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36-17 知らなかったのか? 教頭からは逃げられないのだ

 1日ならともかくさすがに7日はありません。

 錬金術のお仕事が超滞るし、何よりなんか追い出されたみたいで気に入りませんでした。

 特にあんときはエミリャ・ロマーニュの隣でしたのでなおさらに。


 そこで俺はアルフレッドの要求をしれっと拒み、居留守の方向に作戦変更しました。

 エントランス正面玄関に鍵をかけ、1階窓にも鍵をかけ、裏口を通用路にさせて施錠を徹底させたのです。

 当然ここの住民どもは不便に不平を言いました。しかし教頭の名を提示すると、知る者はすぐに文句を引っ込め、知らぬ者もそれとなく察してくれました。

 ……どうやら超まずい人が来ているのだと。



 ・



「そもそもさ、こんな変なとこで調合してんのがおかしいんだよー! アトゥもせんせーに言ってやんなよ、せめて小屋でも立ててそこでやれーって」

「え……っ。あ、うん……そうねウルカ……。でも、あ……兄様は……そういう方ですから……」


 ともかくこれで良しです、平和が訪れました。

 アトゥは何かに気を取られていたのか、ウルカに肩を抱かれながらあいまいな返事をされます。


「で、そっちどう?」

「はい、とても難しい、です」


 それから目をそらして向かいのアインスさんを見つめました。

 今はアインスさんとのダブルな錬金中です。

 調合物はあの希少なる魔力回復剤エーテル、なぜか俺にしか作れないのでなんか不便なやつ。

 アインスさんが作れるようになったら都合が良いのになぁ~って、レクチャーかねての試みでした。


「難しいです、ご主人様……。うう……、私には、とても……失敗したら貴重な素材が、台無し、台無し……っ」

「ほらほらアインス、そんな肩筋張ってたらさ、成功するものも成功しないって。失敗したら全部せんせーのせいだと思えば良いんだよ」

「まあそうだね、最初からダメ元みたいな?」

「兄様……それはアインスに失礼だと思いますが……」


 ちょうどその頃でした。

 釜から淡い光があふれだし、軽い蒸気と共に青色のエーテルが完成しました。

 難度を下げるためにガラス瓶は入れてませんので、美しい青色の水たまりが釜底にキラキラとたまっています。

 まるで硫酸銅水溶液? って言っちゃうと飲みにくくなるのは俺だけー。


「はぁぁぁ……疲れ、ました……。でも良かった、出来た、出来ましたご主人様……」

「うん上出来上出来。2人とも瓶に移すの手伝って、アインスさんはそこで休んでていいよ。……って言っても聞くたまじゃないよねー」


 相変わらずお仕事大好き労働中毒のアインスさんでした。

 首を振ってガラス瓶の手配を進めてくれます。


「あ、兄様……次はアトゥの番ですよ……? あ、アトゥと一緒にしてください……ご奉仕がんばりますから……」

「ならボクもせんせーにしてあげよっかなー……♪ あ、顔のうぶ毛そってあげるよー♪」

「いや顔ぞりにナイフ2本使うとかっ俺初耳なんだけど……! おいっ、冗談だろっ、止めろよなっ?!」


 ウルカの黒いやつと銀色のやつが引き抜かれていました。

 ダメっ顔だけは止めてっ! 顔以外のどこって聞かれたら全部嫌って答えるけど!

 ヤツはこちらのリアクションにたいそう満足を覚えたようで、その2本を軽くジャグリングされています。

 そのいじめっ子がニヤリと嗜虐の笑みを浮かべて距離をつめてきました。


「大丈夫、ボク慣れてるからこーいうの♪」

「お前はいつから床屋に転職したんだっ! ……って、ちょっと待った」

「あ、お客様のようです、えと、どうしましょうか」


 領館の玄関がノックされていました。

 コンコン……コンコン……コンコンコン……。

 おかげでウルカの気まぐれ顔ぞりサービスがが止まってくれました。

 しかしその安心もつかの間のこと、俺は来客者の正体と己の身震いに気づくことになりました。


「兄様……これはまさか……」

「あ、ああ……ついに来たか……」


 コンコン……コンコンコンコンコン……。

 次第になかなか出ないことに苛立ちを覚えたのかノックが激しくなりました。

 俺たちは固唾を飲んで玄関を見つめ、謎の来客者の様子をうかがいます。


 コンコン……コンコンコンコンコーンッッ!! やがてそのノックが荒ぶり暴れだす!

 このしつこさ、このヘビーメタルより凶悪な狂気性! これを俺は知っている!


「なぜ鍵がかかっているのであるかっ?!! おいっ、おいアレクサント貴様っ、いるのはわかっているんだぞ出てこいっっ!! 出てこないと許さんぞっ、おい、ここを開けろッッ、貴様の声は聞こえていたぞ!!」


 やっぱヤツでした……。

 この借金取りよりおっかない罵声とノックからわかることが1つだけあります。

 超怒ってる……仮に怒ってないにしても面倒ごと成分100%配合中! 間違い無し!


「うっは……だからおとなしく公都に避難してれば良かったのに……」

「兄様……どうかお気を確かに……」

「そんなの今さらだから。ありがとうアクアトゥスさん、何とか逃げ切ってみせるよ、あと7日間だし。じゃあみんなは教頭の応対もとい足止めをお願い、その間に俺は逃げる、あとよろしくー」


 エントランスの階段をかけ上り、2F自室に飛び込みました。

 1Fは封鎖してあります。しかし2Fから屋敷裏に出るくらい簡単なことです。

 よって自室の窓より勢いよく外へとアイ、キャン、フライ! アースグレイブで足場を生み出してどうにか安全なる野外の大地を踏みしめました。


「ふぅ……焦った焦った、現学園長代理とあっちゃ、返り討ちにも出来ないしなーアレ」


 ていうかおかしいよ、だって初日だよ。しかも今昼間。

 例のデニ……なんだっけ、デニ……デニなんとか侯爵と仲良くやってるはずなのに、なんでいきなりこっちに来るよ?


