36-4 たった1人の最深部決戦 から始まる幕引き
エリア最下層ボス部屋前に到達しました。
幸いか深さそのものは大したことありませんでした。
のんきにお弁当を食べたのが6層目、ここが15層目にあたります。他のものと比べればかなり浅い部類にあたりました。
さて少し補足しようと思います。
さきほど最下層と断言しましたがそれには理由があるのです。
まずフロア構造が一変しました。
ここは重要な場所であるとそう言わんばかりに、彫刻と松明、通路の幅が大げさに増えました。
全体構造も迷路にすらなっておらず、道なりにまっすぐ進むだけで荘厳とした巨門と装飾に出会ったのです。
その時点でほぼ確定、迷宮最深層の特徴に酷似しています。そして極めつけが門の向こう側にいた存在でした。
「ワレハ、不死ナル者……コノ、迷宮ノ、番人ナリ……」
「うは、大外れだわコレ。まあ勝手に自己紹介してくれてこっちも助かるけどね、後は全力で叩き潰せばいいわけだ」
ラスボスはドラゴンゾンビでした。
しかもただのアンデッドではありません、どうも高位大型飛竜のドラゴンゾンビと見て取れました。
コイツらは毒と腐敗という災害をまき散らすことで有名で、RPGでも超面倒と約束されてる強敵です。
土地に壊滅的なダメージを与えるクソ野郎としても世に憎まれてます。
「自惚レルナ、タッタ独リデ、ナニガ出来ル……死ネ、劣等、種族!」
「もう少し自分語りしてくれちゃっても面白かったんだけどな。ま、さすがにコイツはシャレにならんか」
どう考えたってこれ相手に真っ向勝負すれば、死ぬほど難儀するはめになるのが見えてました。
そこでお手製超破壊爆弾・金は塵にでのスピード撃破の方向に計画修正します。
あの異界の兵器・アダマンダインゴーレムすらも瞬殺した、バランスブレイカーにして、超赤字アイテムです。
「悪いけどこれであんたは退場。食らえ、超赤字爆弾、金は塵に!」
何かひじょーーに毒々しくて絶対まずい感じのブレスを吐こうとしていました。
なのでこちらは虎の子1発を投げつけて、あとは全力疾走による緊急退避を敢行します。
「逃サン、愚カナ、人間ヨ。ココデ、朽チ果テ――」
やったね発破成功です。悲鳴すらも上げさせず、部屋ごとと木っ端みじんに吹っ飛ばしてやりました。
しかし我ながらワンパターンです、ドロップごと消し飛ばす不毛の技と言えました。
火力調整? それが出来たら苦労なんてないです。
「つーか、あれ……? ゲホッゲホッ……ふ、粉塵が……」
もしかしなくてもそうなんだろうけど、なんか火力がアダマンダインゴーレム戦を超えていました。
おかげで粉塵の広がりがひどくフロア中をかすませるので、俺はせき込みながら上層に逃げ込むはめになったのです。
・
「うへぇ……酷い目に遭った……。スプリンクラー的なアイテム作ろうかなー……」
埃まみれの身体をパンパンと払います。
汗ばんだ肌にジャリジャリが張り付いて、ああもう帰りたい、やっぱあんな赤字アイテム投げるんじゃなかったって気持ちでいっぱいです。
「あっアレクっ、もうやっと見つけたわよ! こっちは大変だったんだからっ、もうっ!」
「あれお嬢。とその他もろもろエルフちゃんたち、もう追いついたんだね」
するとそこに後続が合流しました。
どうしたことか、みんな少なからず不機嫌でしたが。
「雑でズボラな男だぇ……」
「討ち漏らし」
「かなりいた」
「酷い、働かされた」
キエ様は呆れ果て、ゼルヴちゃんx3も口をとがらせていたんです。
「いやそれくらい自分らでどうにかしようよ、サボっておいて何言ってんのだし」
反論しましたが聞く耳持ちません。
そのまま不機嫌な態度を変えず、半円状に不満の瞳が俺を取り囲むことになったみたい。こんなの数の暴力です。
「……キエ様もゼルヴ様もすごく強かったわ。あたし1人じゃ逃げ帰るところだったもの……」
「長生きのおかげ」
「リィンベルは若いのに優秀」
「いい子、いい子」
コモンエルフは古代人です。そりゃ長く生きてんだから強くて当然でしょう。
ゼルヴちゃんが今度はリィンベルの方を取り囲み、3人分の手で頭を撫でたり、手を撫でたり、肩をやさしく叩いたりと三位一体の慰めテクニックを披露しました。なんか羨ましい。
「ぅ……ゼルヴ様って何だかずるいわ……」
「ヒヒヒッ……わらわも身体が3つあったらなぁ~……坊やを死ぬまでまさぐり続けることが出来るとゆうのに……無念だぇー……」
そんな追跡&セクハラ能力3倍化のキエ様なんてお断りです。
っていうかゼルヴちゃんってほんとどうなってるんだろ……。三位一体って……。
「キエ様、その発言単体でもうセクハラ成立ですからね。……って、なぜ俺の頭まで急に撫で始めるし、ゼルヴちゃーん……?」
「いい子いい子」
「アレクサントもがんばった」
「もみもみ……」
お嬢に飽きたのかゼルヴちゃんがこっちに来ました。
あっ、マッサージはダメ、きくっきくっ、疲れとか凝りがほぐれちゃう……!
