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40-01 アトリエ再開、げに珍しき警鐘者来る


前章のあらすじ


 レウラの背を借り、アレクサントは大陸西端ザルツランドに飛んだ。

 そこでグリムニールと公都異界化事件以来の再会を果たす。

 夫オールオールムの精神を内封する彼は無意識に彼女を抱き寄せ、自分のアトリエに来てくれと強く願った。


 だが今すぐは無理だと断られる。

 グリムニールは己の役割と研究を優先し、秘密の段取りの進行と、仇敵・古なる者の呪いの予防薬作りを優先させた。

 必ず合流すると新しい約束を結んで。


 その翌日、アレクサントは魔王キアの遺跡に向かった。

 外側は廃墟も同然だったが、地下には驚くべき光景があった。

 光を放つ廊下と、日本語で案内された看板。そしてイアン学園長の姿を見つける。


 学園長が語る昔話。

 その昔、キルケゴール・アダムという男がいた。

 しかし彼の世界、地球は滅びが確定していた。

 原因は生命の輪(リヴィエラ)と呼ばれるシステムが起こした戦争。


 そんな中、一人の名も無き少年がコールドスリープ装置より発掘された。

 カインと名付けられた彼は、人類意思統合システム・生命の輪の干渉を受けないという奇跡的な個性を持っていた。


 キルケゴールは彼と交友を結び、未来の新人類に彼の細胞を埋め込むことをもくろむも、あと一歩のところで施設への爆撃を受けてしまう。

 キルケゴールとカインは地球を捨て、時空転移を用いて世界を渡るのだった。


 しかし生命の輪システムは新しい世界にも存在した。

 そこでキルケゴールあらためキアはあえなく古なる者に呪われ、亡きカインの肉体をもってそれを克服した。

 それが魔王キアの真実、以降キアはオールムと等しく古なる者の破壊を目的にその生涯を終えた。終わり。


 魔王を継承させる為に、イアン学園長は次にアレクサントをVRシステムにダイブさせた。

 そこで魔王キアの仮想人格と言葉を交わし、彼に継承を認められることになる。

 今回の戦果は、魔王の剣、対古なる者仕様の対物ライフル、そして魔王の腕輪。

 魔王の腕輪の果てしないデメリットを、アレクサントはまだ知らなかった。


―――――――――――――――――――――――

40章 ルルド教の真実とアトラス、魔王の腕輪

―――――――――――――――――――――――


 人は過去を思い出しては後悔する生き物でございます。

 あんなことしなければ――

 もしこうしていたら――

 もっとやさしくすれば良かった――

 聖域のキエ様いわく、後悔の数は老いるほどに積み重なり、消えずに山と化してゆくものだそうです。


 さてリィンベル・カーネリアンにも1つの大きな心残りがございました。

 はい、このたびのお話はそれでございます。

 それでは皆様、友情と再会、愛すべき魔王の序章、そのはじまり、はじまりでございます。



 ・



40-01 アトリエ再開、げに珍しき警鐘者来る


 帰国するなりぶっ倒れました。

 およそ1週間を長い熱病にうなされ続けたのです。

 ウィルス感染には気を付けるつもりだったのに、これではなすすべもありませんでした。


 もしかしたら最初からそういった毒やウィルスが腕輪内部に仕込まれており、それがあのとき注入されていたのかもしれません。

 魔王キアの腕輪は、死に至るギリギリの窮地へと着用者を追い込むための巧妙な道具だったのです。


 さて熱病から復帰すると、さらに厄介な症状が現れていることに気づかされました。

 というのも身体からありとあらゆる魔力そのものが、綺麗さっぱり枯渇していたのです。

 もちろん原因はこの魔王の腕輪、腕輪そのものが魔力を俺から無尽蔵に吸い上げていました。

 よって錬金術も、冒険者ごっこも不可能。俺はただの小ずるくてウザいやつに急転落していました。


 そこでかねてよりの予定を早めることにしました。

 アルブネア新領から公都の錬金術師のアトリエに拠点を戻したんです。

 まずは俺とアトゥ、ウルカ、アインスさんとリィンベル嬢というメンツで一足先に。


 まあといっても例の転送装置スレイプニルの石段があるので、あの屋敷とこのアトリエは繋がった2つにして1つ建物であり、ただ単に配置が変わっただけとも言えちゃいます。

 

