43-1 リィンベル・カーネリアンの世界
前章のあらすじ
アインスが死にかけの子猫を連れて帰ってきた。
傷は深く現実的な治療は不可能、そこでアレクサントはその子猫を錬金釜に溶かして作り変えた。
新しい家族のその名前はツヴァイ、アトリエの住民という住民、ドロポンからレウラにまで愛される。
一方、アレクが公都に引き続き定住するにあたって、彼と大公はある契約を結んだ。
特務魔侯となって、魔王は大公家の家臣となって尽力せよ。
ある日、大公からの司令が下りる。崩れた城門を修復し、公都に刻まれた傷跡を消せ。
アレクは瓦礫を釜に溶かして再構成するという荒業で、見事瓦礫を消し、城門を復活させるのだった。
またウルカの紹介でヴァルド街のシウスと呼ばれるヤクザと出会う。
アルブネア新領に歓楽街を創設するので、そこでのしのぎを許して欲しい。
アレクは条件付きでそれに応じる。
それからしばらくしてレウラの教化計画が浮上する。
目指すは南国の夏島、そのためにレウラの積載力を上げよう。
そこでアレクは西のザルツランド王城を訪れる。
オールオールムの古い友メッサーナのホムンクルス部隊と対面し、グリムニールの助言を受ける。
さらには帰国ついでに各園長イアン・シュバルツァーをアカシャの家に連れ帰った。
アクアトゥスとリィンベルらはグリムニールの定時したレウラ強化計画を喜び、目標を新たにするのだった。目指すは常夏の島。
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外伝 名探偵リィンベルの世界
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これなるは断片。
彼を取り巻く数々の瞳に映る物語。
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43-1 リィンベル・カーネリアンの世界
あたしの名前はリィンベル。
生まれはフレスベル自治国、実家はそれなりに大きな商会をしているわ。
でもここがあたしの最終就職先、錬金術師のアトリエ――ううん、今はアレクが勝手に魔王のいるアトリエに看板を変えたこの店が、あたしの居場所なの。
あたしは絶対に実家の力を借りないで、アレクとみんなと力を合わせてここをもっともっと盛り上げてみせるわ。
アルフレッドの領地アルブネア新領も一緒に、いつか叔父様の商会に負けないくらいに大きくしてみせるの。
それがあたしの夢、アレクの隣にあり続けるのがあたしの望み。
アレクはしょうがない人。だけどどうしても見放せないわ。
しょうがない人だとわかっていてもあたしは愛想を尽かせない。
善悪より実験のお金稼ぎが大好きな、世俗的過ぎるあたしの王子様。
趣味が悪いと幼なじみのエイルベルは言うけれど、やっぱり見捨てられない。
目を離したらどこかに飛んでいってしまいそうな不思議な人、それがあたしの世界のアレクサント。
もう心配で目が離せないったらないわ……。
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それはある日のことだったわ。
ああ、そうね。ここでは日常的に事件が起きるの。
アレクが引き起こすか、アレクが巻き込まれるか、たまの例外はあるけれどいつだってアレクを中心に事件が起きるわ。
楽しいこと、怖いこと、呆れてため息を吐いても全然足りないくらいおかしなことばかりだけど、あたしはこれからもアレクを支えていく。
達観してるように見えて子供みたいに無邪気で、大切なもの全てを手元に置かなければ気が済まない、あの寂しがり屋の笑ってるところを見るのが好きだから。
あ、ごめんなさい、話がまたそれていたわ……。
とにかく今回の事件もそうだったの。
アレクが巻き込まれたから、あたしがフォローすることになった。
それはね、あたしたちがかつて在籍していた学校・アカシャの家繋がりなの。
そこで教鞭を取っていたとある教師……あまり思い出したくないのだけど、名前をピカール・ハイデルースという人のことよ。
彼は――いえ今は彼女なのだけど、理解出来ないと思うから細かい説明はあえて避けるわ……。そうね、ここはこの際、彼女ではなく彼と呼ぶことにしましょ……。
彼はことあるごとにアレクを目の敵にしたの。
おかげであたしは、4年間の4分の3をアレクと別の学科で過ごすことになったから、今でもあたしはそのことを恨んでるわ。
そうよ、良い印象なんて無い。この際、この事件を含めて、無いとあたしは断言するわ。
うるさくて、勝手で、アレクを事件に巻き込む悪い人よ。
だけどそれなのにアレクは付き合いを続けてる。きっと心の底から彼を嫌いになれないんだと思う。
ある意味あの2人は、人の迷惑を考えないでわがままを貫き通すという部分では、完全に同類そのものだもの……。
あ、長くなってごめんなさい、それでここからが本題よ。
あたしたちの愛する公都が、侵略の爪痕からアレクの手を借りて復興してゆく中……きたのよ。
またあのハイデルース教頭先生が、とんでもない事件を運んできたの……。
ううん、違うわね、ふふふふふ……もう笑うしかないわ……。
ピカール・ハイデルース容疑者元侯爵夫人が、逮捕されたの……。
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今あたしたちは公都北東デニロウス侯爵領の館にいるわ。
大公様に次ぐ侯爵の位を持つ男よ、それはもう華美で、床が反射するほど磨かれたスカートによくないお屋敷だったわ。
「なるほど読めましたよ、やっぱり犯人は教と――じゃなくてピカール第二夫人で確定でしょう。はい、お疲れさまでした、はい撤収、あー疲れた疲れたこれにて一件落着!」
「一件落着じゃないわよバカッ! 恩ある大公様ご指命の公務じゃないっ、その首繋がったの大公様のお情けなのちゃんとわかってる?! わかってなくてもちゃんとやりなさいよっ!!」
ごめんなさい……この人いつもこうなの……。
出来る人なんだけど真面目さが足りなくて、いい加減で物事の筋道をすっ飛ばすのが大好きな困った人なの……。
「すみませんねフローネ夫人、ちょっと説得しますんで部屋に一度戻りますね」
「ええ、敬愛すべき大公様のご配慮ですもの。どうぞ当家でゆっくりされていって下さいね」
そうね、ここで本音のやり取りをしては犯人に手の内を見せるだけね。
あたしは素直に従ったわ。疑わしき真犯人の前から貸し与えられた客室へ戻ったわ。
「ふぅ……それじゃおさらいしましょ」
一昨日の深夜から朝方、悲劇が起きたわ。
教頭――ではなくピカール・ハイデルース第二夫人が夫、ロバート・デニロウス氏が刺殺されたの……。
原因は痴情のもつれ、犯人は新嫁のピカール、そういうことで事件が処理されようとしていた。
そうね……あたしも新嫁という言葉に違和感があるわ。だけどそういうことは考えないに限るのよ……。