3-03 かと思ったらお買い得?
部屋に女の子が4人連れて来られました。
そのうちの3名は似たり寄ったりというか、値段相応の無難な印象でした。
買い手の購買欲を刺激するために、わざわざ説明しにくいタイプの……ほら、勝負下着的なものを着せられてました。
いやぁ低面積低面積。
これ17のお子様に見せちゃいけないものでしょ……。
エロゲやーん、これエロゲやーん、あっはっはっはっ……笑えん……。
ああ、何かすっげードキドキしてきたー……。
……でも、一番目を引かれたのはあの子でした。
あの死の宣告の少女です。
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age16 DEX《器用さ》-AA INT《知性》-A VIT《体力》-B+ 容姿・優 / 死の宣告・2
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リストから目を戻して本人をもう一度見ました。
16歳って本当なんでしょうか。隣の子たちと同じくらいの、見た感じ13ほどにしか見えないです。
「ようこそおいで下さいましたアレクサント様。ご購入検討ありがとうございます。私はアナ、お買い上げのあかつきには、誠心誠意……ご主人様のためにご奉仕いたします」
「あ、うん、お構いなくー……?」
思考が麻痺しそうな単語がいくつも飛び出して、ごめんなに言ってたのかわかんなかったです。
目のやり場に困るし、何がどういうことでそこまでへりくだれますか……?
「初めましてアレクサント様……。どうぞ私をお買い上げ下さい……まだ若いですが、その……夜の仕事の方にも多少の心得があるのです……どうか、私をお買い上げ下さい、ご主人様……」
もう一人の子はなんか悲痛さがありました。
今の生活から脱却したいんでしょうか。
汚いおっさんに買われるより、俺みたいな若いやつが良いと思ったんでしょうか。
積極的に売り込まれれば売り込まれるほど、ピュアな少年は当惑するばかりなのです。
あっはっはっ、まあ腹は黒いけどね。黒炭なみに純粋ブラック。
「アレクサント様、私はまだ処女です。誰にも汚されたことのない綺麗なままの女です。私をお買い上げ下さい、もうこんな生活は嫌です……」
「ヒェヒェヒェ……娘らはすっかりアレクサント様を気に入ったようでございます。どれを選んでも貴方に心よりの忠誠を尽くすでしょう。……皆、借金と家族がございますからな」
三名が売り込みの自己紹介を終えました。
残るは死の宣告のあの子、名前は……アインス・ガフ。
でもアインスさんはちょっと変わってました。
自分の番が来ると一歩を踏み出して、ゆっくりと丁重なお辞儀をして、なんか変な目で俺を見つめます。
「初めまして……旦那様……。私の名は……アインス……ガフ……。旦那様……どうか……よろしくお願いいたします……」
違和感の正体はすぐに理解できました。
彼女の瞳はうつろで、俺の背中の遙か向こう側を見つめていました。
声はあどけなく、けれど人形のように従順です。
「旦那様……どうかよろしく……」
「あ、うん……よろしくお願いします」
何だこの子……目が正気じゃない。
灰の瞳は瞳孔が常に開いてるんじゃないかってくらい、見開かれていて、まばたきすらしてないんじゃないか……あ、違った、今しました。
「ヒェヒェヒェ……よっぽど大きなショックがあったのでしょうな。あるいは呪いの影響なのか……この娘は肉体の成長が止まってしまっているのです。元々は赤毛だったそうですがそれも色あせて……今ではご覧の有様にございます」
「あーそう……そりゃまた、波瀾万丈?」
元は赤毛と言われてもこれ白いし桃色だし想像がつかない。
他の特徴をざっくり拾い上げるなら、髪は清潔で短いショートカット、ちっちゃくて細く弱々しくてかわいい。
でもやっぱりその瞳は人を見てはいない。
「アレクサントくん、この子にするのかね?」
「いえ、そう決めたわけでは……」
「まさかとは思うが……幼い頃の自分自身と重ね見ているのではないだろうね。それは止めたまえ、一番ダメなケースだよ」
農場長が正しい。
俺が欲しいのは都合の良い従業員であって、慈善事業する余力なんてない。
そりゃそうなんだけど。
でも俺には俺なりの考えがあるんですよ。
「店主さん、この子……壊れてますよね?」
「ぅ……そ、それは……まあ……その通りにございますな……」
店主は言いよどんで視線を外した。
ちょっと冷静に見ればわかることだし、そこは後ろめたかったんだろう。
「隠していたわけではありません……こうでもしないと売れないのですよ……。いえ、確かに彼女の心はもう壊れております。ですがそれも……ヒェヒェ……粉々に砕けたその心を魔術で縫い合わせれば、元通りにございます……」
ごめん訂正。
きっとメチャクチャ後ろめたかったに訂正。
何か言い訳するみたいに次々と言葉が飛び出してきましたよ?
