37-2 救援代行いたします、代価は要相談 2/2(おまけ挿絵追加
「え……あ、ああっ?! もしかして……君たちは……っ」
「うっわぁ~どいつもこいつもボロボロじゃん……。あ、予想は正解、おじさんたちを助けに来てあげたよ♪」
見つかりましたよ旦那さん。
迷宮11層目にて、遭難中の冒険者たちとついに出会うことになりました。
俺たち援軍の姿にたちまち活路を見いだしたようで、深く傷ついた者すら歓喜の笑みを浮かべて俺たちばかりを見つめていました。
……んん、ちょっと請求しにくいな、お前らの獲得物全部よこせ、さもなくば見捨てて帰るぜー? とは。
「これうちの自家製ポーションっス。お値段適正、効果は2割り増しが売り文句っス。公都の錬金術師のアトリエをどうかよろしくっス」
「おお……ありがてぇ……助かった……。俺らもう死ぬかと……。ああ天の助けだぁ……ポーションが命の水に見えるぜ……」
「まったくだ。俺よりあっちのやつに回してやってくれ、傷が酷い」
それから自分たち用に持参したポーション12本を彼らに提供しました。
出血に血の気を失っていたファイターが体力を取り戻し、仲間の肩から離れてよろよろと立ち上がります。
「ふふーん、何か気分いいかもねこれ♪」
「えー、俺は落ち着かないな。てか……ソレほんとに烙印になってるんだな」
彼ら20名の冒険者たちは等しく誰もが謎の烙印をその肌のあちこちに刻まれていました。
ポーションという支援物資により彼らは体勢を整え直すことに成功します。いいね、この調子ならこの先は楽な仕事になってくれそう。
「もう安心です……。私たちが地上までエスコートしします……」
「ま、こういうこともあるっスよ。自分らは冒険者としてただするべきことをしてるだけっス」
うーん……何とも歯の浮くセリフだこと。
こういうのは一生言いたくないね。
「で、アンタがリーダーのトマスさん?」
「ああ、そうだ。助かったよ……本当に助かった……」
「まさかこんなことになるだなんてよ……もう引退を考えちまうほどに、やばかったわ……」
帰還の翼という命綱アイテムを無効化する呪い。
そらあまりのたちの悪さに廃業を考えるのも無理もない話です。
「感謝するなら地上の奥さんにするっスよ。えっと……そういえばあっちの名前を聞いてなかったっスね……」
「ん、奥さん? ははは、何言ってるんだ俺は独身だよ。現役冒険者の身で妻だなんて、俺はそんなのどうかと思うんだ。あれ、君ら急にどうしたんだ?」
いやどうもこうもありません。その返答は俺たちに沈黙の2文字を突きつけてきました。
食い違ったこの会話から得られる結論はただ2通り、どちらかが嘘を吐いているということ。
「でもあの人は……トマスさん……貴方の妻だと名乗っていました……」
「なるほ。嘘を吐く理由があったのかもねー……。そいじゃ、同じ悪人代表のせーんせに聞けばわかるかも?」
「いやさ、人前で悪人とか言うなよお前。……ま、やっぱ最初から怪しいとは思ってたからこそ、お前らの獲得物全部よこせよな、ってふっかけたのもあるけど」
ただ簡単な足し算でわかることもある。
この人たちの頭数が20名、俺たちに救援依頼をしてきたあいつらは4名。で、ここは24人用迷宮。
ここから導き出される結論は単純明快。
「トマスッあの女だ!」
「違いねぇよ! あいつらとしか考えられねぇ!」
俺たちに救援を願った4名は、確かに彼らと一緒に行動していた、だが捨てて逃げた、という推測です。いやもう反応からして憶測じゃなくて事実っぽい。
「それどういうことっスか?」
「ああすまん。実は俺たちがここ70号を下ったのにはわけがある。……ある魔導師の女に頼まれたんだ、70号迷宮18層目に自分たちを導いてくれ、と」
へー、そんなおかしな依頼をよく受けたもんですね。
俺ならもし騙す側なら、前金で釣って高い成功報酬を提示するかもしれません。
……そこはどうせ戻ってこれないとふんでありったけ気前良く。
「だがおかしいんだ。18層目に入った途端、あの女とその護衛3人が姿を消した……。しかもその18層目はおかしなエリアでな……、大部屋に宝箱が1つだけ置かれているだけで、他は下り階段以外に何もないところだったんだ」
「あー……。おじさんたちさ、それさ、開けちゃったんだー?」
ウルカがちょっとあきれ気味に言いました。
そんなのどう考えたって怪しい、いかにも罠です。
「見たところスカウト職抜きの編成っスね。先に鑑定魔法をかけておけば、トラップを回避できたかもしれないっス」
「編成を決めたのは雇い主のあの女だからな……。俺たちも到達が目的だというなら、極端だがそれもいいだろうとふんだんだ……」
なら宝箱を開けるように仕向けられた、という見解が妥当でしょう。
何せ雇い主がギャラを払わずとんずらしたかもしれないんですから。
さらにはその18層目を目指しての依頼だったわけで、そりゃまあ期待と穴埋めの願いを込めて、怪しい宝箱を開けちまうでしょうとも。