「ゼルヴ様ッ! アレクが勘違いするから止めて下さい! ほらっ、あたしがしてあげるわよっ!」
「嫉妬」
「あのリィンベルが」
「男の子のことで嫉妬」
するとお嬢が割って入ってきて、不器用で身長の全然足りないお手並みで肩をほぐそうとしてくれました。
小さな手が筋肉の筋をギュッ、ゴリッ、ギャリィィッ、ってひっつかむもんで痛い痛い痛い……。
「べ、別に嫉妬なんてしてないわ! 働きをねぎらってやってるだけよ! ほら気持ち良いでしょ、気持ち良いって言いなさいよーっ!」
「待ったお嬢っ、力っ、力入れ過ぎっぎゃっ! 肩骨の中に指めり込んでるよぉっ?!」
何しに来たんだっけ俺、もう早く帰りたいです。
ああそうでした、下の粉塵の方そろそろ収まらないかなー……。
「して、なんでそちはそんな中途半端なところで突っ立ってるぇ?」
「そうそうそれそれ、ラスボスにさ、爆弾ぶつけて上がって来たはいいんだけど。この通りフロアが砂埃まみれになっちゃってさ」
下層への階段を見下ろしました。
薄まってきてはいますが、まだもうちょっと時間がいる気がします。
「えっ、まさかあんたっ、またあの爆弾使ったんじゃないないでしょうねっ!? 帳簿付けるこっちの身にもなりなさいよね! 収支の桁がマイナスに積み上がるだけでもうっ、うんっざりするんだから!」
「もう使っちゃったんだし後戻りは出来ないよ。それに常時黒字なんてありえない、必要投資だったんだ」
腐敗や毒で身体を蝕まれるよりずっと良かったはずです。
場合によってはそのまま近寄れなくなって、迷宮クリアも困難になった可能性もありました。瞬殺以外に道はありません。
「わかってるけどイヤなものはイヤなのよぉーっ!」
「おい、2人とも少し黙るぇ」
ところがあのキエ様が急に鋭い声で俺たちを制止しました。
見ればゼルヴちゃんも黙り込んで、彼女らは無表情に同じ方向を見下ろしています。
「おかしな音が」
「聞こえる」
「うん、あっちから」
それは最下層への階段です。
俺にもかすかに聞こえました、何かが近付いて来ている。
「あ、あれって……あれってまさか……ドラゴンゾンビじゃないのっ!? あんなのっ、地上に上がってきたら大変じゃないッ!!」
「ヒヒヒッ、らしくもなく討ち漏らしたなぁ~。あればかりはうちも想定外よ、我らだけでは壊滅してたぇ~」
ドラゴンゾンビは滅びていませんでした。
ドロドロに崩れ、腐った血を流しながらもこちらへとはい上がってきていました。
「嘘だろー、あれ食らって生きてるとか、タフって次元じゃねーし……。ひぇぇぇ……迷宮の生きって物絶対おかしいわ……」
「アレク! あのゼニートゥアッシュは!?」
「ああもちろん、あんな大赤字かつ持ってるだけでスリリングな戦略破壊兵器なんて2つも持ち歩くわけないじゃん。……ってことで、向こうは死にかけだしみんなでトドメといこうか」
みんなでがんばればきっと何とかなるでしょう。
こっちは高所を押さえてますし、相手はダメージによる鈍足化中、後退しながらの戦術を選べば魔法で勝てます。
「我ガ、破レル、ワケガ無イ……ォ、ォォォォォォ……」
「大変」
「毒毒いっぱい」
「ブレスが来るよ」
なら咳止めを処方です、開かれたそのアギトにフレアジェムを投げつけました。
ただちに炸裂して、エリアボスくらいなら1撃撃破なパワーでブレスの動作を中断させることが出来ました。
「いやーっいやぁぁーっ、あんなの食らったら病気になっちゃうじゃないっ、ファイアボルトッファイアボルトッファイアボルトーッッ!」
ドラゴンゾンビはそれでも倒れません。
今はお嬢必死の連射魔法がどうにか足止めしてくれています。
「やってしまうぇ、この手のは得意だぇ、ゼルヴ・シリーズ」
「わかった」
え、得意? シリーズ?
