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37-4 断罪します、滅ぼします、悪の遺産も含めて

「騙したなこの野郎!!」

「許せねぇ!!」

「やっちまえおうぜトマス!!」


 20名の冒険者たちもそりゃそうだ、ブチ切れました。

 ただこの場でリンチされても困るし、あんまりそういうのは近代的じゃありません。後味悪いしー。


「うるさいこの雑魚ども!!」

「そうよ……最高の魔力が手に入るはずだったのに……許せない……アンタだけは絶対に殺してやるわ!!」


 ゼアルら悪党は目の前の俺にだけ敵意を集中させました。

 四面楚歌なの理解してるんですかね、それでも勝てる自信があるのでしょうか。さすがに無謀だと思いますが……。


「まあ落ち着きなよ、ボロを出したついでに質問いい? あのブローチを迷宮に配置したのはお前ら?」

「バカか貴様はッ、何で俺たちがそんな面倒なことをしなきゃならん!!」

「フフフ……死ぬ前に教えてあげるわ……。私たちはあれが欲しかったの……奇跡の魔力をくれる最高の装飾具! 先代所有者の情報をかき集めて突き止めたところまでは良かったわ……。でも、あの迷宮奥底で未帰還者になってたのよ!」


 なるほどそういうことですか。

 自分たちで回収すればまとめて呪われる。だから生け贄を迷宮に派遣することにしたと。


「あのブローチは42番目以外の力を奪い、ゆっくりと呪い殺す……お前も力を吸われていれば良かったのだ!」

「殺してやる!!」

「この魔導師ゼアルが、その綺麗な顔の皮をはいであげる! くず肉みたいにバラバラに引き裂いてあげますわ!!」


 彼女の仲間が剣を鞘より引き抜き、それに連鎖して20名の冒険者たちが同じように獲物を握る事態になりました。

 やはり実力に自信があるようです。さて、ならばそろそろアレを……。


「そうはいかへんぇぇーっっ!! はよせいやっアレクサント!! こっちはもう出番にじれてじれてこのままお呼ばれしなかったらどないしよーっっ、とかずーっと悶々としとったんからなぁぁーっっ!!」

「……えー、いやまだ、天空よりいでよ巨獣モショポー!! とは言っちゃいないんだけど俺……?」


 エントランス2階踊り場にモショポーさんとヘキサー曹長元女将が現れました。

 どちらも手すりの強度が心配になるところに直立不動、でもそれはヒーロー式に言えば確定勝利ポジションなのです。


「誰が巨獣やアホォォーッ、喰い殺したろかァァッ!!」

「やっと出番のようですね。では新兵モショポーよ、こちらの仕事では初陣となります。オーナーに代わり、この悪党どもに無慈悲なる制裁を加えなさい!」


 そんな感じです。

 別に助けとか要らないんだけど急遽出番を用意しました。

 ほら探偵役が武力で制圧しちゃうとしまんないし、某旗本の3男坊にして実は上様式に成敗! とかやってみたいじゃん。

 ……一応ふざけないで言うと、モショポーさんたちという、新戦力の確認もかねています。


「サーッイエッサーッ!!」

「いくでぇぇ肉団子どもぉぉぉっっ!!」


 モショポーさんに近しい恩赦組に例の薬を与えました。

 今より良い生活がしたくはないかね? 誰もが憧れる鋼の筋肉が欲しくはないかね? ぶっちゃけ領兵にならんかこの命知らずども?

