36-12 マナ先生を個室に案内しよう
マナ先生を落ち着かせるためお茶を入れました。
ポットのお湯を茶器に流し込み、茶葉が蒸れるのをゆっくり待ちました。
「あら意外になれてるのね~♪」
「いえそうでもないですよ。アイスとホット、どっちが良いですか」
「アイスでお願い。アレッきゅんの冷たさが先生の火照った心を鎮めてくれるはずなの~♪」
「ならいっそ先生ごと氷漬けにしてしまいましょうかね。はい出来上がりです」
後は自慢のガラスグラスに流し込むだけです。
このガラスグラスは錬金術で作りました、石からケイ素的なものを取り出してやったのです。
「あら早いのね~。ん……美味しい、アレッきゅんの凍てついたコキュートスが先生の熱く熟れた魂をつれなく氷塊にしていくわ……」
「先生っていちいちドラマチックですよねー」
けど一応淑女です。
美味しいお茶が口に入ると、ご機嫌とリラックスが先生をたおやかにしました。
ちなみにここが1番良い部屋です。いえそのはずなんですけど……。
「キャーキャーッ、すごいすごいここすごい!」
「お姉ちゃんお姉ちゃんこれ見て! 透明なコップだよー!? 持って帰っていいのかなーこれーっ?!」
「とーちゃん……キーーック!!」
「あいたっ……おい何すんだよぉぉーっ!!」
隣の部屋からキャーキャーワーワー子供の騒ぎ声が聞こえてきます。
山鳥のさえずりすらも遠く聞こえるほどの元気さでした。
これは壁が薄いんじゃない……ダンプ先生の子供らが単純に声でかいのです……。
「もうっ、静かにしなさーーいっっ!!! 備品を持って帰ったらアレク義兄さんに嫌われちゃうよ?!!」
「キャハハーッ、楽しいー!」
「アレク兄ちゃんなら許してくれるよ、やさしいもん!」
うん……持って帰りたいなら持ってきゃいいんじゃね……。
売ればそこそこのzになるだろうし……。
あと俺の義妹ちゃん、仕切ってる君が1番うるさいってパターン入ってるよ……?
「うふふ……元気ね~」
「ま、育ちが悪いわけじゃないけど親があの人だしね。うるさかったら従業員に言って下さい」
「大丈夫よ、せんせー子供好きだから~♪」
「……そうでしたね」
皮肉で返そうかと意地悪な考えが浮かびました。引っ込めました。
マナ先生があまりにやさしく微笑むので、気を取られてしまったのもあるかもしれない。
「ダンピール先生と奥さんは本当に偉いわ。あの子たち全員養子なのよ」
「知ってますよ。合うたびに知らん兄弟が増えてくくらいには……」
「そうだったわね。それに先生思うの、ダンピール先生は養子を取らなければもっと贅沢出来るの。でもやさしい人だから子猫を拾うみたいに、子供がどんどん増えて……ふふふ……。ダンピール先生をもっと尊敬してあげてね、アレッきゅん」
「そうですね。あの人、情が厚過ぎるんですよ、拾われる野良猫側が何こいつヤベェだろ、ってビビるくらいにね……」
それはでもマナ先生もです。
23号迷宮攻略時も、マナ先生は寄付を願って報酬を受け取ろうとしませんでした。
普通にしてれば清楚でやさしい慈愛の乙女なのに……何がどうして彼女を狂わせるんでしょうか……。
「ともかくこうして温泉宿に来てしまったんですし、マナ先生は遠慮しないでゆっくり過ごして下さい」
「なら2杯目のアイスティーをちょうだい。また身体が火照ってきちゃったの~……♪」
って、いきなり何を言い出すんだこの人は……。
お茶と子供効果短かったなぁー……ここで終わったら良い話だったのに……。
つか……つかヤバい? この状況で暴走されるといけませんお客様ルートじゃ……。
「なら今すぐ全身を凍らせましょうか」
「ウフフ……むしろもっと燃え上がらせてくれても良いのよ……。アレッきゅんと、温泉宿の個室で2人っきりだなんて……このシチュエーションが先生を直火で加熱するのっ!!」
そこで分厚いはずの壁がガンッ! とか響きました。
雌獣マナと化した存在が、淫媚な薄ら笑いが、淑女の慎みに戻っていきます……。
「でも……隣に子供がいるんじゃそうもいかないかしら、うふふ……」
「そ、そうですよっ、子供が隣にいるのにおかしなことは出来ませんよ! かわいいですよねダンプ先生のお子さんたち!」
子供たちよ……ありがとう……超ありがとう!
