4-01 ロドニーさんからの依頼 1/2(挿絵付き
前章のあらすじ
彼のアトリエには従業員がいなかった。
これでは採集にも出かけられない。
そこで懐かしき農場長に相談すると、奴隷を買いなさいと即断される。
彼に説得され奴隷商人の店に出向く。
そこでアレクサントは[死の宣告・2]の呪いがかかった少女を半値以下の4万zまで買い叩く。
商談が成立したかと思われたが、そこに鑑定士のモショポーが割って入ってくる。
競り合いを嫌ったアレクサントが賭での決着を持ちかけると、あれよあれよと奴隷兵士との剣闘試合の段取りがまとまってしまっていた。
途中、剣を落とすもアレクサントは裏技を使って勝利。
彼の心意気に感動した奴隷商はタダで呪われた少女を譲り渡すのだった。
彼女の名はアインス・ガフ。
錬金術師のアトリエの初代店番にして、この先に続く様々な因果を招く者。
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初依頼、公国軍士官ロドニーからの頼みごと
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主人はロドニー様のことを兄のように慕っております。
貴族科で受けたいくつかのご恩。
まあその大半は餌付けだったようですが、あのスーパー優男な気品に主人はメロメロもキュンキュンでございました。
いえ、一応断っておきますと主人はホモでもバイでもゲイでもございません。……はずです。
知っての通り主人は癖の強いお方です。
その彼が兄を慕う弟となり果てるのですから、まあ多少の疑惑をかけられたところで致し方ありません。
……話が脱線いたしました。
主人はロドニー様を尊敬しております。
そのロドニー様からの依頼が舞い込めば、どんな無茶振りであろうとも断れるはずがございませんでした。
これが初依頼。
果たしてアレクサント様は、無事にロドニー様の期待に応えられるのでしょうか。
それでは第四章のはじまり、はじまりにございます。
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4-01 ロドニーさんからの依頼
その日、思わぬ人がアトリエにやって来ました。
アインス・ガフを連れ帰ってより、はや半月が過ぎた頃のことでした。
アクアトゥスさんからの贈り物で、店の玄関扉にシャレた鈴が取り付けられていたのですが、それがいつものようにチリンと鳴り響きました。
はい、その澄んだ音色は来客の証であると同時に、侵略の烙印でもあるのです。
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「突然押しかけてしまってすまないねアレックスくん」
それはロドニーさんでした。
奥で釜をかき回していたら、従業員のアインスさんが応対してくれていました。
それであれよあれよと持てなしの手配が進み、気づいたらロドニーさんとお茶をすすっていたわけです。
「いえ、ロドニーさんなら大歓迎ですよ」
「フフ……嬉しいことを言ってくれるね。こんなことならもっと早く遊びに来るべきだったかな」
「いいですよ、これからはぜひそうして下さい」
アインスさんってば優秀です。
なんかもうこのままボケても安心介護生活ってレベルです。
「仕事の方は順調らしいね。ここの噂はもう耳に届いているよ、まさかこんな店を始めるだなんて思いもしなかったよ」
紅茶を飲んでるだけで絵になる人です。
爽やかにロドニーさんが微笑んで、相変わらずの聖人オーラを発散されてました。
「軍に来てくれなかったのは悲しいけどね、けど良い店じゃないか」
「すみません……。ロドニーさんにあれだけ気にかけていただいてたのに……」
その聖人様が悲しいと言われるのだからこっちはすご~く申し訳ないです。
でもやっぱり軍は自分に合わない気がするし仕方ないかな。
「謙遜しなくていい。ポーションも適正価格で上等なものを売っていると評判だよ。アレックスくんは軍属程度では収まらない男だったということさ」
ロドニーさんが褒めてくれた。
なんかメチャクチャ嬉しくて、俺には似合わない笑顔を向けてしまった。
それくらい嬉しい。
彼という立派な人が俺なんかを認めてくれたのだから。
「……うん、まさかこんな変わり種の従業員が増えているとは……さすがに予想できなかったけどね。美味しいお茶をありがとう。ええっと……アインスさんだったかな」
でも奴隷を買ったのはそれだけ後ろめたい……。
まあ、買ったっていうか貰っちゃったんだけど……。
「はい、私の名前は、アインス・ガフです。どうぞよろしく、お願いします、Mr.ロドニー」
あーそうそう。
あのままのアインスさんじゃ、さすがに接客に問題あるので従業員教育ってのをさせてもらいました。
その成果がこれです。
おお、何ということでしょう……。
あの緩慢でおぼつかなかった口調が、とぎれとぎれなれどご覧の流麗さです。
そしてさすがの高DEX高INT。あっという間に店の仕事を覚えてしまい……いやぁ、俺の出番がほとんどございません。
むしろ店主が接客すると嫌な顔する常連までいて、物欲しげにアインスさんへと目を向ける始末でした。
なにせ見た目麗しきロリ美少女さんですから、そっち系の?
