38-2 神の手はzと共にある
観光名所ねつ造計画を進めるにあたって、オカルト――ではなく宗教に詳しい人に相談したいところです。
となればアレじゃないですか、これってアレですよ? そんな知り合いどこにいるんだって話になるじゃん?
ああ、そしたらいつものパターンを描いていることに気づきました。
詳しい知り合いなら公都にいる、俺は久々に母校アカシャの家におもむくことになりました。
すれ違う生徒らに直訴を受けたような気もします。もちろんそれは予想通り、あの教頭のことでした。
「どうにかして下さいアレクサント先生!!」
「どうにかって何が不満なのさ」
教頭は俺の実験台……じゃなくて若返り薬で現在見目麗しくなっております。
むしろビフォアーとアフターを見比べれば、断然それアフターじゃないですか。なのに何が不満だ生徒たちよ。
「かわい過ぎてときめく自分が許せない!」
「あんなの教頭先生じゃありません!! 確かにあの、ねっとりとした性格と、権力を笠に着るところは教頭その人そのものですけど……」
「私なんか彼氏を取られそうになったわ!」
「新入生の中でも混乱が広がっている……。彼らはオリジナルピカール先生を知らないだけ幸せなのかもしれないが……その反面……。ああっ見ちゃいられないっ!!」
こっちはマナ先生のいらっしゃる礼拝堂に行かなきゃいけません。
つーか妥協の結果がアレなんですよ、元になんか戻したら俺が八つ裂きにされるから。
「……考えておくね」
「それこの前も言ってたじゃないですか先生!」
「お願いします! 彼氏が胸に深い傷を負う前に……せめて生徒に誘惑目線を送ることろだけでも諫めて!!」
「このままでは新入生たちが間違いを犯してしまうかもしれない! その彼らが教頭の真実の姿を見てしまったその日を思うと、俺はもう哀れで胸が張り裂けそうだ!」
科に学年、身分の垣根を越えて彼らが一致団結していました。
大げさだなぁ~、とか思っても口に出せません。
あの若々しい女体でずいぶんお楽しみみたいですね……ああ、こんな汚らわしい情報知りとうなかった……。出来ることなら今すぐ記憶から抹消したい……。
「大丈夫、君らの悩みは、もしかしたら自然解消するかもしんない。どれだけアレが職務熱心かによるけどまあ……もう少し様子を見てみるといい。もしかしたらそれで全部解決する」
「本当ですか?!」
「今の言葉、全校生徒に広がると思いますけど責任取れますよね!?」
「え、責任? 責任はやだ、苦手、やっぱ宣言撤回、どうなるかわかんない、じゃそういうことで」
「ちょっ、待って下さい先生!」
「私の彼氏がかかってるんです! 彼氏の貞操が……!」
俺は生徒たちの包囲をくぐり抜け全力疾走で逃げました。
もちろん追跡がありました。でもここじゃ人に魔法とか暴力を使うなんて御法度です。
そうなりゃ冒険科所属の1人勝ちになっちゃいますので。
「き、消えた?!」
「こっちにもいないぞ!」
「いつもいつもどうして取り逃がすのよ?!」
「アレクサント先生は得体が知れぬな……。建国以来ずっと攻略不能だった23号迷宮を、いともあっさり攻略してしまったとの噂だ……」
「ずっと思ってたけど、何者なのよあの先生!」
なんかくすぐったいこと言われてます。
ただ歴史の表舞台から消えてしまった魔法、ミラージュを使って姿を一時的に隠蔽してるだけなんですけど。
まあこんなの誰も彼もが使えたら社会が成り立ちませんし? あと燃費も悪い、さっさと離脱して解除しましょう。
こうして俺は思いもしない追撃から逃れ、やっとこさマナ先生のいらっしゃる礼拝堂の扉を押し開くのでした。
そういやここに来るのも久しぶり。女神と神鳥をあがめるルルド教の礼拝堂、ここでマナ先生と出会いました。