 そんな俺の甘言に首を縦に振ったのがコイツらです。


「死になさいよっこの悪党ッ!!」

「イヤです、ディスペル、あとお前が言うなよ」


 女魔導師ゼアルが高速のマジックアローを撃ち込もうとしてきました。

 でもこの距離ですし、直接その発動を解除してやりました。


「オーナーをお守りしつつ暴漢を確保せよ!! これは訓練ではない実戦である!!」

「サーッイエッサーッッ!!」

「地獄の訓練の鬱憤……せやなくて成果ってやつを見せたるでぇぇーッッ!!」


「うわぁ……なんか暑苦しいのが来たよアトゥ……」

「はい……人体改造にまで手を染めるだなんて……すみませんウルカ、大変見苦しいものを……」

「自分ら出番なさそうっスね~……」


 女魔導師ゼアルの実力、これがうぬぼれるだけあってバカにならないものがありました。

 もしかしてもう別のディアボリック・ブローチを手に入れてたのかな、普通に超高魔力持ってます。


「な、なぜ……なぜわたくしの術が……ッ、こんなのありえないわっ、死ねっファイアストームッ!!」

「ディスペル。人んちでそんな迷惑魔法使わんでよ……館モノは高確率で燃え落ちるもんだけどさ、そういうのは……ディスペル。だからムダだってば」


 俺もちょうど旧ダリルの杖を持っていたので、錬金釜かき回しながら詠唱を解除(ディスペル)しまくってやりました。

 ゼアルの取り巻き3名もそれでまずい窮地に気づいたらしい。

 俺にではなくモショポー筋肉改造軍団の迎撃に出ました。

 この軍団まだ数が少なく、モショポーさん含めて5人の戦隊となります。そう戦隊、鎧が出来たら5色のカラーで飾り立てようかな。


「おんどぅらぁっ死にさらせやァッッ!!」

「ひっ……ヘブゥゥッッ?!!」


 1名の取り巻きは強そうなロングソードでモショポーさんを斬りつけようとしました。

 とこがそれは手甲でやすやすと受け止められ、ていうか弾き飛ばされ、巨獣のぶっとい腕が持ち主の顔面を叩き潰すのでした。

 まるで自動車にはねられたかのように取り巻きAが吹き飛ばされ、エントランスの壁にドカーンと大激突です。1発KOどころかどう見たってオーバーキルでした。


「ギャァァァァーッッ!!」

「お、俺たちの剣が通じ――ゴフハッッ?!!」


 しかも5対3ですから一瞬です。

 5人の巨獣種たちに、ただの人間ごときだった方々が文字通りはね飛ばされて戦線離脱にして戦闘不能です。

 残る首謀者ゼアルはというと――あ、よそ見してたらこっちは魔力を増幅させて、一発逆転の溜め魔法狙ってたや。


「これはさすがに解除できないんじゃないかしら! さあっ、館ごと燃え落ちなさいッ、ファイアストームヘゲァァァッッ?!!」


 いやそれはどうかな、いいやこれもディスペルしちゃおう。

 って腕を伸ばしたら……あらやだすごい……。


 ヘキサー曹長が2F踊り場より跳躍し、ホワチョォォーッ!

 中国拳法ばりの鋭~い跳び蹴りがゼアル女魔導師の胸に突き刺さったという……。

 こんなん食らったら絶対立ち上がれんよ、1発ノックダウンでした。ハートブレイクしてないか心配レベル。


「ご無事ですかオーナー」

「うんありがとう、ていうかなんかすげーもの見せてもらった気分? 鮮やか過ぎたっていうか」


 カンフー映画とか見たくなってきました。

 このフィジカル全振りエルフ様カッコイイです……。爆乳なのに身体能力超高いとかロマンですよ!


