36-8 続報・ダリルの鍛冶工房発、魔剣製作
以前ダリルの鍛冶工房に、大公様からプレートアーマーの発注依頼が下りました。
どうもそれが片付いたらしく、追加報酬と書状が届きました。わざわざマハくんを経由して。
「仕上がり優美にして実用性能高し。近衛兵に支給したところ評判すこぶる良く、依頼を出した身としても大変鼻が高い」
工房内で代理のマハくんが書面を読み上げます。
なぜかそれに俺が付き合うことになり、半分ほど聞き流していましたが要するに鼻高々の大好評ってことでした。
「ついては同じ物をもう10着依頼したい。期日は再来月の終わり頃、金額面で不満があるようならば追って交渉したし。とにもかくにも、見事であったぞ鍛冶師ダリルよ、アレクサント殿にもよろしく伝えておくように。――アバロン大公」
長ったらしい文面でしたがやっと終わったみたいです。
ダリルは公都の生まれですので、その領主にもあたる大公様を敬愛していたみたいです。
公子の高い声が彩る大公様からのお褒めの言葉。それにすっかり聞き惚れていました。
文面が終わっても恍惚としたまま身じろぎすらしません。
「えっと、終わりです。追加依頼の方はどうされますか、ダリルさん?」
「あ。あ、うん、うんうん大丈夫っ、再来月までなら全然余裕あるしっ、受ける受ける!」
遠慮がちにマハくんが声をかけるとやっと我に返ったくらいです。
ダリルがかわいい公子様に向けて胸をはると、言わずもがな殿下の頬が赤く染まってゆくのでした。
ふむふむ、ホモだけどおっぱいにはかなりの興味ありっと。なぜか不思議な安心を覚えます、このまま健全に育ってね……。
「わかりました、父にそう伝えておきます。金額の方も遠慮せず言ってくださいね」
「えっダメだよっ、大公様にぼったくり商売なんて出来ないよっ、十分黒字だしいいのいいのっ」
……そこはちょっと口をはさみたい気もしました。
でもそうなんですよね、皆に敬愛される大公様からぼったくったと聞かれた日には、マジで商売上がったりです。
そう考えると微妙に稼ぎにくい相手だったりします。
「それよりアレックスっ、しばらく余裕あるし次は開拓事業手伝うよっ! さあ何か頼んでよ!」
「ダリルは元気だなー。それなら前頼んでたやつ、キーホルダーのチェーンとかパーツ作りどんどん進めてよ」
「あっその話ボクも聞きました! ドロポンの人形ビックリするほどかわいいです! ついついボク3つも貰っちゃってました! 白いやつと透明のやつとチョコ色のをそれぞれ! 先生の人形と一緒に寝てるんですよっ」
殿下も好きね~。
……最後の部分は聞かなかったことにしておこう。
人形をどう使おうとその人の勝手だよね、うん……知りたくない……。
「マハくんって……。あ、それでさアレックス、そのキーホルダーとか金型とかはさ、もう全部出来たし送っちゃったよ」
「え嘘、仕事はえー……。あ~~……じゃあ農具とか工具量産して。最近人も増えてきてるし」
そうなると具体的に何が欲しいのか、現場開拓地から要望を求めないといけません。
詳しくはウルカあたりに取りまとめさせてここの工房にオーダーさせよう。
「おっけー。で、他にはー?」
「いや大公様からの依頼があるだろ……。あ、そういや話飛ぶけど例のレア金属アダマン、あれ何に使うか決まってんの?」
「あっ、先生方とアルフレッドさんと一緒に攻略したっていう、23号迷宮で手に入れたものですよね?」
マハくんそれどこ情報?
別に隠してたわけじゃないけどわー変に詳しいなぁ……。
普通に知ってるところが……うん、顔がお広いんですね公子殿下……。
「そうそうそれだよマハくん! でね、あれはアレックスのオーダー待ち。むしろこっちが聞きたいよ、どうするのアレ? でっっかいから倉庫かなり圧迫してるんだよねー」
互いに互いの要望を待っていたみたいです。
上下関係の薄い世界じゃよくある話、じゃあこうしましょう。
「アルフレッドと、モショポーさん向けの鎧をお願い。前者は軽装、後者はタフガイだし重装甲でいいよ。残りはいつか創設する領軍のために使おう」
「おおっ、アダマンアーマーによる鉄壁の軍団! いいねいいねっ、それいいじゃんダリルちゃんもみんなのために役立てるじゃん!」
加工して売ればかなりの金になるそうなんですけど、その辺は状況に合わせれば良いでしょう。
俺もちょっとわくわくしてきました。鉄壁の防具、地味だけど良いと思います。
それを使いこなすためのムキムキお薬もこっちにあることですし。
「あ、それで思い出したよアレックス! この前持ってきてくれたあの白銀の宝剣!」
「え、なにそれ?」
「大型のドラゴンゾンビからドロップしたってアレックスが言ってたやつだよっ! っていうか普通っ、こんなお宝のこと忘れるぅっ!?」
「あはは……。先生らしいといえば先生らしいですね、興味が極端というか……。でも、そんなところも、カッコイイです……っ」
「ああ、あれか、そんなのあったな~」
そんとき手に入れたあの木の実、スペクタクルスで鑑定しないとです。
なにせアクアトゥスさんでさえ正体がつかめないと言っていたくらいです。きっとかなりの貴重品に違いないですよ。
迷宮最深層に眠っていたくらいですから。
「その、白銀の宝剣というのがどうしたんですかダリルさん?」
