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38-6 黒の錬金術師 ドロポン量産計画 1/2

 エントランスに下り、錬金釜を3人で囲みました。

 いや訂正、お嬢がアインスさんを呼びに行っています。


「お、やってるやってるー! もー、面白いことすんならダリルちゃんも呼んでよー!」

「はぁっはぁっ、急いで来ました、ご主人様」


 そしたらそのアインスの部屋にちょうどダリルのやつがいてー。


「あら楽しそう~、私も混ぜて下さいな~アレク様~」

「エミリャさん! もちろんあたしは歓迎するわ。アレクが余計なこと言っても、それって照れ隠しだから逆に受け止めればいいわ」


 さらにはその騒ぎを聞きつけて、あのアルフレッドを狙う雌狐エミリャ・ロマーニュまで薄暗い深夜のエントランスに集合するのでした。

 こんな時間に何してんだって有様、ちなみにオール寝間着、俺だけローブ。だってほら、ローブ大好きっ子だから俺。


「歓迎するよエミリャ・ロマーニュ、ゆっくりしていくといいよ、超つまんないものが見れるよー」

「あら嬉しいー、アレク様の術はー、何度見てもー、見飽きないわ~、まあ楽しみー♪」

「クスッ……兄様、エミリャさんに皮肉は通用しませんよ。ド天然ですので」


 知ってるよちくしょう……。

 あべこべ言葉で返してやったらそのまま受け止められました……。やっぱりこいつは雌狐だっ!


「何でここまで敵視する必要あるかなー、アレックス大人げないよー、大人になりなよー。今のアルフレッド幸せそうじゃん、あの不器用な亭主気取りがさー」

「うるさいっ、作業始めるぞっ」


 こっちは待っている間に準備を進めておきました。

 良質な基礎素材に、聖銀砂を袋ごと流し込み、あとちょうどそこのティーカップで寝てたドロポンをひっつかみます。


「待って下さい……! せめて、本人の同意を、確認してからお願いします、ご主人様……」

「その子いれちゃうんですかー? ええー、どうなっちゃうんですの、アレク様ー?」

「エミリャちゃん、アレックスってすっごい鬼畜なんだよ。あの子を材料にする気なの、ドロポンを。そういうやつなんだよ~」


 ダリルが余計なことを言います。

 するとエミリャさんの顔色が曇り、アインスさんと一緒にこちらを責めるように見つめてきました。


「え……あのぉ~……さすがにそれはぁー……。わ、わたくしなんかが言うとお怒りを買うだけでしょうけど……どうかと、思いますー……」


 やりにくいなぁ……。

 ま、無視すりゃいいか、結果は変わらないんだし。


「いいのいいの、ドロポン使ってドロポンいっぱい作るだけだし。……って、アクアトゥスさぁーん?」

「ダメです兄様」

「はい、アインス。文句があるときはもっとハッキリ言わないとダメよ、特にアレクは人の話聞く人間じゃないから」


 混ぜ混ぜ道具ダリルの杖がアトゥに、ドロポン入りティーカップがお嬢により奪われました。

 ドロポンはあるべき場所、アインスの手へと収まります。

 いちいちこの手続きがめんどくさいなぁ……。


「はい……。ドロポン、お話があります。ご主人様は、もっとあなたが欲しいそうです。良ければ、力を貸してくれませんか? いえイヤなら、いいのです。私が代わりに、ご主人様を説得して、みせます……」


