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39-4 うたわれし王の墓

「あのアクアトゥスさん? 着きましたよ?」

「……はい、ついに到着しましたね兄様。魔王と呼ばれるくらいですからもっとおどろおどろしい場所かと思いましたが……ふぅ、暑いですね兄様」


 翌日、グリムニールの隠れ家から北へと飛びました。

 そんでザルツランド領を出て3つ4つ領空侵犯した場所がここです。伝説の、魔王キアの城跡に俺たちは到着していました。


「ならなぜ張り付くし……」

「これは異なことを言われますね兄様、兄と妹がひとたび肌と肌を密着させればそれはもうニカワで張り付けた布と布、もう2度と離れることはないでしょう」


「ないでしょう、って未来予告されても困るんだけど。はいはい、こっからは緊張感持とうね、怪物とか徘徊しててもおかしくないかもよ」

「あっあっああっそんなダメっ兄様止めてっいやぁーっ!!」


 魔王キアの城跡だけに、キャーっとなるかもわかりません。

 さて変な声で抗議する妹さんを我が身からひっぺ返して、俺は進みながら周囲を見回しました。

 ここは樹海のド真ん中、そこにとある建物が……いえ、建物だったものが沈んでいます。

 屋根無し、苔大盛り、壁もほとんどが崩れたボロボロの小城がそこにありました。


「ところで兄様、本当にここが聖域のキエ様がおっしゃった、魔王キアの城跡なのですか? 城というより、これではただの廃墟ではないですか……」

「うん、こりゃ完全に樹海に埋もれてるね。見つけたヤツは天才発掘家どころじゃない。よもやそれがあの魔王の城跡だなんて誰も思わないだろうし、よくもまあ運良く都合良く、見つけたもんだねこんな場所」


 アトゥが廃墟と呼ぶのも仕方ない。城と呼ぶにはあまりにちっぽけな建物です。


「キェッキェッ!」

「レウラが誉めてと言っていますよ、兄様」

「あーよしよしー、よくやったよくやった、えらいぞー。お前がいなかったらジャングルで探検隊ごっこするところだったし」


 子竜レウラが俺たちの正面に回り込んで滞空しました。

 徒歩でここまで来るやつがいたとしたら、そいつはよっぽどの魔王狂いです。

 レウラに干し肉を少量投げ与えてねぎらっておきました。

 ……場所が場所だけに手元にレウラを置いておきたかったのもあったり。いつでも離脱可能みたいな?


「きゅるっ、きゅるるぅ~~♪」

「兄様、アトゥもご褒美が欲しいですっ。人里離れたド辺境、ここなら兄妹という障害など、愛を燃え上がらせるエッセンスにしかなりません! さあ、お早く!」


 金属製の正門すらも月日の経過により錆び果てて原型を失っていました。

 崩れた箇所から俺たちは魔王城内部に入り込みます。この先には異形のクリーチャーがいっぱいいたりしてね。


「……うん、地味だなこりゃ」


 その先は上りのトンネルになっていました。

 苔むした石の階段を上ってゆくとその先は石造りの城郭内部、ところがその景観というのが城としてはあまりに小振りで残念なものでした。


「グリムニールお婆さまによると、地上部はもうほとんど残っていないそうです」

「そりゃ残っちゃいないでしょ。しっかし魔王ってわりにしょっぱい城だな」


 魔王城といったらラスダンです。

 ところが城は少し大きめのお屋敷程度の面積しかありませんでした。

 アルブネア邸よりはでっかいけどぶっちゃけどっこいどっこい、魔王キアって……俺が思ってたより貧乏だったんでしょうか?

 いかにもな塔が2つあるんだけど、どれも途中で崩れ落ちてるっていう酷いありさまです。


「足下抜けたりしてね」

「はい、壁が崩れてくる可能性もありそうです兄様。……ぁっ?!」


 念のためアトゥと手を繋いで進みました。

 彼女の言葉通り地上部には何も残っていなそう。ええ、地上には。そういう情報なんです。

 俺たちは地下への道を探して城跡内部を探索しました。


「兄様の方から手を繋いで下さるなんて……アトゥは感激です……レアさんのパージをしつこく後押しして正解でした! あら……ここは、玉座ですね」

「っぽいね」


 あちこち探して回っていると、いつの間にか玉座の間にたどり着いていました。

 ま、そこも天井残ってないんで、マジで過去の栄華とサヨナラバイバイな廃墟感マシマシな情景でしたが。


「あっ、兄様! あそこをよく見て下さい!」


 玉座に近づくと俺たちはそれに気づくことになりました。

 ええ、玉座の後ろに下りの階段があったという。

 しかも誰かが爆裂魔法で無理矢理ぶちあけたらしく、分厚い石床があちこちに崩れ落ちていたのです。


「玉座の後ろに隠し階段か。なかなか魔王様らしいことするじゃん、魔王キア」

「アトゥは兄様の基準がよくわかりません。あっ、兄様、そんな無警戒に下りちゃダメです! この状況で愛する妹の手を離すとか常識的にどうかと思いますよ!」


 愛杖ガイストちゃんはもちろん持ってきています。

 アトゥの手バイバイ、明かり代わりの炎魔法発動、俺はお宝へのわくわくに口元をニヤかせながら地下へと下りました。


「待って下さい兄様!」

「待たない待たない。それにほら、常識的で考えたらこの歳で妹と手を繋ぐとか変だし」


「変じゃありませんっ、むしろそれは素敵なことだと思います! 成長しても妹を守る兄の姿、ああっなんて素晴らしい愛の形なのでしょう……ああっ兄様待って!」


 ところがこの地下階段、どうも深い。

 進んでも進んでも下り道に終わりがありません。


「これ、いつまで続くんでしょうか……」

「さあね。深くする理由があったのか、あるいは……うん、何だろうね、わからないよ、とにかく行くしかない」


 カツ……カツ……カツ……カツ……。

 兄妹2人の足音を地下世界にこだまさせて、俺たちは果てしない階段をただただ無言で歩き通しました。


「……お」

「ふぅ……まるで地獄の底への許されざる逃避行でした……。ええっ、ですが兄様とご一緒ならアトゥは地獄にだってお供しますっ♪ あ、ところで……あら、ここはどこでしょうか」


 地下階段を抜けるとそこに長い長い廊下が広がっていました。

 壁沿いの足下にそって白い光が灯っており、それが2本の平行線となって遠くどこまでも続いていたのです。


「魔王キアの城」

「そうですけど兄様、こんなのおかしいです。私たちは城跡と聞いてここにやって来ました。ですがここは地上とまるで違います、ここが城跡だというならば、あの光は何なのですか兄様?」


 地上部とは異なるスベスベとしたクリーム色の壁です。

 想像を絶する月日が経過しているはずなのに、その壁が全くといって風化していない点も妙でした。


「そうだね、うーん……魔王キアは死んだけど、城はまだ生きてるってパターンだったりして」

「兄様、兄様はしれっと怖ろしいことを言われますね……。兄様、アトゥは今日まで生きてきてこんな場所、1度だって見たことがありません……。ここは一体何なのですか……?」


 アトゥがそう言って二の腕にくっついてきました。

 ただ今回ばかりは本当に怖がっているようで、そこで俺も無理に引きはがすのは止めることにしました。

 ……ええまあそれどころじゃないって、別の感情もあったので。


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