39-2 学園長イアン・シュパルツァの行方
「融合……じゃと……。そうか、ヤツそんな酔狂な奥の手を……つくづくバカで勝手な男だ……。これで我はもう2度と……あやつとは会えなくなってしまったではないか……」
グリムニールは悲しみ落胆しました。
いつか全てが落ち着いて、方策が見つかった頃にやつを復活させるつもりだったのかもしれません。
「それは違う、元々1つだったものが元に戻っただけだよ。俺の本意じゃなかったけど、どっちにしろこうなっちゃったもんは仕方ないよ。アレクサントも、オールオールムも消えちゃいない。だから俺はオールオールム本人として、グリムニールさんを迎えに来た。……一緒に帰ろう」
アレクサント本人の意思とは逸脱しています。
だけどグリムニールを悲しませるわけにはいかない。だから俺はヤツに変わってヤツの言葉を代弁しました。
彼女は元夫に抱き込まれたまま沈黙を続け、それから離せと息子でもある俺を押し退けました。
俺には目線を向けず、俺の背中の向こう側、青い入り江にばかり目を向けています。
「そんな下らないことを言いに、かわいい孫娘と、レア――いや、お前がそう言うならそうだったのだろう……エルリースをあそこに待たせたのか?」
その目線があの2人に気づきました。
第三者の目があることに気づくと、グリムニールは調子を取り戻して俺を冷笑します。
「悪いが我は一緒には帰れん。ここでやるべきことがあるのじゃ。ともかく、あの2人をここに呼べ、特にエルリースは蚊帳の外にはできん」
「何となくそう言うと思ったよ。じゃ、取りあえずはそうしよう」
グリムニールが手招きをしました。
言っちゃ悪いけどロリロリしてるんでソレ不思議な誘因力があったりします。
ま、それをいきなり抱きしめた俺もそれだけ……許されざる行いですけど相手はロリババァなんで問題無しです。
さて、グリムニールはこう言うけど俺は諦めちゃいません。
レアさんという切り札を使って、どうにかうちに引き込んで見せます。
グリムニールは絶対に俺の手元になければいけないのです。
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「……久しいなレア。思えばあれっきりあの地をお前に任せっきりにしてしまった、すまなかったな……」
グリムニールの最初の言葉は謝罪でした。
実はお互いに気負い合っているという、疎遠になった人間関係でわりとありがちなやつです。
「しばらくぶりですグリムニール様……。またこうしてお会いできて嬉しいです。今はこちらで何を……?」
「うむ……込み入った話は中で話すか。とにかくよく来たなレア。それとかわいい孫娘よ、少し大人になったか?」
「はいお婆さま、おかげさまで吹っ切れました。これも全てエルムエル王子様とお婆さまのお導きです……♪」
えっ、何その話聞き捨てならないんだけど……?
まさかあのソバカス王子と共謀してたとか言わないよね……。そういうの困るんですけど!!
「うむ、とにかく中へ入れ。こんなところで立ち話なんて足が疲れる」
グリムニールに招かれて隠れ家にお邪魔しました。
それからグリムニールとレアさんが仲良く茶の準備をするものだから、しばらく暇になりました。
ここはグリムニールの隠れ家その2といったところでしょうか。
今さらだけど、どこかで見覚えがあるような気もしてきました。
やがて4人分の茶が整い、俺たちはテーブルを囲んでしばらく茶をすすったり他愛ない話題を織りなしました。
「お婆さま、ずっとここで暮らしておられるんですか?」
「ずっとではないが拠点にはしている。忙しくあちこち行き来しているよ。……ああ、いきなり身をくらませた件は謝ろう、そこにも事情があったのだ」
平穏が続きましたが、アトゥの興味本位からの質問がきっかけとなりました。
グリムニールが公都異界化事件が発生してすぐに、姿をくらました理由。それを本人が答えるというのです。
「なるほど。で、イアン学園長はどこにいるんです?」
「フッ……鋭いな」
「いえ情報さえあれば誰であれ予測の範囲に収まりますよ。あなたたち2人が協力関係にあるってことくらいね」
「えっ、そうだったんですかお婆さま……?」
危険な魔王研究者、フェルドラムズの襲来が異界化のトリガーなりました。
しかし彼本来の狙いはイアン学園長です。その魔王研究を横取りしに来たのがヤツです。
さらに言えば学園長とフェルドラムズはオールオールムの弟子、ならばグリムニールさんがそこで繋がるのです。
「ああ、我はあの後すぐにイアン学園長と落ち合い、一時的にここへと保護した。巨人の血をフェルドラムズ……いや、ラムズフェルドの小僧に奪われるわけにもいかんかったからな。まあそれが契機になったのだ」
「グリムニール様、私……あの人は少し苦手です……。なぜオールム様はあんな人を手元に……」
つまりオールムっていう留め金だったものが外れてさあ大変、今さら内ゲバ発生ってことでしょうか。
あの俺っち口調の変なおっさんが、あいつの弟子だったんだからまあ……納得っちゃ納得だわ。マッド研究者だし。
「まあそこはいいや。でさ、学園長は結局どこでなにしてんの?」
「うむ、彼とは別行動じゃ。我と彼では得意分野が異なる。それと魔王キアの城跡が見つかったそうでな、それを聞かせてやるとここを飛び出していってしもうたわ」
そうそう学園長も魔王狂いなんでした。
特にそのキアさんが好きっぽい。争いをしなかった魔王キア、飛びきりの変人です。
「へ~~キエ様情報でしょそれ。この後、俺もそこに行くつもりだったんだ」
「兄様、それは余計な一言だったのでは……。ほら、お婆さまが睨んでおられますよ?」
「そうですね……アレクサンドロス、貴方は何のためにそんな場所へ行くのでしょうか……心配です」
グリムニールの鋭い目線が俺を凝視していました。
ええまあグリムニールさんならそこんところの事情がよくわかるでしょうとも。
「アレクサント貴様……ヤツと融合したというあの話が真実ならば……やはりおかしいぞ……。なぜ……貴様は古なる者の呪いを受けておらぬのだ……」
「兄様、やっぱり貴方は始祖様と……これはどういうことですか?!」
「どっちも企業秘密。いやでも、グリムニールの質問には答えておこうかな。……俺ね、実はね、8号迷宮で……巨人の血を浴びていたんだよ」
するとコモンエルフの瞳が大きく大きく見開かれます。
古なる者の天敵、巨人の細胞さえあれば呪いは克服できます。
「そういうことか……なるほどな……。あの最悪の男ではなく……それを裏切った貴様がよりにもよって……」
「まあその都合でさ、ほらー……魔王になっちゃおうかなっ俺っ、はい立候補っ、とか考えてたりする」
「兄様っ、軽々しく言わないで下さい! どれだけの敵を作る行為だと思ってるんですか!!」
そこはほら、敵を作らなきゃ良い。
結局魔王だなんだとか言っても、ただ人より圧倒的に優れた力と支配能力を持っていただけに過ぎない。
その点、魔王キアの記録は興味深いです。
「オールムを呪った古なる者の眷族を、こっちが全部横取りしてやるんだよ。そうしたらすごいよ、向こうは超困るし、俺の方はちょっとした小国の王様だね。絶対服従の奴隷同然な部下が山ほど出来るよー!」
おまけに力まで得られる、これはもう魔王になるっきゃない。なりますなります魔王なります俺。
そんで決戦だ、こっちの方から滅ぼしてやる、その後はみんなでのほほんと暮らすんです。そう決めたんです。




