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39-5 俺にだけ読める言葉、存在するはずのない言語

「なにこれ」

「アトゥの方が聞きたいです、何なんですかここは……」


 アトゥに抱きつかれたまま廊下を移動します。

 彼女には悪いけど俺はもっと奥が見たい。

 俺は今さっきまで魔王キアの力にしか興味がありませんでした。でも気が変わりました、根城にしていたこの場所が、あまりに現実離れし過ぎていたのです。


「これ……これまさかのSFじゃん……。なんかおもしろいなぁー、へーー、魔王キアね。本当に、ここって魔王の城なのかな? だとしたらさ……」

「兄様っ、そんな無鉄砲に進んでいったら危ないです! 何が出てくるかわかりませんよっ!?」


 もしかしたら本当に、ここには古なる者に対抗する力が眠っているかもしれない。

 ビームソードとかレーザーガン眠ってないかなー。オーバーテクノロジーの最強武器で敵を討つとか最高にヌルゲーじゃんこれ。


「よくある古代遺跡ってやつ? 先史文明的な? ああ大丈夫だよアクアトゥスさん、たぶん危険はない。まーたぶんだけど?」

「兄様は楽天的過ぎます……。確かに……ここならアインスを守る便利な財宝が眠っていてもおかしくないですけど……。こんなことならアシュリーを連れてこれば良かったです……」


 アトゥを引っ張ってズンズン行軍してゆくと俺たちは地図付きの案内板を発見しました。

 アクアトゥス・ヨトゥンガンドはその見慣れない文字たちに首を傾げて、それから四苦八苦の後に俺の顔をのぞき込むのでした。


「兄様、この文字は……一般的な古代文字とも異質ような気がします。え、あ、兄様……どうなされましたか?」


 そう、彼女は読めない、読めるはずがない。

 だけど俺の方は違った。

 アトゥが俺の顔に見たものは笑みだ。ついつい俺は顔を覆って、突拍子もなく笑ってしまっていた。


「……あは、あははっ、ちょっとさ、これ、はははははははははっ!!」


 それは嘘だろ、って感覚だ。

 案内板は別段面白くも何ともない、極めてクソ真面目に己の役割を果たしている。むしろおかしいのは俺の頭だ。


「ははっ、はははっ……はぁ、はぁ……。こんなの笑うしかないだろ……まさかさ、自分が……カタカナ(・・・・)すら忘れかけてることに今さら気づくなんて……ははは……」

「カタカナ? 兄様、カタカナとは何ですか? というより兄様、兄様はまさかこれが……読めるのですか……?」


 ぬ、ってカタカナでどう書くんだっけな……。

 ね、もハッキリと思い出せないや。ヤバい、忘れ切る寸前まできてたなこれ。


「カタカナは、ひらがなを簡素化させたものだよ。他にも漢字っていう圧縮率が高くて小難しい文字もある。ほら、この2文字で、出口。さらにアルファベットという外国の言葉も使ったりする。この出口の下にある、EXIT、これがそれだ」


 魔王キアの城。外側の荒れ方からしてあなどっていたけど、なかなかこれがどうして……とんでもない食わせ者でした。

 この世界に日本語が存在している。その意味はただそれだけでとてつもなく巨大なんです。

 こんなの笑ってしまっても、もうしょうがないじゃないですか。まさかここが地球だなんて言うなよ……?


「それは始祖様のご記憶ですか……?」

「まあそんなところだね」


 ところで案内板の端に傷があることに今さら気づきました。しかもよく見たらそれは誰かが彫った文字だったのです。

 意味こそわかりませんが、そこにはこう刻まれてありました。


 [生命の輪無き世界へ! 生きてまた会おう、K.A!]


 きっと誰かが誰かに残したものでした。

 その文字の部分だけ妙に色合いが変色していることから、誰かが何度も何度もその部分を指かなにかで撫でていたのかもしれません。


「兄様、それは何て書かれているのですか?」

「これ? 生命の輪無き世界へ、生きてまた会おう、K.A。だってさ」


 ……ところで物にはタイミングというものがあります。

 俺たちは驚き慌てて振り返ることになりました。その、声に。


「おやおや、こんな場所で会うとは奇遇ですな。ヒ、ヒ、ヒッ、お久しぶりでございます、会いたかったですよ、アレクサントくん」


「キャッ、ひぁぁぁーっ?!!」

「うわぁぁびっくりしたぁぁーっっ?!!」


 あの不気味な爺さんもとい、イアン・シュバルツァー学園長が俺たちの背中に声かけてくるんですから……。

 ええそこにいました……ずっと失踪していた俺の恩人、アカシャの家の学園長先生が真後ろに……。


「学園長先生っ心臓に悪いよそういうの! くっそ、メチャ情けない声上げちゃったじゃん俺……」

「ふぅふぅ……驚きました……。あ、これは失礼を。ご無沙汰しておりますイアン学園長」


 血走った瞳に白髪の老人、不気味を地でいく我らの学園長は、残念ながらこの地下遺跡で見ると怪物じみていました。

 あるいはマッドサイエンティスト的な妙な威圧感があったりもします。


「はい、お久しぶりですアクアトゥスくん。……遅かれ遠かれ来ると思っていましたよ」


 最後の言葉はどうやら俺に向けられたものでした。

 学園長のギロギロとした眼球が、これは大変興味深いと俺を執拗に見つめていました。


「学園長こそ仕事サボって何油売ってるんですか。教頭の手綱握れるの学園長だけなんだから、さっさとあのラムズ・フェルドと和解して戻ってきてよ。……ま、俺も今は手いっぱいで臨時講師してないんだけど」

「おやおやそうなのでございますか。ではこういたしましょう、貴方を次期学園長に任命いたします。書状をしたためておきますので、後は任せましたよアレクサントくん」


 バカ言っちゃいけないです学園長、俺がそんなめんどくさい仕事引き継ぐわけないでしょ。

 実利が無い限りそんな面倒ごと絶対お断りですよ。


「おたわむれを。兄様が学園長になんてなったら、ハイデルース教頭先生が憤死されてもおかしくありません。いえその程度など些事、ろくなことになりませんよ」

「ホッホッホッ、学園長はお嫌ですかな? 私は向いていると思うのですがねぇ……ふむ、ならばこういたしましょう、ヒ、ヒ、ヒ!」


 しかし懐かしいですこの笑い方。

 城漁りもこりゃ面白くなりそうですし、やっぱり来て良かったです。


「アカシャの家の学園長がお嫌なら……。アレクサントくん、君は、君は魔王を継がれたらよろしいでしょう。わたくしはずっとずっと……ずぅぅぅっと……この日を待ち望んでおりました」


 学園長の言葉もゴキゲンに不穏感MAXときます。

 当社比2倍の血走りお目目で、場所が場所なら雷鳴と雷光とか背中に背負っちゃえるダーク学園長がそこにいらっしゃいました。


「ええ、実を言いますとわたくし……あの魔王キアの末裔なのでございますよ。といっても先祖のような多いなる力は何も持ち合わせてはおりませんが、イ、ヒ、ヒ、ヒ……よもや、アレクサントくん、君がキアの継承者になって下さるとは最初は思いもしませんでしたよ、ヒッ、イヒヒヒヒヒッッ……!」


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