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36-16 2組目の問題客、再びアレクサントの前に現れる宿命の乙女 その序曲

 この前のマナ&ダンプ先生招待はこちらの完全自腹、実はかなりの出費となりました。

 マナ先生の方は性癖だけ例外として慎ましいので大したことありませんでしたが、ダンプ先生一家の方が……。いや、どうもね……。

 なにせあれ27人家族の団体さんです。あと大方の予想通り、宿の備品をダイナミックにごっそりお持ち帰りされていったので、そこの出費もなかなか侮れない……。


 でもダンプ先生一家なら余裕で許せます。寄付みたいなものです。

 しかし一般客にこの手のが混じってるとこの先まずいなぁぁ……とまあ、プレオープンとしては悪くもない収穫となりました。


 ともかく全ては必要経費と言い張ります。

 なぜなら23号迷宮を制覇するには先生方2人の協力が不可欠でした。

 代価として見ればまだまだ全然足りない、業務が落ち着いた頃にまた懲りずに招待したいくらいなのです。でも接客はアシュリーあたりに押し付けよう……。


 さて、今日であれから7日が経過していました。

 領地の気温が日に日に緩やかに落ちてゆき、もはや夏季とは呼べない気候に入りかけています。

 もうちょっとアルフレッドに付き合ったらアトリエに帰るかなー。

 他のみんなもそろそろアトリエ生活が恋しくなってる頃じゃないでしょうか。


 まあそのへんの話は置いといて、温泉宿の経営の方はというとこれが今んとこ順風満帆コースを描いてくれています。

 16ある全室が常にいっぱい、何と半年先まで予約で埋まってるんですよ。

 ああ素晴らしい、狙い通りとはいえこれは美味い、バブルを感じます、さすが公都市民金持ってるぅー、もっともっとその富を搾り取りたいっ!


 またそれとは別の朗報もありました。

 フレスベル自治州の温泉地ミルヒーヒル、その現地商会主がアルフレッドの元に押し掛けてきたのです。

 用件は、ここで商売がしたいから土地と湯をこちらに回して欲しい、といった新規商売のお話でした。


 良いですね、良いですね。

 ぐ、ぐっへっへっ……ああもうzの匂いでむせ返りそう……。

 ええ喜んで歓迎しましょうとも。

 土地と湯がある限り俺たちが胴元です。どう転がったって損しない構図! これがやりたかったんですよ、これがー!

 良いですねファンタジー世界、貴族様、なにせ土地に税金かからないんですからー!



 ・



 あ、ところで、ここで話を少しだけ戻しましょう。

 予約、さっきの予約の話です。

 実はその予約名簿の中に……いくつか見知った名前を見つけてしまっていました。


「大公様とマハ殿下、ロドニーさんとその娘と妻。これは可能な限りの歓迎をしなくてはならん。この領地は閣下が我々に投資して下さったようなものだ。ロドニーさんにも長く世話になった恩義がある、そうだなアレクサント」

「まあ否定はしないよ、ロドニーさんにここを自慢しまくろう。もう一方の大公家は公都の人気者だ、つまり歓迎しただけで、来てくれただけで宣伝になる。赤字覚悟で接待しまくるべきだろうね。大公閣下と公子殿下がお泊まりになった部屋、これはもうプレミアものだよ。……本人らは普通の待遇を希望するだろうけどね」


 夕飯終えて眠いタイミングなのに、俺は政務室に呼びつけられていました。

 今はアルフレッドとエミリャ・ロマーニュと一緒に、宿の予約名簿のその写しを3人で見下ろしています。

 ヤツと俺だけが厄介なある問題に気づいていました。


「あのぉ~、アルフ様にアレク様~。さっきからずぅーっと気になっていたのですがー、このー……愛を失いし狩人さんと~、世界を渡りし3つの太古の遺産さん~。この不思議な名前の方々はいったいー、何者ですのー?」