「うん、あのねマハくん。ほとんどの宝石はただの飾りだったから、邪魔だし取り外しちゃった。……ほらこれこれ、アレックスが使わないならリィンベルちゃんに流しちゃうよ」
するとダリルが宝剣だったものと、袋に詰めた宝石を持って来ました。
中を開けば解体されたもろもろがキラキラジャラジャラと輝いてます。
「ほんとにただの宝石だね。これはいらないや、お嬢の方によろしく」
「うんわかった。……それでこっちなんだけどね」
「わっ、とても綺麗な剣ですね。白銀の刀身とは珍しいです、まるで、王子様の剣みたい……。アレクサント先生が持てばいいのに」
続いて白銀の剣をダリルが持ち上げました。
縦長のルビー1対が刀身の根本に埋め込まれていて、これは構造的に外すとまずい感じがします。
それにいくらかの魔力をそのルビーから感じました。しかし王子様の剣とは乙女な表現もあったものです。
「マハくんの頭ん中でアレックスってどういうビジュアルになってんだろ……。あ、でさ、私が鍛え直すからさ、アシュリーにアレックスからプレゼントしたらどうかな? そこで、いつもありがとうアシュリーって言うんだよっ」
「ていうかすごいのこれ? そうは見えないけど。だから俺は要らないって断ったくらいだし。俺には重いし」
「ううーん、宝飾的価値は問答無用に高いと思いますけど……。でもそうじゃないんですよね、ダリルさん?」
ダリルがマハくんに明るく弾むようにうなづきました。
続いて物騒なその刃物を高くかかげて、俺たちに見せつけます。
「これミスリルの1種だと思う。あるいはそれにごく近い金属、実はよくわかんないんだけど。……あのね、前に言った気がするけどさ、ただ斬ったりどついたりするだけなら鉄でいいの、頑丈だから。でもミスリルは魔法を増幅する力があって、それに魔力を帯びると強度が増すんだよ」
「言ったっけ? 聞いたような、聞かなかったような……ほとんど覚えてないな」
大した物には見えません。
俺には愛杖ガイストちゃんがありますし、今さらこんなの必要ないのです。
「もうっ、だからアシュリーみたいに魔法の力を自分にかけるタイプとか、アレクみたいなマジシャンに向いてるんだってば!」
「ふーん……。じゃあこれ溶かして、錬金術の強化合成でインゴットに戻して。そんでそこからダリルのための剣にして、この赤い宝石とかツバを後から付け直すってのはどう?」
超上質のミスリルとして見てみましょう。
迷宮で手に入れたミスリルをベースに、俺とダリルはこの杖を作りました。
それと同じことを、ずっと世話になってるアシュリーのためにする。
結果次第だけどもしかしたら、予想を超えることになりそうな気もしてきました。
「おおおおーーっっ! つまりアレックスとダリルちゃんの合作でっ、アシュリーちゃんが大活躍してダリルちゃん最強鍛冶師伝説の幕開けコースってことだね!!」
「え、なにそれ。ああ……ああそうか、ダリルの夢ってそんな感じだったっけね」
マハくんをチラッとうかがいました。
話についていけてないみたいです。ただただ性格良くお行儀よく微笑んでいました。
「じゃあちょっとやってみようか」
「あっ、先生ボクも手伝いますっ」
俺はその剣をダリルからひょいっとパクって、錬金釜のあるエントランスを目指しました。
「ちょ、待ってよアレックス! ならせっかくだしアシュリーちゃんも呼ぼうよっ、出来上がるところから見せたいじゃん!」
「そうですね、きっとアシュリーさん喜びますよ。先生とお友達からの飛びきりのプレゼントですから」
「えーめんどくさい。アイツ何だかんだ手厳しいし、変なオーダーとかされたら手間じゃん」
2人とも人が良いです。
俺は白銀の剣を背負ってタンクトップおっぱいとショタに振り返り、今すぐ強化錬金したいという本音を包み隠しました。
「その手間に答えなきゃ何のための職人だよーっ!」
「ああ違う違う、俺は錬金術師、職人じゃないもん」
「いいから呼ぶよっ呼ぶからねっ、それまでダリルちゃんとマハくんとでお茶でもしながら待とうよーっ、ねーそうしよーっ!」
「そうですよ先生、アシュリーさんも一緒の方がきっと楽しいですよ。ボクも何だかワクワクしてきて、今すぐ先生のお仕事を見たくてたまらないですけど……我慢、我慢しますからっ」
最近ダリルはこのお気に入りの工房にこもることが多く、一緒に茶をすする機会なんてなかなかありませんでした。
マハくんとは公城で……あれ、やっぱりあの夜なにがあったのかよく思い出せない……。
なにも起きてないよね? そうだよねマハくん……? 俺たちただの、友だち、だよね……?
「はいはい、じゃあそうすればいいよ」
「いやったぁーっ! 信じてたよアレックスーっ!」
「ならうちの近衛兵に呼びに行かせますね。待っててくださいね、アレクサント先生」
アシュリーは現地です。
これまでの開拓地ではなく、温泉街予定地方面を受け持ってくれていました。
とまあそういうことで、これからいきなりのアシュリー強化計画の始まりです。
アシュリーが飛びきり強くなってくれたら、さらに円滑に都合良く色々進むこと間違い無し、俺もじわじわ気分が乗ってきました。
先日またやらかしました、申し訳ございません。
素で並行連載作またこっちに投稿してました……orz