「ま、まあつまりですな……? 主人への奉仕という形で、アイデンティティを再形成しなおした哀れな操り人形……ヒェヒェヒェ……ええそうです、これは貴方の操り人形にございますよ、アレクサント様……」
で、何を言うかと思えばソレでした。
いやいやいやいやいや、そんな操り人形欲しいとか言ってないしー!
そりゃかわいいしちょっと心揺らいだけど、そんな一度割れたけどボンドでくっつけたから平気ですとか、それレベルのこと言ってますよ奴隷商さ~ん!?
「あーもういいっす……」
「店主、こんなものを売って私の顔を潰す気かね? 変な同情はするなよアレクサントくん」
「やーまあ、そこはするなと言われても無理な話ですけどね……」
農場長が苦言を呈します。
そうすると奴隷商は危うくうろたえました。
あ、いい感じです。
「いえいえいえいえいえっ、このように一見は不気味にございますが……それは、まぁ……買いたがる者など確かにおりませぬが……はい。店番家事ならば十二分にこなせますよ、お客様! ステータスそのものは鑑定書通りでございますから、ええ有能です……っ、有能ですとも……ヒッヒヒッ……!」
彼のうろたえも最高潮っていったところまで追いつめました。
ならそろそろ刈り取ることにしましょう。
「そうなんだ、じゃあこの子が一番、俺の都合に合ってるかな」
「おおおおお……っ、そうでござますか! ヒヒッ、紹介したかいがあったというものです……っ!」
購入の意欲をまず見せました。
よっぽどこのババ抜きのババが気になってたのか、でも捨てるにも捨てられず俺みたいなのを待ってたんでしょう。わかってきました。
「はぁぁ……アレクサントくん……。そういった同情はいつか身を滅ぼすぞ? しかしお前らしいと言えば……ああ懐かしいな、お前らしい。世渡り上手に見えて、農場では子供に甘かったな……」
はははーそりゃ誤解です農場長、打算込みですってコレ。
子供にはやさしくするべきだしそうしただけだし。
「それではお客様、気が変わるまえに早速お買い上げを……」
「うん、いくらだっけ?」
「はいっ、95000zにございます!」
鷲鼻の爺さんは大喜びで提示してくれました。
「うん、定価じゃ買わない」
「ガッッ?!!」
それからなんか変な声で驚いたみたいだ。
こういうのは率直に言うのが一番だと思ったんだけど、ちょっと筋道間違えたみたいだね。
まーわざとだけど。
それにそろそろ猫をかぶるのも飽きてきた。
「……そ、そうでございますか。それは……その通りといえばその通りでございますが……。な、ならいくらで買っていただけますかな……?」
「そうだね、40000z」
半値以下だ。
彼の顔がさっと青ざめる。
一方の農場長にはニヤニヤと笑われちゃってるけどね。
「それは……さすがにご無体にございますよお客様……」
「そうかな、処分に困っているんでしょ? なら悪くないんじゃないかな。二年後に不幸が訪れるなら今すぐ手放すのが正解だ」
これまでのやり取りで、この爺ちゃんの本音みたいなのが見えた。
彼は平気なふりをしているが実は……。
「ならば65000でどうでしょうお客様……」
「無理。それより店主さん、もしかして貴方は……本当は……」
「彼女が怖いんじゃないですか?」
「ヒェッ……?!!」
「だから何が何でも手放したい。出来れば恨みを買わないように、手厚く保護してくれる誰かが現れれば都合が良い」
やっぱり正解。
別に誰にでも推測できることを言ってるだけなのに、何でこんなにうろたえるかな。
「ビックリしたでしょうね。まさか商品を鑑定してみたら、飛び切りヤバい呪いがかかってただなんて……商人なら縁起をかつぐものですし、さぞや驚いたことでしょう」
「ヒェ……ヒェヒェ……それも全くその通りにございますよ、全く、えらいものを掴まされたものにございます……」
この状況でただ一つ確かなことがある。
状況はもう俺のペースであり、確実に彼女を買い叩けるということだ。
「ひ、ひひひ……うひひ……わかりましたお客様……。ならばそれで結構にございます……40000zでお譲りしましょう……」
「うん、じゃあ商談成立だね。よしそれで買った」
店主には悪いけど思わずほくそ笑んだ。
こうも上手くいくとは思わなかったし、半値以下になっちゃったんだから気持ち良すぎる。
これでみんなが幸せになるんだから良いことしたなぁ俺ー。
「そんな顔しないでよ店主さん。ならあえて断言するよ。この子を欲しがる人なんて他に現れない。自分以外にはね、だからこの商談はこれで正解なんだよ」
普通ここで章が終わると思うじゃん?
なぜかまだ続きます。




