36-22 叔父様と一緒! 耽美なるイケメンダークエルフとの誰得ひとっ風呂! 1/2
「ぜ、ゼルヴ様ぁーっ、お風呂で泳いじゃダメですっ、わっわっそんな大胆な! ってえええええーっ、お湯っお湯なんて飲んだらお腹壊しちゃうわよっ?!」
旅館に案内して一息つくと、客人のお目当て露天風呂温泉に入ることになりました。
そこでゼルヴちゃんは仕事を片付けたお嬢と、ヘキサー・フレイム曹長にお任せしました。
おかげで男風呂は平和そのもの、湯まで飲もうとするとはさすがゼルヴちゃん不思議系でした。
「フッ……また少したくましくなったようだな。アレクサント、少しだけ俺ののわがままを聞いてくれ。その場で立ち上がり、その背に現れし宿命と決意を見せてみよ」
俺の方は当然叔父様と一緒、男同士の裸の付き合い&トークショーとなっておりました。
「え、こうですか? なんか恥ずかしいなー。……忍法ぼく女の子の術っ! ってありゃ、背中向けてたら意味ないじゃんこれー、はっはっはっこりゃ盲点」
「なっなっ、なにバカなことしてんのよっ! よ、よくわかんないけど叔父様に恥をさらすのだけはっ止めなさいよぉっ!」
おやおや、お嬢ってば男湯側に聞き耳立ててたみたいです。
エッチですね~、やらしいですね~、罵声に等しいツッコミが飛んできました。
「まあ無礼講ってことで!」
「アンタは最初っから無礼でしょっ!!」
俺とアストラコンさんの間に無礼なんて言葉ないですよ。俺たちゃソウルフレンドです。
ならさん付けするなって話だけど、アストラコンさんはアストラコンさんなのです。
「おかしな男だ……。重い咎と、宿命を背負いながらもありのままを貫くか。フッ……数奇なる生きざまだ、面白い……」
ほらなんか好評、やったね!
細身で精悍、筋肉質なアストラコンさんが色気を放ちながら納得してくれます。
「ちょっダメッ、ゼルヴ様ッッ、そっちは男湯よッ!!」
「アレクサントが……」
「呼んでる気がする……」
「私たちの希望……」
「行かなきゃ……」
向こうはなんか大変ですね。
ドッタンバッタンバッシャンバッシャン、木桶が洗い場を滑ったり跳ね返ったりみたいな音がしたりと、ちょ~カオスです。ああ、俺男の子で良かったー。
つか呼んでない呼んでない、来なくて良いよー。
とは直接口には出来ません。だって相手はレアなエルフ様ですし、存在そのものが尊い。
「ってっ、おわはぁっ?! え、なに、何なのっ!?」
「フッ……」
ところで男同士ってあんま引っ付かないんですよね。
一定の距離感ってのがありまして、それが失われるとビックリなんです。
あれ、あ、アストラコンが変に近い……。なにこの急接近、湯船の中で足と足がぶつかっちゃうほど近いよ?!
ああ、やっぱりイケメンだしそういう趣味だったんです!?
「堕天使よ……」
「は、はい!」
「俺に協力出来ることはないか?」
「え、協力ですか?」
アストラコンさんは言うなればシリアス顔、子供に怖がられかねない真面目な表情をされる方です。
その凝視の威力というのも強烈でした。乙女ゲームのイベント絵シーンってこんな感じなんだろか……。
「聞け、リィンベルがな、うちのリィンベルが……。いくら言っても、俺を開拓に携わらせようとしないのだ……」
「ああそういうこと。……そりゃそうですよ、お嬢はカーネリアン商会のバックアップ無しでやりたいそうなんですから」
俺の返答にイケメンダークエルフがため息をはきます。
大好きなリィンベルに嫌われている、辛い、死ぬより苦しい、これはどうにかしなくては! ってドンヨリ顔。
「だがそれでは――それではお前の義父としても顔が立たん。アレクサント、何か俺に願ってくれ。お前はリィンベルの夫にして、我らエルフの希望。……あの怖ろしい、古なる者の1個体を単独で破壊した、あのはぐれ者のハーフエルフ、オールオールムの……罪深きレプリカだ」
「ああ、そこまでご存じでしたか。……ところでどこ経由の情報ですかねそれ」
これどっから漏れたんだろう……。
キエ様あたりが超怪しいです。お嬢も相談という形で話していたのかもしれない、もしかしたら。
「それはもちろん極秘だ。それでは話を戻す、何か俺に願いはないか息子よ、友よ、罪深き業を背負いし孤高の錬金術師よ。……お前に協力すればきっと何かが変わる。永き静かなる戦いに、決着がつくやもしれん……」
「つまり1人のエルフとして協力したいってことですか、あと好き好んで先祖のもたらしたツケを払いたいドマゾだと」
「ああ、そうだ。だから願え……どんな願いであろうと叶えてみせよう。義務と苦しみこそが我が糧」
フレスベル最大の商会主の協力、こりゃお嬢には悪いですけど断るなんてもったいなさ過ぎる。
戦力としてあまりに魅力的過ぎました。
「ならダリルの工房に大量の発注を下さい。それが間接的に両者に損のない資金援助になります」
「わかった。だがその程度では足りなかろう、堕天使よ」
しかしこうも堕天使堕天使連呼されると恥ずかしいな……。
あ、堕落し切ってるところだけは認めます。
「……。なら、あのアダルブレヒト領主殺害事件の際、大量の鉱石がヒルデガルド帝国――じゃなくて連邦に流れました。これ、商会のコネと網で流れを追えたりしますかね? ぶっちゃけ、超危険かもしれんやつですけど」
「ああそれか、話は大まかに聞いている。確かにそれがうまくいけば――場合によってはやつらの足取りを追えるな」
古なる者、エルリースの仇、アインスを狙う存在。俺の大事なものを脅かすなら破壊されて当然です。
こんな負の遺産、この世界に必要ありません。
「ええ、それがわかれば、こちらからやつらを潰しに行けるってことです。……連邦国の領内となるとちょい厄介ですけどね」
「……いいだろう、その役目ぜひ俺に任せてくれ堕天使よ。俺は君との友情を無事果たしてみせる。だからそのときは――孫の顔を見せてくれるな?」
話が急にシリアスからおかしな側溝に脱線しました。
アストラコンさんのシリアス顔が、リィンベルへの溺愛のあまりにだらしなくにやけます。
「え、そうなります?」
「ああ、大事な姪を嫁に出した身としては非常に重要だ。気になる、早く、次世代の姿が見たい……」
「そういうもんですかね……」
「親代わりとはそういうものだ、何せうちのリィンベルの子だ、かわいい子がたくさん生まれることだろう……。あれが1人立ちして俺も寂しくてな、せめて孫の顔くらい見たいではないか……」
「ああ、はい、そういうこと。あ、あー、見て下さいー、あんなところにレウラが――」
よしごまかそー。