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39-11 魔王キアを継承する者と、その……

 これでじわじわと魔王になれるはずです。

 ただそれがいつになるのやらわかりません。

 だけど副作用の一時弱体化のデメリットを支払うなら、平和な今現在のうちなのは絶対間違いない。


「兄様ッ!! アトゥがあれほど忠言いたしましたのにっ、何で兄様は勝手にそうやって段取りをどんどん進めちゃうんですかっ!」

「それがアレクサントくんなのでございましょう。反対されるくらいならば、反対出来ない状況にしてしまえ。そう考える困った生徒ですからな、フフフ」


 学園長の悲願もこれで叶います。

 彼が俺の行動を否定するはずがありませんでした。

 彼は大喜びで目を血走らせて、予想外にも唐突に、とある紙を俺の前に差し出しました。


「ん、なんですこれ?」

「はい、地図のようですが……またこの文字ですか……」

「貴方がポットで眠っている間に、端末から印刷出力されたものです。どうぞよくご覧になって下さいませ」


 紙を受け取り正しい向きに直しました。

 地図には日本語が一文だけ記されていたのです。ちょっと胸のわくわくするような熱い単語が。


「魔王の軍勢、って書いてあるな」

「ぐ、軍勢……?!」

「ご名答にございます、これは彼が残した軍勢の手がかりでございましょう、2代目魔王キアよ。さあ我ら部族の主よ、キアの悲願を継承する者よ、どうか我々にご命令を」


 うわビックリしました。

 あの学園長が地にひざまずき、仰々しい儀礼を俺ごときに捧げるんだからもう……超居心地悪い……。


「学園長にそんな芝居好きなところがあったとは意外だよ。つかそんな態度取られても困るし、じゃあこれまで通りでいいからここの調査お願い。友人として」

「学園長ッ、兄様を冥府魔道の道に引っ張らないで下さい!」


「それが終わったらこっちに来るか、グリムニールさんの支援をしてあげて。だって学園長のやりたいこともあるでしょ、研究者なんだから」

「フフフ、申し訳ございませんアクアトゥスくん、そればかりは譲りかねます。ならばお言葉に甘えていつも通りでまいりましょう、では、アレクサントくん、君はこの後どうされるおつもりですかな?」


 それは決まってます。

 腕輪を装着した以上、安全圏にトンボ帰りするしかない。元から公都に帰る予定でした。


「やることもやったしもう帰るよ。あ、あそこのお宝の山は、正直超欲しいんだけど運搬がめんどくさいよね。この場所をどこかに漏らすことにもなりかねないし。だから良いものだけ貰ってくから、残りは学園長とグリムニールさんの研究資金にして」


 魔王キアの城跡はいいんですけど、この地下は絶対に誰にも見せちゃならんものです。

 このオーバーテクノロジーをこの世界の人々が身につけてしまうと、それだけで滅亡が早まるって現状からしても。


「あ、あの兄様が人様に金目の物を……譲った……。あ、ああああ兄様ッ、ね、熱はございませんかっ?! 一体どうしたっていうんですかっ、こんなの、こんなのいつもの兄様じゃありません……!!」

「いやそんな大狂乱で驚かれても……。別にただ、ほら、魔王キアにちょっとだけ敬意を払っただけだよ。あと魔王の遺産としては宝の量が意外としょっぱくて、場所の発覚リスクと釣り合わないな……とか思っただけ。心の中じゃ血の涙流してるから安心してよ」


 投資分が帰って来るにはまだ早いですが、アルブネア新領って金づるもあるし、ここで業突く張りする必要もないんですよ。

 あの対物ライフルも持ち帰らなきゃいけないし。


「大人に……なられましたね兄様……」

「いやいや本当の大人はもっと意地汚いよ? じゃそういうことだから帰るね学園長。あ、なんか伝言とかあります? 例えば教頭あてに、もうちょい慎みと、やさしさを持ってお仕事しましょうね、とかそういうやつ」

「あ、それは名案だと思います兄様! 全生徒および教師がむせび泣いて喜ぶこと間違いありません!」


 少女化したところで教頭は教頭です。

 見た目がかわいいからマイルド化されてるとはいえ、あの性格なのできっと迷惑をかけてるに違いない。


「ホッホッホッ、魔王様をメッセンジャー代わりにしろと申しますか。では、ハイデルース教頭に一筆したためるといたしましょう」

「いいねいいねー、ちなみになんて書くんです?」


 ガツン! と一喝するような内容に俺が軌道修正させてやります。

 場合によっては2代目魔王キア様特権使ってでも。


「そうですな、アカシャの家の業務についての部分が主ですが……まあしかしそのついでになのですが、フ、フ、フ……。アレクサントくんがその気になったその時は……学園長の座を彼に与えよ、と命じようかと考えております」

「あ、兄様が、学、園、長……」


 アクアトゥスさんの顔色がこの最悪の判断に暗く曇りました。そうですね、これは最低最悪の人選です。


「それは止めて、絶対教頭ブチ切れるし、問答無用で偽書認定されるよ? そんなの止めときましょうよ、てか俺なんかが上に立ったら、みんながみんなキレるよ? 猫かぶってるだけだし俺、最近それもだいぶ露呈してきたしね……」

「兄様、アトゥはそのご自覚があったことに驚きです。はい、そのような手紙は教頭先生の心を逆撫でするだけかと思われます学園長……。また怒り狂った教頭先生が、うちに押し寄せてくることになるかと……」


 まあかといって、イアン学園長の代わりをこなせる人材が他にいるのかというと難しいところかもしれません。

 マナ先生なんて慈愛あふれる人格者だけど、言うまでもなくアレはダメ、絶対、権力笠に着てとんでもない暴走を起こす可能性あり。

 ダンプ先生は生涯現場タイプ、その他先生方も無難な人こそいますがイアン学園長には大きく見劣りします。


「ヒッヒッヒッ……まあ貴方がそれを望んだそのときの話でございますよアクサントくん」

「ええ絶対無いので安心して下さい、絶対、誓ってやりません」


 魔王の力を手に入れたら、その力をもってキアの残した軍勢を回収しにいこう。

 なにせ数百年前のことだし、ちゃんと生きてるのかどうか怪しいところだけど……。てかふつー死んでるよな……。


「残念ですな……まあ一応したためておきましょう、ヒヒヒ」

「だから止めてってば……」


 最後に一悶着あったものの、俺たちはそのままレウラの背に乗り真っ直ぐ帰国することになりました。

 さらばキアさん。しょうがないから最後の地球人類として、果たせなかったその役割を継いであげますよ。

 たまたま利害が一致してただけなんで、貴方の名声と力を利用する方便に過ぎないんですけどね……。


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