な~んか今までと毛色の違うお客さんまで現れてきちゃった次第であります。
ま、たぶん。あそこの環境が悪かったのと、アインスさんのやる気の賜物なんだと思います。
なに考えてるのかわかんないですけど、アインスさんもこの仕事が楽しそうに見えますし、そもそも相応のやる気がなかったら会話能力も改善されるわけがないです。
「……どうしたんだいアレックスくん、彼女をずいぶん熱心に見つめているね……自分の従業員がそんなにかわいいかい?」
アインスさんは店の仕事に戻りました。
その後ろ姿をロドニーさんの前なのに、なんかボケーっと見つめてたみたいです。
「そうですね、これだけがんばってもらえるとそれも否定しにくいです」
「おやおや。アレックスくんにしては素直な感想だ」
視線をロドニーさんに向けると、温かい大人の瞳が俺を照らしてました。
ところがどうしたことか、テーブルの前にアインスさんが戻って来ます。
「ご主人様」
「ん、なにアインスさん?」
何か言いたげです。
たびたび勘違いしてしまうけど、彼女にはちゃんと話が聞こえているんでした。
どこか気に障ったのなら謝ろう。
「わたしは、かわいい、ですか?」
「へぇ……? あたたっ」
アインスさんに足りないのは自発性です。
なのに彼女の方から思いもしない質問をされて、首を傾げるあまり骨が悲鳴を上げました。
「アレクサント様、わたしは、かわいい、ですか?」
「あ~~、うーん……えーと、その……。えぇ?」
彼女と暮らして約半月、これまでにないパターンでした。
年頃の男の子が期待するような展開なんて一度もありません。それが今日に限ってどういうことでしょう。
「かわいく、ないですか……? そう……ですか……」
対処に困っていると視線を落とし、ショボショボとまた仕事に戻っていきました。
あれ、ミスったこれ?
「アレックスくん、そこは恥ずかしがっちゃダメだよ」
「いえあの……いきなりのことで……すみません、変なところ見せてしまって」
そうすると俺を諭すようにロドニーさんが教えてくれます。
大人の余裕とか気品ってやつを。
「女性はちゃんと正直に褒めてあげないと、必要もないのに落ち込ませてしまうよ。今の流れならあの子に笑いかけて、かわいいよと一言答えるだけで良いじゃないか」
「いや……それはちょっとさすがに……フツ~にハードルめちゃ高くないっすか……」
さすがはロドニーさん、女の扱い方がジゴロ級です。
俺も真顔でこんなこと言えちゃう大人になれるかなー、なりた……くはないな。
そりゃカッコイイけど、ロドニーさんじゃないと許されないリアクションじゃないですかねそれ。
……とはいえアインスさんのやる気がすこぶる下がってます。
具体的に言うと棚の前でボーーッとポーション眺めたまま動きません。
「ほらアレックスくん、彼女は大切な仲間だろう? なら励ましてあげないと」
「あー……すみません。じゃ少し失礼します」
イスから立ち上がってアインスさんの後ろに立ちました。
こちらに気づいたみたいで、ヒラリと繊細なショートカットがひるがえります。
「あーー……アインスさん」
「はい……ご用件は……なんございましょうか……ご主人様……」
なんか落ち込んでます。
人間らしさが戻ってきてるんでしょうか。
床に落ちていた視線がビクビクと上目使いで俺を見上げました。
「いつも助かってます。こんなにがんばってくれるだなんて思ってもいませんでした、ありがとう」
ちゃんと言葉は伝わってます。
表情は怯えから興味へと変わり、不思議そうにアインスさんがこちらを見つめてきます。
「それでその……あーーー……うん。そ……その服、似合ってるんじゃないかな。その服……か、かわいいよ……?」
「ぁ……。本当、ですか、ご主人様……!」
アインスさんが機嫌を直してくれました。
相変わらず壊れてる感じですけど、喜びみたいなのがヒシヒシと伝わってきます。
「フフ……確かにかわいい服だね。娘に一着欲しいくらいだ」
「いやっ、言っときますけどっ、これ俺の趣味じゃないですからねっ?!」
最初なに着せるのが良いのか悩みました。
市民生活とはほど遠い、ボロ布みたいな上下しか彼女は持ってませんでしたし。
奴隷商さんからあのきわどい下着とかもサービスで貰ったんだけど、あんなん着せて仕事させたら職人街中のエロジジィが大集結して大変なことになります。
この場合、ゲームとかラノベとかだとメイド服が定番なのかもしれないです。
でもごめんね、そんな勇気なかったです。
ダリルに、アシュリーに、鼻で笑われるに決まってますもん!
で。じゃあどうしようかとダリルに相談したら、それじゃ服買いにいこうよって話になって……。
でもなかなか決まらず街をさまよって、気づいたらなぜかあの雑貨屋キルトにいて……。
「本当です。かわいいです。アインスさんの、その服」
あれ何緊張してんの俺、何で片言だし。
「そうですか、それは、とても良かったです。とても、とても、とても良かったです。大切に、大切に、します。大切に」
今思えば大人しくメイド服にしとけば良かったです……。
アインスさんの着込むそれはさらに店主の趣味を痛々しく飾り立てるものでした……。
あれです……俗に言うロリータ・ファッションってやつです……。
フランソワ婦人のコーディネートにより、まるで人形で着せかえ遊びしようみたいなノリで仕上がっていきました……。
ちなみにメインカラーはピンクです……。
そのアインスさんが、かすかにだけど嬉しそうに笑った気がしました。
少女趣味丸出しのロリ服をそっと抱き、思い出したように仕事へと戻っていきます。




