49-3 はぐれエルフ・グリムニールの世界 2/2
「先日さ? たまたま目についてその、グリムニールさんの、素材……勝手に使っちゃったんだけど、いいよね……?」
「な、なんじゃと……」
人の素材を勝手に使うなど非常識ではあるまいか。
思えばオールムのバカもそうじゃった、後で謝れば済むと思っている節があったぞ。
「なんかレアっぽかったんだけど、波長がビンビンきてて素材が俺を呼んでたというか、うん。勝手に使っちゃいました……」
「どれを……?」
「なんかつやっつやの草、肉厚で1cmくらいもあるやつ、トゲのないつるつるのサボテン風、だけどそこはかとなく高貴な輝きに包まれた確実なるレア――」
有罪じゃ! アレクサントが言い切る前に我は叫んだ。
「おいっ、それは我の美容薬の材料じゃ!! ああぁぁーっ……アレを調達するだけで、どれだけの方面に頭を下げたと思っておるッ、このバカ者ーッッ!!」
「あ、やっぱり……? ごめん、zで返すから許して?」
金で解決しようというその心構えが気に入らん!
あれを次に手に入れるのは一体何年後になろうか。
「金で解決する問題ではないわっ、このバカー! 失敗作! ポンコツ錬金術師め!!」
「失敗作とまで言うくらいにはキレてるのな、グリムニールさんかわいいから怖くないけど」
「このっ、ぐっ、ぐぬぅ……しかし甘い、本当にこれは甘いのぅ……、まったくもうお前という男は! まあいいわっ、特別に今回だけ許してやる! そんなことよりすぐに帰るぞ、まずは皆に食わせて説得じゃ! これは大ヒット間違い無しよ!」
「コストの安いリンゴにマイナーチェンジするだけのパクリだけどなー」
まあよい、このネタで毎日あの杖で肩腰を叩かせてやるのみよ。
うむ、リンゴ味の方も実に楽しみよのぅ……。
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我の目論見通りであった。帰宅した間もなく賞賛と感動が上がった。
「グリムニールお婆さま、あなたが神ですか、至福です、こんな美味しい食べ方があっただなんて……アトゥ人生を損しておりました……」
「これを店の前で売るの? あ、お手頃なリンゴに変えるのね。いいじゃないそれ、賛成だわ、早速100個分調達してくるわ!」
アクアトゥスもリィンベルもかじるなり嬉しそうに感動しておった。
ただ単に甘いだけではない、やわらかく、桃本来の甘みが増しておるのだ。
「あらー、おいしいわー。アルフさまもー、どうぞー、あーん♪」
「う、うむ……一口だけもらおう」
「おい、何イチャイチャしてるしお前ら……」
アルフレッドの小僧は甘ったるいのが苦手かの、エミリャの差し出されたそれを1口かじるのみじゃった。
人生損しておるぞおぬし。
「あれ、ダリルとウルカ、アシュリーは?」
「飲みと仕事と仕事だそうよ」
「へーー、みんな仕事熱心だな~」
「待てリィンベル、必要なのはリンゴだけではないぞ、ジャガイモを50だ。どうやら甘味成分に芋を使っているらしいが……芋でどうしてこれほどまでに甘くなるのであろうな……」
何もジャガイモでなくとも良いのではないか……?
確かに安いといえば安いのじゃが……。
「いや待ってお嬢、本気で100個売る気……? よく考えてみて、それ余ったらどうすんの?」
「皆で分けて食べれば良かろう」
「そういうことです兄様、売れなくともアトゥは何一つも困りません」
「そうね、そう考えると……200個分がいいかしら……」
在庫は重要じゃ、売り上げはお祭り気分のおまけで、在庫が余る結果もっとも重要じゃ、大量に3桁売れ残るのが好ましい。
「おいおいおいおいおい……もし150売れ残ったらそれ、10人あたりで15本ずつだぞ、正気の判断か? いきなり強気の製造は首を絞めるって!」
「何も問題ないわ、アルブネア領のエルフたちもいるもの、50人あたりでも3本ぽっちよ?」
「うむ、3本くらい余裕の一食分じゃ」
むしろあの腹ぺこ甘味中毒どもが、たった3本程度で満足するとは思えぬわ。
甘ければ全部正義じゃ!
「うぇぇ、なんか生唾出てきたわ……。虫歯になるぞお前ら……」
「うむ、ならばそれの薬も作っておいてくれ、万人の喜ぶ有意義な研究じゃぞ」
「それは――あ、それは悪くないかも。商売仇もそういないし、薬がどんなに高くても虫歯の痛みが直るなら喜んでzを出すよなー」
そういうことでうちの軒先でリンゴ飴を売ることになった。
結果は見えておる、我の最高傑作がもたらす甘味の素晴らしさを、都に布教することにしようではないか。
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200本用意したリンゴ飴は、最初の売れ行きこそ鈍かった。
ところがじゃ、徐々に徐々に加速して最後は行列を生みだして、たった1時間足らずで完売しおった。
「はぁぁぁー、良かった全部売れたー。って暗っ?!」
「ああそんな……、売れてしまうなんて、そんなのあんまりです……」
アクアトゥスが落ち込むのも仕方あるまい。
おこぼれを期待して200個作ったというのに、1つも残らないなどあんまりにもあんまりじゃ……。
「あら~~~、残念~、食べたかったのにーー、リンゴの飴の方も、アルフ様とー♪」
「気恥ずかしいですエミリャさん。もし可能なら温泉街の方に納品してくれないか、良い呼び水になりそうだ」
ふむ、主要な消費者が領地のエルフたちで固定されそうなも気もしないでもないぞ。
これにはそれだけの魔力があるのだ。
「任せてみんな、次は400個分仕入れてくるから!」
「おおっそれじゃっ、それくらいあれば100個くらいまあ余るじゃろう、その意気じゃ、我も手伝うぞ!」
「いや止めとけってお前ら……」
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キエの孫はやりおるの。すばらしい考えじゃった。
が、よもや追加の400個が30分で全滅するとはそのとき誰も思っておらなんだ……。
恐るべき力、オールムにはない幸せの才能、我は、我が身を用いてそなたを生み出したことを今誇りに思っているぞ、アレクサントよ。
いや、無責任にも罪の全てを投げ捨てた、我の愛したオールオールムよ。
これより甘味をもって次なる時代を征するがよい!
「ダリルちゃんがいないところでそんな面白いイベントするとかずるい! あ、そうだっ、煮干し飴っていうのはどうかな!?」
「うん、それ佃煮だわー」
邪道かと思われたがそれも絶品じゃった。
甘味恐るべし、ありとあらゆる食品に調和するその万能性よ……。




