36-19 後日談、しょうがないから斜め上の解決法を提示します 2/2
「すみませんデニーロ侯爵様、あなたの恋を終わらせてしまいました。俺としてはまあ、出来ればあの教頭というセクシーモンスターを引き取ってもらいたかったんですけど……てへ、研究欲に負けちゃった、ごめん」
でも結果次第ではこの先の不労不死研究がはかどるよ、なら全然OK!
「ピカール……ちゃん……君なのかい……?」
「はい……。ごめんなさいロバート様……私……ごめんなさい……貴方の愛が重荷だったの……」
「あーあ、言っちゃったぁー」
ウルカってドSですよね、人が嫌がるタイミングで傷つくことを言います。
「そうか……それで彼に頼んでこんなことを……。アレクサントちゃんの常識はずれで利用しがいのある力量はさておき……そうか、ピカールちゃん……俺は君を苦しめていたのか……」
「ごめんなさいロバート様……! でも……でも貴方が嫌いってわけじゃないの!!」
……へ? いや、あの、え?
おいちょっと待て教頭先生、せっかく人がお別れルートに持ち込んでやったのにそれ言ったらダメじゃん!
「俺が愛したのはピカールちゃん……君の必死でがんばり屋で愛らしい人柄さ。見た目なんてそんなもの関係ない……ピカールちゃん……俺は決めていたんだ、この旅行が終わるとき、君を俺の2番目の妻にするんだって! 俺の妻になってくれピカールちゃん!」
そんな話知りとうなかった……。
なんておぞましいことを考えていたんだこのデニーロさんは……。
「そんな……そんなこと今さら言われても困るわ……! 私、貴方を傷つけてしまったもの! ダメよ……今さらそんなのダメ!」
50代のおじさんと、20代のお姉さんが愛を語り合っています。
なんか不快、よそでやってくれないかなこれ……。
「うざ……こいつらうざ……。散々周りをひっかき回しといてすぐ仲直りするバカップルみたい……」
「言うな、聞かれるぞ……。そんなことよりさっさとアイツら帰らせる方法考えようよ……」
俺とウルカがちょっと大きめの声でコソコソやってもヤツらは眼中にも入れませんでした。
教頭とデニーロ侯爵は見つ合い、歩み合い、すっかり2人の世界は永遠なりです。
「一緒になってくれピカールちゃん! 正直に言えばあのままの姿でいてほしかったが……君がその姿を望むならばそのままで良い! 愛している! 愛しているんだピカールちゃーんっ!」
「ろ……ロバート様……。わ……私……私もよっ、愛してるわロバート様ッ!」
教頭ったら言っちまいました。
さっきから何を見せられてるんでしょうか俺たち……。早く追い出そう……だってここは俺たちの住処なのだから……。
「よし、話はまとまったな、さあ帰れ、人んちでイチャイチャすんな、さっさと宿に戻って、そういうのは個室でゆっくり楽しくムーディにやれ。教頭先生、もう俺知らないですからね。今度こそもう知らないですからね!」
「良いことを言うではないかアレクサントちゃん。……宿に帰ろうかピカールちゃん♪」
意訳すると、うざいから帰れって言ったつもりなんですけど……。
恋愛がからむと人はどこまでも御花畑になれるのです。
「そ、そうね……あそこなら……ポッ……いやだわロバート様……♪ アレクサントッ邪魔したな! 私はやはり美しいっ、しかも若返ってしまうとはワハハハハッ、よくやった! ……ロバート様、では参りましょう……♪」
「ふふふ……今の君も君で、俺も青春を取り戻せそうで良いかもしれないな……ピカールちゃん♪」
こうしてヤツらはやっと帰って下さいました。
変なものを山ほど見せつけられました……教頭が第2婦人ねぇ……アカシャの家はどうなるんでしょう……。
「何だったんだろなこれ……」
「おつかれ~せんせー。あ、ところでさ~」
「何だよ、もう俺部屋に戻って寝たいよ、気力0だよ、錬金術の奇跡全否定された気分……はぁ……不毛だわー……」
「最近さ、アトゥがちょい変なんだけど、心当たりない?」
ウルカがひそひそ話をしてきました。
心当たりと言われても。
「……ナイヨ」
「あるんじゃん!」
「いやないってば。……ってナイフを抜くなー、一気に2本抜くとか止めろよなっそーいうのっ?!」
あのザルツランド王国エルムエル王子からの手紙が届いた可能性があります。
しかしそうなると俺の想定と異なるのです。
アトゥならば、お兄ちゃんの寝床を、手紙が届いたその日その晩に襲撃されるはずです。
……ならやっぱ届いてないんじゃないかな?
