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39-8-2 此処ではない別の世界での出来事 キルケゴール・アダムと死を約束された希望

「その結果がこの深刻な寒冷化だ。さすがに核ミサイルをぶっ放した国はこぞって袋叩きにされてしまったがな、もう遅かった。いずれ深刻な氷河期が訪れ、人類は滅びる。俺たち動物は寒冷化には勝てない」

「バカな話だね、あっけない結末だこと。ま、俺だけ死ぬんじゃないなら別にいいかな。って気にもなるよ」


 天国への階段も大渋滞ってそういうからくりか。


「ところで君の名前を決めないと不便だな。何か希望はあるか?」

「え、あー、自分で決めたらそんなの痛々しいだけでしょ、そこはキルケゴールさんに任せてみる」


 くたびれ風体の外人さんは俺の返答に悩む素振りを見せなかった。

 真面目にこちらを見つめて、落ち着いた声でもう決めてくれていたものを提示した。


「ならば我々が勝手に付けたプロジェクトネームだが、それをそのまま使ってしまおう。君の名は……生命の輪リヴィエラシステムを無効化する者、裏切り者の代名詞――カインだ」

「ごめん、それはそれで名乗るの超痛々しいんだけど。だって俺日本人だし? あ、やっぱり自称・山田太郎じゃダメ? 俺にとってのカインはファイナルファンタジーなんだよ。主人公の彼女に横恋慕して裏切ったり、洗脳される、カッコイイけど痛いやつ、親友にして裏切り者、それがカインって竜騎士」


 でも嫌いにはなれない。

 彼の悲愛は俺みたいな勝手なやつの心をつかんでくれる。裏切ってまで欲しいものがあったんだ、カインには。


「ならば理想的だ。裏切るからこそ人間だ。君はまだ知らないのだ、裏切り者を無くした社会の恐ろしさを……。リヴィエラシステムは人類を群体に変える。社会から、カインやユダが消えてしまうのだ」

「ふーん……。あー、つまり、間違った方向に走り出したら止まんないってこと?」


「そうだ、そしてその結果がこのざまだ。左に進むのが当然のところを、右に進むバカがいるからこそ生命は滅びを回避できる。だが俺たちの世界は皆が左を選んでしまった。だから破滅したのだ」


 うん、バカも社会に必要だったというお話。今さら反省しても遅いけどね。


「深いねー、じゃあもうカインでいいよ。間を取って山田カインってことで」

「了解した。……さて山田カインよ、君はそんな中特別だった」


「へー、俺なんかが? 山田なのに?」

「ああ。我々は運良くも偶然、リヴィエラシステムの干渉を受けない個体を発見したのだ。コールドスリープされていた古代人、これは何の偶然か、システムの放つ波を、まるで感知しない鈍感さを持っていた。……つまり厳密な意味では、群れとしてのヒトではないとも言えてしまえる。それが、君だ、山田カイン」


 あらやだ俺すごいじゃん。ただ寝かされてただけなのに、何とかシステム無効化耐性付きですって。

 ま、どっちにしろ滅びるし俺死ぬんだし関係ねーけど。


「つまりどういうことだそれ? あーなるほど、群れの空気全く読めない、奇跡的なバカ大発見ってことか?」

「そうだな、そうとも言える」


「いやそこ肯定しないでよキルケゴールさん」

「キアでいい、ここの仲間にはそう呼ばれていた」


 ところでベッドから身を起こそうとすると止められた。

 無理はするなということらしい。

 どうやら俺が思っているほど俺は健康ではないようだ。


「リヴィエラシステムの話に戻ろう。繰り返すがシステム同士の争いで世界は荒廃した。弱き群れは強き群れに飲み込まれ、破れたシステムは破壊された。……あるいは地下に潜り、システムは人を群れとして統合するという己が役割を遂行し続けた」

