41-6 平和直行のチェックメイト これにて完全勝利
「ぷ、ぶぎゅぅぅぅぅ……」
ユーミル北部雪原地帯、地下洞窟前。おっさんの案内により無事現地に到着しました。
さすがのレウラも4人乗り、しかも鍛えられた中年の体重が加わるのはつらかったのかその場にへばってしまいました。
「偉い偉い、がんばったねレウラ。無理言ってごめんね」
「お前の足がなければ俺たちは一方的にやられていただろう。お前は、アレクサントの最高傑作だ」
「きゅぅぅぅ……♪」
勝手に決めんなよそこ。
まあマジで今回はレウラの世話になりっきりで、これ否定できんところだけど。
「じゃあ鬼退治といこうか。レウラ、きっと中の方が暖かいぞ」
「きゅぅ……っ」
ってことで杖の先に炎を灯し、暖房代わりにしつつ洞窟を真っ先に下らせていただきました。
さあもうじき騒動の犯人とのご対面、なんかもう逆にワクワクソワソワしてきちゃいます。
「だからどうしてお前は魔法職なのにっ、わざわざ前に立とうとするのだこのウツケめッ!」
「はいはい、せんせーは照明とレウラの抱っこ担当ね」
「えー、その後半のヤツこそ重労働じゃねー?」
前がアルフレッドと軍人おっさん、後ろがウルカ、真ん中が俺とレウラという布陣に強制変更されました。
まあいいけどさ、いややっぱいつも以上に重いわ……コイツ帝都でどんだけ食ったんだよ……。
「止まれ……」
「奥に護衛がいます」
アルフレッドとおっさんが小声で警告しました。
俺もそれにあわせて明かりをゆっくり消すと、奥に人影とたき火か何かの光源がありました。
「数は7人かな~、何となくだけど息づかいとか足音が、そんくらい……」
「なら制圧しよう。ああ余裕があれば殺さないでおいてよ、本体を破壊すれば彼らも支配から解放されるはずだから。……じゃないと後味悪いじゃん?」
あれも魔王の力で味方に引き込もう。
……と行きたいんだけど、まだそこまで連発出来そうもないのです、だから今は倒すしかない。
奥は小部屋状に広くなっているようです。
さらに近づいて確認してみたところ、洞窟奥への通路も見えました。
「殺した方が早いんだけどなぁ……」
「ウルカ、ここの領民としてそれはどうかと思う、止めてくれ、これ以上国民が死ぬ姿を俺は見たくない」
「支配されていた俺も同じように思います、お願いします」
とにかくコソコソ話し合うにも限度があります。
じゃあ俺が行くからと前に出ようとすると、俺を押し退けてウルカとアルフレッドが敵に突撃しました。
「敵しゅッ、ウガッッ!!」
「迎撃せ――グッッ……」
「ウルカ、俺は手加減しろと言ったはずだぞ……」
「殺してないよ、ボクとしたら大甘の砂糖菓子みたいな対応だよ、クススッ♪」
え、俺の出番?