 ま、つまりはアトリエ業務再開です。

 店番は俺、調合はアトゥとアインスという新鮮な図式にあいなりました。



 ・



 ところでここからが本題です。

 魔王の腕輪を付けて12日目のある日、妙な客がやって来たんです。

 あえて他の連中が出払ってるタイミングを狙って現れたのも、思えば何か理由があったのかもしれません。


 え、魔力復活までの俺の護衛? ドロポンとレウラが手元にいるからそこは全然大丈夫。

 ピンチになったら石段経由でアルブネア領に逃げ込んで、転送装置そのものを止めちゃえばいいと思うよ。


「またな店主、久しぶりに顔を見れてよかったよ」

「まいどあり~、遠征がんばって下さいね」


 顔見知り客を見送ってカウンターに突っ伏しました。

 するといささか目立つ種類の来店客がいることに今さら気づきます。

 それは赤いフードとマスクを付けた女でした。

 目元と手元からだけ浅黒い肌を露出していたので、まあそれに目を引かれないはずがありませんでした。


「まいど~、またどうぞご用命を」


 彼女は店内をふらふらと物色していましたが、俺が残りのお客をさばき終えると見計らったように手元のポーションをつかみました。

 そんでこちらにやって来てカウンターに置き、とある印象的な言葉を口にされるのでした。


「リィンベルはいるか?」

「ああ、お姉さんお嬢の知り合い? だけど今はいないよ、代わりに伝言しておきましょうか?」


「いや、それは要らん。そうか、今はいないのだな……」


 変わった客でした。

 その赤いフードとマスクの女が、会話中だっていうのに遠く窓の向こうを見つめ始めたんですから余計に不審です。

 ほどなくしてそれを止めました。

 彼女は変わらず黙り込んだまま、カウンター前であるのにも関わらず人を無視して店内の方を見回し始めました。


「えーと、そのポーションどうされますか? お嬢のお知り合いだっていうなら特別にそれ、貴女にプレゼントしようかと思い始めたんですけど」

「……ポーション? ああ、なんだ、これのことか」


 凛としたクールな声でした。

 その彼女がやや上の空で、カウンター上のポーション瓶を軽く指で傾かせてもてあそびました。

 それがポーションとは知らずに持ってきた、ということになりますね、コレ。

 何だろ、このお客さん……お嬢の知り合いにしたってどうも挙動不審だな。


「……お前がここの店主の、アレクサントか?」

「ええ。しばらく人に任せてたんですけど、最近また戻って来まして。ほら、アルブネア新領ってのが出来たでしょ? アレの手伝いをしてるんですよ」


 何せ露出しているのはクールさんの目元だけです。

 口数の少ない性格なのか返答も遅く、不思議奇妙なこの客と俺は長いにらめっこをするはめになりました。


「……すまない。俺はこの国の住民じゃないから、詳しくは知らない……」

「そうですか。ああ、そういえばお名前をうかがっていませんね、お嬢に来たとだけ伝えておきますよ」


 名前を聞いておけばお嬢から事情を聞けるはずです。

 ところがフード女は返答をくれませんでした。

 さっきから値踏みするような強い視線が、俺を見つめてばかりいたのです。


「お前は……リィンの、夫だそうだな……」

「え、夫? ……あ、ああ、まあ一応ね?」


 そうそう聖域に入るためにそういうことにしたんだよね、形だけ。……って付け足しかけて止めました、大人になったね俺。

 ところが俺の返答が気に入らなかったのか、彼女は目線を不機嫌なものにして睨んできました。

 どうやらこれは、お嬢に執着しているご様子です。


「まさかお前の妻が……よりにもよってリィンベルだったなんて……。こんなの思いもしなかった……」


 それは独り言なのか、それとも別の意図があるのか判りかねる言葉でした。

