陸中央高地にある迷宮群、その答えそのものがこの先にいるという。
好奇心をそそられないわけがないです。だけどそうなんだよね、起きちゃうとまずいんだっけ……。
「それは困る。うーん、そこまで言うならやっぱ止めとくか。でもそうだな、もし死にたくないのに死にそうになったら、うちの店を訪ねてくるといいよ。錬金釜で溶かして、新しい管理者ちゃんにして、別の人生を歩ませてあげるから」
「いいから帰ってよ!!」
「いやそれが暇でさ、制限時間切れを待って――あ」
それが本当のタイムリミットだったのか、それとも強制的な排除だったのか、真偽は定かではありません。
ですけど俺は次の瞬間には、迷宮を追い出されていました。
東の空を見上げれば朝日が昇りかけている。
それを眺めていたら深夜テンションも落ち着いて、早く帰りたくなってきました。
巨大なトパーズを撫でる。
目当ての素材はこうして手に入りました。これでレウラを一気に育てて、リシェラ姫がこれ以上不幸にならないよう、奪ってやろう。
機械仕掛けの怪物から、眷属全てを。
俺にはそれができるし、地球人の魂を持つ最後の存在として、ケリを付ける義務が……まあ、無いこともないです。
「あー疲れた疲れた、帰ろうレウラ、ドロポン」
「キェーッ♪」
「うむ、よくやったワレク――ムグゥッ?!」
朝日にクリスタルドロポンが美しく輝き、教頭の魂の宿った杖を、俺は再び入念に縛り付けて封じ直す。
それからアインスさんやお嬢が起き出しているであろうアトリエに向けて飛んだ。
その日、レウラの翼から見た朝日は、その先も俺の記憶に深くこびりつくほどに綺麗で輝かしく、新しいレウラの成長を期待させるに十分なものでした。