「でさ、そいつらどうすんのさ」

「ギルドに報告すれば他にも余罪が見つかりそうっスね」


 罪を暴いて倒しました。しかし処遇の方を少し悩みました。

 だってうちの領地に牢屋なんてないし、かといって拘留したり飯食わせたりするだけでzと人的資源がかかります。

 かといってこんな連中のために自分らの手を汚すのもな。


「アレクサントさん、俺たちが軍に突き出すよ。貴方は後日証言の裏付けをしてくれたらそれでいい」

「じゃあそうしよう。その前にっと……あったあった」


 やっぱり隠し持っていました。

 黒の錬金術師(ヤツ)が生み出したディアボリックブローチは1つじゃありません。

 彼女の身体から2つもそれが見つかりました。もちろんこれは没収です。


「じゃ、あとよろしく。あ、別に軍に突き出さなくてもいいからね。護送中の事故なんていくらでもあるじゃん? 逃げ出した容疑者が馬車にひかれちゃったー、とかさ」

「黒ッ、暗にそういうことほのめかしちゃダメでしょ、一応教師じゃんせんせー!」

「あの……先輩のこれは超たちの悪い冗談だと思うっス……。真に受けちゃダメっスよトマスさんたち……」


 ええそうそう冗談です冗談。

 あとはこいつらにゆだねるってだけで。私憤を晴らすか、それともこいつらの余罪を追究するかはご自由に。っていう冗談。


「貴方のおかげで俺たちは死なずにすんだ。ありがとう……」

「ありがとよアレクサント! 借りっぱなしは落ち着かねぇっ、何かあったら俺らを呼んでくれ、絶対助けにいくからよ!」

「お、それは良いフラグ。じゃそんときはぜひお願いします皆さん」


 ところでこの女魔導師ゼアルです。

 この調子で3つ目を手に入れていたら、凄腕冒険者として大きな富と名声を得ていたかもしれません。このへんは平和ですけど、大陸外に出れば戦場でも引っ張りだこ確実です。

 そう考えると罪深いです、オールムの生み出したこの傲慢なマジックアイテムも、当然ヤツ自身も。


 俺はこの先もヤツの悪行と出会うことになるんでしょうか。

 ならば俺は悪の遺産を消して回ろう。

 ただめんどくさいんで、あくまで目の届く範囲でー。


 こうして俺たちは24人PT分の錬金素材という大収穫を得て、大勝利の勧善懲悪展開で楽しくおかしくその日を締めるのでした。



 ・



 いえ実はまだ続きます。


「ところでその、ディアなんとかが溶けた釜、どうするつもりっスか?」

「そうだね。ゼアルから奪ったこの完成品2つを入れて……悪さしないように組成を、ちょっとだけ変えてっと……はい出来た」


 あんとき途中のエリアボスが復活してまして、ソイツが大きな水晶をドロップしていました。

 その何の変哲もない水晶を錬金釜に追加して完成させたものがこれです。


「へ~~やるじゃん、よくわかんないけどヤバい魔力は感じなくなったかも」

「分離して封印されましたか……兄様……兄様はだんだん錬金術師の応用までもが……人間離れしていっている気がします……」


 クリスタルで封じられたシルバーと、エメラルドが1対それぞれの釜底に出来上がっています。

 ディアボリックブローチの完成品2つをアトゥやお嬢に持たせるって手もありましたが、彼女らの手を離れたそのときにまた不幸のサイクルが始まります。

 もったいないけど封じるしかない。不幸展開のフラグでしかないですよこんなの。


「それはどうするっスか? 何となく誰の手にも届かないところに捨てるべきな気がするっスけど……」

「あ~、そこなんだよな……」


 ただこの帰還の翼の力すら奪う呪いの力、これはなんかに使えそうな気もするのです。

 たとえばほら、今回みたいに絶対に始末したいやつを迷宮地下に誘って、呪いの力発動させて俺だけ逃げるとか。

 うん、ろくな使い道にならない点だけは確定してる。


「使えそうではあるし、倉庫の奥にぶっ込んどこう」

「大丈夫かなぁ……お化けとか出てきたりしてー♪」


 そういう変なフラグ立てるなよウルカ。

 とにかく素材がっぽり、変なものゲットでウハウハです。ついでに良いこともして気分も良い。

 これにて一件落着めでたしめでたしです。


「お化けってっ、止めるっスよそーいうのっ?!」

「ウルカ……薄ら寒いこと言わないで下さい……」

「えへへ~、ボクはお化けよりアトゥの方が怖いよ~、一緒に温泉入るたびにもう……っ、こわい……っ」


 俺はこの先もオールムの尻拭いを続けていかにゃならんのでしょうか。

 いやまったくさー、こんな悪趣味なマジックアイテム世にまき散らすなよ。どんな精神状態だったらこんなの作ろうとか考えるし!


「では兄様……行き来ですっかり汗もかいてしまいましたし……その……今から……お、温泉の方にご一緒されませんか……ッ」


 あー怖い怖い。まんじゅうこわい。


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