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36-3 協力プレイは必要ないそうです いやそんなわけないし

「アレクサント強い」

「それに珍しい」

「うん、あといい匂い。……でもちょっと昔と変わった」


 キエ様の言葉にゼルヴちゃんたちまで応じちゃいました。

 相変わらず人を取り囲んだまま、鼻を近付けたり突っついたりやりたい放題、ほんとにこれ古代種? ほんとにグリムニールさんより年上??


「ゼルヴちゃん止めて、匂い嗅ぎ過ぎ、フツーに変態的だからそれっ。もうやだぁ汗くさいよぉ……マジで勘弁ですってちょっとー……」

「……そうね、そこはあたしも同意するわ。アレクはおかしいの、急に信じられないほど強くなった……。最初は本気で手伝おうか迷ったけど、全然平気そうだわ……」


 やばいお嬢まで完全おさぼりモードに入ってしまう。

 俺1人で迷宮踏破しろとかメチャクチャじゃんコイツらー……。


「わらわは最初から、後ろで見物するつもりだったぇ~。おおそうだ、アレクサント坊や、初めて会った日のこと覚えているかぇ~? どこかで、見覚えが、あると思ってたぇ……」

「そう言いながらたった1人の戦闘員に酒を勧めないで下さいよ……。はいゼルヴちゃんパース」


 キエ様がさかずきを押しつけてきました。

 そこでそれを隣のゼルヴちゃんにスルーパスしてみると、あれま、仲良く飲み回し始めちゃいました……。

 ああ、この3人組も戦う気0なんですね……。


「そりゃまあ……あん時はもうそりゃ刺激的な体験をさせてもらいましたので……。朝まで追いかけ回されるとは思わなかったなぁ……恐ろしい……」

「ヒヒヒッ、それじゃないぇ。……その昔、あるエルフの女が聖域を追われた。人間の男にそそのかされ、禁じられた悪行に手を染めたからだぇ」


 いきなり何の話ですそれ?

 ところがキエ様は意外に真面目で、少なくとも笑ってはいませんでした。


「その息子がある日、聖域にふらりと現れたぇ。エルフと人間が混血したとき、ごくごくまれに生まれるという、ハーフエルフの姿でなぁ……その姿を見たときはさすがにわらわも驚いたぇ」


 そこまで聞いて該当者が見つかりました。

 確かに見せられた記憶の中で、キエ様とヤツは会っていました。


「男はポロン公国の独立に大きく貢献し、やがて聖域に定住した。かと思えばつれの祖国を取り戻して、やがて月日の果てに……哀れな悪へと堕ちたぇ。男はときに友の支配するポロン公国に姿を現し、迷宮をたった1人で攻略してはマハカーラ大公、あるいはその末裔から大金をせしめたそうだぇ」


 つまりまたです。

 またあのバカ野郎のツケを払わされているのです。


「それがこの世界の裏事情、知る人ぞ知る、オールオールムという男の伝説だぇ」

「ええっ、そんな1人で迷宮を攻略するだなんて……! 何なのよその人……!」


 しかし言っちゃなんだけど年寄りの話って長いんですよね。

 ほほぅ、このチーズハムサンドは手堅く良いものですな。濃い味わいのチーズに厚めのハムが重ねられて……うまー。


「ゼルヴちゃんお茶~」

「どうぞどうぞ」

「飲み口はこちらをどうぞ」

「クスクス……どうぞ」


 言われた通りのところを口付けてお茶すすりました。

 あれ、なんかお嬢が顔赤らめた……?

 ゼルヴちゃんいたずらっぽいなぁ~、でもこっちはやさしくて良い人たちです。


「よって、支援など要るわけがないぇ」

「……うん」


 それは否定を認めない断言でした。

 こっちが違いますと返したところで、キエ様の確信は絶対に揺るがないのです。

 よってこれは時間のムダ、腹も苦しいくらい満たされたので俺はシートから立ち上がりました。


「そこまで言うなら先に行ってるよ。で、確認なんだけど、ここクリアしたらそれ相応の便宜をはかってくれるんだよね? どう考えたってこれは代価の支払い過ぎだ」


 宝石鉱山の眠るエリア、その迷宮を落とすんだから報酬が温泉地経営のノウハウ程度じゃやっぱ足りません。

 フェアになるようもっと請求しておかないとお互いのためにならないのです。

 まあそれは後で要求すればいいか、俺は愛杖を背負ってそのまま奥へと歩き出しました。


「ヒヒヒ……ならばグリムニールの居場所、これでどうだぇ? そちは知りたかろぅー?」


 ところが思いもしない話が飛びだして足がひとりでに止まります。

 グリムニールの居場所だって……。

 それは欲しい、知りたい、会いたい、彼女はオールムの心残りの1つなのですから。それを俺が横取りしてやるんです、きっとそれだけで楽しいです。


「それだけじゃ足りないな」

「そうかぇ? そちにとっては十分過ぎるネタだと思うぇ。……ふむぅ、ならばこの孫をくれてやるぇ」

「えええええええーっ、き、キエ様なに勝手にっ、孫を取引の材料にしないでよもぅっ!」


 お嬢の言葉に大賛同、相変わらず俺たち小物には理解できない世界観をお持ちです。


「いやそれはもういい、アストラコンさんからもう貰ったから。リィンベルは俺のもの、だから取引にはならない」

「ぁ……アレク……アレクッ、なにとんでもなく恥ずかしいこと言ってるのよっ! お、俺のものって……ひ、ひぁぁぁ……っ」


 もしかしてわざとかもしれません。

 お婆ちゃんは恥じらう孫を嬉しそうにニコニコと眺めていました。


「ならば、魔王キアの城跡はどうだぇ? 最近発見されてなぁ、だけど秘匿しておいたんだぇ~」

「魔王キア……確かフェルドラムズと、学園長が言ってたやつだっけ」


 悪くないかもしれません。

 魔王にさえなれれば、俺はオールムに呪いをかけた古なる者の1個体、ソイツからその眷族たちを根こそぎこちらに奪い取れるはずです。

 きっとさらなる魔力も得られるでしょう。悪くありません、力こそ正義です。


「やる気出てきたよ、わかったそれでいい。じゃあちょっとここをクリアしてくるよ。期待してるよ、グリムニールのことも、魔王についての情報も……」

「うむうむ……交渉成立だぇ。ただし……やっぱり種をよこすぇぇーっ、今すぐこの場で、種をよこすぇぇーっ!!」


「えっ話まとまったはずじゃっ! ぎゃーっ、やだよっ、追ってこないってっ、キエ様怖いキエ様怖いっキエ様怖いよっ、ひぇぇぇぇーっっ?!!」


 完全に下半身をロックオンした豊満な肉体をしたエルフ女性が、一直線に自分を追いかけ回してきたら貴方はどうしますか?

 ただしソイツが1000年を超えるスーパーババァで、男を寝取るのが趣味で、目の前にはお孫さんとギャラリーx3がいます。


 答え、ダッシュで逃げる。

 エルフは大好きだけどキエ様だけは苦手だよ、俺は下層への階段を4段飛びで走り抜けるのでした。

 早く攻略してこの閉鎖空間から、いいえキエ様から距離を取るべきです!


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