「それか。飛び抜けた長文偽名で悪目立ちしているな……。大丈夫だ、それは意外と紳士的な方々なので問題ない……はずだよな、アレクサント」


 この予約を取ったのは間違いなくアストラコンでしょう。

 予約にまで厨二心をぶち込んでくるそのスタイル、さすがはリィンベル嬢の叔父様です。って言ったらお嬢がおもしろい反応してくれそーで良いかなー。


「3つの太古の遺産の方は初耳だけど、まあアストラコンさんの知り合いってことでしょ。予想が正しければそっちもエルフだよ、俺は大歓迎だ」

「ああ~、アストラコン様のことでしたか~。ふふふーっ、楽しみになってまいりましたね、アルフ様~」

「ああ。……だが」


 雌狐エミリャの柔和であざとい微笑みに、子爵アルフレッド様が渋い顔で返しました。

 それは楽しみでならない。だが喜んでばかりいられないのです。

 俺たちを悩ませるその大問題は予約名簿の別の箇所にある。それは、とある客の名なのでした。


 ロバート・A・デニロウム侯爵と、ピカール・ハイデルース様ご一行様です。

 ええ、教頭です。その災いを意味すると言っても過言ではない人名に、あのアルフレッドが頭抱えて苦悩していました。


「教えてくれアレクサント……なぜ、教頭先生の名前がここにあるのだ……」

「あらあら~、この方って確か~、そうアカシャ家の! アルフ様の恩師ですわね~、ふふふ~」


 教頭が現れると必ず面倒ごとが起きます。

 さらにその教頭の名前が、なぜか侯爵という超絶高い地位の貴族と同じ欄にいらっしゃるのが俺たちを不安にさせる怪奇ミステリーなのでした。


「まあ俺は良くしてもらった。そっちの錬金バカはひどく嫌われていたがな」

「別に好かれて嬉しい相手じゃないし。むしろ現れるたびに災難と騒動を持ち込んでくるタイプだし」


 ただの友達……にしてはさすがに地位が高過ぎます。

 そんなお偉いさんがなぜ教頭と同じ部屋に泊まるんでしょう……。つくづく謎だ……意味がわからない……。


「そうだな……特に貴様と教頭先生は破滅的に相性が悪い……。またろくでもないことにならなければよいのだが……そう俺は危惧している……」

「ならわたくし、その日は宿のお手伝いにまいりましょうか? デニロウス侯爵様とは一応顔見知りでございますから、よろしければアルフ様も少しだけご挨拶に来られたらどうでしょう?」


 アルフレッドを怪しい謎の侯爵に紹介するだって? この雌狐め何が目的だ。

 そうやってアルフレッドの地位向上を経て、後からチューチュー富を吸い上げるつもりでしょ! そうはいかないです! だってそこは俺のポジションだし!


「ああ……。行かぬわけにはいかぬだろうな……」

「はい質問。……このデニ……デニなんだっけ? えーと、デニーロ侯爵って何者よ?」


 挙手して質問をアルフレッドに叩きつけました。

 エミリャ・ロマーニュは無視、コイツとは絶対になれ合いません。


「公国有数の有力者だ。北東部に広い領地を持っている」

「じゃ、何でそんな超大物が、教頭と2人っきりの温泉旅行としゃれこんでるのさ? おかしくね? こういうのは家族とかさ、不倫相手と出張に偽装してこっそり来るもんでしょ?」


 これをミステリーとして呼ばずしてなんと呼ぼう。

 怪奇? 変異? 凶兆? とにかくあれですよ、俺たちの知らないところでなんかとんでもないことになってる臭くねこれ?


「あら~? でも今のピカール教頭先生は~、アレク様のお薬で~、女性になっておられるのではー? ふふふ、なら何も問題ありませんよー、も~お2人ったら~、わたくしをからかわないでください♪」


 そう……でした……沈黙が政務室を包み込みました……。

 忘れていた……いや、忘れたいと願うあまり記憶の奥底に封じ込めていた現実に、俺たちは気づいてしまったのです……。

 つまり、どういうことですか? 教頭は今、女性になってるんだから……。


「……げ」

「止めろ、言うな、言うなよアレクサント……」


 最悪の可能性が見えました。

 知りたくもない個人のプライベートをうっかりのぞいてしまった感が俺たちを包み込み、やっぱり受け止めがたいので現実の一般論との脳内参照を繰り返し続けました……。


 まさか、教頭が、その、お忍び旅行の愛人枠……だったりするんですかこれ……?

 いいや待て待て待て待て落ち着け俺です!

 確かに身体は超魅力的! そこはあえて認めよう! 認めたくねけど認めるよ俺は!

 だけどね、あんなのね! 人類っていうより、マウンテンゴリラ族の趣味じゃないですかー……!

 ええええ……しゅ、趣味悪くない? このデニなんとか侯爵様!


「よし、現状に目を向けるぞアレクサント……。とにかくだ、うむ、Xデーは今から1週間後だな……」

「ふふふっ、アルフ様ってば大げさですの♪」


 いいやその大げさに俺は賛成だよ、教頭と俺が接触すれば絶対ろくなことにならない。

 これはもう世界の真理と言って良い。俺と教頭はおかしな縁で結ばれているのです。


「じゃあ、ヤツが領館に押し掛け来ても俺は居留守を使おう、そうしよう。もうこんなの見なかったことにしておくってことで……」

「ああ、貴様と教頭の接触だけは何としても避けねばならん。侯爵殿の前で恥をさらすわけにもいかんからな、最悪そっちの怒りを買うことにもなりかねん……。おおそうだ、いっそその日だけ公都の方に疎開してくれてもいいぞ」


 何だそれで解決じゃないですか。

 俺と教頭が出会わなければ、それはただの教頭の恥ずかしーい旅行発覚イベントで片付きます。

 名案です、そうしましょう、これで妙な珍イベントは不発、はははっ運命ザマァー! でした。


「OK、それでいこう。たまの休暇も楽しめて悪くないよ」

「あらでもアレク様アルフ様。ここを、よーく見てくださいませ~」


 何だよエミリャ・ロマーニュ、せっかくの結論に水をさすなよ。

 ここってどこだよ、何が問題なんだ雌狐め! あ、あああっ?!


「ピカール先生ご一行は~、ざっと7日ほど滞在するみたいですよ~。お金持ちですのね、羨ましいわぁー♪」


 な……なのかかん……?

 そんなバカなッいいや事実でした……。エミリャ・ロマーニュの長い指先を追えば、確かに7日分の予約が入っちゃってます……。

 こりゃ金と権力にものを言わせて他の宿泊者から宿泊権を買い取ったのでしょう。汚い、金持ちはこれだから汚いです!


「くっ……ならば決まりだな……。貴様は7日間帰って来るな。出会えばろくなことにならん、それはもう世界が生まれるよりはるか先に決まっていたことだ。アレクサント、貴様は絶対に教頭との接触を避けろよ……頼むから全身全霊をもって、逃げ回ってくれ……」


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