「機械仕掛けの融通聞かない不屈の精神ね、そりゃたち悪いね」


「そう設計されたのだ。人を完全なる群体に変えるのがあのシステムの存在意義だからな」

「まーそれで? どっちにしろ世界は滅びるんでしょ?」


 滅びるなら何してもムダだ。

 なのにキアさんは諦めていない。


「ああ、滅びる。今さらどうあがこうともそれは絶対に変わらん。寒冷化が寒冷化を呼び、じきに地表は完全に凍り付くよ。……だから俺たちは、ノアの箱船を作ったんだ」


 ああなるほど箱船か。

 今はダメだから未来にかけるってわけだ。


「聖書にある、ありとあらゆる動物たちを保護した船だ。ノアは神に浄化される世界にて、種族たちを残す役割を担った」

「へー、キアさんって信心深いんだね。俺はどっちかというと、地上を洗い流そうとした偉そうな神様の方に文句付けるタイプだけど」


 滅びの引き金引いたのは人類だけど、こんな状況になったら神様に恨み言の1つでも言いたくなるでしょ。

 こんなオチ、聞いてた話と違うって。


「だから君はカインなのだろう、山田カインよ。それで箱船なのだがな、このバカな争いの果てに、いつか世界が再生する日が来る。俺たちはその時の為に種をまいておこうと決めた」


 キアさんが妙な物を取り出した。

 透明なガラス板みたいなそれを彼が指でいじると、何もないはずの部屋のド真ん中に立体映像が浮かんだ。

 そこに妙な人間が映っていた。


「見てくれ、これが次の種族だ。冷えた大地でも生きられる大きな体と、念のための放射能耐性を持たせた。まずこの個体と、事前にとき放たれた微生物と植物が、地上を少しずつ復興させる」


 それは人間じゃなくて巨人だった。

 寒さに対する耐性を考えてか、かなり毛深く皮下脂肪が分厚い。


「そして気温が十分に上がると、次の個体が箱船より放出される。この種族には、リヴィエラシステムの元にもなった、あるモノの細胞を植え込んだ。この種は寿命を超越するだろう。魔法とでも呼べる、奇跡の力を我が物として栄華を誇るはずだ。巨人とも強調して、心やさしく、世界を我々に代わり統治してくれる」


 立体映像が別の物にかわった。

 そこに現れたのは長い耳、美しい容姿に細身の身体をもった人間だった。


「つーかこれまんまエルフじゃん、は~、未来すげーな……」

「ああ、まあそこは設計者の好みが出たようだな……。気づけば研究チームの総意でそうなっていた」


 人類滅びるけど強化人類が後を継ぐそうだ。

 遙か未来はエルフいっぱいなのか、なにそれ凄い、まさに楽園じゃん、エルフいいと思うよ俺は。


「だが保険が欲しい。未来は、リヴィエラと我々が滅びた世界のはずだ。はずだが……もし、仮に、リヴィエラが滅びていなかったとしたら……それは悪夢の再来だ」

「今の状況と同じことを繰り返すかもね。リヴィエラとやらは力と共にいずれ滅びを招く、最悪の遺産になっちゃうわけだ」


 何となくもうわかった。

 俺の性質を今の全人類に持たせることは出来ない、ていうかどっちにしろもう詰んでる。

 だけど、箱船に乗せる未来の種に遺伝子を植え込めば、そんなクソシステムなんてただのガラクタに変わるわけだ。


「そうだ……。だから同じ間違いが起きないようにしたい。君の細胞を、未来の新人類のために使わせてくれ……。生命の輪が君に気づく前に目的を果たしておきたい」

「いやだからさ、いちいち律儀なんだってばキアさん。繰り返すけど、そんなの勝手に使えばいいじゃん、確認なんて取ってる場合じゃないでしょそれ」


 キアさんがようやく穏やかに笑った。

 シリアスなノリはこれでおしまいってわけだ。俺の回答にとても喜んでいるように見えた。


「そう言ってくれると信じていたよ。カイン、君が発見されたのは最近のことだ。実はな、もう勝手にやっている。難航しているがな……どうにか実現してみせるよ」

「ちょっと待てポリシーはどうしたし。なら最初からそう言えばいいじゃん……うわ面倒くさい外人だわこれ……」


 不平を込めて立ち上がった。

 ところが足下が震える。バランス感覚が狂っていて俺はベッドへと腰を戻すことになった。


 苦しみも悲しみもない。だけど俺はもうじき本当に死ぬようだ。

 世界と一緒に。


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