46-11 花と歓楽街と、強襲の腹ペコエルフ軍団 後日談
後日談――
暗黒街のシウムに急かされて、スロット台を合計48機手配しました。
機械仕掛けの珍しい賭事が始まったと噂が噂を呼び、歓楽街ゴールドレイクに賭事好きの客がどんどん集まっていったのです。
それによりスロット台の行列が連日連夜の長蛇を作り、よって今も俺はさらなる量産を急かされています。
ただこれ、構造が複雑なため、魔力の消費量とか集中力がバカになりません。
いまや毎日が魔力かつかつのバーゲンセールでした。
さらにエルフの酒場ハニーレイクがリィンベル嬢の資本の突貫工事で開店しました。
こちらも天然物のエルフに会えるということで、お高い料金設定にも関わらずの大人気です。
人手が足らず、開拓地のエルフが遊び感覚で手伝いに行くことも多くなったそうな。
そこで俺も、酒には興味ないけど1人のエルフ好きとして実際に行ってみました。
感想はと申しますと、国中外のエルフマニアたちが集まる、不思議な連帯感に包まれた店でした。
楽しそうにお仕事するエルフちゃんたちと、歌を歌ったり、話を聞いてもらう、接待とはまた違う別の何かがあるお店です。
エルフにちやほやされるのではなく、むしろちやほやするのが主目的、お触りは袋叩きが鉄の掟の、酒場の常識を蹴り破るような店に仕上がっていました。
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「おい魔侯っ、これが例の新作かよ! こりゃすげぇなっ、リールが2列も増えてるじゃねぇかっ!」
「アレックスくん、君という人はまったくもう……僕に黙ってこんなものを作って……。困った後輩だよ」
しかし人はゲームに飽きるものです。
そこでスロットの新作台を作ってみました。
まずはモデルとして3台。シウムが言うとおり列を2つ増やして、3x3のスタンダードな絵合わせにしたものです。
「どう、いいでしょ。横3列、斜め2列分のチップを投入できるってことは、理想値で5倍むしり取れるってことだよ」
ちょうど今日はロドニーさんがうちの店を訪れていたので、飛び入りの心の綺麗な方担当としてテストをお願いしました。
結果はというと、相変わらずスロットはシウムと俺に渋いです。
ロドニーさんはそこそこ当たってるみたい。
俺たちの兄貴分の名誉のために言うけどスロットは調整済みです。
だけどどうしても、クズに対しては渋いという謎の仕様だけは残ったようで……ああ、ああ渋い……。
「しかしこれは面白い。実際の現金をかけてやったら、さぞや夢中になってしまうのだろうな……。全く君という男は……つくづく……」
「文句言うのか、スロット回すのかどっちかにして下さいよロドニーさん」
「では黙ろう。これは面白いよアレックスくん」
「こりゃうけるぜ、また国中の賭博好きが飛びつくわ、魔侯様に擦り寄って正解だったわ」
しかし男ってどうして、こういうゲームが好きなんでしょうね。
バクチにのめり込むやつってだいたい男だし、なんか本能とか刺激しちゃうんですか?
「しっかし当たらないなー……ドロポンの絵なんてそろったことないわ」
「悪ぃが俺はあるぜ」
「嘘だろマジかよヤクザ?!」
「開店前のカジノに通い詰めてるからな、アンタとは試行回数が違うのよ」
どんだけドはまりしてるんだよこのヤクザ。
ま、自分が復刻させた遊びを、ここまで楽しんでくれると、困ったことに嬉しくてつい好意をいだいてしまうけれど。
ところがそのとき、いきなり隣のスロットが大量のチップを吐き出し始めました。
ガシャガシャガシャと景気の良い音色が、調合部屋の片隅から部屋全体に広がっていたのです。
「悪いねアレックスくん、シウム。レウラくんが揃ってしまったよ」
もちろん、俺とシウムの台のはずがありません。
もうわかってますから、この機械は俺たちには渋いって……。
「なあ魔侯、なんで俺たちは当たらねーんだ?」
「クズだからだろ……」
「ならクズなりに善行を詰んだら、当たるようになるのかね?」
「いやどうだろな、元がクズなら焼け石に水って気もするけど、試すだけの価値はあるかもな」
するとヤクザがやったら真剣に考え込み始めました。
俺とかコイツが善行? 似合わん、はなから矛盾してる。
「歓楽街の隅っこによ、孤児院とか立てたらよ、スロットのやつも俺にデレてくれるかね……?」
孤児院とかそんなコテコテな。
ただし成長した子たちが暗殺者とかにクラスチェンジするやつでしょそれ。
「僕はいいことだと思うよ。アレックスくん、スロットのチップはどうやって中に戻すんだい?」
「代わりにやりますけど、ロドニーさん仕事はいいんですか……?」
「ああ、もう少しだけやっていこうかと思ってね。ドロポンをそろえてみたいんだ」
くそぅ、そんな777が揃ったら仕事行くみたいなこと言われるとツッコミたくなるけど、スロットに負けてる俺が言えたことじゃないや!
「じゃあ立ててみるかな……孤児院」
するとまた隣でガシャガシャガシャガシャと大当たりの音が響き渡りました。
またかよロドニーさん! って思ってたらまさかの、シウムの台です。画面にドロポンが揃ってしまっていました。
「うわはははっ、言ったはなからドロポンきたぜ魔侯! ドロポン様が言うんだからこうなりゃしょうがねぇっ、立てちまうかっ、でっかいやつをよぉっ!」
「zになんねーけどな。まあいいんじゃないか、たまに良いことして帳消しすんのもさ。俺だって当たるのなら考慮しないでもない」
するとこれはいったいどういうことですか?
目を疑うような光景がそこに広がりました。
ツヴァイが3つが揃って、レウラやドロポンほどじゃないけどチップが吐き出されていったのです。
嬉しい、やっと当たった、ああ脳内麻薬放出されてるわ今……。いやだけどさ。
「俺たちさ、なんか、このスロットにいいように誘導されてね?」
「バクチっていうのは最初からそういうもんだろ。演出してくれてんだよ、偉大なるドロポン様がよー」
「フフ、違いない」
いつからアンタらドロポン教徒になったんだし。
ん? 作業机の上のドロポンがこっち見てるな……いつのまに見られていたんだろう。
本物のドロポンが何か珍しそうに俺たちを遠巻きに、やさしく見守ってくれていました。
いやまさかなぁ……。
俺たち、まさかこの変な生き物に手玉にとられていたりして……。




