36-13 マナ先生をヤバい精神状況から落ち着かせよう
ドロポン街道ぞいに土産物屋を立てました。
ここもあの温泉宿と一緒に今日始めまして、マナ先生の評価が気になるところだったのです。
「先生竜とか好きよ~、討ち取りがいがあるもの~♪」
「いやどんなチャームポイントですかそれ……」
マナ先生はドロポンよりレウラの方がお気に召したようです。
営業初日でしたがここはメインストリートにあたる立地でしたので、今も3人組の冒険者PTが立ち寄ってくれていました。
娘にお土産を買うとかなんとか……。意外な需要にビックリです。
「じゃあその人形をプレゼントしますよ。店員さん、そこのサブレーも4枚お願い」
実はあまり立ち寄っていないので、その店員に出資者とは気づかれずに済みました。
ニコニコ現金払いで買い物を済ませ、マナ先生にレウラ人形とレウラサブレーを3枚渡します。1枚は俺の。
「アレッきゅん……! 先生嬉しいわっ、大切にするからねっ、アレッきゅんだと思って抱いて寝るわっ! あのアレッきゅんが自腹でプレゼントを送ってくれたんだものっ!」
「人形は飾って、サブレーは普通に食って下さいってば先生」
それからドロポン街道を離れて森林道に入りました。
ここは温泉宿の観光客向けに整備したものです。
道なりに真っ直ぐ進むと、元の場所に戻ってくる仕組みになっています。
木々の木漏れ日が俺たちの影を塗りつぶしていました。
それがチカチカと頭上の太陽を輝かせて、これが良い塩梅の陰影を作るのです。
山鳥のさえずりが森にこだまして、ときおり冷たいくらいに涼しい風が俺たちの汗ばんだ肌を冷やしてくれる。ここはそんな場所です。
都じゃ絶対味わえない、ちょっぴり管理された自然の姿がそこにありました。
「うふふ……先生楽しいわ~♪ アレッきゅんと温泉宿でお泊まりデートだなんて……うふふふふ……幸せぇ……」
「いやお泊まりは先生の妄想です、俺は領館で寝ますんでそこはご了承下さい」
先生とご一泊コースなんてしたら命があるかどうか……。
魔性的な何かにより生命力を根こそぎ奪われそうです……。コマンド:吸精!
「あっ、これってあの子じゃない~♪ こんなところにもあるのね~、かわいいわぁ~♪」
「ああ、それですか」
きっと来るときに街道のやつを見たんでしょう。
マナ先生がやさしく笑ってドロポン像の触り心地の良い頭を撫でていました。
「一応、あの街道とか、ここの道を造ってくれたご本人なのでええ、やむなくそういうことに」
「あらそう、見た目はかわいいけどお利口なのね~。今度本物にも会いに行かないとー♪」
「……ここの開拓民の中じゃ、拝むと釣りが上手くいくとか、山で道に迷わなくなるとか、変な迷信が生まれつつあるみたいですよ」
街道のドロポン像には誰かが花とか食べ物がお供えしているようです。
ま、でもレウラにちゃっかり食われてるっぽいんですけどねソレ。
「この先にもまだありますよ。なにせ合計5つも作らされましたから……」
「それは楽しみだわ。ふふふ……なら全部見てから帰らないといけないわ♪」
結果オーライ、マナ先生の気が引けています。
ありがとうアインスさん、ドロポンさん、あの時は反対したけど今は感謝の気持ちでいっぱいです……。
ああ、ドロポン様ってすごいなぁ……やっぱ神だなぁ……。
・
しかし何事にも終わりが存在します。
ぐるりと遊歩道を回り切ってしまうと、他に名所も何もないので宿の部屋に戻るはめになっていました……。
「ふぅ……汗かいちゃったわ~、着替えないと臭くなっちゃう」
「……もう風呂掃除とか終わってるんじゃないですかね。俺も汗かきましたし、今から一風呂浴びましょうか」
「こ、ここここ、混浴ね!!」
「いいえそんなわけないでしょ、先生は女湯に入っていただきます」
大事なところなので明確に提示しました。
言わないと男湯の方に付いてくる人ですから……。
すると先生がシュンと悲しみだしました。
しかしそれもたかが一瞬のこと、マナ先生は己の都合で現実を脳内変換するプロなのです。
「じゃあアレッきゅんが女装して女湯に来るのね~♪ それはそれで……ぐ、ぐぅぇへへぇぇ……♪」
「何でそうなるんですか……。つーかさ、脱いだら女装にならなくないです……? それに今頃ダンプ先生と子供らが入ってますよ」
「はっ?! 人前はまずいわ……」
「いや先生……? なにをしようと思ってたんですかこの人……」
ま、いいさ。
先生の手をまた積極的に引いて、女風呂前まで行くと彼女とそこで別れました。
汗を流したい気持ちもあったんでしょう、意外と素直でした。
「湯上がりアレッきゅんで我慢するわ……!」
「いえそれセクハラです」
・
脱衣所で服を脱ぎ、男湯露天風呂にやって来ました。
するとやっぱりいた、筋肉隆々のでっかいおっさん、どっからどう見たって魔法使いには見えないダンプ先生がいらっしゃいました。
「ども」
「おう来たかっ入れ入れ!」
軽くかけ湯をしてダンプ先生の隣に腰を落とします。
そうするとこれでもかと体格の差を実感させられたのでした。繰り返すけどでかい……。
「……子供らは?」
しばらくどちらも押し黙ってお湯に浸り込んでいました。
漠然とした疑問がふと浮かび、そのまま問いかけてみます。
「それがよ~、ここの山川が気に入っちまったらしくてよー! カラスの水浴びみてぇに入ったかと思ったら、パッと出てっちまったわ! 上の兄弟はその引率で、俺は宿でゆっくりしろってよっ、つれねぇなぁ~、わはは!」
「へーー、みんなやさしいなー」
ダンプ先生一家と付き合うとどうしても困ることが1つ。
あまりに良い一家過ぎて俺には毒、己の腹黒さが浮き彫りになって光属性に苦しむ闇属性気分になります。
「はははははは……泣けて……くるじゃねぇかよぉぉ……。とうちゃんやってて……良かったじゃねぇかよぉぉ……。あ、あの魔法もまともに使えなかった小僧が……アシュリーのやつがよぉ……くっ……ブワァァァッッ……!」
「風呂場で泣かない下さいよ……それさっきも似たようなネタで漢泣きしたやつでしょ……何度目ですか……」