「いらっしゃい、待ってたわアレッきゅん」
「どもお邪魔します。――普通にしてれば、綺麗な清楚系お姉さんなんだから詐欺ですよねーマナ先生って」
「あらやだー、お姉ちゃんこれでも淑女のつもりよ~? ただ……ただアレッきゅんの前に立つと理性が保てないだけで……ハァハァ、ゼェゼェ、フゥッフゥゥ……ッ」
「わーホントだ、呼吸ちょ~荒いやー。で、それはおいといてさマナ先生。俺たちこれから観光スポットねつ造するつもりなんだ、だから手伝ってくんない? 先生にそれっぽい語り文句とか伝説(ねつ造)を考えて欲しいんだ」
彼女の性質には目をそらすとして、相手は敬虔なルルド教徒にして神聖魔法の教師です。
だけど駆け引きしなきゃならん他人ってわけでもないし、まずはこちらの要望を全部投げしました。さあどうでる宗教家。
「もちろんいいわよアレッきゅん♪」
「いややっぱちょっと待って……。いいのかよ……いやいいのかなそれ、本当に……?」
「いいのよ~♪ 女神様もきっとわかってくれるわ、最近神への念射も絶好調なんだから♪ それにステキな温泉にご招待してくれたお礼よ♪ あのね、あのときお姉ちゃんね……アレッきゅんの入ったお湯を全部飲み干したいくらい嬉しかったのーっ!」
「……うわ。そりゃ……飲まなくて正解でしたね。ダンプ先生の筋肉味だったことでしょうとも」
変態過ぎます……。
どうしてこんなのが教師やれてるんでしょ……。いやお前が言うなです……?
「だいじょうぶ~、うまくアレッきゅん成分だけ吸収するから~♪ じゅるり……はぁぁ、本当に良い思い出になっちゃったわ……じゅるるっ……混浴って素敵ね……♪」
「そうですね。ところでお暇な日はいつでしょう」
「今よ、今すぐ行くわ!」
「いやこれから冒険科の教練があるでしょ……、休みの日を教えて下さい」
こっからがまた長いんで割愛します。
マナ先生はちょうど明日からお休みに入るそうです。
そこで俺は翌日に日をあらため、マナ先生をまず錬金術師のアトリエに招待しました。
そこからスレイプニルの石段という奇跡の転移装置を使って、アルブネア新領に彼女を再び招いたのでした。
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「あらすごい……この子こんなこと出来たのね~っ、すごいすごいっアレッきゅんもレウラくんもすごいわぁ~!」
「キェッキェッ、キュルルックルルーンッ♪」
レウラにまたがってマナ先生と領地の空を飛び回りました。
実は昨日あの後、レウラと一緒に良さげなポイントを見つくろっておいたのです。
名所を探すという目的において、レウラという空飛ぶ乗り物は反則級の便利キャラでした。
「マナ先生、あまりコイツを誉め倒さない方がいいですよ。マハ公子殿下をこの前乗せたら、おしっこちびりかける事態になりましたから。あ、これ国家機密だったや」
「ダメよアレッきゅんっ、そんなこと言われたらお姉ちゃんむしろ興奮しちゃう! ちびったっていうのはマハくんっ、アレッきゅん、両方?! どっちなのハッキリしてっ!!」
俺のわけないでしょ……。
殿下にはちょっとスリリング過ぎたみたいです。彼の名誉のために言っておくと、ちびりかけたのであって、ちびってはいないのです。けっして。
「殿下です。それはそうと最初のポイントに着きますよ。レウラ、マナ先生は興奮されると大変危険なお人だ……丁重に着陸しろ……」
「クルル~ッ、キェッキェッ♪」
案の定聞いちゃいませんでした。
着陸と同時に、前に乗せたマナ先生に俺が軽くガバーッと抱きつくことになりましたとさ……。
はぁぁぁ……先生は平静を保っておられます、背筋チリチリするくらい焦りました……。