 しかし残念でしたね教頭先生。

 俺は騒動のフラグをへし折らせてもらう。ど~~~せっ、またろくでもない頼みごとに決まってるし!

 さて逃走に成功したとはいえ、この後どうしましょうか……。

 領内うろついてたら見つかりそうだし……あれ、よく考えたらスレイプニルの石段で公都に飛べば良かったんじゃ……?


「そこかっ、そこにいたかワレクサントゥゥァァッッ!!」

「うひゃぁぁーっっ?!!」


 って、屋敷裏でのんきに考えてたら予定外、教頭の叫び声に慌てて木陰へと身を隠すはめになりました。

 バカな、どこだ、どこから見ている……?!


「何年の付き合いだと思っている! 貴様の行動など予測の範囲内であーるっ! 貴様はいつだって女を盾にして逃げる男だ! ならばその女を無視して貴様を追うのが唯一真実、私からは絶対に逃げられんぞワレクサントゥァッ!!」


 隠れながら周囲をうかがうとやっとお姿を見つけました。

 俺の部屋です。そこから大きな爆乳を揺らしながらせいっやーっと、俺のアースグレイブを足場に下りて来ちゃいます……。

 これはどうやら足止めに失敗したらしい、そんで獣並みの嗅覚で追ってきちゃったってことですか?


「そもそもなぜ逃げるのだ?! 全く貴様という男は! 勝手に非常勤講師も休業しおってこのバカ者ーッッ!!」


 いやそっちこそ何しに来たし……。

 説教ならもうアルフレッドからのでお腹いっぱいですよ。

 もうこりゃしょうがないので教頭の前に姿を現してやりました……。


「現れたなアレクサント!!」

「いや逆じゃないですかねぇそれー」


 ああ、何ということでしょう……。

 俺はなんて罪深い行いをしてしまったんだ……教頭のお姿に軽いめまいを覚えました。

 だってビックリするくらいの超巨乳に、おでこの広いプラチナブロンド、それが些細な身じろぎでおっぱいゆっさゆっさたゆーんたーゆぅぅん……。


 それが若者の目線を無意識に奪い自己嫌悪を誘発させる。

 言うなればこの教頭という存在そのものがギルティであり、男の子の性欲破壊装置なのです……。

 よくこんなのと学園生活出来るなぁ……、すごいなぁ今のアカシャの家の連中……生きてるだけで精神異常耐性上がってるよきっと。


「人と話をするときは乳ではなく顔を見たまえ! まったく最近の若者は……ふっ。まあ、ふふふ……うっかり見てしまう気持ちもわからんでもないがねぇ、ムフフフフ……♪」

「おぇっ……」


 視線が気持ち良いのか、教頭はユッサユッサと無駄な上下左右運動をされました。

 教職者がしていい動きではありません……。ああああああ、なのに目が、目が奪われて自分が許せない……。


「で……何のご用でしょう……。先に釘刺しますけど……もう妙な願い事はお断りですよ……」

「え……む、むぅ……。だが……だがアレクサント、うむ……だがそうは言うがな……」


 ところがどうしたことでしょうかこれは。

 あの教頭が急に暗く目線を落としました。

 思い詰めたご様子で足下を見下ろし、それから身体を抱いておっぱお、おっぱおをギュッと押し出して無駄なグラビアポーズの構えです。


「うっ……」


 酸っぱい、口の中が酸っぱい……。

 女になったところで相手は中年、しかもあの教頭! このままでは胃酸で喉が荒れてしまいます……。

 早く、話を片付けなければ……。


「た……助けてくれ……助けてくれ……アレクサント……」

「え? 教頭……?」


 ところがやっぱりおかしいのです。

 あの教頭が絞り出すような細い声で、よりにもよって敵視する俺に懇願するのでした。

 何があったのでしょうか。こんなんですが今は学園長代理。よって何者かの暗躍が彼に襲いかかってきていてもおかしくありません。彼女、とは絶対に呼びませんよ。


「助けるって……何かあったんですか?」

「う、うむ……あったのだ……あってほとほと困っている……。じ、実はだな……ほら、例の……例の……私と一緒に、宿泊している男がいるだろう……問題はその彼なのだ……」


「ああ、デニーロ侯爵さんだっけ?」

「違うッ! デニロウスッ、侯爵殿だっ! ……いや細かい名前などどうでもいいっ、と……とにかく私を助けろ、助けろアレクサントォーッッ!!」


 それはもう必死の形相でした。

 マジで困っているって点だけはバッチリ伝わりました。

 あと教頭が困ってると俺はちょっと楽しい。へーよくわかんないけど大変ですねー。


「いやよくわかないんですけど……? まー、わかりたくないっていうか? よーするにどういうことです?」


 質問に答えかねたのか教頭が黙ります。

 なぜか歯を食いしばり、ひどく苦悩していました。

 どうしてこんなことに……って顔です。どうやらそれで覚悟が決まったようですね、教頭の眼孔が俺を弱々しく見返しました。


「も、モテ……」

「え、何を? 持て?」


「違うっ、モテ……モテ過ぎるのだ……。ご年輩男性に……モテてモテてモテてモテてモテ過ぎてひっじょーーーーにっっ!! 困っているのだ貴様どうにかしろっ、あの薬のせいだぞワレクサントァァァーーッッ!!」


 へー……なに言ってんだこいつー。モテるとか冗談でしょ。


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