俺の貞操は今、君たちに守られているんだよっ!
ていうか今なら普通にマナ先生と交流できるかもしれない、急にそんな希望すらも見えてきます。
「あのね、先生ね……しばらくアレッきゅんとの接触をあえて、絶っていたの……」
「ああ、そういえば開拓地に姿を現しませんでしたね」
「うん……少しお前は落ち着くように。って女神様からのお告げが下りたの……。だからこうしてここに来たときはもうっ……もう辛抱たまらなかったのよ~!! 今だってこれが幻覚か現実かわからないくらいよ……」
「いえあの、これ現実ですからねー? 欲望に任せた暴挙はダメですよ、繰り返しますけど……現実ですからねっ?!」
マナ先生がイスを立ちました。
なんか俺の隣に来ています。あれ、発言と挙動が一致していないような気が……。
「そうね、大丈夫。女神様に叱られて、先生慎みを覚えたんだからっ♪」
それから先生がしゃがみだして、すぐにカチャカチャカチャと変な金属音が響きました。
「って言いながらあれ、なんで人のベルトに手をかけるしーっ?!!」
「あらぁ~……? おかしいわー、無意識に手が……フ、フフフ……久しく忘れていたわこの感覚……。はぁぁ……ローブの方が手っとり早くまくり上げやすくて良いわよねぇー……」
こっちはそのローブばっか着て生活していたわけで、気づいた頃には我とは知らず執事服のベルトが取り外されていました……。
それ以上はヤバい、マナ先生の両手をガッチリ封じ込めます。
「変な同意を求めないで下さい落ち着いて下さい、隣子供、隣、子供っ!」
「まだ暴れてるのね、かわいいわ~……」
相変わらず騒がしいです。
暴れ回る弟たちを、お姉ちゃんが必死の金切り声で静めていました。
効果は抜群だ、マナ先生の動きが停止します。暴走が止まった……。
「少し休んだことですし、これから散歩に行きませんか?」
個室空間にいるからいけないのかもしれません。
野外に連れてったら正気を保ってくれるかも。太陽が神となって信心深いマナ先生を監視してくれるはずです。
「ここってお風呂以外には特に何もありませんけど、このまま部屋にいると押し倒されそうで怖いんで、ね?」
「あらそんなことないわ~。都じゃなかなか見られない緑がいっぱいで……」
身体と意思別々に動いてるんじゃね、この人?
こちらの提案に同意しながらも、先生は俺のシャツからボタンを流れるように全て外されていました。
は、速い、俺が目で追えなかっただと……!
「だからなんで脱がせようとするしっ、教師と生徒なの完全に忘れてませんっ?! ああもう行きますよっ、こっちですこっち!」
ベルトをだらしなく外されたまま、胸元もフルオープンにされながらも俺はマナ先生の手を強引に引きました。
俺1人で逃げればいい?
今回はそうもいきません。マナ先生はゲストで、俺はそれを招待した身なのです。
きっちり恩を返して恩の負債が積み重ならないようにしないといけません。
「やぁんそんな……っ、先生をいったいどこに連れていくつもりなのよ……。いやぁん、もう若いんだからぁ~アレッきゅんってばー……♪」
「ええそうですね、いやぁんとか言われるとジェネレーションギャップを感じるくらいには俺も若いようで。では行きますよ先生」
我が身のためにマナ先生を外へと連れ出しました。
外の方が危険かもしれない? ピンチになったら全力疾走で逃げればいいんです。
いや今さっきだって十分ピンチだった気もしてきましたけど……。