 性格の飛びきりよろしいあのドロポンが願いを拒むはずも無し。少女アインスさんに背を向けて、錬金釜側に振り返ってうねうねと距離を縮めて見せてくれました。

 いつでもダイブ出来るぜご主人、みたいな覚悟がそこにあります。


「ところで兄様、ドロポンはやる気のようで一安心ですが……どの土を使われるのでしょうか?」

「え、そりゃそこの庭の土だけど? だってアトリエまで取りに行くのめんどくさいし。まあワープ出来るし距離的には、そんな変わらんけどさー」


「ならそれもドロポンに聞きましょ」

「では兄様は、アトリエ側から土を運んで来て下さい。その間にこちら側のものも用意しておきますので」


 ほらこうなる。

 だから1人でやりたかったんですよ。

 こいつらドロポンのことになると熱意がおかしいもん。ドロポン中心にしたハーレムになるもん。


「そーいうのめんどくさくない?」

「はぁ……もうほんっとアレックスってしょうがないよね……。ほら行くよっ、ママがいないとほんとダメなんだからー!」


「誰がママだよ! お前さ、いつまでその返しにくいネタ引っ張るつもり……って、手まで引っ張んなよっ、ちょっ、1人で歩けるから離せってばっ?!」


 空き部屋あらため、転送部屋へと俺は引っ張り込まれ、しょうがなくスレイプニルの石段を起動させることになりました。

 あとはピュンッ。数秒だけ世界が異空間にそまってすぐアトリエに転移成功です。


「あ、すんません、ちょっと所用で帰ってきたんで、でもすぐ帰るんでおかまいなく。こんな夜中にマジすみません……っ」


 住み込みで暮らすカーネリアン商会のエルフさんを驚かせつつ、俺たちはアトリエ裏庭に駆け込みます。

 だってダリルが引っ張るから……でっかい乳とか乳を押しつけて……。


「はーー、ほんと不思議よね。アルフレッドくんのお屋敷と、うちのアトリエが繋がっちゃってるんだもん。こんなの絵本の世界だよ。アレックス、せっせと掘って帰るよ!」

「つか多くね?」


「えーっ、足りないくらいだよ! 男の子なんだからガツンといこうよっ、たくましいところ見せてっ!」

「そんな男の創作料理みたいな錬金術ヤダよ……早い、不味い、量だけムダに多い! みたいな」


 何でか土をバケツ3杯分も確保することになりました。

 たぶん3つバケツ持って来ちゃったのが最大の敗因。仕方なく確保しました。まだ全部使うとは決まってないし。


「おっし! じゃあ帰ろ、あ、こんな深夜にお邪魔しました!」

「いやそれはおかしい、ここうちの店だし、って引っ張るなって言ってんだろ乱暴だなお前ー?!」


 商会のエルフさんたちに笑われた気がします……。

 ともかく俺たちは土くれごときを抱えてアルブネア領エントランスに舞い戻るのでした。


「待ってましたよ兄様」

「お疲れ様です、ご主人様」


 アトゥとアインスさんが釜を受け持ってくれていました。

 ああ疲れた、テーブルに陣取るドロポンさんの前にバケツを3つ置きました。


「……おい」


 ところがおかしい……。

 3+5はいくつだー? 答え、土入ったバケツが8つー。


「ふざけんなよお前ら……これ、多いよ、多過ぎ、どんだけ増やすつもりだ……? こんなに入れたらもうあれだ、増産どころか大量生産、ドロポンで家でも建てるつもりか?」

「あ、それはそれで、悪くない、かも……しれません」

「上下左右天井も床もドロポン……夢のようですね兄様……!」


 いや悪いよ、悪夢だよそれ、壁に顔とか浮かんでるやつだよそれ……。


「しょうがない、ドロポンに選ばせよう……。おーいドロポン、どの土と合体したいかお前が選べ」

「ちょーーっと待つっス! 自分を呼ばないとかふとどきな先輩っスね! これも追加っス!」


 ドロポンがうんわかったー、とうなづいた気がします。

 そこにアシュリーが駆け込んできました。そんで大きな布袋をバケツたちの隣にどっこいせと下ろしました。


「ナニコレ、どっから聞きつけて来たしお前」

「ドロポン喜ぶかなぁぁ……って思って迷宮から毎回1握りずつ持って帰った、なんか綺麗な土っス!」


 この辺りでは珍しい白っぽい土でした。

 ドロポンが喜びそうな気がします。


「まあいいけど。結局決めるのはドロポン様だし選ばれなくても恨むなよ」

「いいっスよ、さあ今夜合体したい土はっ、どれっスかドロポン!」


 ドロポンさんがよいしょよいしょとティーカップから抜け出しました。

 机の上から下にあるバケツと布袋を見下ろして、あまり悩むこともなくアトリエの土へと降り立ちました。


「やはりアトリエの土が良かったようですね……」

「そうね、やっぱり自分本来のものが安心するのよ。お疲れさまアレク」

「あらー、でもー、待って下さいなー。ドロポンさんがー」


 何言ってんだエミリャ・ロマーニュ。ってもう一度バケツを見下ろしたらドロポンがバケツとバケツの間を飛びわたり始めました。

 1つ1つの土の上をぐるりぐるりと楽しげに回って、アトリエ3つ分、アルブネア領領館の5つ分、それからダリルが迷宮から拾ってきた珍しいやつにも着地です。

 つまり、どういうことだドロポン……?


「誰か通訳頼む」

「全部。そう言っている、気がしますご主人様」

「それだーっ、きっとそうだよーっ、あははっさすがドロポンだねっ!」

「はい、ドロポンは大食いですから……。では兄様、全部、入れてしまいましょう……」


 ちょっと言ってる意味わかんない。

 バケツ8杯+袋1つ分の土全部ってちょっとさ、大食いってレベルじゃないよ……?


「って、待て待て待て待て待て全部ってちょっと待てよっ、ああああこらお前ら正気かぁぁっ?!」

「よいしょー、楽しいですー♪」

「ドロポンのお願いならしょうがないっス」

「そうねっ、お世話になってるもの!」


 まるでそれはお菓子工場の世界……。

 砂糖とか小麦粉を大袋ごと機械にぶち込むがごとし。

 バケツの中身がドンドコドンドコ錬金釜に大投入されていきます。

 止めようにもあっと言う間でした……。


「では、どうぞ兄様……!」

「どうぞ、じゃねーよ……。うわ、なにこの色合い……お前らさ、俺を無視して釜に物ぶち込むその悪癖止めない?」


 釜の色合いが茶色に変わりました。

 ええ、琥珀色とは言えません。濁ってました……。

 どう考えたってこりゃ基礎素材が足りません。よって中和剤と増強剤を追加し直し、井戸水も足すことにしました。


「すっごいヒタヒタっス」

「こぼしたらダメよアレク! ドロポンは全部って言ったんだから!」

「無茶ゆーなよな……」


 聖銀砂の残りをさらにぶち込めば、ようやく濁った土色水溶液が琥珀の輝きに変わります。


「俺もう知らねーからな……。おーいドロポン、出番だぞー」


 するとお嬢がティーカップからドロポンを取り出して、アインスさんに手渡しました。

 そのアインスさんが錬金釜の前へとトコトコと歩み寄り、ドロポンの乗ったその両手を差し出しました。


 ドロポン入れるときはアインスさんの手から入れる。そういうルールとか、儀式っぽいものが出来上がっているらしい……。


「あ……」


 ポチャン……。

 ドロポンさんはためらうことなくこのキラキラ琥珀色水溶液にダイブしました。

 跡形もなく溶けて消えていました。


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