3-05 1/3 第一回奴隷争奪カップ、いきなり決勝にして蛇足なる戦い
やーー蛇足蛇足、でもここまで来たらやるしかない。
覚悟を決めたら準備も整ってました。
この国に武闘会はあれどコロシアムなんて公式には存在しないはずです。
でもまあそういった奴隷戦士の用途もあるんでしょう。
またあの暗くてまぶしい通路を進んでゆけば、当たり前の設備としてそこに室内闘技場が現れました。
広くはないですけどそのわりに少し薄暗く、土くれの地面なのでちょっと滑りやすいです。
きっとここで奴隷戦士が目利きされて、馬みたいに買われて、暗黒武闘会的な世界に参戦していくんでしょう。
……とかいう妄想でちょっと胸が熱くなったり、やっぱ黒くてゲンナリしました。
「ヒェヒェ、準備はよろしいですかな……?」
「……あ。あーはい、ちょっと必殺技のイメージトレーニングとかしてました。ククク、我が邪悪波動斬の餌食になるといい……とか言っておくと盛り上がります?」
「ほぅほぅほぅ! 良いですなっ!」
……いいのかよ。
「なんやて! いつのまにそんな技を身につけたんや!」
「嘘です」
「嘘かいなーっ! アホーアホーッ!」
「うむ、伸び伸びと成長したようだねアレクサントくん、騙されかけたよ」
それはそうと開戦間近です。
闘技場の中央に誘導されると、当然目の前にはあの元兵士の……えっと、うん、名前なんだっけ?
「魔導士であろうと手加減はしない、こっちは契約期間がかかってるんだからな」
「いや魔導士じゃなくて錬金術師っす」
名前思い出せないけどその剣士さんとにらみ合いました。
……あれ、でもこの返し方だとちょっとたんぱく過ぎかな?
うーんそうか、じゃあ……。
「あの時はよくも俺の妻を寝取りやがったなっ! ああっついにこの時が来たっ、こっちこそ妻の目を覚まさせるためにもっ、お前を全力で叩き潰してやるっ!」
こんな感じ?
アドリブだけど、きっとこういう安っぽい設定とか付けた方が観客も喜ぶよねっ。
「な、なんとアレクサントくん! むぅぅんっ許せんっそれは許せんぞっ! 奴隷のくせに妻を寝取るとは……許せん許せんぬぅんっやってしまえぇっっ!」
「まさかこの二人の間にそんな因縁があったとはっ! ヒェヒェ、これは面白いですなっ!」
その奴隷剣士からしたら何の話かわかりません。
でもあんまり賢くないんでしょう。
大ざっぱにそれを因縁と解釈して、バチバチと俺たちは火花を散らします。
「これはええでぇ熱い展開や! よっしゃいてこましたれっ、嫁の次はこのクソガキ本人を寝取って夫婦どんぶりやっ!」
……ま、嫁なんて最初からいないんですけどね。
とはもう言えない流れになってました。
ここは空気嫁ってことでそういうことにしちゃいましょう。
「ではこれより錬金術師アレクサント VS 奴隷剣士カイル の試合を始める! ヒェヒェヒェ……それでは両雄見合って見合って……始めぇぇっ!」
鷲鼻爺ちゃん声でけー。
とか思ったらいきなり鉄剣が飛んできました。
刃はついちゃいないみたいなんだけど、クリーンヒットしたら骨も砕けます。
「ハハハ、必死っスなぁ~」
「貴様ッ!」
ソイツをテキトーに受け流しました。
そんなに怒らなくてもいいのに開幕からものすごい連続攻撃です。
「多少はやるようだが経験の違いを教えてやるっ、オラオラオラーッ!」
「うわっわっちょっ、うひゃぁーっ?!」
早速で申し訳ないんですけどもう萎えてきました。
生身の肉体で近接戦闘、そりゃアドレナリンも沸くってもんですけどそれ以上に野蛮、過酷、筋肉痛い。
魔法が使えたらこんなヤツ、刃を抑えたウィンドカッターの風圧でドカーンなのに……わーめんどくさ!