うん、照明さんとして杖から明かりは灯したよ。
ウルカとアルフレッドが全部を圧倒して、1人残らず床へとのしました。
ちなみにおっさんの出番もまたほぼ無し、ただ俺の正面を守って下さっていただけでした。
「でもこれで気づかれた可能性もあるよ、先を急ごう」
「そうだな……よし進軍だ」
仕切りたがりのアルフレッドの背中を追ってさらに洞窟を下ります。
ああどうやらさっきのやつらが最初にして最後の護衛だったっぽいです。
で、その先にあった空洞が洞窟の最深部でした。
そこも部屋と呼べるくらいに広くなっていましたが、どうも奥の方に巨大な何かがうずくまっていたのです。
抑えていた照明魔法を強くすると、予想とそう変わらない異形の怪物の姿が現れました。
「こ、これがあの……何だ、コイツは……ッ」
「うわ、なにコイツ、ヤバい、なにこれ……禍々しいなんてもんじゃないよ……ッ、こんなの相手にしてたのボクらッ?!」
機械仕掛けの神、古なる者の本体でした。
俺の知る個体と異なるところがあるとすれば、それは足です。その個体は片足がちぎれて内部回線が外に露出していました。
顔を持った人型の巨大機械、それだけでもうこの地の人間からすれば理解不能の怪物でしかありません。
「お、おいっ?!」
「せんせー近づき過ぎっ!!」
戦慄する彼らをおいて俺は古なる者の正面に立ちました。
高い位置にあるその顔を見上げると、その瞳が、モニターが赤く光りだしました。どうもこの個体は隻眼のようです。
別個体との戦いで傷ついたのでしょうか。
「コイツそのものにはさしたる戦闘力はない。……さて破壊する前に1つだけ聞こう。伝説の錬金術師オールオールムの妻、エルリースを病死させたのはお前のまきちらした呪いか? それとも別の個体か? あるいは、500年ほど前に俺と似た顔をした女を、呪ったことはないだろうか」
ヤツもこうやって1体1体おうかがいを立ててから破壊してたんだろうか。
結局破壊するのは変わらないというのにな。
「知ラナイ...復讐者ヨ...個体、違イ、ダ」
「それは残念だ。……ならもう消えるといい、俺はそういうつまらない尻拭いを頼まれたんだ」
「懐疑、スル...我ノ、装甲ヲ、破壊、スルナド、不可能...衰退、文明、不可能、懐疑...」
「いや、それがそうでもないんだよ」
まさかこの個体にも自我が芽生えたのでしょうか。
それとも最低限の人型装置としてのA.Iを搭載してるだけなのか。ただの錬金術師にわかるわけありません。
俺は切り札を取り出して機械仕掛けの神に見せつけました。
「魔力が戻ってたらこんなのいらなかったかもしれない。だけどまあ、今回はご厄介になるとするよ」
「ねえせんせー、それって、なに……? 似たようなのをアトゥに作らせてたよね」
「長細く先が尖っているが……不思議な物体だな」
機械と俺だけがその正体を理解できました。
魔王キアが俺によこした対物ライフル、その銃弾です。
コレはこいつらを消すための魔王様特別仕様のやつでした。
「あ、みんな耳塞いでおいた方がいいよ。ただでさえ洞窟だしねここ。……それじゃ、さようなら、長らくおつとめご苦労様だ、古なる者よ」
「我ハ、銃弾、デハ、破壊、デキ――」
銃撃の轟音が3度響きました。
ダリルの工房の何でも精錬装置で、鋼鉄製のパイプを作らせました。
そこに銃弾を仕込み、魔法の力で炸裂させて打ち出したのです。パイプは3発目で裂けたので捨てました。
「人類ヲ...一ツニ...人類ノ.宿...願...人類...否定...否定...否定......」
魔王キアが作った対古なる者用の特別製です。
装甲を貫き、内部回線に到達すると電気的に機能をショートさせます。
機械仕掛けの神、人類意思統合システムは瞳の輝きをゆっくりと、永過ぎた稼働時間をもようやく停止させました。
「破壊したのか……?」
「耳は押さえてたけどさっ、十分うっさいよっ!! ああもう、耳の奥痛いっ……」
「警告はしたでしょ。うん、これで完全に壊れたよ、ここにあるのはただのジャンクパーツだ。じゃ、上の人たちを起こして外に運ぼう。それから落盤させてここを墓標にしてやるか」
素材として回収するつもりでしたが、場所と状況が悪すぎました。
道すら無い北方の僻地から、こんなでかいの公都まで運搬したら損するだけです、金かかり過ぎ、ヤダ。
「なんか終わったって感じしないんだけどなぁ……」
「俺もだな。確かに異形の怪物だったが……こんなものが、民を操っていただなんて、やはりどうも信じかねる……」
「理屈はいいんだよ。これでヒルデガルドの操られた者たちも、ポロン公国に攻め込んでる兵士たちも正気を取り戻すよ。はいこれにてチェックメイトの事件解決、和平成立だ」
いやさ、終わった感じしないって、そういうの止めようよそういうの。
変なフラグ立つでしょ、例えばホラー映画で言うところのようやく倒した怪物が実はまだ……そしてラストシーンでいきなり、ギャォォーッッ! とかさ。
マジで止めてよねそういうの。こいつは壊れました、絶対壊れたんだからこれでいいんです解決です!