「返答次第じゃ、この怖~いやつがせんせーの肌の上でダンスパーティすることになるよぉー……?」
「止めろってっ! ああわかったよ答えるよっ! ……俺、ザルツランドの王子と会ったんだよ。で、彼は俺とアクアトゥスさんをその……あー。まあ要するに世継ぎが欲しいんだってさ……それが、古い血を復活させる、ヨトゥンガンド家の錬金術の素養を高めることになるからだそうだ。……だからそんな感じの手紙を送るとかアイツ言ってた……つまり俺のせいじゃない」
「なにそいつ! アトゥは雌馬ってわけっ?! そんなの許せない! もし会う機会あったらその場でぶち殺してやるしかないよ!」
「おーそうそう、ぶち殺しちゃえー、やれーやれー、やっちまえー!」
なんかいい感じに上手くいきました。
全てのヘイトをあのソバカス王子様に押しつけることに大成功です。
……しかし、アトゥに手紙が届いた。それがもし事実だと仮定したら……ああ、もう騒動の予感しかしません……。
「ていうかさ、せんせーってホムンクルスなんでしょ? 作り物なんでしょ? 子供とか出来るの? そりゃアトゥの子は見てみたいけど……きっとかわいいだろなー♪」
「そんなのわかんないよ、試したことないし」
「じゃボクで試す?」
「うん、試さない」
アトゥとアインスさんに聞かれたら大変です。
俺たちは錬金釜から離れての密談を選んでいました。しかしですね、小さな物音に頭上を何となく見上げれば……。
「ぁ……!」
当事者アトゥが真上から盗み聞きされていました……。
そうか、怪しかったですか、それはしょうがないなぁ……。
「ぁ……兄、様……」
目が合うと彼女は硬直してしまいました。
いつから俺たちの話を聞いていたんでしょう。よく見れば耳まで真っ赤に染まっています。
……これは大部分を聞かれたと想定するしかない。
「ッ……」
普段の彼女ならこのまま階段からこっちにダイブしてくるでしょう。
ところがどっこい、彼女はさながら思春期の少女のように狼狽しきって、結果臆病な小動物のように部屋へと逃げ去ってしまうのでした。
「……。おい、ウルカ……」
「なーにぃ~?」
「お前、そこからアクアトゥスさんの姿見えてただろ……わざと話ふっただろお前……」
「クスクス……ぇぇー、何のことかわかんないなぁー? でもさ、これでハッキリしたじゃん。例の王子様からの手紙はアトゥに届いてたんだよ。はぁぁぁ……さっきのアトゥかわいかったなぁー……♪」
なら嫉妬せんのそのへん?
ウルカもウルカで変なやつです。ほんとなに考えてるかわかんない。
「おまえさぁ……」
「じゃ、ボクはアトゥのところに行ってくるよ、やさしくしてあげなきゃいけないし。またねぇ~、最悪のおにーさん♪」
アクアトゥスにエルムエル王子からの親書届く。
間違いなくそれ、子作り指令。
ああ……ついにやってくれたなかわいげのない子孫め……。どうすんだよ俺……口約束って怖いな……。