「どうしたどうしたアレクサント~、男のくせに情けのぅ戦い方やなぁ~? もっとガツガツ攻めやれやぁ、余裕ないんかぁ~?」
「ええいっ負けるなアレクサントくんっ! 寝取りは死をもって仇となすべきだっ、やってしまえっ!」
しかも外野がスッゲーうるせーの。
みんな盛り上がってるのに俺だけ萎えかけ、これはいかんともしがたい。
あ、もう一人だけテンション低い人がいました。
あの奴隷少女アインスさんもぼんやりと俺たちを眺めてます。
自分を奪い合う戦いだっていうのに、無感動にもほどがあるなぁ……。
でもそこが逆に気に入った、変におろおろされるとめんどくさいし。
「がんばってアレクサント様ッ! そんな男やっつけちゃえっ!」
「そうだそうだーっ、がんばって!」
……その周囲の奴隷娘たちもえらい盛り上がりようです。
「はぁ……はぁ……はぁ……やるじゃねぇかよっ!」
「どうも、そりゃ必死なもんで」
最初の猛攻ほどの勢いはなくなりましたが、それでも積極的な一撃一撃が飛んできます。
そいつを上手くいなして、弾き飛ばして、守ってばっかりじゃ調子付かせちゃうんで牽制の一太刀を入れつつ分析します。
「クッソッなんだこいつッ、こっちはプロだってのにやり難ェッ、このっ、なんだよコイツゥッ!」
「あっわっわっ、強引なのはダメッ、うわぉっ?! 危ないなぁ!」
カイルさんは必死も必死、こっちは萎えかけ冷静、温度差すごいすごい。
油断すると一気にこうやってまくし立てられます。
こっちの作戦はといいますと、ひたすら受け流して相手のバランスと体力を奪っていく方針です。
これが結構ギリギリ、余裕はなかったり。
「ふぅふぅ……すまない妻よ、このままでは俺までこの男に寝取られてしまいそうだ……」
「負けるなアレクサントくんっ! 寝取られの悔しさを思い出せっ、ゆけっゆけーっ!」
だから農場長、それ空気嫁なんですってば。
ぶっちゃけると近接苦手、特に攻撃が苦手です。
貴族科の連中はちょろいから、テキトーに守って相手の自滅を待つだけで済んだんですけど……。
「ぜぇ……ぜぇ……ふざけた小僧めっ、こんな状況で変なこと言ってんじゃねぇ!」
「でもほら、外野はすごく盛り上がってますし、そこだけちょっと面白くなってるなぁと……あ、はい、思いませんね」
でもこの人タフだ。必死だ。気迫が貴族科生徒とは全然違う。
「ヒェヒェヒェ……しかし意外にやりますなぁアレクサント様は……」
「まぁそうやなぁ……こら思った以上や。つくづくクソ気に食わんガキやで」
「そうでしょうそうでしょう。彼はうちの農場自慢の出世頭ですからな、昔から悪魔のように器用でずる賢かったですよ。鑑定すればSクラスの器用さを持っていてもおかしくありませんな」
剣撃が断続的に飛んできます。
鉄と鉄が撃ち鳴らされて観戦者たちの心を魅了しました。
いいよね~見てるだけの人はー。
もう疲れた筋肉だるい。ホントしぶといですこのカイルさん。
「ヒェヒェ……アレクサント様は相手の消耗を待つタイプの軽戦士のようですな。いや良い勝負です、このまま行けば彼のたくらみ通りになりそうですが……果たして、そう上手くいきますかな……ヒヒヒッ」
奴隷商の爺ちゃんが観戦席から一歩踏み出しました。
あ、やな予感。
「おいカイル……勝ったら契約期間をもう半年短縮してやろう……ヒヒヒッ、わかったら気合いを入れろッッ!! もっともっと場を盛り上げて差し上げなさいッッ!!」
爺ちゃん素が出てるし……。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、御意……ヌォォォォォッッ!!」
成人男性の完成された筋力。
ソイツが全身全霊で鉄剣を薙ぎ振るいます。
「ウッッ……!」
受け流せたらこっちの勝利です。
でもダメでした、なんてバカ力なんでしょう。
身体を低くして剣を掲げ、薙ぎを流しやり過ごしたはずが……自分の剣が吹っ飛んでました。
背中の方からザクリと音がします。鉄剣が地へと刺さったんでしょう。
「よっしゃやってまえっ!」
「あっアレクサントくんっ、負けるな早く拾いたまえ!」
あ、ピンチ……?