よくわかんないけどゼルヴちゃんがお嬢の前にでました。
それから両手を伸ばし、両手を掲げ、俺たちの得意とする系統とは別物の魔力を3名それぞれが増幅しました。
「トリプル」
「ホーリー」
「& ターンアンデッド」
白い光がドラゴンゾンビを焼きます。
死せる肉体が塵へと代わり、まるで光に溶け崩れるように綺麗さっぱりと浄化されていくのでした。
カラーンと、最後に白銀の宝剣をドロップさせつつ。
「ご苦労だぇ」
「ふぅふぅ……」
「久々……」
「10年ぶりに張り切ったー……」
とにかくゼルヴちゃんの退魔能力に感謝、ゼルヴちゃんすげーです。
「剣か~、錬金術師としては完成品がドロップしても面白くないんだよなー」
「なっ、なに平然ともう近寄ってんのよっ?! 少しは警戒しなさいよっ!」
その剣を拾い上げてお嬢に預けました。
「分配は後で決めるとして、1番下にお宝部屋がないかチェックしておこう。とにかくこれで攻略完了、この土地は晴れて俺たちの物になった。ってことでさ、次はそっちが約束を果たす番だからね」
美味しいところをもってかれちゃいましたけど、そこはゼルヴちゃんの本気を見れてラッキーと思うことにしました。
今度アンデッド系に苦しめられたらレウラにゼルヴちゃんを呼びに行かせましょう。
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殻付きの木の実が5つと、銀色の錠前が大きな宝箱の中に眠っていました。
そこで俺は提案します。
「こっちの剣はいらないから木の実の方をくれない?」
「いらない」
「どっちも」
「うん、要らない」
「以下同文だぇ、いいからそっちで全部好きにするといいぇ」
ええ、提案したんですよ……。
そしたらそうか、こいつら古代種、年寄り、物に執着しないっぽい。
「ふふっ……よくよく考えたらほとんどアレク1人でがんばったのよね、ありがたくお婆さまたちのご厚意を受け取ると良いわ。4人とも応援して下さってるのよ」
「グミの実」
「おみやげ」
「また食べたい、送ってほしい」
それはお嬢が挨拶代わりのおみやげに持ってきたやつです。
そんなちょっとした気づかいがアイテム分配をダイナミックにしてくれるだなんて。お土産パワー侮りがたし。
ええぜひ送りましょうとも。新しいフレーバーも一緒に。
「じゃあ温泉宿が出来たら遊びにきて下さい。VIP待遇で接待しますので」
「心が揺らぐ」
「行くのもいいかも」
「隠れない、隠れ里の長になってしまうけど」
そういえば隠れ里の連中はいったいどういった理由であそこに住んでるんでしょう。
まあどうでもいいか。
「わかったぇ~、その時はぇ、狭い混浴風呂を作っておくと良いぇ~」
「ああそうですか、ではキエ様にはアルフレッドというあの赤毛のイケメンを差し出しますので、お好きなようにどうぞ」
「そちじゃないとイヤだぇ♪ うちみたいなババァはイヤかぇぇ~?」
「そこはノーコメントで」
さて残りの銀色の錠前についてです。
これが不思議な謎アイテムでした。
なにせ俺にしか見えないのです、他の人には見えないけど確かに金属塊としてそこに存在していました。
「あ、あるわ……! 見えないけど確かに……確かにここにある……なによこれぇーっ?!」
「だから錠前だって、見えない錠前」
なんか珍しいし、俺にだけ見えるってすごい。
釜で溶かして別の物に加工すれば、思いもしない活用方が見つかる気がします。しっかり回収しました。
……きっと別の用途があるんだろうけど、こっちは知ったこっちゃないです。
見えない錠前として生まれたこいつが悪いのですよ。
さ、これでギブアンドテイクが成立です。
せいぜい宝石鉱山開発をがんばるといいですよ、フレスベルの自治州の皆さん。
手違いで新規連載作の更新分をこちら側に投稿していたものを削除いたしました。
申し訳ございません、ああああああああ……。