「だけど罠だった……箱を開けたら俺たちみんなこの有り様だ……。帰還の翼を封じられ、それどころか魔物たちのレベルまで一気に跳ね上がった……。それから必死で地上を目指していたら……もうダメかと思っていたところで……。君たちが来てくれたんだ」
それまたジャンル:パニックホラーですな。
完全なる陥れられコースですね。そうなると余計に俺たちに出された救援依頼、これそのものが怪しい臭気を放ち始めます。
「事件の匂いっス!」
「そうそう、まー100%騙されたで確定だよおじさんたち」
「あり得ます……。姿を消したのは……きっと……18層目の秘密を知っていたから……」
アトゥは鋭い子です。
お兄ちゃんの立場がないくらいの名推理、ほほぅ、ならそうなるとどうなるんでしょうね。
「だから呪いがかからないよう自分たちだけ逃げたっスか?! 汚いっス、冒険者の流儀を犯す行為っス!!」
「そんな……はぐれたのではなく……俺たちをだまし討ちにしようとしたのか……?!」
「あのやろうッ!! もう許せねぇッッ!!」
そういえばあの自称妻、気になることを言ってました。
家宝が、ブローチが何だとか。
「それはまあ置いといて。ちなみにその宝箱にはもちろん……呪いと一緒に財宝が眠ってたんですよね?」
「財宝か。まあ……しかし財宝という大げさなものには見えないのだが……入っていたよ」
さすがリーダーです、トマスさんだけが落ち着いていました。
他の連中はもう口々にブチ切れ発言してました。呪詛が凄いのでそこんとこは割愛。
「では俺が当てて見せましょう。うーん……そうだなぁ、むむむむ……それは、エメラルドの付いた銀のブローチでは?」
「あ~~、そんなこと言ってたねーっ、あのクソ女!」
「まさか箱の中身があの女の目当てだったのか……? 、ああそうだった、これがそのブローチだ」
「では拝見しましょう」
いわく付きのソイツを、その証拠品を確認しました。
こりゃ驚きです。ああなるほどね……半ば名探偵気分で俺は納得していました。
俺は知らない。
だけど俺の中に眠るクソ野郎はこれをよく知っている。
だから少し集中して、やつという補助記憶装置の記憶を引っ張り出してやりました。
「……その昔のことです。とある魔導師が、人の命を吸う悪夢の宝石を作り出しました。41人分の命を食らい尽くすと、42人目の所有者に飛び抜けた魔力を与えるという……あまりに勝手わがまま極まらん石を……」
「兄様……。それが、これだと言うのですか……?」
「そうだよ。なぜこんなものがご丁寧に迷宮にしまい込まれていたのかは知らない。ただあの女は、知っていて君らを、18層目の宝箱を開けるように仕向けた。それはきっと状況的に間違いない、罪状で言えば殺人未遂だ」
こうも都合良くヤツのその他情報も引っ張り出せればいいのですが、オールムの記憶の重要なところには踏み込めないようです。例えるなら侵害不能のプライバシーってやつがあるみたい。
まあそれはともかく置いといて。このブローチの仕様をふまえれば、かの悪人どもが何を果たしたかったのかも簡単明白でした。
所有すれば命を吸われる。ならば、誰かに先に所有させればいいだけなのです。
「で、たぶんトマスさんが全滅してればよし。トマスさんが救援の報酬として俺たちに宝石の分け前を支払うと言いだし、俺たちがそれに合意してもよし。分配権という名の所有権が俺たち4人にも成立したその瞬間……俺たちに、呪いの烙印が刻まれると思われる。で、あとは……呪いにより帰還の翼を封じられた俺たちは、必死でブローチを地上まで運ぶことだろう。全滅したらしたで別の冒険者を雇って護衛し、42人目の所有者に自分たちがなればいい。夫の遺品を取りに行きたいんです……どうか皆さんお願いします……とかね」
「で、何でせんせーそんなに詳しいのさ?」
「確かにそうっス。少なくとも先輩の趣味とは思えない悪趣味知識っスよ」
ところが痛いところを突かれました。
得意げにこの悪趣味アイテムを解説してやったところ、ウルカ、アトゥ、アシュリーの疑いの瞳が俺を取り囲むっていう……まそりゃそうか。
「あ、そこ突っ込んじゃう? ……実はオールムの研究所でレシピを見たんだよ。ほら、アクアトゥスさんも一緒に見たよね?」
「…………はい、そういえば見ました……。でも……でも兄様……兄様は……でも……」
「つまりあれっスか。悪の錬金術の尻拭いさせられてる状態っスかこれ」
「まあそういうこと。そうとわかればさっさと地上に戻ろう。……で、トマスさんたちどころか、よりにもよって俺たちを利用し、あまつさえ騙し殺そうとした悪人どもを……。コイツで釣って、誰にケンカを売ったのか、じっくり味わわせてやろうじゃない」
気まぐれのボランティアが飛んだ方向にこじれたもんです。
俺の大切な仲間に手を出した罪、重いです。きっちり支払わせますよ。