 何となく思い悩んでいるように見えなくもない。


「リィンは元気か……?」

「ええそりゃもちろん、みんなで楽しくやってますよ。お嬢は小さいけど、面倒見が良いから誰からも慕われてる」


 俺がお嬢を褒め称えると彼女の目元がやさしく細まりました。

 もしかしてこれ微笑んでるのかな。


「リィンはやさしいからな……。それも、天使のように……。ッ……なのに、俺は……なんであんな……」


 かと思ったらなんか悲しそう?

 どちらにしろうちに来た用件が今一つわかりません。

 お嬢繋がりで何か言いにくい用件でもあるんでしょうか。


「あの、それでご用件は?」

「ああ……そうだったな。公都の錬金術師アレクサント、頼む、今すぐリィンベルと別れてくれ。……お前は危険だ、リィンの夫にふさわしくない」


 ああ、そうきましたか、なるほどね。

 リィンベルはカーネリアン商会の経営者一族にして、エルフの母キエの孫娘です。

 よって押し付けがましい輩もこれまでいないこともありませんでした。


「では普通に考えましょう。どこの誰かもわからない人に妻と別れろと言われて、はいそうですかじゃあ別れます。って答えるやつなんてこの世にいるんでしょうか、さて、貴女は、どこのどなたなのですか?」


 じゃあ常識に乗っ取ってつまんない返事で返してやります。

 もしかしたら逆上するかとも予想してましたが、彼女の選んだ行動はちょっと想定外のものでした。

 赤いフードを急に下ろして、マスクを外したのです。するとそこに世にも変わった風貌が現れることになりました。


 いえ見覚えはあるのです。俺を作ったアイツ、オールオールムと同じものです。

 エルフより小さい耳、だが人間と比較すれば悪魔のように尖ったもの。

 それは褐色のダークエルフにしてハーフエルフでした。艶のある真っ黒な髪をした、モデルのように背の高い綺麗な女だったのです。


「ただとは言わない」


 その美人さんが、凛と涼しい声が意思をもって言いました。


「俺が、代わりにお前の妻になってやる……。どんな汚らわしい欲望も、俺が代わりに受け止めてやる……。だから……だからリィンベルと別れろ。聖域に、アストラコン様のところに彼女を戻せ……」


 まさか己を差し出すとは大した覚悟でした。

 そうなるとそれだけでお嬢との関係の深さがうかがえました。

 つまり美人さんがプレイ制限無しのお嫁さんになってくれるとおっしゃっています。


「……なるほど、さすがにそりゃビックリな申し出だ。だけどね、その言葉は俺にではなくリィンベル嬢に言うべきでしょ。言ってもお嬢が応じるはずがないから、わざわざ俺に言いに来たとしか思えない」


 正論が必ずしも適切になるとは限りません。

 実際、俺の言葉は彼女の態度を悪化させました。

 病的なほどに暗くふさぎ込んだかと思えば、敵意むき出しで俺をまた睨んできたんですから。


「アレクサント……お前は危険だ……。お前は、アレを討とうとしてる……。なら、ならお前は……周囲の大切な者全てを今すぐ遠ざけるべきだ……。リィンを……リィンを死を招く争いに巻き込むな!」


 だけど不思議と嫌な気分にはなりません。

 彼女の言葉と敵意は全て、お嬢のために俺へと向けられたものでしたから。


「魔王を継ぐ者よ、お前にこの身を捧げよう……。だから……だからリィンと別れろ……。貴様の汚らわしき欲望、思うがままの全てを! 俺が代わりに叶えてやる!! お前は……お前はリィンを魔王の妻にする気か!!」


 え……ちょっと待ってよお姉さん……。

 今貴女、魔王って言ったよね……。何で貴女がこっちの事情を知っているんですか。


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